MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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♯1480 子ども部屋おじさん

2019年10月27日 | 社会・経済


 「子ども部屋おじさん」(略して「こどおじ」)という言葉を、最近しばしば耳にするようになりました。

 2階の6畳間ほどの部屋に、いつ貼ったかもわからないようなシールが飾られた学習デスクが置かれ、その脇に少し太りだした大人の体格にはそぐわない寝返りを打つたびに軋むようなシングルベッドが並んでいる。

 学生時代から愛用している家具やフィギャー、雑誌やコミックスなどの書籍類に囲まれて、親とともに実家の「子ども部屋」に住み続けている中年独身男性を指す言葉だということです。

 様々な事件から「8050問題」が顕在化する中、最近は中年の引きこもりが社会問題としてクローズアップされる機会が増えましたが、この「子ども部屋おじさん」は引きこもりやニートと違い経済的な活動を行っている、外から見れば「独身の普通のおじさん」だということです。

 中には、親の職業を継いでいるとか家族の介護が必要だとか様々な事情を抱えている人もいるのでしょうが、一般的には(ずっと実家暮らしで)実家を出る機会を失ったか、ひとり暮らしを「ムダ」と考え、3食付でお金のかからない生活を維持していくことが「コスパが良い」と考えてのことだということです。

 こうした人々も、かつては「パラサイト・シングル(Parasite single)」などともてはやされ、親と同居する若者が自分の収入を自由に使って独身生活を謳歌するというポジティブなイメージも(少しは)纏っていました。しかし、それも中年を過ぎた「おじさん」ともなると、そう格好のよいものではありません。

 サザエさん一家ではありませんが、三世代同居の大家族も当たり前だった以前の日本では、親と同居し家族が力を合わせて生活を支えることが長男の責任と考えられていた時代もありました。

 しかし、核家族化が進んだ昨今では、「親との同居」はひとりの大人として「経済的自立」や「精神的自立」ができていないことのシグナルとして捉えられることが多くなっているようです。

 女性向けのニュースサイトへの書き込みなどを覗いても、こうした子ども部屋おじさんたちは、「親離れができていない」「自立できていない」存在として、「ありえない」とか「キモい」とかの悲惨なレッテルを張られるケースが多く見受けられます。

 直近(2015年)の国勢調査では、「50歳時点で結婚の経験が一度もない」という日本人の男性は実に4人に1人に及んでいます(女性では7人に1人)。四半世紀前の1990年の調査時点では、男性は18人に1人(女性は23人に1人)だったということですので、結婚しない男性の割合は25年間で4倍以上に急増していることがわかります。

 この間、バブル経済崩壊の余波による就職氷河期の到来や「失われた20年」における若年労働者の「非正規化」の進行など、若者の経済的な自立が困難となるような社会の変化があったことは事実です。メディアなどでも、雇用環境の悪化により経済的に自立できないことが、若者の結婚への意欲を低下させているとの論調が主流となっています。

 しかし、それではベビーブームを生んだ高度成長期の若い世代が豊かだったかと言えば決してそんなことはなく、経済的には苦労しながらも自立を求めて家庭を築いていったことは間違いありません。

 そう考えれば、そもそも実家暮らしの快適さが若者から「独立したい」という欲求を奪い、生活水準の現状維持を選択させている大きな要因の一つになっていることは容易に想像できます。

 厚生労働省が先日発表した人口動態統計の速報値では、2019年1月から7月の出生数は前年同期比5.9%減の51万8590人にとどまり、年間を通じた出生数でも90万人割れするのはほぼ確実と推計されています。

 国立社会保障・人口問題研究所が2017年に出した推計値では、2019年の出生数は92万1000人で90万人割れするのは21年と予想されていたので、2年前の想定よりも2年早いペースで少子化が進んでいることが判ります。

 結婚が出産の前提となる日本の社会環境を考えれば、少子化の波を食い止めるために第一に取り組まなければならないのが未婚率の低下への対策であることは否定できないことでしょう。

 20代から40代の独身男女の6~7割が親や親族と同居し、親から生活の面倒を見てもらっている現状を踏まえれば、まずはこうした「子ども部屋おじさん」たちの意識を(次のステージに向けて)どうやって活性化し、結婚市場に引っ張り出すかが重要なカギを握っていると言えるのかもしれません。



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