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MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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#2796 「日本はコメに700%の関税をかけている」はデタラメか?

2025年04月10日 | 社会・経済

 4月2日、米国のトランプ大統領は、「相互関税」と呼ばれる追加関税を世界の主要な貿易相手国に対して導入すると発表しました。日本に対しては、「われわれの友人である日本はアメリカ産のコメに700%の関税をかけている」などと述べ、24%の追加関税を課すとしています。

 「世界から搾取されてきたアメリカ。今度はアメリカが搾取する番だ」とまで豪語したトランプ大統領。今回の決定に関しては、(株価の下落などあまりに大きにな反響があったこともあって)4月10日未明に実施の90日間の延期が発表されたものの、当面は、抜いた刀を鞘に納めるつもりはないようです。

 それにしても、なぜ24%なのか?…厳しい数字を正当化する理由としてトランプ大統領が使ったのが、前述の「日本では、米の輸入関税が700%だ」という指摘です。しかしこの数字に関して江藤拓農林水産相は、「論理的に計算してもそういう数字は出てこない。理解不能だ」と話していると伝わっています。

 それでは、(トランプ大統領をいきりたたせた)こうした「誤解」は、一体どこから生まれたというのか?4月10日の経済情報サイト「DIAMOND ONLINE」に、徳島文理大学教授の八幡和郎氏が『「日本は米に700%関税」トランプ氏はデタラメだと反発する日本人が知らない事実』と題する論考を寄せているので、参考までに指摘の一部を残しておきたいと思います。

 日本への「相互関税」の導入に当たり、24%という厳しい数字を正当化する理由としてトランプ大統領が挙げたのが、「日本では、米の輸入関税が700%だ」という指摘。日本側が反論するのは当然だが、トランプ大統領が口からでまかせを言っているわけでもないと八幡氏はこの論考に記しています。

 戦後の日本は、主食の自給を目指すべくコメをほとんど輸入していなかった。しかし、1995年にウルグアイ・ラウンド農業協定によりミニマムアクセス(最低輸入量)を認めたことで、日本の米100%自給には小さな穴があいたということです。

 ミニマムアクセスは、最初は国内消費量の4%、現在では約8%を関税ゼロで輸入するというもの。一方、それを超える分については精米で5kg当たり1705円、1kg当たり341円の関税を科し、コメの商業輸入を成り立たないようにしていると氏は説明しています。

 この交渉の過程で、2004年の枠組み合意時における輸入米の価格が1kg当たり43.8円だったため、これを関税率に換算(341÷43.8)すると約778%となる由。「700%」という数字の根拠は、(おそらく)こうしたところにあるのだろうということです。

 それでは、海外における(ジャポニカ米にこだわらず)標準的な米の小売価格はどのくらいの水準にあるのか。現在、コメの末端市場価格は、おおよそ1kg当たり、タイで75円、中国で130円、韓国で300円、米国で420円程度になると氏はしています。

 一方、日本では昨年末で755円ほど。いずれにしても、日本人は諸外国に比べて、数倍から10倍の価格で米を買っているのは確かで、(無関税で)輸入されたミニマムアクセス米も、海外援助・原料・飼料・アジア料理店などに使途が限定されていて、国産米の価格を下げない仕組みになっているということです。

 そうした中、米不足は1993年と今回との2度起きている。1993年は東北地方の冷害によるもので、今回は2023 年夏に良質米が一時的に不足したことが秋以降になっても戻っていないのが原因だったと氏は説明しています。

 こうした中、現在でも日本国内では米価の高騰が続いており、一方で米の国際価格は落ち着いているので、「輸入すればいい」と普通の人は思う(だろう)というのが氏の指摘するところ。しかし、日本が厳しく米の輸入を制限してきたため海外では日本人の好む単粒米(ジャポニカ)の生産は少ないし、長粒米(インディカ)は1993年の米不足時に輸入したものの、日本人に嫌われて余っていたということです。

 つまり、(氏によれば)日本の米市場は、価格弾力性に欠け、国内で良質米が不足するとたちまち高騰するという構造にあるということ。主食米の100%自給という政策が(1993年時と今回の)深刻な米不足の原因になっているとすれば、対策の王道は、米消費量の何割かを輸入で賄い、国産米が不足したら輸入が増えるようにすることだというのが氏の見解です。

 ともあれ、かつての食糧管理制度にしても現在の輸入制限にしても、世界的な市況と関係なく、生産・流通にかかったコストを(そのまま)価格に上乗せできること自体が問題だと氏はこの論考で指摘しています。

 このために、国際競争力を高める合理化が進まない。先進国の農業にコストがかかるのは普通だが、価格が数倍から10倍というのはあり得ないし、自然条件が日本より悪く、賃金も1人当たりGDP(国内総生産)も日本より高い韓国の消費者米価ですら、日本の4割くらいだということです。

 では、日本のコメ政策はどうあるべきなのか。ミニマムアクセスと高関税という仕組みで守られている間を「猶予期間」として限定し、農業改革を進めることで、せめて韓国と同等なコストで米を生産できるようにすること。そして、必要があれば、例えば数十%の関税だけで保護するといった王道に立ち返る必要があると氏は話しています。

 見方を変えれば、(戦後何十年にもわたり)そうした努力をしてこなかったから、トランプ大統領から「いつまで異常な政策をやっているつもりか」と攻撃されることになったということ。トランプ政権の相互関税の是非はともかくとして、(生産者の方ばかりを向き)市場を無視してきた政府にも反省すべき点はあるはずだと考える八幡氏の指摘を、私も興味深く読んだところです。



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