リアス式読書日記(仮)

本好きのマヨネぽん酢が、読んだ本の感想をのらりくらりと書きます。よろしく!

『ストーカー』A&B・ストルガツキイ

2005年06月21日 | SF(海外)
■詳細
出版社:ハヤカワ文庫SF
訳者:深見弾
発行年月:1983年2月
価格:462円
ジャンル:ロシアSF

■感想
タルコフスキーの映画『ストーカー』の原作小説。
私は映画の方をみていないのでそっちと比べることはできないのだけれど、まあタルコフスキーはきっと原作どおりになんか映画を作らないので(笑)、たぶん映画と小説はそれぞれ独立した作品として楽しめるようになっているのだろう。

この『ストーカー』は『滅びの都』などにくらべて思想的な色合いが強くないし、分量もそれほど多くないので読みやすかった。未知の文明の〈来訪〉というSFらしいテーマをあつかっていることもあって、話の設定にもとっつきやすいものがあると思う。
ただし、欧米などの娯楽性の強いSF作品と類似しているかといえば、やはりそこは一線を画していると考えてよさそうだ。むしろ、〈来訪〉の目的が明かされることがないあたりなど、レムの小説に似ているようにも思える。

それでどんなお話なのかというと、これが結構ハラハラドキドキのお話なのだ。
この本の主人公は凄腕のストーカー、レドリック・シュハルト。
ストーカーの仕事は、〈ゾーン〉とよばれる危険地帯――そこは地球にやってきて、地球人と接触せずに去っていった超文明の痕跡なのだ――に侵入し、異星文明の置いていった謎の物品を盗み出すこと。
決して楽ではない、命がけの仕事なのだ。
そんなわけで、〈ゾーン〉に侵入するシーンはハラハラドキドキ! 〈ゾーン〉は映画ではどう表現されているのかな、と気になってしかたがないよね。
けれど個人的には、〈来訪〉の目的を学者が推論する場面が一番の読みどころかな。

■満足度
(5)

『順列都市』グレッグ・イーガン

2005年05月08日 | SF(海外)
■詳細
出版社:ハヤカワ文庫SF
原題:Permutation City
訳者:山岸真
発行年月:1999年10月
分冊:上下巻
価格:各651円
ジャンル:SF

■感想
まったく、イーガンは何を読んでも面白い。あきれるほど面白い。
イーガンが現代最高のSF作家であるという確信は、読むごとにひたすら深まる一方。

『順列都市』のテーマは仮想現実だ。
この小説の舞台では、人間の意識をコンピュータ上に移すことが可能になっている。そして、コンピュータ上に移された意識は〈コピー〉と呼ばれていた。
自家用のスーパーコンピュータを所有しているような富豪の場合、肉体的な死後も〈コピー〉を走らせて不死を獲得できるわけ。また、スーパーコンピュータを持っていないような中流階級のひとでも、公共ネットワークで余剰計算能力を買うことで〈コピー〉として生きられる。
この場合に面白いのは、富豪と一般人で使える計算能力が違うこと。つまり、〈コピー〉が走っているコンピュータの性能に差があるのだ。コンピュータの処理能力の差は、そのまま〈コピー〉の主観時間の違いになってあらわれる。
このあたりの細かいディテールの面白さはイーガンならでは。
もちろん、イーガンの御家芸であるアイデンティティの問題も登場する。
〈コピー〉のアイデンティティの問題だ。このあたりの面白さも、やはりイーガンならでは。

そして、なんといってもすごいのが〈塵理論〉。これがまたなんとも壮大なハッタリなのだ。
小説の後半では〈塵理論〉にもとづいて、主人公の男が無限に続く宇宙をつくってしまう。
その宇宙の首都が、じつはタイトルにある〈順列都市〉なのだ。

スケールの大きさがSFの醍醐味なら、この小説は間違いなく傑作。
主人公の男がつくりだした宇宙は、確実にSF史上最大級の構造物だろうから。

■満足度
(9)

