MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

 伊皿子坂社会経済研究所のスクラップファイルサイトにようこそ。

♯71 離婚のリスク

2013年10月15日 | 社会・経済

 厚生労働省の「離婚に関する統計(平成21年度)」によれば、1945年の終戦から1967年まで、日本の離婚件数は年間6万9千~8万4千件と低位に推移していたのですが、その後高度成長に歩調を合わせるように増加し、おおよそ15年後の83年には17万件あまりとなりました。

 さらに離婚件数の動きを追うと、バブル経済により日本が好調な経済環境下にあった84年から88年までの間一時的に減少したもののバブル崩壊とともに急激な増加に転じ、2002年には29万件でピークを打っています。そして、それ以降漸減し、現在は概ね年間23万7千件前後(平成24年推計値)で推移している状況です。

 この間の動向を分析すると、1970年代までは景気と逆の変動か変動がない状態が継続しており、景気と離婚はほとんど無関係であったと考えらます。しかし、80年代前半の景気低迷とともに離婚件数の増加傾向が顕著となり、また84年からの景気回復に合わせ減少するという、まさに「カネの切れ目が縁の切れ目」ともいうべき特徴ある動きを示すようになりました。

 80年代以降の離婚件数の推移はさらに大変興味深く、景気の動きに1~2年先行する形で明らかな負の相関(好景気の兆候があると離婚件数は減少し、悪化の気配とともに増加する)を見せており、近年に至ってはあたかも景気の先行指標のような動きを示しています。

 このように、現在の日本の離婚件数は景気の動向に大きく影響を受けていることが知られており、世帯の経済状態が離婚の決断を左右していると言っても過言ではありません。そんな中、勤労世代(2064歳)の単身で暮らす女性の何と3人に一人がいわゆる「貧困状態」にあるという独身女性の実態が、国立社会保障・人口問題研究所の分析により明らかになっています。

 「相対的貧困率」という言葉があります。これは、OECDが国際比較をする際に使用している指標の一つで、国民一人一人の可処分所得を並べた中央値を計算しその半分に満たない人の割合を指す言葉です(例えば07年で計算すると可処分所得が約114万円/年未満で暮らしている方ということになります)。貧困率は国民全体の所得水準を基準とした相対的な貧困層の割合を示す数値であり、ざっと計算してみると08年時点における日本の貧困率はおおよそ16%ということになるようです。

 07年の国民生活基礎調査に基づき世帯の属性ごとの相対的貧困率を見てみると、一人暮らしの女性世帯の勤労世帯の32%が貧困層に該当するほか、65歳以上の単身世帯の女性では52%を占めるなど貧困層が過半数を占めている計算になります。さらに19歳以下の子供がいるシングルマザーを抜き出すと、その57%が貧困層に含まれことになり、女性が家計を支える世帯に貧困が集中していることがよくわかります。

 分析の結果、貧困者全体の57%が女性であること、95年時点での集計との比較において男女格差が拡大していることなどもわかっています。さらに景気が後退すると離婚件数が増えるというのもどうやら事実のようです。単身女性の増加や高齢化、非正規雇用の拡大による収入の不安定化などの要素を考慮すれば、貧困が女性(特に単身女性)に偏る傾向がますます強まり、「離婚・非婚のリスク」は今後一層大きくなる可能性があると言えそうです。

 また、17歳以下の子供の経済状況を見てみると、1985年には10.9%だった貧困率が25年後の09年には15.7%まで拡大していることがわかります。特にひとり親世帯の子供を抜き出してみると、単身女性の置かれた状況を背景に、貧困率は54.2パーセントにまで広がり、やはりここでも過半数が貧困状態にあるということがわかります。ちなみに、OECD加盟国32カ国の平均は31.1%ということなので、他の先進国と比較してもこれはかなり高い割合と言うことができます。

 これまで見てきたように、こうしたひとり親家庭の貧困の原因には、一般に日本の女性が男性に比べて相対的に低収入であることや不安定な非正規雇用に就きやすいという就業構造などがあると考えられます。例えば、いわゆる「母子家庭」に限って見ると、母親の就労率は85%と高いもののその約7割は年間就労収入が200万円未満という状況に置かれており、正確な割合は不明ですがその多くが非正規雇用のもとにあると考えられています。

  生産年齢人口の急激な減少など日本の置かれた社会環境、経済環境を踏まえれば、女性の就業率の向上、就業条件・就業環境の改善は今後10年といったスパンにおいて解決されるべき国家レベルの重要課題と考えることができます。その中でも、女性が貧困に直面しているこのようなショッキングな現状を鑑みれば、働く女性の支援策を検討するにあたって優先的に進めるべき政策というものは、おのずから見えてくると思います。せっかくですので、そのうちの三つほどを簡単にメモしておきます。

 一つは、子供をかかえる母親の世帯の生活環境をあらためて調査し、地方自治体による個別具体的な支援の手を差し伸べることではないかと思います。生活に苦しむ母親はそれぞれ個別の「事情」に縛られています。そうした事情に直接かかわり、アドバイスを加え必要な支援に結び付けていく、そんな多少おせっかいな取り組みが必要な時期に来ているのではないかと思います。

 次に、いわゆる「貧困の連鎖」を断ち切るための取り組みです。

 厚生労働省の調査では生活保護世帯の1/4(25.1%)は出身世帯でも生活保護経験を持っているとされ、生活保護における貧困の連鎖というものが無視できない存在となっています。中でもいわゆる「母子世帯」では、生活保護受給率(13.3%)は他の世帯(2.4%)と比較して相当高い状況にある(2008年比)と言え、出身世帯が生活保護歴のある割合も3割以上に及ぶなど、特に貧困の連鎖の影響が特に問題視されています。

 こうした母親への支援の強化はもちろんですが、生活保護費を受給する母子世帯の子供たちの健康管理や教育支援について、福祉、医療、教育を所管するの各行政セクターが連携しきめ細かな対策を講じる必要があると考えられます。

 さらに、所得に応じ安価、簡便に子供を預けることのできる託児施設の整備、拡充です。女性に必要とされているのは、あくまで「自立」に向けた支援であると考えることが大切です。子供を預けることができない母親は、自立するために必要な仕事を得ることができません。育児を理由に仕事を中断することが女性の自立に及ぼす影響には、やはり計り知れないものがあると考えられます。

 このように、結婚、育児期にある女性がたとえ単身であっても「自立」して子供を養育できる環境を整えることが現在の日本の喫緊の課題であり、最も求められていることだと言えるのではないでしょうか。