■詳細
出版社:群像社/群像社ライブラリー
訳者:佐藤祥子
発行年月:1997年3月
価格:2163円
ジャンル:ロシアSF
■感想
私のストルガツキイ体験、2冊目。
この本は前に読んだ『みにくい白鳥』より動きがある分読みやすいかなあ、なんて思っていたのだけど、読み終わるのにやたらと時間がかかってしまった。
きっと、長いからかな。でも、私としてはこっちの本のほうが好き。
おサルが町なかで暴れたり、スターリンとチェスで対戦したりで、なかなかファンタジーを感じるからね。
この本を読もうと思ったのは、作品の設定の異様さにひかれたから。
なんたって、〈都市〉というどこだか分からない世界で、万人の幸福を実現するための〈実験〉が行われているというのだ。
しかも、参加者たちは〈実験〉の目的を知らされていなかったり、定期的にランダムに決定された仕事につかされたりで、たぶんに共産主義的ないろあいの濃い〈実験〉だ。なので、参加者たちの生活は苦しく、〈都市〉には退廃的なムードがただよっている。
そんななか、ものがたりの中盤で大きな動きがある。
ファシストのクーデターで、新体制が確立されるのだ。それによってなにが変わるかというと……。
恐ろしいことに、何も変わらない!
以前の全体主義が、別の全体主義にすりかわっただけなのだ。たしかに貧困は解消されたけど、それは本質的なことではなかったのだ。
このあたりは、深く考えるとなにやら空恐ろしくなる。
さらに、ものがたりの終盤はもっと恐ろしい。
謎につつまれた〈都市〉の北方地帯を探査しに行くのだけど……。
ここにいたって、〈都市〉はもはや惰性によってしか存続できない、というような印象を受けた。
北には何もない、それを分かっていながら、〈アンチ都市〉などという幻想をでっちあげてまで、〈都市〉は存続しようとする。
恐ろしいのは、〈アンチ都市〉が存在しないと知ってしまうときだろう。
その場合、〈都市〉も、そこに住む人間も、目的をなくしてしまう。
はたして、目的を失った人間に生きる意義があるのだろうか。
いや、おそらくあるのだろうな。
主人公の友人のユダヤ人は、〈神殿〉という独自の哲学に到達する。そこに人間のあり方を見出すわけだ。
ただし、主人公はこの友人の考え方にあまり乗り気でなかった。きっと、彼は彼なりに生き方を発見するんだろうなあ。
……しかし、この〈都市〉のある世界は一体どういう形をしているのやら。
最初、リング状の構造物の内側を想像したのだけど、後半の描写から考えるともうちょっと複雑だ。
四次元トーラス状の空間の内側だろうか。
北と南、西と東が、どこかでつながっているのかもしれない。ひょっとしたら、過去と未来もどこかでつながっていて、時間線が環状に閉じられているのかも。
う~む、このあたり、立派にSFしてるじゃないか。深いなあ、ストルガツキイ。
■満足度
(6)
出版社:群像社/群像社ライブラリー
訳者:佐藤祥子
発行年月:1997年3月
価格:2163円
ジャンル:ロシアSF
■感想
私のストルガツキイ体験、2冊目。
この本は前に読んだ『みにくい白鳥』より動きがある分読みやすいかなあ、なんて思っていたのだけど、読み終わるのにやたらと時間がかかってしまった。
きっと、長いからかな。でも、私としてはこっちの本のほうが好き。
おサルが町なかで暴れたり、スターリンとチェスで対戦したりで、なかなかファンタジーを感じるからね。
この本を読もうと思ったのは、作品の設定の異様さにひかれたから。
なんたって、〈都市〉というどこだか分からない世界で、万人の幸福を実現するための〈実験〉が行われているというのだ。
しかも、参加者たちは〈実験〉の目的を知らされていなかったり、定期的にランダムに決定された仕事につかされたりで、たぶんに共産主義的ないろあいの濃い〈実験〉だ。なので、参加者たちの生活は苦しく、〈都市〉には退廃的なムードがただよっている。
そんななか、ものがたりの中盤で大きな動きがある。
ファシストのクーデターで、新体制が確立されるのだ。それによってなにが変わるかというと……。
恐ろしいことに、何も変わらない!
