SFマガジンの特集で、ウルフのエッセイ『一匹狼』を読んで以来探していた
『闇の展覧会』第1巻。
普通に買える当時はホラーに興味なんて無く、キングの『霧』の部分だけ
立ち読みで済ませてしまっていたのだ。
まさかウルフの『探偵、夢を解く』を目当てに、これを探し回る羽目になるとは…。
そして先日、ようやく古本屋で発見。
300円なので即座に買って帰り、さっそく『探偵、夢を解く』を読み始めた。
…いやあ、相変わらずよくわからない話である。
さる筋の関係者から、街の人々に怪しげな夢を見せる「夢の主」なる人物を探すよう
依頼された男(実は探偵とはどこにも書かれていない)が、どことも知れぬ街に行って
聞き込みをし、その居所をつきとめて打ち滅ぼす。これが物語のあらすじだ。
しかし、例によって固有名詞は出てこないわ、話の中にドイツ語とフランス語が
ちゃんぽんで出てくるおかげで、人も舞台も特定できないわというありさま。
ただし、舞台となる街はヨーロッパの、たぶんドイツ周辺であろうという予測は
できるのだが。
本作はホームズもののパロディの形式をとりつつ、プルーストやジッドなどを想起させる
イメージを随所に盛り込んでいる。
(しかも仏文素人の私でもわかるくらいに露骨な引用の仕方をしている)
しかし全編を通して展開される物語は、むしろユングの「夢分析」の小説版といった
内容であり、さらにその夢の下敷きとなっているのは、すでに他でも指摘されている通り、
明らかに「マタイによる福音書」である。
だが、実はこれら以上に頻出し、しかも意外と目に付きにくいのが、
「金」「報酬」「商売」といった、いわゆる「資本主義」に結びつく要素たち。
どうやらウルフは、キリスト教を起源とする「資本主義」を神の姿に見立て、
それらにまつわる思想家たちの姿を、預言者たちの姿にダブらせようとしたらしい。
さらにジッドには『贋金つかい』『贋金つくり』という作品もあったことを考えると
文学とカネの関係も見えてきそうに思える。
(このあたりは全然読んでないので、かなり荒唐無稽な発想かもしれないが)
この作品の登場人物に「カール」という男がいるが、この名から連想される
19世紀末の思想家というと、まず「ユング」と「マルクス」があげられる。
どちらもこの作品のテーマと密接に関係した思想家であることは、言うまでもない。
さらに大風呂敷を広げれば、この話の舞台をドイツ帝国と考えた場合、
カールの名は第一帝国に当たる神聖ローマ帝国の王、ヨーロッパの礎となった
シャルルマーニュにもつながりそうなのである。
また、ドイツ革命に失敗した社会運動家の名は「カール・リープクネヒト」であり、
これがナチス第三帝国の台頭にもつながったとの話もある。
…こうなると、誰も彼もが疑わしい。
ここまでくるとあまりにスケールが大きすぎて、アタマを抱えたくなってくる。
下手をすると、ヨーロッパの歴史と思想史がこの短編に丸ごと入っている可能性も
否定できない。
キリスト教世界の誕生と資本主義社会の形成、絶対王政から帝国主義への変遷、
そして2度の世界大戦。
砕け散るカールの姿は、これから来るヨーロッパの瓦解を暗示しているようにも思えてくる。
ふと思いついてネットなどを調べていたら、ここまで話が広がってしまった。
もしもここに書いたようなことをすべて狙って書いたのならば、ウルフはやっぱり
化け物だと思う。
柳下氏や大森氏がSFMの鼎談で述べていたように、コンピュータもネットもない
時代の作品なのだ。ましてや検索エンジンもウィキペディアもないのである。
単語で芋づる式にネタを探るだけでも大変だというのに…。
この短編、誰か詳細に分析してくれないだろうか。少なくとも私には無理です。
…あと余談ですが、マタイ伝にもちゃんと狼が出てくるんですね。
『闇の展覧会』第1巻。
