■詳細
出版社:新潮社
発行年月:2003年11月
価格:1470円
ジャンル:純文学
■収録作品
「スタンス・ドット」
「イラクサの庭」
「河岸段丘」
「送り火」
「レンガを積む」
「ピラニア」
「緩斜面」
■感想
どことは知れない山間の町〈雪沼〉と、その周辺に住む人たちのお話。
読み手にスリルや興奮、あるいは鮮烈な印象を与えるタイプの小説ではないけれど、不思議と心安らぐ暖かさがあり、里帰りしたような懐かしさがある。
そこに描かれるのは特に重大な事件というわけではなく、誰もが日常生活のなかで感じたことのあるようなちょっとした心配事、ふいに現れてはすぐに消えて行ってしまうような些細な不安だったりする。
たとえば、がむしゃらに走り続けてきた半生をある時点でふと振り返ってみて、そのときに感じるめまいに似た感覚。道が一本しかなかったのは承知だけれど、「俺は本当にこれでよかったのか」と疑りたくなるような、そんな一瞬。
また、色褪せていた思い出が何かのきっかけでふと蘇ってきて、脳裏に浮かび上がってすぐにまた沈んでいってしまい、懐かしむ暇もなく現在に取り残されてしまったような一瞬の、もどかしさ。名残惜しさ。
そんな田舎町の断片のような物語も、堀江敏幸が描けばじつに美しい。
独特のリズムをもった洗練された文体は、物語に浮遊感を与え、見慣れたもののなかに潜む違和のようなものを際立たせる。
人物にも、風景にも、音にも、不思議な丸みがあるような気がする。
いや、しかし、本当にいい小説だなあ。
■満足度
(6)
出版社:新潮社
発行年月:2003年11月
価格:1470円
ジャンル:純文学
■収録作品
「スタンス・ドット」
「イラクサの庭」
「河岸段丘」
「送り火」
「レンガを積む」
「ピラニア」
「緩斜面」
■感想
どことは知れない山間の町〈雪沼〉と、その周辺に住む人たちのお話。
読み手にスリルや興奮、あるいは鮮烈な印象を与えるタイプの小説ではないけれど、不思議と心安らぐ暖かさがあり、里帰りしたような懐かしさがある。
そこに描かれるのは特に重大な事件というわけではなく、誰もが日常生活のなかで感じたことのあるようなちょっとした心配事、ふいに現れてはすぐに消えて行ってしまうような些細な不安だったりする。
たとえば、がむしゃらに走り続けてきた半生をある時点でふと振り返ってみて、そのときに感じるめまいに似た感覚。道が一本しかなかったのは承知だけれど、「俺は本当にこれでよかったのか」と疑りたくなるような、そんな一瞬。
また、色褪せていた思い出が何かのきっかけでふと蘇ってきて、脳裏に浮かび上がってすぐにまた沈んでいってしまい、懐かしむ暇もなく現在に取り残されてしまったような一瞬の、もどかしさ。名残惜しさ。
そんな田舎町の断片のような物語も、堀江敏幸が描けばじつに美しい。
独特のリズムをもった洗練された文体は、物語に浮遊感を与え、見慣れたもののなかに潜む違和のようなものを際立たせる。
人物にも、風景にも、音にも、不思議な丸みがあるような気がする。
いや、しかし、本当にいい小説だなあ。
■満足度
(6)