熊は勘定に入れません-あるいは、消えたスタージョンの謎-

現在不定期かつ突発的更新中。基本はSFの読書感想など。

クリスマスをパンで祝ってみた

2005年12月28日 | Weblog
前回食べてみたいと書いたシュトーレン、クリスマスにパン屋に行ってみると
普通に売っていたので、さっそく購入してきた。
本場のものはかなり大きいらしいが、今回買ったのはフランスパンの
クッペ程度の大きさである。
茶色い本体にまぶした粉糖が「幼子を包む産着」を表しているそうで、
言われてみればそんな気にもなってくる。
サイズの割にはずしりとした重さがあり、味のほうにも期待ができそうだ。

パンを持ち帰ってから、改めて『闇の展覧会』を読んでみたのだが、
ひざまずいてうんぬんという記述を見る限り、あのラストはやはり
ミサの聖体拝領と考えるのが妥当に思える。
とはいうものの、幼子を象ったパンを切り分けるという図式については
いかにもウルフが好みそうだ、という気持ちも捨てがたい。
いずれにしろ、何の変哲も無いクリスマスケーキよりは、由緒ある郷土菓子を
切り分けるほうが何倍も面白味があるし、ウルフの作中で食われた様々な
登場人物に思いをはせながらこれを食すというのも、なかなか乙なものである。

切ったシュトーレンからは、干しブドウのすえたような甘ったるい香りが
いい感じに漂ってきた。
切り口はさながら、目の詰まったパウンドケーキのようである。
ナッツと干した果実が詰まった、ちょっと豪華だが素朴な季節菓子。
ちょっとボソボソとした食感のそれを、まさにむさぼるように食べた。
(というよりも、むさぼり食わないとパン屑がボロボロこぼれるのである。)
もちろん食べながら「永遠の命」に思いをめぐらせたわけでもない。
せいぜい国書から『デス博士の島その他の物語』が早く出て欲しいと
思った程度である。

次はジンジャークッキーを食べてみたい。もちろん、人型のやつを。

シュトーレンをむさぼり食いたい

2005年12月07日 | Weblog
つい先ごろ、『闇の展覧会』の2巻目(旧版のほう)を
やっと手に入れることができた。
新版は収録順が変わっていることと、活字ばかりが大きくなって
水増し感が強いので、どうしても前の版が欲しかったのだ。
これでようやくスタージョンの「復讐するは・・・」が読めるというもの。

そういえば以前に取り上げた、上巻所載の『探偵、夢を解く』。
最後に食べたのはなんだったのかという話だが、同じパンの類でも
オーストリアあたりなら「シュトーレン」ではないかという気もする。
あれはもともとクリスマスの伝統的なお菓子で、その形も生まれたばかりの
イエスの姿を象ったものとの説があるそうだ。
けっこう大ぶりで長い時間をかけて食べる習慣のあるこのパンなど、
「伝統的なやり方」で「その肉をむさぼり食う」という表現には
まさにぴったりの食べ物ではないだろうか。
その名もずばり「クリストシュトーレン」というのもあるくらいだし。

難点があるとすれば、このパンの色が茶色いこと。
どう見たって「白い肉」とは表現できそうに無い色合いである。
上にかかっている砂糖は確かに白いのだが・・・。

それはともかく、今はちょうどクリスマスシーズン。
シュトーレンも街のパン屋で見かけることだし、この機会に
一度食べてみようかとも思っている。

謝辞から読む『ケルベロス第五の首』

2005年12月04日 | Wolfe
なんとなく『ケルベロス第五の首』の謝辞を眺めていたら、
いくつか作品に関連する事柄が浮かび上がってきた。
確証はないのだが、思いついたことをここに書いてみたい。

謝辞の全文は、このようなものである。
「忘れがたき1966年6月のあの夜、わたしを豆から芽ぶかせてくれた
 デーモン・ナイトに」
ここからまず読み取れるのは、次の事柄だ。

・666が獣の数字である。
・BeanとGeneの発音が類似している。
・夜はデーモン・ナイトの名にかけてある。

この謝辞でも、『ケルベロス第五の首』という作品が極めて個人的な
色彩を帯びた作品であることがわかるのだが、さらに踏み込んで
「豆(Bean)」と「遺伝子(Gene)」の関係を考えると、
そこから「遺伝学の父」と呼ばれるメンデルの姿も思い浮かぶ。

さらに発想の飛躍を重ねてみよう。
メンデルと綴りが似ており、仕事の中身も似ていた者を考えると、
かの悪名高いメンゲレ医師の名が挙げられる。
第2次大戦中に双子を使ってさまざまな人体実験を繰り返し、戦後は
まんまと南米に逃げおおせ、事故死までその存在を隠し通した男だ。

メンデルとメンゲレ。遺伝と優生学の研究に力を注いでいたこの二人に
「犬の館」の主人、そして「豆」を芽吹かせた人物の姿が重なって
見えてくるのは、おそらく偶然ではないだろう。
なにしろGeneはEugeneの愛称であり、優生学は英語で書くと
Eugenicsなのだから。
さらに付け加えれば、メンゲレの苗字はヨセフ、つまりイエスの父の名と
同じである。
一方、メンデルの名はヨハン。すなわちこちらはヨハネである。

謝辞なんて普通は読み飛ばすものだが、そこにも物語の本編と
密接に絡んだ仕掛けを施しているあたりは、いかにもウルフらしい。
あるいは、これも作者からのヒントだったのだろうか。
「ほら、ちゃんと最初に書いてあっただろう?」
本人に会ったら、きっとそう言って笑うような気がする。
やっぱりウルフという人は、どこまでも食えない作家なのだ。