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『アンド・アイ・ラブ・ハー 東京バンドワゴン』

2019-05-23 13:59:19 | 本の話・読書感想





『アンド・アイ・ラブ・ハー 東京バンドワゴン』小路幸也 著(集英社)
 このわたしが、このシリーズの最新刊の感想を、こんな今頃になってようやくアップするとか自分でもマジかと思うんですけど。
 でも時間が無い気力が無いって書かないよりは断然いいし、やっぱり今年も楽しませていただきましたし。
 もうシリーズ14冊目。ご近所さん気分どころか完全に堀田家の親戚になったんじゃないかなと、この最新刊で改めて思いました。


Twitterで東京バンドワゴンの私設ファンクラブ中の人二号として毎年お祭りを考えたりサポートしたり纏めたりしてるわたし。
今年のテーマは、「私の神シーン」でした。
今までのシリーズの中で、またこの最新刊の中からでも、自分にとって一番大切だと思ってるシーン、心をわしづかみにされたシーン、そんなシーンを教えてくださいという。

発案者でアカウントの中の人の一人としては参加を呼び掛けたりするのみのつもりだったんですが、お祭りが終わって纏めるときにちょっと気持ちが揺らいでわたしの好きなシーンもふたつ末席に紛れ込ませていただきまして。
ただ、記憶があやふやなところがあったりしたので、シリーズ一巻目から読み返しておりました。

そしたらね、もちろん分かってたことですけどね、シリーズ初期の頃は花陽ちゃんも研人くんもまだまだ幼くて、藍子さん紺ちゃん青ちゃんはまだ三十代で、藤島くんもまだ青二才っぽくて。

それがまぁ、この最新刊ではもう花陽ちゃんは名前のとおりに大輪の花が咲いたように滴るような瑞々しさで素敵なお嬢さんに、研人くんは研人くんでミュージシャンとしての才能をぐんぐん伸ばしつつ幼馴染の芽莉衣ちゃんと婚約中、紺さんも青さんも円熟期に入り、昔の子供達ポジションに今はかんなちゃんと鈴花ちゃんというおしゃまなアイドルがいて。藤島さんはもう堀田家の家族も同然。猫たちも代替わり。

我南人さんが大病を患ったり、勘一さんも時々体調崩して横になっていたり、藍子さんはマードックさんとイギリスに居たり、サザエさん世界ではなくみんなが一年一年歳を重ねていくシリーズならではの緊張感もあって。
登場人物がどんどん増えて増えて堀田家にはいったいどれくらい出入り自由なお馴染みさんが居るんだ今、みたいな感じですね。

そしてこの最新刊に掛かっている帯の、「すべてを捧げる覚悟」

堀田家のひとりひとり、それぞれの人生の分岐点、がありました。それを覚悟という言葉にして。

登場人物がわたし達読者とともに老いていく以上、お別れもあります。
今回のお別れは、読んで泣き思い出して泣き思いやって泣き、という感じでした。
身を切られるようにつらいお別れ、
後悔のない凛としたお別れ、
しばらくの別れと、いずれの再会を願う気持ち。

また、お別れとは違う意味で、幸せになるための覚悟を決めたひともいる。
これからの人生をよりよく幸せに生きるために。
無理なくしなやかに。

登場人物の数だけの人生があるシリーズです。
長く付き合ってきた読者は、ただひたすらに、それぞれが幸多い人生を歩んでくれるならそれでいいのです。

わたしね、時々このシリーズの先々を妄想したりするんですけど。

シリーズの要である勘一さんも、百まで大丈夫だろうと思えるくらいにはお元気ですけど、九十近い人ならもう何かちょっとしたきっかけで体調を崩して寝込んだらそのまま旅立ってしまうこともなくはないですよね。
もし、もしも、この世界が勘一さんとお別れすることになったとして。
わたし、勘一さんはサチさんを探して探して、あれっと振り返ってサチさんと再会したら夫婦で揃って見えないかたちで堀田家にとどまるような、そんな気がするんです。
一緒にあーだこーだ言いながら、堀田家の行く末を二人で見守ってて。
そしたらね。
もし何か堀田家が困ったことになった時、サチさんと勘一さんで手分けして探偵っぽいこともして、それを紺さん研人くんかんなちゃんに伝えて助けたりするんじゃないかなって。
もしそんな幽霊夫婦探偵パートがあったら、ストーリーの運び方も変わるでしょうし可能性は低いですけど。

なんとなくね、サチさんにまた会える日を楽しみにしてる勘一さんがいざ彼岸に旅立ったなら、もう二度とサチさんと離れたくはないと思うし、サチさんがまだ秋実さんや淑子さんや、五条辻のご両親と草平さん美稲さん夫妻のところに行く気配が無いとしたら勘一さんは何が何でも成仏なんてせずにあがいてみせると思うくらい、勘一さんにとっての「覚悟」はサチさんの存在なんだろうと思ってます。

五条辻のご両親。
堀田家のお嫁さんになって下町のお母さんとして下町言葉で生きてきたサチさんが、華族令嬢に戻る瞬間。
を読むことができて、嬉しかったです。
大家族のお母さんの前に、サチさんも宝物のように育てられていた娘時代があったこと。
戦争が無かったら、五条辻のお父様が咲智子さんに日本を託さなかったら。
咲智子さんと勘一さんの出会いは無かったでしょうし、堀田家は日本を救えなかった。
その五条辻家の蔵書印から堀田家の蔵に繋がる人達もまた覚悟を決めたことで、未来の日本の一部が守られていくというのは、サチさんにとってどれほどの喜びだろうと思うのです。
いつもいつも堀田家と所縁の人達を優しくあたたかく見守っているサチさんに、作者の小路先生からの感謝のプレゼントのような気がしました。

そうそう、一話目で藤島ハウスの管理人として暮らす夏樹さんと玲井奈ちゃん小夜さんのこと。
シリーズ第一作目の、マンションの管理人さんのエピソードがパッと同時進行で頭に浮かんできましてね。
番外編を除く本編十二冊、ぐるっと一周まわった感があって感慨深かった。

螺旋を描くように、世界は高みを目指しつつぐるぐる回っているのだろうと、わたしはいつも思います。
堀田家はいつも上を見る。顔を上げて胸を張って。威風堂々と。

凛としたその背中を、これからもずっと追い続けていきたいです。

また来年四月を楽しみにしています。




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