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『旧暦屋、始めました』

2017-09-25 11:26:00 | 本の話・読書感想





『旧暦屋、始めました 仕立屋・琥珀と着物の迷宮2』 春坂咲月 著(ハヤカワ文庫)
 楽しみにしてた、凄腕和裁士・琥珀さんと八重ちゃんのシリーズ第二弾。
 今回も、着物と帯、柄行きの粋、小物、暦や和歌まで、和装についての蘊蓄がぎゅうぎゅう詰めです(ニッコリ)
 舞台を奈良に移して、女子大生になった八重ちゃんと一緒に着物その他の謎を解きつつ、着物へのハードルを少しずつ下げてみませんか?という素敵なシリーズ。
 …今作はどちらかというと、着物警察と言われるある程度のテンプレ知識と固定観念を持った人が読むのがおススメです。反省反省(おでこペシッ★)
 


いや~、琥珀氏、ますます怖い、というか黒い人になってません?(苦笑)

ていうか、「人間」より「着物」にしか興味ないって散々読ませといて、八重ちゃんにはガッツリ狼だったw
赤ずきん八重ちゃん逃げてー!(笑)

とまあそんなこんなの絡みがありつつ。

今回も蘊蓄がなかなかの迫力です。着物が好きで、自分で着付けできる程度の人しか楽しめないんじゃないかしらんと心配になるくらい。大丈夫?

一応最低限に着物着られるわたしには、前作と同じく、楽しかったというより勉強になりました。
着付けの学院では教わらなかったり軽ーく触れる程度だったあれこれを、フムフムしながら読んでました。ありがたいわー。

前作はどちらかというとやわらかもの、ハレの着物、古裂の因縁という上物についての謎、そんな軸でしたが。

今作は反対に、織りの着物、正絹以外のもの、普段着やオシャレとしてのコーデ、そういうものが主役。そう、人気着物雑誌『七緒』の読者のツボ押しまくりw

正絹だろうが木綿だろうがするすると軽やかに着付けしてくれる琥珀さんの手際で、「着物って大変。お手入れも面倒」と思ってる人に「あら、着物って結構楽しい?」と思わせてくれるストーリーでした。

そんな綾に、「和ミステリー」らしく着物の柄合わせの意味だの季節感だのを絡めた謎が次々と。そして冒頭からラストまでを貫く正体不明の誰かの思惑。
シリーズはさらに続きますよ、という締め方でしたが、八重ちゃんの過去がアッサリ解かれたのに比べて、琥珀氏の因縁は根が深く暗そうですね……。

で、今後も登場するだろう準レギュラーも増えました。
楽しい人達です。
ニイサンの勘違いはいつ解けるかなwこういうとこ、しょせん琥珀氏の敵じゃないよねーwww
第一、八重ちゃんは正直もう堕ちてるしw

そうそう、第四話の終盤に種明かしされる中に出てくる、「箪笥の肥やし」について。
わたしがまさに、そうなんですよねえ。母親があまり着物を持ってない人で、祖母は着道楽な人ですがサイズが合わず(最近までは諦めてました 苦笑)、つまり祖母-母-娘のラインとして着物を譲られそれが財産になる、ということには縁遠い環境で。むしろ母が着付けの教室に行きたいからとわたしを(強引に)道連れに、もとい、誘ってきたこと自体が奇跡。そこからわたしは着付け教室に三年以上通って、僅かな枚数でも自分の着物を仕立てたことなんてもう少数派かも。
わたしの妹は、たぶん成人式の振袖しか持ってないんじゃないかな。着物にまったく興味が無いので。
箪笥の肥やしは悪いことじゃない、自装できないなら誰かに着付けてもらうのでもいいから、楽しく着ればいい。
琥珀さんたちの企画の意図がそういうことだったと分かって、ああ今着物着たいわーとむずむずしました。

兵庫出身の作者さんだけあって神戸の言葉の書き分けも丁寧、ざっくり関西弁も完璧です。関西人には読みやすい。
で、現在は宮城在住だそうで、ちらりと仙台のことが出てきたときに、やっぱり新鮮な風を感じました。
着物って全国にそれぞれの産地があって、たとえば紬の最高峰である結城紬の産地は茨城や栃木ですが、何故か着物や和といえば京都とか、古都といえば奈良も含まれる、そんな関西べったりなイメージの和モノのストーリーに東北が出てくるって、何か良いです。
続編では、結城や、あと塩沢の新潟とか、そういうところも何かの形で出てくるといいなあ。あ、もちろん奄美の大島紬や沖縄の琉球紅型に花織に絡めて南でも。
やわらかものだったらそれこそ真打的に、京友禅と加賀友禅で金沢とか。

小説で、肉食系というか押しの強いキャラは苦手なわたし、なので琥珀氏も苦手な部類なんでしょうが、彼が探偵役であることと(名探偵至上主義ですのでw)、周囲に琥珀氏を抑える人達が複数いることで中和されてるな、と思います。
サの字こと祭文さんと、由依さん。
特に由依さんの、同じ女性として八重ちゃんの気持ちを第一に考えてくれるところに救われますね。嫌なら逃げなさいって。
何しろ八重ちゃんに対しては強引すぎる琥珀氏、付き合いの長い祭文さんは琥珀氏サイドの人なのでたぶん彼の気持ちや立場に立って考えてるし八重ちゃんに同情はしてもストッパーにはおそらく不向きな人。
由依さんと銀さんが琥珀氏と一緒に奈良に来たのは、八重ちゃんのためなんでしょうねえ。
こういうところの配置や目配りが、春坂さん巧いなあと思うのです。
和装全体へのアプローチとか、着物に対する世間の見方とか、丁寧に書いてあって良いですねえ。どれくらい取材したり資料を読まれたりしたのかな。
反物と白手袋、手水の意味、和装業界の衰退の原因はこんなところにもあるんじゃないですか?って。そうそう、そうなんですよね、わたしもあれ見るとムカッとします!(握手)(←握った手をぶんぶん振るわたし)

前作の感想でも書いたし、今回も最初から延々書いてますが、着物好きで着物のことを一通り知っていた方がより楽しめるシリーズなのは間違いないです。
でも。
琥珀さんと八重ちゃんの感情の機微をとっかかりにライトな恋愛和モノミステリーとして読み始める人が居てもいいなとも思います。そこから着物に興味を持ってもらえるなら、それはそれで嬉しいことです。
(……二人の恋愛模様がこの先も軽やかである保証はないですが……琥珀氏なにやら闇が深そう……)
最初はチンプンカンプンでも、読み始めて着物を着てみたいと思って着付け教室に通うのでも動画で独学するのでもいいので着物を羽織ってみる。そして時間がかかろうが多少もたつこうが着物の基本を知ったところでこのシリーズを再読したらたぶん、俄然面白くなると思うんですよね。この小説も着物も。
着付けをもっと極めたいとか。
和裁の方をやってみたいとか。
コーディネイト面白そうとか。
……さすがに染色家や織り方の職人さんになりたいって人は珍しいかもですが、そういう人が現れてくれたら和装業界の未来は明るい!です。

さてさて、続きはいつかな~♪早く読みたいなあ♡



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