『宇宙消失』グレッグ・イーガン

2005年04月13日 | SF(海外)
■詳細
出版社:創元SF文庫
原題:Quarantine
訳者:山岸真
発行年月:1999年8月
価格:735円
ジャンル:SF

■感想
――2034年、地球の夜空から星々が消えた。

と、見開きページにある書き出しは刺激的な一文ではじまる。そしてさらにこう続く。

――冥王星軌道の倍の大きさをもつ、完璧な暗黒の球体が、一瞬にして太陽系を包みこんだのだ。世界各地をパニックが襲った。球体は〈バブル〉と呼ばれ、その正体について様々な憶測が乱れ飛んだが、ひとつとして確実なものはない。やがて人々は日常生活をとりもどし、宇宙を失ったまま33年が過ぎた――。

もう、この〈バブル〉という特大スケールの設定だけで興味をひきつけるには十分なのだけど。
しかしながら、『宇宙消失』のメインテーマは〈バブル〉ではないのだ。さらに途方もないアイデアがこの作品の核になっている。
具体的にそのアイデアの焦点となるのが、量子力学における観測問題。
量子論なんて難しそうで敬遠したくもなるけれど、この作品はじっくり読めば分かるようになってると思う。それに巻末には、作中のアイデアに関する詳細な解説もついているし。

さて、物語の舞台は〈バブル〉が形成されてから33年後。
主人公のニックは、病院の一室からとつじょとして消えた女性の捜索依頼をうけた。その女性は、完全に密室と思われた病院の管理体制をすりぬけて、どこかへ消えてしまったのだ。
ニックは誘拐事件と判断し、その線から捜査をこころみる。
女性を追っていくうちに、彼は国際的な研究機関がからんだ陰謀にまきこまれ、次第にそれは世界のありかたすら揺るがす事態へと発展していく。

と、最初のほうは女性の失踪事件を追っていく、ミステリ的な展開。
そこから、とんでもない量子論的大発見につながっていって、さらには〈バブル〉までつながっていく。
物語の面白さ、SF的なアイデアの驚き、どちらも素晴らしい。もちろん、イーガン作品の特徴として、アイデンティティの問題も盛りこまれている。

これ以上は望むものがないような、完璧なSF小説じゃないかな。

■満足度
(8)

『都市と星』アーサー・C・クラーク

2005年02月09日 | SF(海外)
■詳細
出版社:ハヤカワ文庫SF
原題:The city and the stars
訳者:山高昭
発行年月:1977年12月
価格:441円
ジャンル:SF

■感想
突き抜けてるな~、というのが第一印象。

なんたって、お話の舞台が10億年後なのだ。こりゃ突き抜けてるよね。
クラークの作品っていうと荘厳なイメージで、リアルな近未来小説という印象が強かったのだけど。
『都市と星』の舞台は思い切った遠未来で、荘厳というよりイマジネーションがほとばしってる感じ。

このお話では、人間がある都市に完全に引きこもっちゃっている。
ダイアスパーというその都市は、銀河帝国が滅んだ後に地球上に残った唯一の都市。その内部はコンピューターに制御された小宇宙で、外部との接触を絶った状態で10億年以上も完璧に安定していた。
――と、まあ、それだけだとありがちな感じがするんだけど、そこらへん違うのがクラーク。とにかく、このダイアスパーの描写はすごいぞ。
具体的にどこがどうすごいのかを説明すると長くなるのでやめるけど、まず、絵的にすごい。クラークの書き方が上手いためか、とてつもない立体感と、のしかかる高層ビル群の圧倒的な重さすら感じる。
それから、都市の運営に欠かせない「記憶バンク」なるもののアイデアが、科学技術的にすごい。古い小説なのだけれど、情報理論もナノテクノロジーも、ばっちり先取りの感がある。それに、クラークの科学描写は分かりやすいところも好印象。

主人公はこの都市で生まれた青年アルヴィン。彼は完璧ではあるが停滞している都市に満足できずに、その外に拡がる地球を、宇宙を目指そうとする――。

青年アルヴィンの個人的な物語が、いつしか人類全体の物語になっていくのはやっぱりクラークらしい。
しかしまあ、『幼年期の終わり』や『2001年宇宙の旅』でもそうだったように、クラークの描く「知性の最終形態」はみんなあんな感じなのか。
スター・チャイルド、オーバーマインド。

