MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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#2429 表参道に都営住宅は必要か?

2023年06月22日 | 社会・経済

 今年に入り、新型コロナもひと段落。株式市場も活況を取り戻し経済も回復基調に向かう中、(特に)東京都のマンション価格全体が急騰の兆しを見せていると多くのメディアが伝えています。

 不動産経済研究所が公表した今年3月の首都圏新築分譲マンション市場動向によると、新規で売り出した新築マンションの平均価格は前年比で2.2倍の1億4360万円となり、単月では初めて1億円を突破したとのこと。大型・高額物件の販売が重なり、特に東京23区が同2.7倍の2億1750万円に上昇したことで、首都圏平均が引き上げられたということです。

 因みに、首都圏の3月の発売戸数は前年比2.1%減の2439戸、このうち東京23区は1326戸とされています。一方、4月の発売戸数は首都圏で2000戸程度ということですので、新築物件数の減少がさらに価格高騰を加速化させる可能性もあるようです。

 今後も再開発による都心部の高額物件の販売開始が見込まれる一方で、昨年から建設費用の高騰も続いていることから、市場関係者は首都圏全体の上昇傾向は続くだろうと話しているということです。

 かつて「億ション」と言えば豪邸の代名詞でしたが、現在では首都圏の新築マンション価格は1億円超が当たり前。新聞折込みのチラシを見るかぎり、23区内の一等地もなれば、70~80㎡の2LDKでも2~3億円はするのが普通のようです。

 こうして都心の新築マンションがサラリーマンの手の届かない存在となって久しい中、6月13日の日本経済新聞電子版に掲載されていた「東京・表参道の都営住宅に応募殺到 家賃6万2000円」と題する記事が目を引きました。

 記事によれば、東京都が結婚予定のカップルや子育て世代向けに4月から募集している都営住宅への入居優遇制度で、都内の人気物件に応募が殺到しているとのこと。40歳未満の結婚予定者などの条件で募集した表参道にある高層住宅でも16倍の競争倍率となったとされています。

 人気の物件は、東京メトロの表参道駅から徒歩5分の場所にある「都営北青山三丁目アパート」(20階建て、築3年)。広さ42㎡の2DKで家賃は6万2000円(月額最大、世帯収入で変動)だということです。近隣の民間の類似物件の家賃は18万〜19万円ほど。今回の物件は相場の3分の1程度で住めるため、通常の(家族構成や収入条件などによる)募集時は実に最高775倍に達する超人気物件だとされています。

 さて、この記事を読んで、若い世代に安価で便利な都心の住宅を供給しようという都の意図は理解できたものの、何となく納得できない気持ちにさせられたのは私だけではないでしょう。700倍を超える応募があるのは、家賃が市場価格をそれだけ逸脱しているということ。政策は宝くじではないので、運が良い人だけが利益を享受できる「当たり」を提供することに意味があるとは思えません。

 そもそも誰もが羨む港区青山の一等地に都営住宅を作る必要があるのか、何百億円という都民の税金を使ってほんの一握りの人に長期にわたる便益与えることは、新たな不公平感を生み出さないのか。そんなことを感じていた折、6月15日の情報サイト『SmartFLASH』に「都営住宅で問われる公営住宅の在り方」と題する記事が掲載されているのを見かけ(少しだけ意を強くし)たので、小欄に一部を残しておきたいと思います。

 日経新聞の記事でにわかに注目を浴びた、地上20階建てで総戸数302戸の「都営北青山三丁目アパート」は、老朽化した「都営青山北町アパート」を建て替え2019年12月に竣工したもの。東京メトロ表参道駅から徒歩5分の好立地で、保育園や児童館も併設されている。そして、その存在が広く知られるようになった今、都営住宅そのものの在り方について、様々な議論が巻き起こっていると記事は紹介しています。

 実際、SNS上では、《年収200万とかの人を表参道の都営住宅に税金で住まわせる意味がわからん》《表参道駅近 都営住宅 低収入世帯を住まわせてどうすんのよ》《入れた人だけが得すぎて不公平だと思うんだけど》…などと指摘されていると記事はしています。

 記事によれば、東京都が管理する都営住宅は約25万戸。そのほかにも、都民住宅や区市町村住宅など、都内には約53万戸の公営住宅があるということです。

 都営住宅の平均家賃は2万3000円で、民間の家賃平均8万9600円のおよそ4分の1。家賃が格安なのは「自力では適正な水準の住宅を確保することが困難な、住宅に困窮する低額所得者に供給」(都の資料より)するためとされ、入居者の所得は(2人家族の場合)年間227万6000円までに制限されているということです。

 また、公営住宅には長期入居者も多く、都営住宅入居者(名義人)の約7割が65歳以上という現実もある。そして、そうした状況に対し《…都営住宅公営住宅も、「所得制限」が設定されていて、普通に働いてる現役若者世代は入れないよう高齢者を優遇するルールが徹底されている。「若い現役世代は1億出してマンション買えよww俺たち老人は家賃相場の1/3以下で都心に住むからwww」って煽られてるように感じるわな。これがJAPANやで》《子育て世代が優先的に入居できる住宅っていうけど、東京の都営住宅区営住宅なんて老人ばっかじゃないですか。働いてない老人が港区の公営住宅に超激安で住み医療費年金チューチューして、若い世代が1億出してマンション買わないといけないのおかしくない?》…などといった批判の声も上がっているということです。

 さてこうしてみると、家賃の安い公営住宅への入居が既得権化していることには、やはり(一つには)公平性の観点から様々な問題がありそうです。さらに、今回の港区を含む東京23区の一等地に公営住宅を作ることについては、政策の必要性と費用対効果を十分に考慮する必要があるでしょう。

 そもそも公営住宅は、人口流入に対し民間による住宅供給が十分でなかった戦後すぐの時代に、国民に健全な住環境を提供するために始められた政策であるはず。現在のように需要と供給のバランスを踏まえた市場が既に存在する中で、(一部の人だけに)極端に安価な公営住宅を供給することに投資に見合った政策効果があるとは思えません。

 住宅を確保することができない低収入の世帯には住宅費の一部を給付すればよいだけことで、民間住宅を活用した方が経済にもいいし、なにより必要が無くなれば給付を止めればそれで済む。無理やり立ち退かせる必要もありません。 

 今の時代、本当に公営住宅を提供し続ける必要があるのか。それも生活費の高い港区の一等地に新築物件を提供することが、そもそもの行政目的に叶うのか。少なくとも既存の公営住宅を建て替える際などには、納税者の意見をよく聞いて判断してほしいと改めて考える所以です。



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