何となく奈伽塚ミント・純情派

不覚にも連続更新ストップ。
少々夏バテ気味だったし
定期更新に切り替えかも?

そんなこんなで奈伽塚ミント

『短期連載小説』始めました!(3)

2004-06-19 00:40:48 | 『短期連載小説』
    「Dear My Hero」
              (第三回)

 迎えた卒業式。私は泣くまいと心に決めていた。
 ――だけど最後の最後で涙は零れた。

 一度零れ出した涙はいつまでも止まらなくて,まるで今まで泣かずに溜まっていた分が流れているみたいだった。

 泣いているうちに最後のHRは終わってしまっていた。
 気がつけば教室には,私と長野君が二人きり。
「――ゆうちゃん」
 すぐ傍から長野君の声がした。
「泣かないで。ずっと傍にいるから」
「え?」
 私をゆうちゃんと呼ぶのは……そして,その言葉は……
「りょう,くん?」
「――覚えててくれたんだ」
「忘れるわけ,忘れられるわけ,ないじゃない」
 そう,あれは小学校に入学するほんの少し前のこと――

 その頃の私は,母親が死んだショックからふさぎ込んでしまっていた。
 ことあるごとに泣いていた私。
 そんな私に優しく声をかけてくれたのがりょうくんだった。
「ゆうちゃん,泣かないで。ずっと傍にいるから」
 そう言って,私が泣きやむまで本当にずっと傍にいてくれた。

 ……何で今まで気づかなかったんだろう。
 でも,りょうくんは……りょうくんはあの日……

「……だってりょうくん,りょうくん私のせいで――」

 あの日も私は泣いていた。
 だから,目の前に車が迫っていることに気づかなかった。
 ……その時,何があったのか正直私にはよく分からない。
ただ,気がつくと血まみれで倒れていたのは……
        りょうくんだった。

「うん。でもゆうちゃんのせいじゃないよ。気にしないで――」
「何で? どうして? どうして笑っていられるの?」
 気がつけば私は,怒鳴っていた。
「だって……だってりょうくん……」
「分かってるよ。でも,過ぎてしまったことはどうにもならないんだよ」
 あぁ,どうして彼はこんなにも優しいのだろう? その優しさが私には痛かった。
「――ゆうちゃん。僕は後悔はしてないんだ。少なくともあのことは,ね」
 だけど――彼は言った。
「僕のことでゆうちゃんが前を向けないのなら,きっと後悔する」
 あぁ,そうだ。私が冷たくなってしまったのは,向き合うことから逃げていたからなんだ。
 彼は全てお見通しだった。
「だから僕は,君に会いに来たんだよ」
 そう言って彼は寂しげな笑みを浮かべた。
「でも,もう行かなくちゃ」
「待って」
 このままじゃいけない。
「ゆうちゃん?」
 このまま彼を行かせちゃいけない。このままじゃ私も彼も何も変わらない。
「ごめんね,りょうくん。私,逃げてた。そのせいでりょうくんを後悔させてたんだね。……私,別れたくない。本当に行っちゃうの? 行かないといけないの?」
「ゆうちゃん」
 彼は笑顔でこう言った。
「卒業は別れじゃないよ。思いはずっとつながってるから。願えば必ずまた会える。だって人は一人じゃない。みんなつながってるんだから」
「うん,また……また会えるんだよね?」
「絶対だ」
「絶対だよ」
 私は,また泣き出していた。私ってなんて泣き虫なんだろう。せめて今ぐらい泣かずにいられないのだろうか?
「ご,ごめんね。私最後までこんな風で」
 ううん――彼は首を振った。
「今ぐらい,泣いたっていいよ」
 彼は最後の最後まで優しい彼だった。
 ――私は彼の胸で思い切り,泣いた。――(続く)

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