重松清のエッセイを集めた本です。作家の原点を集めた本と言えるかと思います。直接自身の作品に触れた部分は少ないですけど。
一番印象に残ったのは、ドラえもんについて書いたエッセイです。ドラえもんは本当に私たちに夢を与えてくれたのか?と問いかけます。のび太がドラえもんから道具をもらってするのは、ジャイアンやスネ夫に仕返しすることであり、宿題をしないですますことじゃないか!という訳です。そして、ドラえもんは実は愛すべき居候ではなく、「笑ゥせぇるすまん」の喪黒福造のようなメフィストなんじゃないか、と締めくくります。あと、何箇所かに出てくるフレーズがありす。中高生に向けた言葉で、「負ける」ことに負けるな、というもの。失敗しても失恋してもいいから、負けを正面から受け止める気持ちを持って欲しいというものです。もうひとつ、ページの端を折った部分は、親子について書いた、「親になってからの日々は、時間が重層的に流れる」というところです。子供を見ているとその頃の自分が思い出され、その頃の自分の父が思い出される。そして、その頃の父親の思いが分かるような気がするというのです。どうも上手く説明出来なくて残念ですが。
以前重松清が、NHKの若者の心をさぐるみたいな子供も大人も参加してというような討論番組に出たのを見て、当時ちょっとだけ著書を読んでいたので、何かうんちくのある言葉が聞けるかと期待していたのですが、そんなのは無く、な~んだとがっかりしたことがありました。でも、今はちょっと違います。なんというか、この一見歯切れの悪い、決め付けないとこが、重松の良さじゃないかと、思うようになりました。スパッと一刀両断というのは、カッコいいし何だか分かったような感じでいいのですが、余りにも乱暴に一くくりにしていると思うのです。月並みですが、10人いれば10の人生があり、その多くは平凡でもう一度同じことをやりなおしたくなるようなものではなくても、そこまでコツコツと生きてきたということ自体に相応の重みがある訳で・・・。くくれないということにこだわるのが重松流かと思うのです。