僕たちの高原ホテル [DVD] | |
渡辺大輔,浜尾京介,和田琢磨 | |
ポニーキャニオン |
映画『僕たちの高原ホテル』
昨年秋、レイトショーの公開当時観に行かなかったことを激しく後悔したので、DVD買いました。オーディオコメンタリーも聞きたかったし。
ちなみにこれはBLじゃないです誰でも普通に観られます(笑)
まおくんこと浜尾くんと渡辺大ちゃんのゴールデンコンビと、横井組の再タッグは、タクミくんシリーズファンにとっても嬉しかった。
ハリウッド映画とか、邦画での超大作!といわれるような派手さはないですが、心が晴れ晴れとしてくるいい映画でした。
かつて、祖父がマネージャーとして働いていた高原の小さなホテルで、心を閉ざしたまま清掃員として働く歩と、新たにマネージャーとして歩の居るそのホテルにやってきた柳也との関係を軸に、過去と現在が少しずつ溶け合っていくハートフルストーリー。
歩の変化と、柳也の手腕の影に隠された過去。
ネットでこのインタビュー記事を読んでたので、背景は知った上で観たんですけど、インタビューを知らなくてもたぶん二人の因縁にはすぐに気づいたと思います。別にミステリーじゃないから隠す隠さないもないし。
オーディオコメンタリーで監督と大ちゃんまおくんが話してるのを聴きながら観てると、どれだけ細やかに丁寧に役を作り上げていったのか、よく分かります。タクミくんシリーズからの三人の信頼関係があるからでしょうね。
とにかく、まおくんの俳優活動休止宣言を今からでも撤回してほしくなったくらい、めっちゃめちゃ演技がうまくなっててもうびっくりですよ!
歩って、本当に難しい役だと思います。
性格的にもともと孤独を好んだわけじゃないし、子供の頃は本当に快活で、それがたったひとりの肉親であるおじいちゃんを海外で突然亡くして、もう自分の未来どころじゃなくなってしまって。おじいちゃんの幻影をホテルに探しながら、たゆたうことしかできない歩。
自分の気持ちばかりで、周りの人たちの心や表情を見てなかった青年。
そんな歩としてのクセを自分で作り上げたまおくん。
そのクセももちろんですが、わたしはとにかく、まおくんの目の演技がすごいと思った。
言葉が無くても、目がちゃんと気持ちを表現してる。
あんなに目の演技ができる若手俳優さんって、そういないと思うんですよねえ……もっと映像のお仕事してほしかった!ああマジで惜しい!
それと。
おじいちゃんの紅茶の味と香りの配合を探して研究する熱心さもあるので、自分の未来のすべてを諦めてはいないことも伝わりました。おじいちゃんの紅茶の配合を再現できたら、きっと…って。
この、紅茶の研究・試飲する表情が、イイんですよねえ。記憶を大事に守ってきて、でも美化も風化もさせていないからきっと再現できる、って幽かな自信が現れてて。
あと、料理長の体の具合が良くないと聞いたときの、心配する顔。
おじいちゃんを知る数少ないホテルマンで、厨房から追い出したりしない、ぶっきらぼうでも良き理解者の料理長に、歩はおじいちゃんを重ねてたんだと。だから、ホテルのピンチと聞いたとき、柳也のためじゃなくて料理長のために駆けつけたんじゃないかなと思います。
チャーハンだかピラフだかのまかないランチタイムや、料理長ともぐもぐ食べてるパスタの、あの食べ方も、素のまおくんはきっとああいう(あんまり噛まずに飲み込むような)食べ方はしないでしょう、あれは完全に歩。すごいと思います。ご飯粒が付いてたっていいじゃないか歩だもの(苦笑)
大ちゃんの柳也さんもまあ、難しい役よね。
ホテルマンとしての姿勢はパーフェクト、でも実は過去に…、という。
歩の存在を知らずにこのホテルに来たってのが、柳也さんの巡り合わせの妙ですね。
(本編ではカットされて、特典ディスクに入ってた、あのサイドストーリーで柳也さんの戸惑いがはっきり分かる。敢えてカットした監督ブラボーです!)
