『神隠し 子預かり屋こはる事件帖』 翔田 寛 著
わーwwこれ、あんまり話題になってないけど、なかなかいいんじゃないですかー♪
正直、『誘拐児』とか『祖国なき忠誠』は、…なんというかモヤモヤした感じがしないでもないんですけど、まあこれはテーマや時代背景に左右される部分もあるし。でも何故か、時代モノ、幕末から維新後あたりの作品、『やわら侍』シリーズとか『眠り猫~』、『消えた山高帽子』になると、がっつりミステリを読んだー!という爽快感のようなものが。(ただし、『参議怪死ス』は爽快感からは程遠いけど…でも好きな作品です)
この『~こはる事件帖』も、後者に入る1冊。できればシリーズ化してほしい☆
…ついでに『参議怪死ス』の復刊なり文庫化なりはできないものでしょうか双葉社さん?
江戸時代、お江戸八百夜橋。
つましい長屋で母親と共に、煮売り屋《おかめ》を切り盛りする、シングルマザーのこはる。
美人じゃないしコロコロと丸い体型で、大汗かきながら毎日おかずを作ってる普通の主婦のこはる、彼女の特技(?)は子どもの扱い。そして、謎解き。
長屋の人たちから好かれ頼りにされてちょっとした揉め事の言い分を聞いているうちに、大きな事件にたどり着いていく彼女は、でも探偵役の自覚はこれっぽっちもありません。ただ、義理人情で動いただけ。もちろん無報酬。
太めの体型を気にして《痩せ術》のあれこれを試してみたり、子どものギャン泣き・むずかり・虐待まがいの事に母親の落ち度を憤慨してみたりと、こはるの価値観・視点はどちらかというと、わたし達現代人のようです。
いくら時代が変わっても、人間の本質的な部分がそう簡単に変わるはずがない、という作者のおもいが作品に滑らかに乗っているような気がしました。
母親のおてい、金貸しでがめついけどこはる一家の理解者でもある菊蔵、長屋の住人たち、そしてこはるの住む一角を担当する同心・武藤誠之助と岡っ引きの彦市。みんな、こはるの良き味方。
特に同心の武藤さんと彦市さんは、《おかめ》の常連で、実に美味しそうに蒟蒻食べるのですよー!
あー、おでん食べたい♪
連作短編集で、五つの事件帖。
その全てのお話で、実は犯人が武藤さんに引き渡されるシーンはありません。
人情ミステリ、とでも呼びたくなるのはそういうわけです。
不可能犯罪モノや消えた娘、殺されても仕方ない人だけど実際殺されてみると謎だらけ、………。
ネタばらしはよくないので、こんな感じでぼかします。
伏線はどれも綺麗に回収されてるし、第一トリックとか動機にも無理がない。シーンの描写も、テレビの時代劇をイメージすればすんなり浮かんでくるから、真相に気付きやすい。でもこはるさんのように全部は見通せない、かな?
人情ミステリなのでどれも優しいしあったかいんですけど、どれもそこはかとなく哀しいんです。人間の業とでもいうか。罪を犯さざるを得なかった人への愛惜。
その意味では、「できすぎた娘」が一番印象深いかも。ラストのこはるさんの涙が…。
でもこれって、次の「叱られっ子」でのラストとの対比ですよね。
毎日の暮らしは悲喜こもごも、というような。
もちろん、若干の疑問はあります。
まず、タイトル。
「神隠し」という表題作がない。じゃあ神隠しはどこに?あえていうなら消えたたキャラクタの出てくる謎もあるけど、神隠しというほど大仰じゃない気がする…。続編出るのかなあ?
もうひとつは、「子預かり屋」というサブタイトル。
でもそんなに「保育所・ベビーシッター」の要素が表に出てくるわけじゃない、強いて挙げても一作。
どっちかというと「煮売り屋《おかめ》」がメイン。
ご飯時にお鍋持って行列をつくるおかみさんたちや、見廻りの途中で一息入れる武藤さんと彦市さんの、あー上手かったごっそさん♪というシーンがほとんど。
子どもの世話や子守に長けてるというこはるさんなので、もし続編が出るなら次は保育所ならではの事件を書いていただきたいです。
こはるさんの沈思黙考するときの決めポーズ。
右手の拳を口にあてて、考えを纏めるの。器量のよくないと書かれているヒロインが推理するときのポーズがあるって、チャーミングですよねwww
また、同心の武藤さんにしてもイケメンじゃないし堅物と言われてるらしいけど、誠実で情の分かった人なので、こはるさんの推理と気遣いを踏みにじることもない。
同心がワトソン役で、そこらのお惣菜屋さんのシングルマザーがホームズ役。いろいろ逆転してるけどそれが義理人情と相俟って、時代ミステリとして成功してるとおもいます。
ソフトカバーの装丁もキュートですし、ぜひ一度手にとってみてくださいwww