以前の全体主義が、別の全体主義にすりかわっただけなのだ。たしかに貧困は解消されたけど、それは本質的なことではなかったのだ。
このあたりは、深く考えるとなにやら空恐ろしくなる。
さらに、ものがたりの終盤はもっと恐ろしい。
謎につつまれた〈都市〉の北方地帯を探査しに行くのだけど……。
ここにいたって、〈都市〉はもはや惰性によってしか存続できない、というような印象を受けた。
北には何もない、それを分かっていながら、〈アンチ都市〉などという幻想をでっちあげてまで、〈都市〉は存続しようとする。
恐ろしいのは、〈アンチ都市〉が存在しないと知ってしまうときだろう。
その場合、〈都市〉も、そこに住む人間も、目的をなくしてしまう。
はたして、目的を失った人間に生きる意義があるのだろうか。
いや、おそらくあるのだろうな。
主人公の友人のユダヤ人は、〈神殿〉という独自の哲学に到達する。そこに人間のあり方を見出すわけだ。
ただし、主人公はこの友人の考え方にあまり乗り気でなかった。きっと、彼は彼なりに生き方を発見するんだろうなあ。
……しかし、この〈都市〉のある世界は一体どういう形をしているのやら。
最初、リング状の構造物の内側を想像したのだけど、後半の描写から考えるともうちょっと複雑だ。
四次元トーラス状の空間の内側だろうか。
北と南、西と東が、どこかでつながっているのかもしれない。ひょっとしたら、過去と未来もどこかでつながっていて、時間線が環状に閉じられているのかも。
う~む、このあたり、立派にSFしてるじゃないか。深いなあ、ストルガツキイ。
■満足度
(6)
私は「リングワールド」を連想したんだけど。これはラリー・ニーブンの同名作品に登場する世界で、太陽を取り囲むリボン状の輪で、その太陽に面した側に居住するというもの。故フリーマン・ダイソン博士の提唱したダイソン環天体の簡易版といってもいいでしょう。
でも最後にあっさり第2圏に移ってしまう事を考えるとやっぱそこはあんまり深く考えないほうがいいのかな。
でも、〈流星事件〉を考えると、これは三次元ではないのかなと思いました。
第二圏っていうのは、想像もつきません。いったいアンドレイはあのあと何を経験するんだろうと。
まあ、そこから先は書きようがない、という例のあれですかね。
まさに、ストルガツキイの真髄。
なるほど、リングワールドか。
私も、マヨネさま同様、4次元的な空間を想像していました。
それとは反対に<アンチ都市>も存在するわけで(私はあると思ってる)、リングのようにぐるぐる回るものではなく、鏡のように2つの空間が隣り合わせに存在しているんじゃないかと。
流星事件は、こちら側からあちら側へ、あちら側からこちら側へと落っこちているのかも。
な~んてね、わからないことだらけだから、いろいろ考えられて面白いね。
私も最初はそう考えていたんですよ。それもありそうですよね。
でも、最後のほうで〈黄長城〉からトラクターがふってきたので、単純に東と西がくっついてるのかなと思ったわけです。崖から落ちたものは、上から降ってくると(星新一の世界ですね)。
で、アンドレイの主観時間と、ケハダの日記の経過時間がずれるシーンがありましたよね。だから、時間の流れも真っすぐではないなと(たとえば、北へいくほど時間が引き延ばされるとか)。
そんなわけで、〈流星事件〉の被害者の身元が確認できないのは、それが違う時間から落ちてきた可能性があるからだと、勝手に解釈しました。
<アンチ都市>が存在しないと思ったのは、単純に指導部のプロパガンダだからだと考えたからですが……。
いやいや、よく考えたらわれながら夢がないなあ。
>北に行くほど、時間が引き延ばされる
うん、そうかも。
時間は、絶対的なものじゃなく、流動性があるってことだね。
おっ、エリアーデみたい!
いま、崖から落ちたけど、今より前の時間に向こう側に落ちているかもしれないし、こちら側に何年もたってから落ちるかもしれない。
すぐに落ちてくることだってある。
あ、こんがらがってきた。
アンチ都市は、こちら側の同一対称の都市だと思うの。
だから、向こう側にもまったく同じ人間たちがいて、同じことをしているか、まったく正反対のことをしているのかも。
で、結局、むこうとこちらのアンドレイは対面するわけ。
はあ、いろいろ妄想を膨らませてしまった。
ところで、マヨネさま、次はモスクワ?
だから、向こう側にもまったく同じ人間たちがいて、同じことをしているか、まったく正反対のことをしているのかも。
ああ、なるほど。
そもそも〈実験〉のモデルがひとつだとは限りませんしね。
並行して〈実験〉中の〈都市〉がじつはあって、それが〈アンチ都市〉かもしれないし。
次は『モスクワ』行こうかとも思っていたのですが、ちょっと路線変更で『ストーカー』を読もうかなと考えています。
そのうち読む予定だったレムの『高い城』に『ストーカー』の書評がのっているよいうなので、はやめに読んでおこうかなと。