『ミミズクとオリーブ』 芦原すなお
唐突ですが、僕はこの芦原すなおさんの作品がとても好きです。
今日、紹介する『ミミズクとオリーブ』や、その続編である『嫁洗い池』などは地元の図書館でアホみたいに何回も何回も借りました。
図書館の方は、「こいつ、何回も何回も同じ本借りやがって、内容覚えてないんちゃうか?」と思ったのではないでしょうか?
これがレンタルビデオ屋だったら、間違いなく「これは以前借りられていますが、よろしいでしょうか?」と尋ねられていますね。(借りたビデオのジャンルは内緒です。)
最近、『ミミズクとオリーブ』シリーズの最新巻である『わが身世にふる、じじわかし』という作品が文庫で出ているのを知って、大急ぎで本屋に行きました。
そこで知ったのは『ミミズクとオリーブ』も『嫁洗い池』も文庫で出版されているということ!!
衝撃でした…
まぁ、当然、三作全て購入いたしました。
さて、この作品は、主人公はそれぞれ異なるのですが、『青春デンデケデケデケ』→『雨鶏』→『ミミズクとオリーブ』シリーズという三部作(漱石の『三四郎』、『それから』、『門』みたいな感じです)の最後を担うものであります。
以前にこのブログでも取り上げたのですが、
『青春デンデケデケデケ』は直木賞を受賞した永遠の青春小説であり、
『雨鶏』は僕が最も愛する作品の一つです。
その続編である『ミミズクとオリーブ』…
おもしろくないわけがありません!!
内容を著者と出版社からの紹介をそのまま引用すると、
“美味しい郷土料理を給仕しながら、夫の友人が持ち込んだ問題を次々と解決してしまう新しい型の安楽椅子探偵――八王子の郊外に住む作家の奥さんが、その名探偵だ。優れた人間観察から生まれる名推理、それに勝るとも劣らない、美味しそうな手料理の数数。随所に語り口の見事さがうかがえる、直木賞受賞作家の筆の冴え”
とのこと。
何となく雰囲気が伝わりましたか?
この解説を読んでもわかると思いますが、この作品の読みどころは三つあるのです。
それを順に述べていきます。
一つ目 推理のトリック
この作品『創元推理文庫』という出版社から出ている、れっきとした推理小説なのですが…
その推理のトリックにちっとも重きが置いてありません。
主人公である“僕”の奥さんが、事件の概要を自宅で聴いた後、二、三のことを確認したら、あっさり事件を解き明かしてしまうのです。しかも、事件のことを聴く場も、種明かしの場もいつも食卓!!
これっぽっちも、もったいぶったりいたしません!!
この作品にとって、推理のトリックとかはあまり重要でないようです。
そして、それが、この作品の軽妙さを生み出す一つの要因となっているのです。
二つ目 会話の妙
主な登場人物は作家である“僕”、その奥さん、“僕”の友人である河田警部の三人ですが、その三人の会話が軽妙でとても楽しいのです。
特に、“僕”と河田警部のやりとりが楽しい。「子どもかっ!!」と笑いながら突っ込んでしまいそうになります。
この会話の妙が芦原すなおさんの最大の魅力なのだろうなぁ…
三つ目 讃岐料理の数々
この作品は前述したように推理小説です。
推理小説なのですが…
そこここに、登場する讃岐料理がめったやたら美味そうなのです。
讃岐名物の「醤油豆」。焼いたカマスのすり身と味噌をこね合わせた「さつま」、黒砂糖と醤油で煮つけた豆腐と揚げの煮物。カラ付きの小海老と拍子木に切った大根の煮しめ。新ジャガと小ぶりの目板ガレイの唐揚げ…
次々に奥さんが美味しそうな讃岐の郷土料理を作るのです。
そして、“僕”と河田警部がそれを本当に美味そうに食べるのです!!
芦原さんの食べ物に対する描写はなんともいえないものがあります。
ふぃー、涎が垂れてきた。
この三点を踏まえて、この作品をまとめると…
『推理小説だけど、あんまり推理のトリックに重きを置いていない、登場人物の会話が絶妙で、讃岐の郷土料理がめったやたら美味しそうな作品』
おかしな作品ですね…
しかし、読後に爽快感があります。
特にそれが顕著なのが、“僕”と奥さんが結婚するに至った『梅見月』というエピソードです。
奥さんが肺炎になりかけて(往診に来てくれた医師に言わせれば、肺炎まではいっていない『はいえ』くらいとのこと…)、“僕”が必死で看病する際に、ついつい“どうしても妻に先立たれるのはいやだ”などと考えているうちに結婚へのいきさつを思い出す…
というものであるのですが、二人のお互いを思いやる心情がしんみりとして素晴らしいのです(“僕”の思いやりはときおり見当ハズレなことをやらかし、大変楽しい!!)。
読後に爽快感と共に、「あぁ、将来こんな夫婦になれたらいいなぁ…」と、しみじみ思いました…
そして、最後に、
この作品の“僕”と河田警部はほんとっうに…
美味そうに酒を飲む!!
この作品を読むと、煮物やら練り物やら刺身やらで一杯やりたくなってしまうのです!!
コンビニで売っているスナック菓子やつまみじゃダメなんです!!
“おふくろの味”で一杯やりたくなるのです!!
実際、昨日、『わが身世にふる、じじわかし』を読んでいる途中で、イカの塩辛をアテにしてビールを飲まずにはおれませんでした…
読むと飲まずにはおれなくなる作品だなんて…
是非是非、皆さん読んでくださいな。
きっと、あなたも一杯やりたくなるでしょうから…
そして、それが、この作品の正しい読み方でしょうしね…
特に、みっちゃん!!
あなたは絶対読んどけ!!