おぉきに。

気が向いたら読書感想を書き、ねこに癒され、ありがとうと言える日々を過ごしたい。

『未知の鳥類がやってくるまで』

2020-09-12 14:42:03 | 本の話・読書感想

 

『未知の鳥類がやってくるまで』 西崎 憲 著(筑摩書房)

 『世界の果ての庭』や『蕃東国年代記』などですっかり魅了された西崎ワールド。待ってましたの短編集です。

 いやもうねぇ、わたし達人間が人間のままで人間の制限の中で見る不思議な世界、そんな感じ、としかわたしの語彙力が無いのが悔しい。

日常が少ししんどい時、こういう空想は自分を勇気づけるような気がします。

 

 

近未来のSFのようなお話、

夜空の写し絵の街、

どこかにつながる物体、

何かと繋がるドア、

妙にリアルな絶望と勝利のファンファーレ、

パラレルとリアルの混在、……

 

いろんな物語、それぞれに面白くてドキドキしながら読みました。

登場人物はどこの世界でも寡黙というか静けさと共に在って、少しだけ見ている世界の焦点がわたしとはズレてて、良い人とも悪い人とも描いてなくて、でも何となくみんな希望や絶望を持たずありのままの自分で空を見てるような気がする。中空を見てる。不思議を。

ファンタジーというほどリアルとかけ離れていないし、リアリティを失わないで心を開放したらこんな世界を見るようになるのかな、と思って、なるほど物語というものは文明が生まれてから現代の今日に至るまでに存在したすべての人間の世界。地球一つじゃ足りない気がします。時空のどこかが別の世界と繋がっていてそこに迷い込むのもアリなのかな、怖いけど。

日常に潜む不可思議を疑う前に受け入れてその流れに乗っていくの、楽しいだろうなぁと思います。いわば冒険ですものね。あんまりストレス感じないと思う。

 

あ、今ちょっと指先に降ってきた。これもひとつの神話かもしれない。って。

 

わたしが特に好きなのは、「行列」、「未知の鳥類がやってくるまで」、「東京の鈴木」、「ことわざ戦争」かな。

「一生に二度」、ミステリ好きとしてはえええええ!その事件どうなったの?!という気持ちを持て余して二度三度と読み返し(苦笑)、それで気づく構成とみすずの意識の広がるさま。メタですよね。凝ってます。

 

みんな夢の中を生きているかもしれないし、現実が虚構なのかもしれない世界。

境界線が曖昧で、流れるように生きていて、読者の心配なんて受け付けない短編集だなと思いました。

ただそこに扉があるから開けて見る、道が続いているから進んでみる、記録があるから読んでみる、夢を見ているから夢の中で生きる。

理想郷もSFチックな世界もない、ただわたしがここにいるこの世界の中で、まだ知らないことを知っていくのが人生で。

ちょっと心が疲れた時に、現実の枠組みをぜんぶ取っ払って空想に耽る。その楽しさ。

別に知りたいことに繋がってるわけじゃないし、夢や希望を見出すわけでもなく人生の教訓が降ってくるでもないし、現実的な助けにならないとしても、心を自由に遊ばせてあげる大切さって、人間が手出しできない時間に抗う唯一の手段かもしれない、と思いました。その空想の中で生きるとき、もしかしたらわたしの人生の時間は一時停止してるのかも?

それぞれの物語の中には、痛い思いをしながら生きていたり名前すらないまま死んでしまった人がいたりもしますが、その人達も自分だけの空想の世界を持っていて、空想の中で精一杯生きていたのかもしれなくて、結局だれも人のことなんてよく分からないんですよ。うん。

善悪の判断をしながら世の中を見ることももちろん大切。

でもたまには、自由に遊んでみたい。何が起きてもいい世界で。

 



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