My Life After MIT Sloan

組織と個人のグローバル化から、イノベーション、起業家育成、技術経営まで。

イノベーティブな組織文化を維持する

2008-12-25 09:45:58 | 3. 起業家社会論

期末試験中に行われた講演会の感想を忘れないうちに。

Sloanでは、Dean's Innovative Leader Series という、有名企業のCEOやCFOなどを呼んで行われる講演会がたまにある。
今回は、Terri Kelly という、ゴルテックスで有名なW.L.Gore & Associates の女性社長だった。
創業当時から続く、イノベーションを生むような企業文化をどうやって維持していくか、というテーマだった。

一般に、組織が大きくなると、イノベーティブな文化を保持するのは難しくなる。
効率性のため、組織を切り分けて部署をつくるようになると、コミュニケーションが薄れ、「隣は何をする人ぞ」となる。
部署間のやり取りは官僚的になり、時には権限と仕事をめぐっての「縄張り争い」が生じる。
人の評価を平等にすることを目指すと、ポジティブよりネガティブをとるようになる。失敗を嫌い、保守的な文化になる。
イノベーションが生まれやすい文化とは真逆である。

とはいえ、企業が成長して組織が大きくなるのは免れないことだ。
じゃあ、どうやって成長する組織で、イノベーティブな企業文化を維持するか。

彼女の話を要約すると、ひとつは文化を守るために、マネジメントレベルが圧倒的な人と時間の投資をすること。
もうひとつは、成長(Growth) より企業文化の維持を優先する、ということだ。

もちろん文化を守るためにこの企業がやっている施策は、細かく書けばいくつもある。
しかし、それらの施策を可能とする方針は何か、と考えると、本質的には上の二つが鍵なのだと思う。

  • 意思決定をする際の官僚的な仕組みは出来る限り排除する-官僚的な仕組みを入れたほうが楽だから、常に誘惑があるが、その誘惑を排除する
  • フラットな組織を維持するため、役職は出来る限り設けない。実際この組織には、マネジメント以外は、役職というものが無く、「アソシエート」しかないのに驚く。役職がないと、従業員は不安(Insecure)になりがちだが、その不安が、イノベーションを生むのに大切であるという
  • 役職が無いので、権限は役職や部署には付随しない。権限は「新しいことを始めた人」が勝ち取る仕組みとなっている。だから新しいプロジェクトを始めることが、自然と奨励される
  • アソシエートの人事評価はFollower(この人をリーダーにしたい、とついてくる人)の数で決める。アソシエートは、他の人の研究がはかどりやすいようにサポートをしたり、リーダーシップをとってくれる他のアソシエートを指名するから、自然とリーダーシップや協業体制が生まれやすい仕組み
  • もうひとつの評価は、そのアソシエートが会社のミッションやビジョンに沿った行動をしているかという360度評価

しかし、これらの仕組みや決まりを導入しても、文化として定着させるためには、マネジメントがアソシエートたちに莫大な時間を使って、その仕組みの根本にある思想を説明し、理解して行動してもらう必要があるのだ。

そして、「成長と企業文化の維持のどちらを優先するのか」という私の問いに対し、企業文化の維持が難しくなるくらいなら、成長のスピードを遅くしてでも、文化を維持することに投資するし、時間を使う、と彼女が答えていたのが印象的だった。
企業文化というものは、一度なくなってしまったら作り直すのがそれだけ困難なものだ、という。

いろいろと考えさせられるところのある講演会だった。
特に「成長より企業文化の維持」というところ。コンサルタントとして直面することが多いジレンマだからね。

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7 Comments

コメント日が  古い順  |   新しい順
早速 (YS)
2008-12-26 17:03:42
コメントしてみました。
なんか昨日の話と合い混じって考えさせられますね。このジレンマ。
同期にも広めます!
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早速 (Lilac)
2008-12-27 19:00:58
コメント有難うございます。
皆さんのMBA受験なんかにお役に立てば嬉しいです。
これからもよろしく!
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この講演を聞いて (ふらうと)
2009-01-02 07:59:34
この講演、なかなか面白かったですね。書かれていることに少々付け加えると、Goreでこの組織設計が上手く回っているのは、さらに二つ要因があるように思えました。

一つは非公開企業であること。成長のペースを市場の期待ではなく、自らの最適なものに設定するためには、非公開でなければなりません。

もう一つは、商品のビジネスサイクルが比較的長く、利益率が高いスペシャリティケミカルであること。イノベーティブな研究を生み出すための時間・資金的余裕があるから、効率性に欠ける組織でも回っていけます。

逆に言えば、こういうビジネスの特性を活かして、最適な組織設計をした(そして進化させ続けている)ことに、この会社のファンダメンタルな強さを感じました。
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非公開企業 (Lilac)
2009-01-03 16:58:48
なるほど勉強になります。いつも考えさせられるコメントを有難うございます。

これに関しては、非公開企業や商品のサイクルが条件、というのは本当にそうなのかな、と思ってしまいます。
私自身コンサルタントとして向き合っているのは殆どが公開企業であり、また商品サイクルも、必ずしも利益率が高く保てるとは思えない。

私としては、彼らに、どうやってイノベーティブな文化を創れば良いのかを求め続けられており、その解を見つけたいと思っている。
その状況で、MBOが解です、とは言えないと思っているので、出来れば公開企業でありながら、どうやって成長と企業文化の維持を両立させていくかを模索して行きたいと思ってるんですよね。

