MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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#2133 戦狼外交の立ち位置

2022年04月14日 | 国際・政治

 強い言葉で他国を批判し自国の立場を常に正当化するのが、(いわゆる)中国の「戦狼外交」というもの。その姿勢を体現しているのが、日本のテレビニュースなどでもたびたび見かける外務省報道局長の趙立堅氏と言えるでしょう。

 氏は、新型コロナ感染症が表面化した2年前、「ウイルスは米軍が武漢に持ち込んだ可能性がある」との異説を口にして名前をはせたほか、今年3月18日の定例会見では、(アメリカが)「虚偽情報を絶えずまき散らし、中国の顔に泥を塗っている」と言い捨て話題になりました。

 報道局長ばかりでなく、多くの外交官が(まるで競うように)品位に欠ける言葉で他国に「嚙みつきまくる」のがもはや「常識」となりつつある中国の外交姿勢ですが、驚くことに今回のウクライナ危機に関しては何やら(もごもごと)言葉を濁す場面が目につきます。

 そもそも中国にとってのウクライナは、航空母艦などの軍事技術を提供してくれた重要な相手国だったはず。しかし、日米欧に対抗する必要から、ロシアのプーチン大統領のご機嫌を損ねるわけにはいきません。

 「敵の敵は味方」ということでしょうか。外交上の「ご都合主義は」世の常とはいえ普段の言葉が強いだけに、(習近平国家主席の顔色を常に伺うように振る舞う)彼らのそうした姿に、上司に逆らえないサラリーマンのような悲哀を感じるのは私だけではないしょう。

 そうした中、4月4日の総合経済サイト「東洋経済オンライン」に北海道大学大学院教授の城山英巳氏が、「中国の「やられたらやり返す」戦狼外交が抱く難問」と題する論考を寄せていたので、参考までに小欄に概要を残しておきたいと思います。

 米欧日などに対して「報復」措置を吠える「戦狼外交」は、欧米の帝国主義に領土や主権を侵食された「屈辱の歴史」からはい上がり、今や「強国」になった国民のナショナリズムを刺激することで、習近平国家主席への求心力を高める効果を狙ったものだった。

 一方、今回のロシアによるウクライナ侵攻により、米欧日などの西側民主主義陣営と中ロを中心とした権威主義陣営の対決がより鮮明になるにつれ、習近平国家主席は、体制の存亡を懸けた対西側イデオロギー闘争を勝ち抜く「宣伝戦」の一環として、「戦狼外交」を強化する必要性を感じているだろうと城山氏はこの論考に綴っています。

 2月4日、ウクライナ侵攻を前に北京冬季五輪開会式に出席したプーチン大統領と会談した習近平主席は、「中ロは、外部勢力が両国共同の周辺地域の安全と安定を破壊することに反対し、外部勢力がいかなる口実であれ、主権や国家の内政に干渉することに反対し、カラー革命に反対する」と共同声明に記した。

 米欧日などに対抗し、中ロは一致して、権威主義陣営を動揺・弱体化させる「カラー革命」(←独裁や腐敗の横行する政権の交代を求めて起こった民主化運動の総称)への警戒感をあらわにしたということです。

 「中ロ共闘」は、ウクライナ危機がどう転んだとしても絶対的な原則だと、城山氏はこの論考に記しています。習近平主席のこの世界観は一貫しており、共産党総書記就任翌月の内部講話でソ連崩壊の教訓をくみ取るべきだと訴え、2013年8月に開いた「全国宣伝思想工作会議」でも、西側とのイデオロギー思想闘争に敗北すれば政権の瓦解につながると危機意識を訴えたということです。

 また、習近平主席に関してもう1つ確かなのが、彼がアヘン戦争以降の100年間にわたる中国の「屈辱の歴史」から立ち上がり、「中華民族の偉大な復興」を実現するという歴史観に強く固執していることだと氏はしています。だからこそ、「もう中国は馬鹿にされない。やられたらやり返す」という根本的な発想があり、米欧日からの「言われっ放し」を許さない国民のナショナリズムに応える「戦狼外交」が、政権全体において顕現化しているということです。

 さて、現在発信されている(こうした)「戦狼外交」が、王毅国務委員兼外交部長の習近平主席に対する「忖度」で展開されているのはまず間違いないと城山氏は話しています。

 本来、日本通であることが知られ「弱腰」批判に神経を尖らせている王毅外相は、現状を「強い外交部」をアピールする好機ととらえている。実際、2014年3月の記者会見で「新時代の中国外交」について問われ、「われわれには気骨が必要だ。気骨の起源は民族の誇りだ。近代以来100年間の屈辱の歴史は永遠に過去のものとなった」と語ったということです。

 こうしたトップの姿勢を受け、中国の外交官たちは相次ぎツイッターアカウントを開設し、多くの在外公館も2020年前半までに一斉にアカウントを開設したと氏は指摘しています。外交部にはツイッターを使った「戦狼外交」の実践が評価されるはっきりとした空気があり、北京向けにそこをアピールしようする外交官が実績を競っているということです。

 いずれにしても、(本人たちが気付いているかどうかは別にして)世界の対中イメージを悪化させ、国際社会との緊張を生んでいる「戦狼外交」は今後、どう展開するのか。

 崔天凱前駐米大使は、2021年12月の講演で、対米関係を念頭に「実際の闘争で彼らに勝つだけでなく、人格面でも打ち破らねばならない」と述べ暗に「戦狼外交官」を批判したが、(このように)現在の中国外交部内にも(戦狼外交の)弊害を懸念する声も多いと氏はこの論考の最後に綴っています。

 習近平主席は、国民にナショナリズムをあおった結果、自らがそのナショナリズムに縛られるという皮肉な現実の中にある。自らの政治基盤を「反欧米の盟主」という立ち位置に置く以上、反米の態度を崩さないロシアのプーチン政権への(安易な)批判は命取りとなりかねないということでしょう。

「戦狼外交」を継続せざるをえない状況の中で、中立的な東南アジアや中東、アフリカとの関係を固め、西側民主主義陣営に揺さぶりをかけるにはどうしたらよいか。14億人の人口を抱える大国の舵取りは必ずしも容易なものではないと考える城山氏の指摘を、私も興味深く読んだところです。



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