普通に買える当時はホラーに興味なんて無く、キングの『霧』の部分だけ
立ち読みで済ませてしまっていたのだ。
まさかウルフの『探偵、夢を解く』を目当てに、これを探し回る羽目になるとは…。
そして先日、ようやく古本屋で発見。
300円なので即座に買って帰り、さっそく『探偵、夢を解く』を読み始めた。
…いやあ、相変わらずよくわからない話である。
さる筋の関係者から、街の人々に怪しげな夢を見せる「夢の主」なる人物を探すよう
依頼された男(実は探偵とはどこにも書かれていない)が、どことも知れぬ街に行って
聞き込みをし、その居所をつきとめて打ち滅ぼす。これが物語のあらすじだ。
しかし、例によって固有名詞は出てこないわ、話の中にドイツ語とフランス語が
ちゃんぽんで出てくるおかげで、人も舞台も特定できないわというありさま。
ただし、舞台となる街はヨーロッパの、たぶんドイツ周辺であろうという予測は
できるのだが。
本作はホームズもののパロディの形式をとりつつ、プルーストやジッドなどを想起させる
イメージを随所に盛り込んでいる。
(しかも仏文素人の私でもわかるくらいに露骨な引用の仕方をしている)
しかし全編を通して展開される物語は、むしろユングの「夢分析」の小説版といった
内容であり、さらにその夢の下敷きとなっているのは、すでに他でも指摘されている通り、
明らかに「マタイによる福音書」である。
だが、実はこれら以上に頻出し、しかも意外と目に付きにくいのが、
「金」「報酬」「商売」といった、いわゆる「資本主義」に結びつく要素たち。
どうやらウルフは、キリスト教を起源とする「資本主義」を神の姿に見立て、
それらにまつわる思想家たちの姿を、預言者たちの姿にダブらせようとしたらしい。
さらにジッドには『贋金つかい』『贋金つくり』という作品もあったことを考えると
文学とカネの関係も見えてきそうに思える。
(このあたりは全然読んでないので、かなり荒唐無稽な発想かもしれないが)
この作品の登場人物に「カール」という男がいるが、この名から連想される
19世紀末の思想家というと、まず「ユング」と「マルクス」があげられる。
どちらもこの作品のテーマと密接に関係した思想家であることは、言うまでもない。
さらに大風呂敷を広げれば、この話の舞台をドイツ帝国と考えた場合、
カールの名は第一帝国に当たる神聖ローマ帝国の王、ヨーロッパの礎となった
シャルルマーニュにもつながりそうなのである。
また、ドイツ革命に失敗した社会運動家の名は「カール・リープクネヒト」であり、
これがナチス第三帝国の台頭にもつながったとの話もある。
…こうなると、誰も彼もが疑わしい。
ここまでくるとあまりにスケールが大きすぎて、アタマを抱えたくなってくる。
下手をすると、ヨーロッパの歴史と思想史がこの短編に丸ごと入っている可能性も
否定できない。
キリスト教世界の誕生と資本主義社会の形成、絶対王政から帝国主義への変遷、
そして2度の世界大戦。
砕け散るカールの姿は、これから来るヨーロッパの瓦解を暗示しているようにも思えてくる。
ふと思いついてネットなどを調べていたら、ここまで話が広がってしまった。
もしもここに書いたようなことをすべて狙って書いたのならば、ウルフはやっぱり
化け物だと思う。
柳下氏や大森氏がSFMの鼎談で述べていたように、コンピュータもネットもない
時代の作品なのだ。ましてや検索エンジンもウィキペディアもないのである。
単語で芋づる式にネタを探るだけでも大変だというのに…。
この短編、誰か詳細に分析してくれないだろうか。少なくとも私には無理です。
…あと余談ですが、マタイ伝にもちゃんと狼が出てくるんですね。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます