熊は勘定に入れません-あるいは、消えたスタージョンの謎-

現在不定期かつ突発的更新中。基本はSFの読書感想など。

ケルベロス第五の首(7首目)

2004年09月13日 | Wolfe
ついに「V.R.T.」読了。これが最後の首となるか?

しかしこの話は読んでて苦しかった。
先に出ている話との関係性が非常に強いので、どうしても読みながら
チェックを入れる作業が出てくる。しかもつけ合わせれば合わせるほど
「?」という部分も出たりして。
読みにくいのではなく、文章にぶんぶん振りまわされる感じと言いますか。
あるいはクモの巣に絡まってベタベタになったとか、水草に絡まれて溺れるような。

「V.R.T.」(以下「VRT」は、文体の混在と視点の入れ替えがさらに激しくなり、読み方も
さらに広がりを見せる。(「悪文の再現」と言う荒業も飛び出すし)
基調である三人称の部分から読むと、この話は一話「FHC」の「始末書」みたいな位置付けだが、
実質的には「FHC」の事件への影響はあまり無い。
そして「FHC」が「わたしは誰だ?」という話であったのに対し、「VRT」では
「こいつ(マーシュ)は誰だ?」という視点からの物語になっている。

双方の話をブリッジするのが「ある物語」なのだが、こうなると相互のテキストが
お互いのコピーであり、かつ依存関係であるという形が成立し、さらにややこしくなる。
同じ内容の話を3タイプにわけて書いて、しかもお互いに補足しあってるうえ、どこが
発端なのかわからない。おまけに舞台も姉妹惑星の両方にまたがっていて、ますます
合わせ鏡めいている。

それにしても、「V.R.T.」とは何物なのか。
名前は日記から「ヴィクター・R・トレンチャード」とわかるけど、
「trench」なら堀割だから、マーシュとかぶるところがある。
日記の記述では発端が「事故」か「殺害」なのかはわからないけど、
猫(の姿をしたなにか)を媒介にして両者の合一が行われたように読める。
(犬の反対だから猫?女性であることを示してるのか?)
また、死体(どっちの?)を安置した様子が「ある物語」の
呪い師の洞窟に似ているのも気になるところ。
(ここも「犬の口」のような形状なので、「FHC」の館との類似も見られる。)

しかもこいつ、「ヴェール博士」ともかなり長く話しているらしい。
収監中の存在が「コピー好き」であるならば、ヴェールからの影響も
大きいのではないか。
そこから生まれたのが、三者の融合としての「ある物語」かも知れない。

(ラストで放ったテープは、これの口述の可能性もある。(字がヘタだから、
 もしくは館で録音したもの)2話はだれかがテープを入手して出版したものかも。)

そして獄中で「模倣相手」の無い状態で到達した「ルェーヴの公理」は
「一人の語り手」(少年=老賢者=狼)による、逆の真実の可能性を示す。
でも証拠はどこにも残らない。手で作られたものは後に残らず、
ルェーヴ(liev)はすでに「行ってしまった(left)」あとだから。

これで「わかった」と言えるわけもないが、感触はつかめたような気がする。
やはりテーマは「自己確認」なのだろうかど、追えば追うほどそれはいろいろなものに
溶けこんで、あいまいになっていく。そして「記録」もまた自己の「記録」を持たない限り
オリジナルの証明とはなりえない。結局「真のオリジナル」なんてものは見つからないのだ。

なんか「九百人のお祖母さん」みたいなまとめになりましたが、なにかを表現するのに
別のもので例える繰り返しという「表現の限界と相互による証明」も指摘されていたように
感じてるので、なんとも反省しきり。

話は変わるけれど、この作品全体に様々な形の「支配」「抑圧」が出てくる。
これは暗に相対的な「文明批評」を狙ってるのだろうか。
番号とそれによる固有名詞の代用、場所と個人の同一化など、なんだか
「プリズナーNo.6」っぽいイメージもあるし。
leftって本当に「左派」と読んだら、あまりにやり過ぎですが。

「VRT」では「わたし」の問題を世界や種全体に広げてる部分は見うけられるし、
そこに「アメリカ」を始めとする既知の世界や人種のイメージがダブってくるのは
避けがたいところ。
まあそうだとしても、「批判」ではなく「批評」ということで、善し悪しには
触れないわけですが。搾取なのか共生なのか相互依存なのか、あるいはみんなひっくるめて
同じモノの裏表なのかもしれないし。

あと、ジーンは「精霊」(ジン)の読み替えにもなってたりして。
老賢者と子供は一人になったら「wolf」だって言ってるし、
ジーニー叔母さんも空飛んでましたしね。

他にも細部をバラしてつつきまわすといろいろ出そうですが、それをやると
今の感触を失ってしまいそう。キリもないのでこのくらいでテープを放ります。

これでやっとウルフ特集が読めるけど、また振りまわされるのはちと恐ろしいなあ。

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