で、歩を前に進ませることが、自分の傷を癒すことになるわけで。
健三郎さんの代理として歩を見守って、でもホテルのピンチでいっぱいいっぱいの時に助けてくれたのはその歩で、柳也さんはまた健三郎さんに助けられたんですよね。なんとか乗り切った後の、柳也さんが淹れた紅茶は、健三郎さんへの感謝も込められてたんだなあとしみじみしました。
それにしても大ちゃんて、着痩せするねえ!
ホテルマンとしてのあの制服?というのかアレは……あのスーツをシュッと着てる時、実際はムキムキなんて知らなかったら想像できませんて(笑)水泳やってた人って、やっぱりガタイがいいんですねえ。
脇を固める若手俳優さんはもちろんですが、ベテラン俳優さんたちがまた素敵でwww
小倉さんとか河原崎さんとか諏訪さんとか、ホテルの時間をその存在が表現してる感じ。
タクミくんシリーズのときは、男子高校生の世界だったから先生と食堂のおばちゃんがチラチラと映りこんでたくらいの比重でしかなかったけど(笑)、今回はこのベテランさんたちがいてこその僕ホテでした。
馬渕さんもね、可愛かった~!あの髪型、すごい似合ってた!
歩が仕事を終えて帰るシーンの杏奈さん初登場のところ。従業員出口の窓ごしに登場っていうセンスが素敵です監督!窓枠がフレームになって、歩の沈んだ心の目から見た絵画、いや映画のようでしたもん。
歩のお姉さん的な存在として柳也さんを見てるってところも。女性の嫌らしい一面をまったく感じさせない役で、わたしでも安心して観られました。(女のドロドロしたの苦手……)
あ、ひとつだけ。
子供時代の歩くんとおじいちゃんの回想シーンで、おじいちゃんが紅茶を淹れて歩にサーブするの。
あの、あれくらいの子供にストレート飲ませるってどうなの健三郎おじいちゃん……それも夜に(汗)
英才教育かなー、いやでもカフェインのこと考えるとお砂糖とミルク入れた方がいいと思うよ……(紅茶飲みとして気になったの)
大人になった歩がブレンドしてた茶葉を見ると、たぶんミルク入れるタイプの茶葉ではないのはすぐに分かったけどさ……ハーブティかと思ったもんな、うん。
まおくんと大ちゃんのダブル主演なんですが、横井組から、いったん芸能界を離れるまおくんへの餞のような作品だったな、と思います。まおくんのための映画だった気がする。
そしていつかまた、まおくんの中の引き出しがいっぱいになったら戻っておいで一緒に仕事しようって、横井監督や脚本の金杉さんや大ちゃんたちから優しく見守られてる。そんなふうに。
こんな難しい役でもこなした自信と横井組からのエールを胸に、新しい時間を楽しく過ごしてほしい。
でもいつまでもここで待ってるよ、という愛惜の念も、忘れないでいてほしい。
ストーリーとしてもリアルでも、大切なひとを思う気持ちの優しさがぱんぱんに詰まった映画でした。
じーつーは。
わたし、横井監督にぜひ、小路さんの『ラプソディ・イン・ラブ』を映画化していただけないかと密かに妄想してるんですが。
『東京公園』が映画化できたんですもん(監督違うけど)、キャスティングが難しくて無理と言われてた『東京バンドワゴン』もドラマ化大成功でしたもん(監督(演出)違うけど)、『ラプソディ・イン・ラブ』はがっつり「シャシン」の世界であんなに映画化に向いた小路作品なんですから!
横井監督のあの原作読み込みの深さと細やかさとこだわりで、ぜひ☆