星くず雑記

日々の出来事は煌めく星くずのように…

令和5年六月大歌舞伎(昼の部)引き込まれる演技

2023年06月14日 21時50分53秒 | 歌舞伎

昨年のスキャンダルから再起をかける市川中車(香川照之)に加え

その妻役は、先月の事件の影響で、4代目市川猿之助から

配役変更で中村壱太郎に。

初日を迎え、評判がかなり良いので、急遽チケットを取りました。

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ところで『傾城反魂香』「土佐将監閑居」の主人公

浮世又平は、「吃音症」の設定です。

今日では、程度により障害者手帳取得も

可能な症状の一つです。

本作が、特定の疾患(障害)を題材にしていますが

差別への苦悩や、支え合う夫婦愛、又平の意外な特技等を描いており

現代に通じる、普遍的な内容だと感じました。

(ただし古語である特性上、一部は今日では差別用語もありました)

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吃音症の絵師である又平(市川中車)には、

おしゃべりな妻おとく(中村壱太郎)がいる。

又平は、師匠を見舞いに訪れたが、

「土佐」の名字を授かることが叶わない。

そこに農村の村人たちが虎を追ってやって来る。

又平の弟弟子修理之助(市川團子)が、

絵から逃げ出した虎に対し、宙に虎を描き

見事に退治し、この功で土佐姓を授かる。

弟弟子に先を越されたばかりか、農民に侮辱される。

序盤のかなり長い時間、又平には台詞がありません。

上手く話せないもどかしさや、屈辱的な仕打ちを

台詞なしに表現する中車は、さすが現代劇の名優だと思いました。

最初に話し出すところでは、観客にも笑いがあり

残念ですが、多くの方が「差別する側の視点」で観ています。

又平夫婦の登場タイミングは、今回は澤瀉屋型であり、

一般的な音羽屋型と異なるそうです。

初代猿翁はこの澤瀉屋型を演じ、一方の

現猿翁(3代目猿之助)は合理性やリアリティからこれを廃し

澤瀉屋としても久しぶりだそうです。

(※詳しくは市川猿三郎さんブログをおすすめします→記事

 

さらに雅楽之助(歌昇)が現れ、

誘拐された姫君の窮状を伝える。

師匠は吃音の又平にも、若い修理之助にも

姫君救出に向かわせることを躊躇う。

又平は強く姫君救出の任を願い出るが、これも聞き入れられない。

結局、修理之助が遣わされるが、又平は修理之助に

すがりついてまで、激しく同行を願い出る。

修理之助は又平を振り切って、救出に向かう。

師匠も退出する。

中車の熱演が圧巻で、涙を流しながら無念さ悔しさが

吃音の台詞と共に、ここぞとばかりあふれ出てきます。

修理之助も、又平の激しさに困惑した様子(の演技)。

歌昇が、場面は短いのですが、激しい動きや見得で

重厚な芝居の中で、印象に残ります。

それにしも、ジャンプしてお尻から落ちる振りは

(そう見えないけれども)痛そう…

 

夫婦二人きりになると、絶望した又平は死を決意する。

おとくは師匠の筆と硯を借り、夫に手渡す。

又平は手水鉢に自画像を描くと、それが反対側に映る。

いよいよ死のうと、おとくが水盃を交わすため

手水鉢に向かうと、

絵が反対側に抜けていることに気づく。

これをコミカルなやり取りで又平に伝えると、

師匠が再び奥から現れ、又平の技能を認め、土佐性を授ける。

修理之助とのやり取り以降、

死を覚悟した夫婦のやり取りに、観客席も静まり返り

「差別される側」に共感して中車に引き込まれていきます。

二人が見つめ合い、おとくが死を共にする決意を述べるところなど

夫婦の強い信頼関係を感じさせる演技でした。

おとくが小声で「お借りいたします」と、筆を借りるところも、感情移入しながら観ました。

ただ、おしゃべりで早口な役柄もあいまって、

僅かに台詞が聞き取りづらいところもありました。

長い間、重厚な演技が続いたところで、手水鉢の奇跡に気づいたところから、

コミカルな温かいやり取りに戻ります。

 

