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『月の欠片』

2014-02-27 13:59:26 | 本の話・読書感想





『月の欠片』 浮穴みみ 著(祥伝社)
 わたしのオススメ作家さんのお一人、浮穴みみさんの新刊です。
 はー……切なかった……読み終えてしばらく、涙ぐんでグスグスしてました。
 明治維新後の、まだ旧幕時代がそこここに残っていてでも世の中はめまぐるしく変わっていくその時代。
 明治時代からを「近代」というなら、この混沌の時代の物語は、時代小説なのか近代小説なのかどっちなんでしょう。
 魅力的なキャラクタと、切なくて胸に迫る物語で一気読みでした。



元会津藩の出身で、田舎から東京に出てきたばかりの佐々木琢磨。短気で人の言うこと聞かないので行く先々で揉め事を起こす困ったちゃん(苦笑)
でも、心根は優しくてピュアで素直です。
住み込みで書生として迎えてくれるという、もう最後の望みに賭けて、片桐祐三郎先生の門戸、いや玄関を叩くのですが。
この片桐祐三郎という人は、見た目も考え方も暮らし方も変わってるうえに、少々不思議な能力まで備わってるお人でした。

そんな片桐先生、もとい祐さんと、西洋茶店〈都鳥〉の書生仲間たちと少しずつ打ち解けながら、事件の渦中に飛び込んでいくのですが。

事件の様相は凄惨なんですけど、でもグロくなくて、そして真相を追う探偵役は祐さんだと思うんですけどキーパーソンは琢磨さんで、会津侍の魂で薩長への憎しみを隠さないので最初は難儀なお人なんですが元々の向上心が表に出てきてからの琢磨さんの成長ぶりがハンパないです。
硬い蕾が開いて花が咲くような。
そういえば祐さんはすでに花のようなお人で登場するし、書生仲間さんたちも個性豊かな花々のようで、日本女性も異人女性もそれぞれたおやかでしなやかな美しい花で、混乱と新時代でごちゃ混ぜの中にこのキャラクタの書き分けは女性作家さんならではだと思います。

女性と男性のバランスがいい、ということかな。

事件の真相はもう悲しすぎて、真犯人に同情したくなる。
もちろん琢磨さんもそうだった、でも、真犯人の気持ちが分かるからこそ見て見ぬ振りができなかった。助けられるものなら助けたかったのは、被害者じゃなくて犯人の方。
まだ科学捜査を取り入れていなかった当時の警察は、まったく機能してませんね。見事に蚊帳の外(苦笑)
江戸時代には、それはそれで捕物帖とかで読むような感じで地道に真相に迫っていったんですが、新時代のスピード感を出すためにそういうのはばっさりカットされてます。そのスピード感と犯人の逡巡のほんの僅かなズレが、琢磨さんという存在に投影されてるなあと思った。
欧米の科学捜査を居留地の外国人さんたちから聞いて、それを即座に取り入れようとした琢磨さんたちの頭の良さは、当時の日本人の多くがそうだったんじゃないかなあ。考えて考えて生き抜かないといけない時代だったから。

武士の誇りと名誉にかけて清貧に生きた人々と、新時代に希望を見出した人々と、その狭間でもがき苦しむ人々と。

この時代は、日本がそれまでに体験したことのない、「急激なパラダイムシフト」が起こった、というよりほとんど、一度断絶したんだと思ってます。
江戸時代までは、支配者が変わっても庶民はそれほど暮らし方が変わることはなくて一続きでした。
でも江戸時代から明治時代の変容は、日本の歴史の断絶に等しいくらいの衝撃だったはず。
そこで人々がまず取り入れたのが、「食文化」だったんですねきっと。
お肉を食べるようになったり、それまで口にしたこともないお砂糖の甘みにふにゃふにゃになったり(笑)
美味しいものの中でも「甘み」は特に幸せを感じる味覚だと思うので、これが食べられるならご一新でもなんでもいい、という彼らの気持ちは分かります。
ジンジャーブレッドには笑ったわ~www
英語を勉強するのに子供たちと遊んでそのままつい英単語で返事する琢磨さんとか、本当可愛い♪♪こういう琢磨さんの天然さがいいわー。
そんなラブリーなシーンもありつつ、クライマックスの緊張感はビリビリして、そしてラストは切なくて美しくて、月は冷たくて優しい。綺麗なラストシーンでした。
序盤のあのシーンは伏線だったのか!とびっくりしたんですけど、すべてが繋がってみると、琢磨さんのやりきれない気持ちがひしひしと……。
誰にも止められない運命の悲劇だったのかな、と思いたくないんですけど思ってしまう。

情におぼれることなく、淡々としている風で、でも優しい人々の物語。萌えとは違う感じの、きゅんきゅんさがあります。
浮穴さんの作品は、こういう塩梅の良さが好きなんです。読みやすい。
できればこの作品、続編書いていただけないかなあ。
琢磨さんや祐さんや、大熊さんに正之助さんに、ほかにも魅力的なキャラが。わたしはご隠居さんが何気にツボでしたw






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