■満足度
(5)

『都市』クリフォード・D・シマック

2005年02月02日 | SF(海外)
■詳細
出版社:ハヤカワ文庫SF
原題:City
訳者:林克己/福島正実/田村裕
発行年月:1976年9月
価格:462円
ジャンル:SF

■感想
古典SFは、すがすがしいね。
このすがすがしさは、最近の小説ではちょっとお目にかかれない。
なぜかって、希望に満ちているからすがすがしいんだ。1950年代のSFは、未来への、科学への希望に満ちている。だから、読んでいて気持ちがいいのと同時に、どうして現在の世界はこうならなかったのだろうと、決まって切なくなるんだ。

『都市』は、犬たちの物語だ。
作中の遠い未来では、人間はとうに地球を離れていて、残された犬たちが独自の文明を築いていた。そこでは、人間の存在はとうに忘れ去られ、伝説と化してしまっている。
この小説は、知性化した犬たちが、人間に関する古代の文献を整理して本にまとめた、という形式になっている。
一話ずつ人間の歴史が語られていくのだけれど、その一話ごとに犬による解説がつけられているのだ。
しかし、この解説は人間が存在した可能性についてどうも懐疑的だ。これには最初は違和感を感じたけれど、読み進めるごとにしっくりくるようになる。つまり、だんだん犬の価値観も分かってくるわけだね。

もっとも、物語に登場するのは人間と犬ばかりではない。ロボットや、人間より優れた能力を持つ新人類も登場する。しかもそういったSF的な要素を、あまさず使い切っているからこの作品はすごい。

一番の見所は、犬たちがどんな社会を築くかということ。また、犬たちに機会をあたえるために、人間やロボットがどのような決断をしたかということ。
作中のロボットの言葉を借りるならば、人間の歴史は「弓と矢の道」だった。
犬たちは、それとは違った道を切りひらいていくのだ。

■満足度
(6)

『ふたりジャネット』テリー・ビッスン

2005年01月20日 | SF(海外)
■詳細
出版社:河出書房新社/奇想コレクション
編訳者:中村融
発行年月:2004年2月
価格:1995円
ジャンル:アメリカ文学/SF

■収録作品
「熊が火を発見する」
「アンを押してください」
「未来からきたふたり組」
「英国航行中」
「ふたりジャネット」
「冥界飛行士」
「穴のなかの穴」
「宇宙のはずれ」
「時間どおりに協会へ」

■感想
熊が火を発見したり、ブリテン島がひょっこりひょうたん島になってしまう……。

と、うわさでは聞いていた。
実際、そのとおりだった。
でも、それだけってわけじゃない。

短篇のラインナップはバラエティにとんでいて、前半の五篇が現代的な小説、後半の四篇がSFという感じだった。
どの作品も軽快で小気味のいい語り口と、どことなくほのぼのとした雰囲気がほどよくマッチしている。これこそアメリカの小説、というような読み味。

いくつか感想を。

「英国航行中」
ブリテン島がなぜか動き出して、大西洋を航行し始めてしまう!
意味が分からない。さっぱりだ。
ただ、イギリス国民とアメリカ国民の微妙な温度差みたいなものが、上手く表現できているんじゃないかと思う。
ちなみに主人公の老人はフォックス氏という。ファーストネームはアンソニーだ。
彼の愛犬の名前もアンソニー。
アンソニー・フォックスと、アンソニー・ドッグだ。いいコンビだってことだね。

「冥界飛行士」
これは臨死体験をテーマにしたSF。
ほのぼのとした短篇が多いなか、これだけ異様で不気味な雰囲気を放っている。短篇集全体でみれば、それが上手くアクセントになってるんじゃないかと思う。
あの世の情景が、絵的にインパクトがあってよかった。