女中お百(寿猿)が裃を手渡し、又平が着替える。

又平は実は、節(メロディ)があると滑らかに喋れるので

姫君救出に支障は無いらしい。

意気揚々と出発しようとする又平の歩き方を注意するが、

結局、いつもの又平らしい、ちょこちょこ歩きをするのだった。

裃の着付けの構造が分かり、感心しながら見入ってしまいました。

中車は非常に、表情の表現が豊かな方ですね。

寿猿さんは出演してることが、もはや奇跡。

 

又平の家に、姫君:銀杏の前が逃げ込み、夫婦は姫を匿う。

追っ手が現れるが、大津絵の精が現れ対決する。

大津絵の精4人のうち、3人が澤瀉屋のベテラン幹部俳優で、

ここに各家の御曹司達が絡む組み合わせ。

次世代の育成を兼ねたキャスティング。

先月『不死鳥~』でキュートな女形だった男寅は立役に。

新悟の鯰の精(垂らした髪の女性)も、長身が活きて不思議と妖艶。

中車はその日舞経験から「踊れない」とされ、見得で何とかしている振付ですが

前幕に続き、ストーリーの連続性を感じ、

またコミカルでもあり、とても楽しく拝見できました。

修理之助は、救出できず、どこで何してるのかな…?

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『児雷也』

山中の庵で、児雷也(芝翫)は、

美しい女性(孝太郎)と惹かれ合う。

二人の腕には同じ様な痣があり、互いが許嫁であると気付く。

児雷也は、ガマガエルの妖術を授かり

追っ手と探り合う。

ガマガエルに変身して難を逃れると、再び人間の姿に戻る。

約30年前、特撮戦隊もの『カクレンジャー』に登場した、

アメリカ出身忍者のジライヤ(演ケイン・コスギ)は、

当時人気でした。しかし、歌舞伎座の演目としては

かなり珍しいようです。

短時間にまとめようとして、かえってよく分からないまま

終わってしまった印象。

芝翫も孝太郎も恰幅があり、若々しさに欠けるのが残念。

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『扇獅子』

5人の芸者達の舞い。

せり上がりで、フェアリーゴッドマザーのごとく

福助が登場。花の枝を振ると

芸者達が赤獅子の頭を被って再登場し、毛振り。

前半はそれぞれの芸者に性格が見えて、個性的。

特に最初の三人(児太郎、壱太郎、新悟)がそれぞれ魅力的だし、

続く二人(種之助、米吉)は、あどけなさが残る。

ただし、後半の毛振りになると単調でつまらなかった。

米吉と新悟が、ここでは全く上手に見えず残念。

(※日舞素人による、あくまでも印象です。)

 

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福助が病に倒れた以降、初めて観ました。

歌右衛門襲名目前に大病を発病、

さらに深刻な後遺症を患ったことは

なによりご本人やご家族が無念なことと思います。

 

私は「美貌の女形」として福助をよく覚えていますので

フェアリーゴッドマザーのごとき姿に感動しました。

ただ、かつての福助のような、

存在感ある女形が全然いないことに、寂寥を感じます。

 

以前、福助SNSにアップされた、児太郎時代の画像が

現児太郎にそっくりで驚きました。

私は児太郎に期待しているのですが、

実父は病で、おじ達(芝翫や、18勘三郎)も…

となると、活躍の場が少なく残念です。

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演目全体として、『児雷也』と『扇獅子』が今ひとつ。

『傾城反魂香』は、劇場の空気そのものを変えるような演技が印象深く、

中車の代表作になり得ると思いました。

 

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OSK日本歌劇団100年史が届きました

2023年06月09日 20時03分01秒 | OSK・宝塚(OG含む)

5月に劇団公式サイトで購入した『100年史』が届きました。

6月分の購入受付が始まったとのことで、

いつ注文したっけ?発送予定いつかしら?

