ドナルド・トランプ米大統領の政治姿勢は、人々に注目されるものを取り入れながら日に日に大きく変化している。しかしひとつだけ、1980年代から一貫しているのは、関税が米経済を活性化させるうえでの有効手段だという信念だと、4月3日のBBC(JAPAN)が報じています。
4月2日にトランプ氏自身が公表した相互関税政策については、世界中のありとあらゆるエコノミストが「この大規模な関税はやがてアメリカの消費者に転嫁され、物価を上昇させ、世界的な不況を招く」と警告している。それにもかかわらず、彼はこの日を「アメリカの解放の日」と呼び、「この日が、何年か後に人々が振り返って、『彼は正しかった』と言うような日になることを願っている」と話しているということです。
もしトランプ氏が成功すれば、第2次世界大戦の焼け跡からアメリカが中心となって築き上げた世界経済秩序を、根本から再構築することになる。トランプ氏は、そうすることでアメリカの製造業を再建し、アメリカをより自立させると胸を張って約束していると記事はしています。
そうした中、今の段階ではっきりしているのは、2日の発表をトランプ氏が実行に移せば、世界経済に歴史的な変化を生むことはほぼ確実だということ。問題は、それが業績として歴史に刻まれるのか、それとも悪評として残るのかだということです。
さて、ともあれトランプ氏がこれからやろうとしていることと、結果として期待していることは(何となく)分かるのですが、問題は手段と目的の間の因果関係がよくわからないこと。「我々を搾取する輩がいるから今の(悪い)状況が生まれている。だから彼らを攻撃し排除するのだ…」といった、感情に任せた一貫性のない(そして極端な)政策の数々は、それに付き合わされる世界の人々にとってはとんだとばっちり、「いい迷惑」というものでしょう。
果たしてトランプ氏は、世界を相手にしたこの関税政策によって一体何を実現しようとしているのか。4月11日の経済情報誌「Newsweek(日本版)」に、米国在住のジャーナリスト冷泉彰彦氏が『トランプ関税が抱える2つの謎......目的もターゲットも不明確』と題する論考を寄せているので、参考までにその指摘を小欄に残しておきたいと思います。
4月2日の発表以来、株式市場を激しい混乱状態に降ろし入れているトランプ関税。例えばニューヨーク市場は、その後1週間以上にわたり乱高下を繰り返し、まるでリーマンショック前夜のようだと氏は話しています。
今回、「相互関税」が打ち出された背景には、まずは、アメリカが「先進国社会」になったという現実があると氏は言います。米国内には知的な頭脳労働だけが残り、その川下にある製造プロセスは空洞化されていった。結果、中西部には工場の廃虚ばかりが目立つようになり、「ラストベルト」と呼ばれるようになったというのが氏の認識です。
こうした地域の人々は(自分たちを追いやった)多国籍企業を憎悪の対象とし、また、アメリカをそのような「先進国」にした政治家や経営者を「グローバリスト」として軽蔑している。更に言えば、国際分業を前提としたサプライチェーンも敵視し、アメリカに対して膨大な輸出をしている中国などを不公正な国として、これまた憎悪の対象としているということです。
だから、「関税」によって輸入品から国内の製造業を守り、不公正な国々に「仕返し」をし、国内のいけ好かないリベラリストの鼻を明かしたいということでしょうが、仮にそうだとしても、そこには大きく2つの謎が横たわっているというのが、この論考で氏の指摘するところです。
1つ目は、具体的な関税の目的について。今回の関税戦争の仕掛け人と言われているピーター・ナバロ氏は7日朝のCNBCの番組に出演し、「高関税を財源として減税するのが目的なのか? それとも高関税というのはディールの材料なのか?」と問われると、明確な回答をしなかったと氏は話しています。
その一方で、ナバロ氏は「相互関税で大不況になることは絶対にない。不況になるなどと言っている人は愚かだ。何故なら直後に大規模減税を行うからだ」という発言もしている由。こうなると、市場関係者としては一体何がなんだか分からないことになり、(市場は)少ない情報に一喜一憂して混乱を続けるしかなくなっているということです。
2つ目は、関税の具体的なターゲットについて。(相互関税が)本当にアメリカを自給自足経済にするため経済鎖国をして全世界を敵に回すのが目的かといえば、交渉が成立した国には思い切り税率を軽減したりしているので、どうもそういうワケではなさそうだというのが氏の指摘するところ。
一部には、本丸は中国でそれ以外の国との税率提案や交渉は中国を追い込むためのもの…という説も流れているが、行き当たりばったりのようでよくわからない。こうしてターゲットがどこなのかが不明確なことも、疑心暗鬼の拡大に繋がっているということです。
一方、アメリカの大多数の世論も市場関係者も、この2つの謎については、政権の側が明確な答えを「持っていない」ことに薄々気付いていると氏は話しています。目的は、ただ支持層の持っている「怨念」を政治的なエネルギーにしつつ、支持層の期待に応えるようなドラマを演出することだというのも、(多分)大方の人が理解しているということです。
更に言えば、トランプ政権は、株価の大暴落や深刻な不況を起こそうとも思っていない…これも恐らく政財界の大勢としては理解されていることだと氏は話しています。もしも、今回の措置を引き金に大不況が到来すれば、与党・共和党が26年の中間選挙で大敗することは必至。場合によっては大統領の罷免につながってしまうからだということです。
しかし一方で、現在行われていることはまさに「リアルな大統領権限の発動」で、このままでは「本当に実体経済への大きな影響」が避けられない。最悪の事態としては、誰もコントロールのできない破綻にいたる可能性も否定できないと氏はこの論考の最後に指摘しています。アメリカ国内では、「お手並み拝見」とばかりに、遠巻きに見ている勢力の姿が透けて見えますが、実態はまさに、子どもの火遊びでは済まされない状況ということでしょう。
その一方で、大統領の支持層が持っている「現状への不満」や「怨念」というものも(それはそれで)「リアル」であるという理解は静かに広がっていると氏は言います。なので、米国内には「経済成長だけが正義」という議論については、今のところは「やりにくい」空気があるのも事実。(中間選挙を控え)このことが問題を一層複雑にしている現状があると結ばれた冷泉氏の指摘を、私も興味深く読んだところです。
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