〈万能中国人ウィルスン・ウー〉シリーズ
「穴のなかの穴」「宇宙のはずれ」「時間どおりに教会へ」は、共通の登場人物が出てくるシリーズもの。

内容は、人生ドロップアウト気味の弁護士アーヴィンと、なんでもできる天才的な中国人ウィルスン・ウーの凸凹コンビが活躍する話だ。コメディタッチで、SF的なアイデアもたいへん面白い作品になっている。
時間とか空間とかをテーマに扱っている点は、SFとしても正統派といえる。けれども難しいところは一切なく、むしろさくさくと読めるほどだった。
三作ともそうなのだけど、時空に起きつつある異変を日常的な問題に結び付けてしまうストーリーの巧みさは見事。

■満足度
(7)

『ソラリス』スタニスワフ・レム

2004年12月09日 | SF(海外)
■詳細
出版社:国書刊行会/スタニスワフ・レム・コレクション
原題:Solaris
訳者:沼野充義
発行年月:2004年9月
価格:2520円
ジャンル:SF

■感想
スタニスワフ・レムの古典的名作『Solaris』は、『ソラリスの陽のもとに』という邦題で長年親しまれてきた。
本書『ソラリス』はその新訳版で、旧『ソラリスの陽のもとに』での脱落箇所も補完されている。解説によると旧『ソラリスの陽のもとに』はロシア語版からの重訳だったため、検閲によって削除されていた点があったようだ。
本書はポーランド語版から直接に訳されており、それに伴ってタイトルもシンプルになったようだ。

――赤色と青色のふたつの太陽の周りを回っている、海におおわれた惑星ソラリス。
一見なんの変哲もないこの海が、実は高度な知性体だった。内部では複雑な数学的計算の会話が交わされ、自ら重力をコントロールして複雑な周回軌道を調整している。
ソラリスは長いあいだ学者たちによって研究対象とされてきたため、〈ソラリス学〉と呼ぶべき学問も出来上がっていた。けれども、肝心の本質的な部分が学者たちにも理解できずにいた。
結局のところ、ソラリスとは何者なのか? 宇宙の賢者なのか、それともかつて栄華を誇った知的生命の成れの果てなのか。
長年のあいだ意思疎通を図ろうとしてきた人類に対して、ソラリスの海はただ、かたくなに沈黙を守り続けている……。

ソラリスの海上を周回するステーションにやってきた心理学者のケルヴィンは、そこで異常な事態が起こっていることを知る。サイバネティクス学者スナウトの不可解な言動、自殺したらしい恩師のギバリャン、研究室に閉じこもってしまった物理学者のサルトリウス。いったいステーションで何が起こっているのか?
そして、船室で眠りから覚めたケルヴィンのもとへやってきたのは、十年前に地球で自殺したはずの恋人ハリーだった――。

『ソラリス』はいろいろな読み解き方のある、たいへん深みのある小説だ。
地球外生命との接触を描いたSFであり、取り返しのつかない過去の傷と向き合うロマンスであり、ステーションという閉鎖空間を舞台にしたスリラーですらある。
私は旧版を読んで以来、この作品は〈コンタクト〉をテーマにしたSFだと信じていた。新版を読み終えてもその認識はかわらなかったけれど、新たに『ソラリス』の奥深さに驚かされた気持ちでいっぱいだ。
ケルヴィンとハリーのロマンスは胸にぐっとくるものがあったし、ステーション内で起こる事件の謎解きも十分に面白かった。そういったメインテーマ以外の要素も、作品の魅力を形成するのに欠かせない部分だったのだと改めて思う。

『ソラリス』の描いたコンタクトの未来像は、他の作品にはない興味深いものがある。
――宇宙のどこかに知的な生命体が存在すると仮定して、人類が彼らと出会ったとしよう。
さて。そう簡単に意思の疎通ができるのだろうか? 仮にお互いが知性を持っていたとしても、お互いの間で交換可能な概念がなければコミュニケーションは成り立たないのではないか。
相手に人間と似たところがあれば問題なさそうだが、そう都合よくいくとも限らない。
何千年か何万年後かに、宇宙進出した人類が地球外生命に出会ったとしたら、それはどんなやつだろう?
案外、ソラリスの海みたいなわけのわからないやつのほうが、ありそうな気がするな。