とスマホをぽちぽちしていたら、ちょうど宅配便が届き

通販等の心当たりが無かったので、送付元を見たら

びっくり!ちょうど100年史が届いたのでした。

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90年史と比べると、厚みは一目瞭然。

まだ読み比べには至っていませんが、

秋月恵美子&芦原千津子のページは

大幅に増えているのが、すぐ分かりました(^^)

全体に写真がふんだんに用いられ、

歌舞伎の演目(白浪五人男、狐忠信、連獅子など)で

古今のOSKスターの写真が「競演」する企画は見応えあります。

現役スターの楊さんらのインタビュー記事も豊富。

 

巻末に在阪企業を中心とした「OSK日本歌劇団支援委員会」の一覧があり

実に頼もしい限りです。

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歌舞伎とのゆかりでは、上記の写真ページ他

1986年近鉄劇場『楊貴妃』が

「13代目片岡仁左衛門 総指揮」「5代目片岡 我當 演出」で、

記者会見の様子が、時代を感じさせます。

 

また市川右團次の実父である、日舞の家元

飛鳥峯王氏の名前が資料に見えるのも嬉しいです。

 

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身体的な性に基づき、現実にはあり得ない「異性装」

で創りあげるファンタジーが、

歌舞伎や女性歌劇の魅力です。

 

長い歴史の中で築き上げられた不変の魅力を信じ

これからも応援していきたいです。

 

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令和5年六月大歌舞伎(幕見席復活!)夜の部のみ

2023年06月05日 21時57分15秒 | 歌舞伎

歌舞伎文化を応援したい気持ちから、

何とか行く機会を増やせないか、と思った矢先、

6月より幕見席復活 ゜∀゜!!となり、

しかも初日の6/3にちょうど都心で用事があることから

帰りがけに『義経千本桜』の狐忠信のみ観てきました。

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なお私は、歌舞伎座新築後、幕見席ははじめてです。

エレベーターも設置され、

入口もロビーも、とっても綺麗ですね。

新システム初日は、

「前日券(指定席)」は、コアな歌舞伎ファンと

ライトな観光客(欧米系の方多し)が半々くらい。

「当日券(サイドのみ自由席)」は外国人観光客ばかりでした。

幕見席後列からの眺めです。

手すりは残念(新築時に、ガラスタイプにならなかったのね…)。

前列だと、座高が低いと残念な位置に手すりがかかるので、

後列の方が良いかも知れませんね。

大向こう(かけ声)が前から聞こえるのも、新鮮な感じ。

お値段の割りに、大満足です。

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三代目猿之助が大胆なケレン(宙乗り、早変わり)を取り入れ

それを継いだ四代目猿之助のライフワークのため、

澤瀉屋の派手な演出ばかり印象に残ります。

私も、團子のどこに三代目の面影を感じたのか検証したく

三代目の狐忠信をDVDで観たばかりでした。

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主演の松緑は、ここ最近、舞踊の評判が良く

素人目にも安定感があり、動物の躍動感に加え

そして精霊としての神秘性を感じます。

(私は日舞未経験なので詳しく分かりません…)

 

澤瀉屋とは引っ込む/再登場する位置が違い、

屋敷中を駆け回る、俊敏な狐(の化身・精)としての印象を受けました。

最期も宙乗りではないので、どうやって幕切れになるかと思ったら、

花咲か爺さんのように、桜の木に登っていくのですね。

文字通り、地に足が着いたシンプルさが心地よく、

とても楽しめました。

幕見席からだと、欄干が少し太かったり、

頭を伏せた松緑が手をもにょもにょしてる

(=早変わりのための準備?)が見えたり、

舞台機構も楽しめます。

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4月、連獅子で沸きに沸かせた左近は、

若々しく、まだ少年らしい声。

(祖父・父世代と同じく三之助で売り出すより、

より年齢の近い染五郎や團子と組んだら、

三者三様の魅力が引き立つと思うのですが…

大事に育てて欲しい、若手俳優さんです)

 

静御前の魁春は、登場時には年齢を感じたのですが、

芝居が進むに連れて、どんどん美しく見えて不思議でした。

(例えるなら、写真加工アプリで

自動的にフィルターがかかっていくような感じ)

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来週は幕見で昼の部『傾城反魂香』…と思ったら

元々の予定がキャンセルになってしまい

浮いたお金で、2等席を買い足しました。

(残念、なのか何なのか…w)

四週連続の歌舞伎鑑賞ははじめてですf(^_^)

 

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