商品サイクルも同じで、結局ゴルテックスは特殊な商品をつくる企業なんで、まねできないんですよ、というのは避けたい。

特殊性ではなく、共通性から学べるところは無いかなと思っているしだいです。
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デザイン上の制約条件 (ふらうと)
2009-01-04 01:13:47
お、ちょっと言葉足らずだったのかもしれません。基本的に、Lilacさんの挙げた二つの鍵が重要なのは同意ですが、ブレットポイントのレベルになると、ゴアが置かれた制約条件を意識しないといけないと思ったのです。

私はイノベーティブを生み続ける組織の必要条件が、非公開や長い商品サイクルだと思っている訳ではありません。また、共通性を見出していかねばならないと思っているのにも異論はありません。

ただ組織にせよ何にせよ、デザインするにあたって制約条件というものがあり、その中で最善のものを練り上げていくわけです。そこの連関を意識しないと、読んだ人が"one size fits all"の誤謬に陥りかねないので、補足しました。

Lilacさんの論点に戻ると、成長よりも企業文化を維持するというのは、短期的には成長性の低下により、市場からの評価が下がりかねません(もちろん、効果的なIRなどで軽減できますが)。結果買収などによって企業文化そのものを危機にさらす可能性がでてきます。

企業がイノベーティブな文化を持っていて、長期的にそれが益するという信念がある場合、3つの対処法が生まれてきます。長期的視点に立ってそれを甘受するか、非公開化して評価そのものを避けるか、企業価値を維持するための別の方策を打つかになります。

多くの企業は最後を採って(その結果挙がっているような大企業のの弊害が目立つようになって)、角を矯めて牛を殺すことになってしまっているようにも見受けられます。

ゴアは創業時から非公開であるので、Lilacさんの着目した、この二つ目の要件が成立する下地があったわけです。別の企業であれば別の制約条件の下にあるので、異なるアプローチでイノベーティブであるための組織要件を満たす必要がある訳で、そこのカスタマイゼーションが我々コンサルタントの腕の見せ所ですよね。

まあ私も仕事から2年ほど離れてしまっているために、思考の抽象度が上がりすぎているきらいがあり、誤解があったならごめんなさいね。

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Unknown (ふらうと)
2009-01-04 01:32:34
言い忘れましたが、Lilacさんが質問した時、私もほとんど同じことを質問しようかと思っていたので、思わず一人でほくそ笑んでしまいました。

おそらく、身近に上記二点が鍵だと思わせる例(とそれに付随する問題意識)があるからでしょうね(笑)
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企業の公開・非公開や商品のサイクルが本当に必要条件か? (Lilac)
2009-01-05 16:04:30
早速丁寧なコメント有難うございます。
これは大事な議論かな、と思ったので、私も詳しく書いてみました。

私も全ての会社にゴアの例を当てはめるべきとは全く考えていないんです。
各企業の条件に合わせて、組織や戦略を設計すべきだというのは、そのとおりだと思います。

また、公開企業が成長を最優先にしないのは一般的には困難、というふらうとさんの論点も良く分かります。株式市場は短期的利益を見がちです。
しかし、「非公開であることが、企業文化の維持を優先して、長期的成長を目指すことが可能な要件だ」と言われると、そうか?と思ってしまいます。
要は、企業の公開・非公開だとか商品のサイクルだとかは、ゴルテックスが企業文化の維持に投資し、その結果長期的成長を果たしていることとは本質的には関係ないと私は思っているんです。

まず、別に非公開企業でもステークホルダーから成長を求められることは多々あります。
おっしゃっているようなステークホルダーマネジメントが上手いのかもしれませんが、少なくとも「成長より企業文化の維持」をするほど企業文化の維持の困難さを自覚している。
GoreTexは「成長より...」といいながらも、実は年率数十%の勢いで成長しているようです。
ただ、「いざという時、どちらを優先するのか」と問われれば「企業文化だ」という姿勢と、それに基づいた施策を実行していることが、結果的に長期的なこの会社の成長につながっているのだと思ったのです。

ふらうとさんの論点より。
>企業がイノベーティブな文化を持っていて、長期的にそれが益するという信念がある場合、3つの対処法が生まれてきます。長期的視点に立ってそれを甘受するか、非公開化して評価そのものを避けるか、企業価値を維持するための別の方策を打つかになります。
>多くの企業は最後を採って(その結果挙がっているような大企業のの弊害が目立つようになって)、角を矯めて牛を殺すことになってしまっているようにも見受けられます。

私は非公開化という方法をとらなくても、公開企業が長期的利益を求めて文化の維持に努めることは可能だと思っているんです。
もちろん、簡単に出来るとは思っていませんが、やる方法があると考えている。

仮に、株式公開していることがすべての企業の長期的成長につながらず、「角を矯めて牛を殺すことに」なってしまうのであれば、現在の株式市場のあり方を問うべきだと思う。
「株主価値向上」(それが正しいかどうかは別として)に繋がらない仕組みになっていることになるわけだから。。

商品のサイクルに関しても、同じです。
「成長より、企業文化の維持に投資するべき」かという話は、その企業の商品や公開・非公開など企業の形態よりももっと根底にある話だと思います。
(もちろんやりやすい、やりにくい、の差はあるかもしれませんが)

ただ、本当に「企業文化の維持のためにそこまで投資すべきか?」というところは論点になりうるかもしれません。
全く違う方法として、成長に合わせて企業文化を徐々に変えていくというやり方もあるかもしれない。
ただあんまり成功した例は見たこと無いですが。

いずれにせよ、「企業文化に投資する」ためのHow論は、各企業の商品や形態によって違い、しっかり考えていく必要があるのだと思います。
おっしゃるとおり、コンサルタントの腕の見せ所ですよね。
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