MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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♯69 都会の女性

2013年10月11日 | 社会・経済

 おさらいします。

 女性の年齢別労働力率に表れるM字カーブ。しかし、結婚・出産期に生じる女性の労働力率の低下は日本全国で生じているわけではなく、実は大都市圏に固有の事象にすぎない…そういうお話でした。

 さて、それではなぜ、大都市圏と地方圏では女性の就業状況にこうした差異が生じているのでしょうか。その原因について、前出の経済産業研究所のレポート(「なぜ大都市圏の女性労働力率は低いのか」橋本由紀・宮川修子(()経済産業研究所2008))において様々な考察が加えられていますので、そのいくつかを紹介します。

 例えば、地方圏では親(祖父母)と同居していたり親が近所に居住したりしているケースが多いため、子供の面倒を見てもらえるからではないか(逆に言えば、大都市圏では親からの育児支援を受けにくいからではないか)、…という仮説です。なんとなく実感としてうなずける理屈ではありますが、実際のところ大都市圏と地方圏の親と同居している世帯のグループ同士を比較しても、大都市圏の女性の労働力率は地方圏の女性の労働力率よりも(同居していない世帯と同じように)低い、というデータが示されているようです。

 大都市圏の女性は通勤時間なども長く仕事に拘束される時間が長いことから、家事や育児との両立が難しいのではないか…という仮説はどうでしょう。正規雇用の有業女性の労働時間(仕事+通勤)をみると、大都市圏では9時間56分、地方圏では9時間11分と、大都市圏の方が確かに1日当たり45分間長いことがわかります。しかし、正規従業員比率は地方圏で高く大都市圏で低い傾向にあり、総体として見た労働時間に有意な差は認められないことがわかっています。さらに、女性が1日に家事・育児に費やす時間を見ても、大都市圏で2時間56分、地方圏で2時間40分とほとんど変わらず、家事育児の負担に大きな差異はないと考えられています。

 パートナーの状況に目を向けた、大都市圏の男性は通勤や残業などで忙しく、女性が家事や育児などの協力を得にくいからではないか…という仮説もあります。これももっともらしい仮説ですが、実は配偶者(夫)の家事や育児への参加時間に大都市圏と地方圏との差異は見られず、女性の労働力率と男性の育児協力はデータ的には相関が無いということだそうです。

 小さい子供は手がかかるもの。子供の年齢との関係はどうでしょう。データを見ても、末子の年齢の上昇に従って労働力率の高まりが見られます。しかしこれも結論から言えば、女性の労働力率と合計特殊出生率はトレードオフの関係にはなく、むしろ働いている母親の方が子供をたくさん産むという正の相関を持っています。大都市圏ほど女性の労働力率が低い一方で出生率も同様に低く、第2子、第3子を抱えた母親に関してはむしろ地方圏の方が割合として多いことがわかっています。

 まとめてみると、大都市圏の女性の方が仕事の負担が特段に大きいというわけではなく、育児の負担が大きいというわけでもない(むしろ小さいと言えそうです)。親や夫の支援の有無や程度が影響しているというわけでもないということですので、それでは一体何が大都市圏の女性の就業の妨げとなっているのでしょうか。

 検証されてはいませんが、その他にもいろいろと原因は想定できます。例えば、

① 大都市圏の世帯では夫の所得が高く、地方圏の女性より働くことへのインセンティブが低いのではないか。

② 大都市圏の女性は専業主婦の家庭に育ったケースが多いことから、女性が家事や育児に専念しているという環境に違和感が少ないのではないか。

③ 大都市圏では地方圏に比べて離婚率が低い傾向があることからわかるように、と地方圏の世帯に比べて男性の収入への依存度が高いのではないか。

などといものも考えられると思いますがいかがでしょうか。

 さて、前出の経済産業研究所のレポートでは、大都市圏の女性に共通する雇用環境を踏まえ、女性の労働市場への参入障壁に関して以下のような考察を行っています。



① 子育てをする女性は時間的な自由度が少なく、求職に当たってどうしても居住地に縛られがちである。

② 大都市圏では正規雇用の求人が少なく、相対的に小売・販売や飲食業といった3次産業のパートやアルバイトなどの非正規の求人の比率が高い。

③ 市場にパートやアルバイトの仕事しかなければ、大都市圏の(高学歴な)女性が求める(事務職などの)ニーズと合わず、労働市場への非参入(退出)が進む可能性が高い。

 つまり、「居住地周辺で提供される職業の中から条件に近い仕事選ぶ」という基本的には受け身の立場の女性に対し、大都市圏の事業所は適切な業務を提供できていない(労働力を活用できていない)、いわゆる「需給のミスマッチ」が起きているというものです。

 将来に向けて女性のライフコースの実現を支援し、女性の労働力率の向上を実現していくためには、日本政府はこのような雇用のミスマッチを解消するための技術的な手立てについて、日本経済の生き残りをかけるくらいの心構えで早急に検討していく必要がありそうです。

 また、大阪市立大学の調査によれば、保育所定員率(0~6歳児人口と保育所定員の比率)と女性の労働力率には正の相関関係があり、保育所定員率が1%伸びると女性の労働力率は0.7ポイント高まるというデータがあるそうです。さらに、財務総合政策研究所の宇南山卓氏によると、保育所の潜在的定員率(2044歳女性人口と保育所定員の比率)と女性の結婚時の離職率には負の相関があり、定員率が増えるほど女性の離職が減るという傾向が明らかになっているということです。

 雇用のミスマッチの解消も勿論ですが、大都市圏には0歳児を預けることさえ可能であれば仕事を辞めないで済む、もしくは3歳の子供を預かってもらえるならば再度就労への道を開きたいとする女性がまだまだ大勢存在していることは事実です。地方行政にとっては、まず、女性の労働参入を阻むこのような障害を取り除くことが第一の課題であり、なおかつ現時点における最も効果的な施策であると考えてよいのではないでしょうか。