同居していた祖父母の部屋の天井板を思い出した。
ときどき、そこで寝起きしたのは、小さなころ。
古いその部屋の天井板は、木目が露だった。
機嫌のよい夜は、色が濃く深い木目はチョコレートのようで、マーブルケーキに見えた。
薄い色はバウムクーヘン。
私はバウムクーヘンの方が好きで、枚数や、筋を数えながら寝た。
かなり幼いころから姉と2人で寝ていたが、小学校低学年のころに父が単身赴任になってから、私の寝場所は留守の父のベッドになった。
父の留守も、子供部屋を追い出されたのも淋しかったが、母の横に寝るのは嬉しかった。
問題は隔週末、父が帰ってくるとき。
寝場所を失った私は、祖父母の部屋にお泊りになる。
こうやって、ときどきバウムクーヘンを数えていたのだ。
ある風の強い夜、めったに目を向けないマーブルケーキを見た。
薄暗い部屋では、茶色の木目は真っ黒だ。
外からくるバタバタした音に招かれるように、中心の丸く濃い木目に吸い込まれそうな気がして、その日はあわててうつ伏せになって眠った。怖い夢を見た。
次に父が帰ってきた夜、和室に入ろうとすると、いつもより天井が低く感じた。
その日だけは、そこで寝てはいけないような気がして、拒絶した。
家族には、その理由がわかるわけがない。
私も説明のしようがなく、ただ泣いて抵抗した。
記憶はそこまでで、たぶん和室で寝たのだとは思う。
大人たちは、どう思ったのだろうか。
私はお父さん子だった。
きっと、いつも会えない「ストレス」と受け取っただろう。
私は、ただ、突然できた天井のブラックホールが怖かったのだ。