「地図」に続き、「《新しい太陽の書》読本」掲載の「葉と花の帝国」を読む。
セヴェリアンがウルタン師から預かり、旅の間も持っていた「茶色の本」に
収録されていた物語のひとつとされるのが、この「葉と花の帝国」である。
これも『新しい太陽の書』の別バージョンなのだが、とりわけユニークなのは
この物語がかつての「新しい太陽」について書いている、という点だ。
植物の名を持つ賢者(セージ)のうちでも最高とされるタイムという人物が、
西への旅の途中でエンドウマメ(ピース)で遊ぶ少女と出会う。
彼女は賢者タイムが連れ去り、そして再び連れ帰ることを約束されている者だった。
二人はともに旅を続け、少女は西へ進むにつれて美しい娘へと成長していく。
やがて「東の国」の王都に着いた娘は、その国の王子と一夜限りの恋に落ちる。
東の国と西の国との戦争で父を奪われたという娘は、王と王子に平和を請い願うが
それは聞き入れられず、賢者と娘はさらに西へと旅を続ける。
旅の途中で王子の息子を産んだ娘は、やがて賢者とともに「西の国」の王都に着き
平民に身をやつしたその国の皇帝とめぐり合う。
同行していた少年が敵国の王子の子と知った皇帝は、その少年を手元に置くことで
戦争に勝ち、自分が平和をもたらすと賢者たちに告げる。
少年を置いて東へと帰っていく賢者と娘。先に進むにつれて二人は若くなっていき、
やがて最初に出会った場所へと戻ってくるのだった。
寓話仕立てのこの物語では、灰かぶりやいばら姫を連想させる民話的モチーフが
ウールスを舞台とした伝説に転用されている。(イエスを思わせる挿話もある。)
ウールスという名は出てくるが、セヴェリアンの物語とは時代が異なるためか、
これ以外で二つの物語に共通する固有名詞はほとんど出てこない。
その分だけエキゾチックさやシリーズとしての統一感は薄まったかもしれないが、
むしろ物語の普遍性がより際立つようにも感じられて、自分には好ましかった。
賢者が何者で何を象徴しているかは、名前や文中の例えで十分に読み取れるし
その灰色のマントが誰を連想させるかは、シリーズのファンには言うまでもない。
しかしこの短編に関しては、深読み以前に「読んで楽しく、そして美しい」という
誰にでもわかる喜びがある。
ウルフ作品の美しさ、見事な言葉の使い方、そして魔術的な語りを全編に渡って
堪能できる、珠玉の一品。ウルフのファン以外にも広く読まれて欲しいものだ。
宮脇孝雄氏の翻訳も読みやすさと格調の高さを兼ね備えており、実にすばらしい。
余談だが、賢者の一人に地衣(ライカン:Lichen)という人物がいるが、
これは狼男(lycanthrope)のもじり=ウルフの刻印のひとつなのだろうか?
・・・などと勘ぐってしまうところが、ウルフ読みの悪い癖である。
セヴェリアンがウルタン師から預かり、旅の間も持っていた「茶色の本」に
収録されていた物語のひとつとされるのが、この「葉と花の帝国」である。
これも『新しい太陽の書』の別バージョンなのだが、とりわけユニークなのは
この物語がかつての「新しい太陽」について書いている、という点だ。
植物の名を持つ賢者(セージ)のうちでも最高とされるタイムという人物が、
西への旅の途中でエンドウマメ(ピース)で遊ぶ少女と出会う。
彼女は賢者タイムが連れ去り、そして再び連れ帰ることを約束されている者だった。
二人はともに旅を続け、少女は西へ進むにつれて美しい娘へと成長していく。
やがて「東の国」の王都に着いた娘は、その国の王子と一夜限りの恋に落ちる。
東の国と西の国との戦争で父を奪われたという娘は、王と王子に平和を請い願うが
それは聞き入れられず、賢者と娘はさらに西へと旅を続ける。
旅の途中で王子の息子を産んだ娘は、やがて賢者とともに「西の国」の王都に着き
平民に身をやつしたその国の皇帝とめぐり合う。
同行していた少年が敵国の王子の子と知った皇帝は、その少年を手元に置くことで
戦争に勝ち、自分が平和をもたらすと賢者たちに告げる。
少年を置いて東へと帰っていく賢者と娘。先に進むにつれて二人は若くなっていき、
やがて最初に出会った場所へと戻ってくるのだった。
寓話仕立てのこの物語では、灰かぶりやいばら姫を連想させる民話的モチーフが
ウールスを舞台とした伝説に転用されている。(イエスを思わせる挿話もある。)
ウールスという名は出てくるが、セヴェリアンの物語とは時代が異なるためか、
これ以外で二つの物語に共通する固有名詞はほとんど出てこない。
その分だけエキゾチックさやシリーズとしての統一感は薄まったかもしれないが、
むしろ物語の普遍性がより際立つようにも感じられて、自分には好ましかった。
賢者が何者で何を象徴しているかは、名前や文中の例えで十分に読み取れるし
その灰色のマントが誰を連想させるかは、シリーズのファンには言うまでもない。
しかしこの短編に関しては、深読み以前に「読んで楽しく、そして美しい」という
誰にでもわかる喜びがある。
ウルフ作品の美しさ、見事な言葉の使い方、そして魔術的な語りを全編に渡って
堪能できる、珠玉の一品。ウルフのファン以外にも広く読まれて欲しいものだ。
宮脇孝雄氏の翻訳も読みやすさと格調の高さを兼ね備えており、実にすばらしい。
余談だが、賢者の一人に地衣(ライカン:Lichen)という人物がいるが、
これは狼男(lycanthrope)のもじり=ウルフの刻印のひとつなのだろうか?
・・・などと勘ぐってしまうところが、ウルフ読みの悪い癖である。