日本は若者の持つ富を、老人が奪っている格好になっているっていう話。
そんなの別にアメリカでも同じなんじゃないの?と思っていたのだが、ちゃんと調べてみることにした。
その結果、私が間違ってたことがわかったんだけど、データから言えることが面白かったので、書いてみることに。
★まず日本の話の復習から。
こちらのブログに、2004年→2007年日本の個人金融資産の変化がある。
3年間で60代以上の持つ金融資産が増え(54%→60%)、30代以下のが減ってる(9%→6%)、というのがグラフで示されている。
日本人の金融資産は、このころ1400-1500兆円でほとんど増えてないので、割合が変わったとなると、どこかの層で絶対額が増え、どこかの層では絶対額が減っていることになる。
いくら少子化でも30台以下の資産が、3年間で3分の2に減ってるのは減りすぎで、人口シフトでは説明できない。
そうすると、確かに「30代以下のパイを60代が奪ってる」形になってるよね。
「どう奪ってるか」というのは色々ある。例えば、
・30代以下の人は税金も年金も払ってるわけけど、
・60代以上になると、税金を余り払わなくなり、むしろ年金をもらうようになる。
というのは、30代以下から60代以上にお金が流れるひとつの方法だよね。
もちろん、消費の傾向の違いもあるでしょう。
現在だけ切り取ると、Chikirinさんのブログのグラフのほうが見やすいかな。
60代の人が6割持ち、30代以下は1割に満たないのが良く見える。
日本-2007年末(Chikirinの日記より転載)
★じゃあ、アメリカはどうなってるか。
ドンピシャのデータが無いので、作ることにしました。
作り方が気になる方はこの記事の一番下を参照。
アメリカ(2007年の個人金融資産・年齢世帯別変化)
なんだ、高齢者が持ってるじゃん、と思うかもしれないけど、 というわけで、現在だけ切り取ってみても、あんまり意味のあることがいえない。 一瞬、40歳未満の割合が減って、50-59歳のベビーブーマーの取り分が増えてるんで、「同じことが!?」とか思うが、絶対値が全然違う。 3)アメリカは、国全体が人口増以上に成長しているため、高齢者が若者から「富を奪っている」という形にはなっていない。 もうすこし詳しく見るために、一世帯当たりの変化を見てみる。 アメリカの一世帯当たり金融資産 そうすると、若い層は金融資産保有が全く変わらないのだが、50代、60代の資産保有が2倍とかになってる。 少なくても、奪ってるのではなくて、これらの層が20年の間にちゃんと働いて、ちゃんと運用して、富を蓄えているってことだよね。 4)アメリカでは過去20年間、若者の一世帯あたりの金融資産保有量は変化が無く、高齢者が若者の富を奪っている、と言う構造は見られない。 GMやクライスラーが若者を解雇して、高齢者に年金と医療費を保証して・・・というところに引っ張られてたんだけど、 やはり出生率2.2で、若い移民もたくさんおり、若者が高齢者を支える仕組みがちゃんと回ってるってことなのだろう。 試算の前提 で、更にアメリカのデータは、35歳、45歳、と言う風に、日本のデータ(30代、40代)ときり方が違う。
1)60代以上の金融資産は4.5割で、日本よりいびつさが少ないとはいえ、高齢者が最も金融資産を持つのは、アメリカでも同じ。
2)また、再生産に金がかかる40歳未満の金融資産が全体の10%未満というのも同じ。
高齢者が金融資産を持ってること自体は、彼らは収入が無く、切り崩して生活してるんだから、福祉を自分でやらなきゃならない国では、どの国でも当たり前だよね。
(逆にスウェーデンとかでは高齢者が金融資産持ってないかも?)
ちょっとさかのぼるんだけど、1989年というのが作れたんで、比較してみます。
(2007年の価値に割り戻してるんで、インフレは組み込まれてます)→
この18年の間に、2007年換算で、金融資産全体が2.5倍に増えているのだ。
これは人口の変化(2.5億人→3億人)が1.2倍の変化であるのに比べるとずっと大きい。
人口増加を考えても、ひと世帯あたり金融資産が2倍になってるということだ。
5)ただし、50代、60代の金融資産保有量は2倍に増えており、これがアメリカの金融資産保有量の成長のドライバーになっている
確かにアメリカでは、全体では若者はより貧しくなる、ということはなくて、この20年同じなんだね。
(もっとも金融資産が豊か・貧しいの指標になるなら、ってことだけど。あと2008年はひどいことになってるはず。)
ふーん、勉強になった。
まず、[世帯主の年齢別金融資産] = [1) 年齢別世帯数] x [2) 金融資産を持っている世帯の割合] x [3) 持ってる家の平均資産]
1), 2), 3) のそれぞれはあるので、これで試算。
1) 米国国勢調査。あーデータが無くて、1989年は1990年のもの、2007年は2005年で代用しました。http://www.census.gov/compendia/statab/2008/cats/population/households_and_families.html
2), 3) 連邦準備銀行
http://www.federalreserve.gov/pubs/oss/oss2/2007/2007%20SCF%20Chartbook.pdf
ここは、[40代の資産] = [35-44歳の資産]/2 + [45-54歳の資産]/2 という形で試算しました。
対外資産負債残高でいうと日本はこの間世界1、2位の債権国であったにもかかわらず、世界からみると、個人の金融資産は円で見ると変わらなくても世界比率は下がり相対的には減少しており、アメリカは、為替レートと金利のマジックにより、対外純債務国でありながら純所得受取国であり、この間個人の金融資産は2.5倍になっているとうことですよね。
なんでこんなことになっているんでしょうね? 日本は国益より省益ということがグローバルに見ることをできなくしているのか。政治家の差か?官僚の差か?金融界の人材の差か(金融機関のボーナスの差?)? 国力の差といえばそれまでですが、今のうちに何とかしないとね。
(先週末は美味しいワインと楽しい時間をありがとうございました!)
この日本の金融資産の分布は衝撃的ですね。。。この間日本の国債残高を調べたら1000兆円を越えていて衝撃だったのですが、これから日本の未来はどうなることやら。。。
ささやかながら、私もボストンに来てからブログをつけはじめました。よろしければリンクを貼らせていただけるとうれしいです!
ちゃんと数字で見ると、面白いですよね。
>この間個人の金融資産は2.5倍になっているとうことですよね。なんでこんなことになっているんでしょうね?
Freedomさんのお書きになっている議論をするためには、資産-借金のNetを見る必要があります。
記事には書かなかったですが、アメリカは個人の借金総額も2、3倍くらいに増えてますからね・・・
(金融資産は借金は含まない)
>しゃん
うん、この前は楽しかったね。
あーゆー自宅のみ系はまたやるので、また着てね。これからはガイジンの友人も含めた会がメインになると思うが。
リンクどうぞお貼りください。私も週末にでもまた工事してリンク張っておきます。
なるほど~、すばらしくわかりやすいですね!
最近日本ではやたらと「もう経済成長しなくてもいいんじゃないか」という声があります。しかしアメリカの例を見ても、金融資産を全体として増やすことは非常に重要であり、閉塞感を感じさせないためにも重要なことがわかりますね。
大変勉強になりました、ありがとうございます!ということで、RSS登録します(笑)
はじめまして。ありがとうございます~。
全体もですが、日本の場合、高齢者が持ちすぎなんで、それを何とかしたいですよね。
うまく、高齢者→若者に金が流れる仕組みが作れればいいんですけど。。。
あ、今のお金の流れを止めればいいのか。
(年金やめる?(笑))