■満足度
(10)

『この不思議な地球で』ウィリアム・ギブスン 他

2004年12月09日 | SF(海外)
■詳細
出版社:紀伊國屋書店
副題:世紀末SF傑作選
編者:巽孝之
発行年月:1996年2月
価格:2548円
ジャンル:SF/ポスト・サイバーパンク

■収録作品
「スキナーの部屋」ウィリアム・ギブスン
「われらが神経チェルノブイリ」ブルース・スターリング
「ロマンティック・ラヴ撲滅記」パット・マーフィー
「存在の大いなる連鎖」マシュー・ディケンズ
「秘儀」イアン・クリアーノ&ヒラリー・ウィースナー
「消えた少年たち」オースン・スコット・カード
「きみの話をしてくれないか」F・M・バズビー
「無原罪」ストーム・コンスタンティン
「アチュルの月に」エリザベス・ハンド
「火星からのメッセージ」J・G・バラード

■感想
1980年代以後の短編を収めたSFアンソロジー。
遺伝子工学やコンピュータサイエンスなどの先端科学を扱った作品や、ジェンダーをテーマにした作品が多かった。
各作品の冒頭に編者の解説がついているので、作品の時代背景が分かりやすい構成になっている。編者は親切にも、作品の舞台背景までちょこっと説明してくれているので、話のすじが大変とらえやすかった。
傑作ぞろいなのだが、特に気に入った作品をいくつか選んでみた。

「スキナーの部屋」
ギブスンといえばサイバーパンク。この作品は厳密にはサイバーパンクでないのかもしれないが、サイバーパンク的なクールなごちゃごちゃ感を前面に押し出した作品。
震災で倒壊したサンフランシスコ・ベイ・ブリッジ上に造られた自治区が舞台。橋を支える上部構造である支柱やケーブルに、コンテナをくっつけたりトレーラーハウスを吊り下げたりして人が住み、猥雑で混沌とした街を形成している。
そのイメージの奔放さと、格好のよさには舌を巻いた。

「われらが神経チェルノブイリ」
エイズ・ウィルスのRNA転写システムを利用した画期的な治療法が確立された未来。その技術を悪用する「遺伝子ハッカー」たちが起こした神経チェルノブイリという事件について書かれた『われらが神経チェルノブイリ』という架空の本への架空の書評、という大変まどろっこしい体裁でこの短編は語られる。
神経チェルノブイリ事件によって何が起こるのか、その着想が楽しかった。さらに、結局この事件が何を意味しているのかというラストの推測もよかった。

「秘儀」
四世紀のカッパドキアを舞台に、修道士ヨハネスが独自の世界観を見出す話。
たった11ページの掌編小説なので説明が難しいのだが、とてつもない快作のような気がする。
読者に認識の変容を迫るというSFの真髄を、たった11ページでしっかりと踏んでいるのだ。

「消えた少年たち」
同名の長編版でも知られる作品の、短編版。
家族愛をテーマにしたホラーといった感じだ。よくよく深く考えてみると、すごく怖い気がする。
引越ししてからというもの、作家の主人公の長男の様子がどうもおかしい。しだいに彼は架空の友達と遊ぶようになるのだが――という話。
アメリカでは児童失踪問題が深刻な時期に作品が発表されたらしく、物議をかもしたという。私には、それほどの問題作のようには見えないのだが、そこは文化と世代のギャップがあるせいだろうか。

「アチュルの月に」
編者の解説にサイボーグ・フェミニズムSFと書いてあるので、なんじゃそりゃーと思ったのだが。読んでみるとなるほど、サイボーグ・フェミニズムSFだ。そうとしか言いようがない。
性的玩具としてつくられた、鳥と人間を融合した遺伝子奴隷。宇宙ステーションに連れてこられた鳥人間に、主人公の少年が興味を抱くのだが――。
ジェンダーについてのみならず、遺伝子操作について思わず考えてしまう作品。イメージの濃密さと、ラストシーンの切なさが印象的だった。

■満足度
(6)