MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

 伊皿子坂社会経済研究所のスクラップファイルサイトにようこそ。

#2132 働かないおじさん問題

2022年04月13日 | 社会・経済

 経済同友会のオンラインセミナーでサントリーホールディングスの新浪剛史社長が提案した「45歳定年制」が、「単なるリストラ」「働けなくなったおじさんは屑籠へ」とネット上で大きく炎上したのは昨年の9月のこと。もしも45歳でいったん定年になるとしたら、サラリーマンも自分磨きのために20代・30代の頃からもっと真剣に勉強するはずだという氏の思いも、若者の耳にはどうやら(思ったようには)届かなかったようです。

 「サラリーマンは、気楽な稼業ときたもんだ♪」と、クレイジー・キャッツの植木等が歌ってから既に半世紀。入社して20年ほどたって、動きとコスパの悪くなった高コスト社員をなんとかしないと会社が立ち行かないという、世知辛いサバイバルの時代がやってきているということでしょうか。

 確かに近年、「働かないおじさん問題」というのが大きく取り上げられるようになりました。「働かないおじさん」と言えば、以前は(ギリギリと働かされている)若い世代が、高い給料をもらいながら窓際でのんびり過ごしている定年間際の社員を揶揄する言葉として使われていたような気がします。しかし最近では、例え30代、40代でも、日々変化する働き方や仕事の内容についていけない人を、一括りにして「働かない(働けない=使えない)おじさん」と呼んでいるようです。

 実際、それなりに齢を重ねれば、誰だって頭も身体も思うようには働かないものです。そうした中、もしかしたら自分は既に「用済み」の「お荷物」かもしれないと不安はよぎります。働く40代、50代には、若者が口にするこの言葉を聞いて、「職場から出て行け」と言われているようで肩身の狭さを感じている人も(きっと)少なくないでしょう。

 しかし、もしもあなたが会社で「働かないおじさん」扱いされていたとしても、それは本当にあなたが悪いからなのか?…2月25日の総合情報サイト「幻冬舎ゴールドオンライン」に、マンパワーグループ株式会社シニアコンサルタントの難波 猛氏が『誰もが「働かないおじさん」になりかねない「日本人の実情」』と題する論考を寄せているので、ここで紹介しておきたいと思います。

 「働かないおじさん」と呼ばれる人々であっても、実は「不真面目でリアルに働かない人」はあまりいない。本人としては意欲を持って働いているけれど、周囲の期待に対して十分な成果が出せなくなってしまっているため、「あの人は働いていない」という評価になってしまっているというのが実情ではないかと難波氏はこの論考に綴っています。

 どうしてそんなことになってしまうのか。働かないおじさん問題は、本人だけでなく、日本の雇用システムや環境変化などが複雑に絡み合った社会問題だというのが氏の認識です。原因の一つは、昭和、平成の時代に比べて企業の経営環境が大きく変化したこと。例えば、経営の合理化によって「事業の選択と集中」が進み、コア業務以外の事業や間接業務のアウトソーシングが行われると、該当業務に従事していた社員は「仕事がなくなる」ということです。

日本では「仕事がなくなったから一方的に解雇」することは法律上困難なので、(その際は)異動や転籍によって企業からの期待役割が変わることが一般的。もちろん、社員に求められるスキルセットも変化していくと氏は言います。

 環境の変化に際して、本人がキャッチアップできればいいのだけれど、そうでない場合は期待と成果にミスマッチが生じてしまう。特に、一つの業務やスタイルに長く適応していたミドルシニア社員ほど、変化対応への負荷が高くなるということです。

 また、社会や法律が変わることによっても、「働かないおじさん」が生まれてしまう可能性があると氏はしています。例えば、過去のCMに謳われた24時間働くような猛烈な勤務スタイルは、もはや時代遅れで違法にすらなっている。そうした中、長く働ける体力や長時間労働を前提として成果を上げてきた人は、それを生かせる場がなくなった。さらに、今回のコロナ禍で、」テレワーク・リモートワークなどに上手く適応できる人とできない人が生まれ、分断はさらに深まっているということです。

 さらに、少子高齢化が進む日本では、今後ますます生涯にわたり長い期間現役で働き続ける必要が出てくると氏は話しています。その一方で、ビジネスの現場では、ITのさらなる進歩によりすべての人が「新しい技術」にキャッチアップ・アップデートしていくことが求められるようになっている。過去に類を見ないほど長く働く時代、自分自身をバージョンアップし続けることを諦めてしまった場合、数年で「働かないおじさん」となってしまう可能性があるというのが氏の指摘するところです。

最近では、ミドルシニアの処遇に関しても、職務内容を明確に定義した「ジョブ型」の人事制度を適用する企業も増えている。企業にも余力がなくなり、「窓際族」という言葉も最近はほとんど耳にすることがないと氏はしています。

そうした環境では、余人を持って替え難いような専門性や卓越したマネジメント能力を保有していない社員にとって、社内での居場所を、分で勝ち取っていくのは至難の業と言える。一時期問題となった「追い出し部屋」のように、社員から業務を取り上げる仕打ちも、配転命令権の濫用やパワーハラスメントに該当し法律違反に当たるということです。

 さて、やる気はあっても成果を出せないオジサンたちと、彼らの経験や能力を生かせず(いたずらに)もて余す経営者たち。こうした状態をそのままにしておいては、企業も雇用者も決して幸せに離れないのは明らかです。

 「働かないおじさん」を悪者にしているだけでは、職場の士気も下がるばかり。で、あればこそ、イレギュラーやイリーガルな抜け道を考えるのではなく、企業側も本人側も「期待と成果にミスマッチが生じている状態」を真正面から受け止めて、真剣に解決策を模索することが必要だとこの論考を結ぶ難波氏の指摘を、私も興味深く受け止めたところです。

 



最新の画像もっと見る

コメントを投稿