リアス式読書日記(仮)

本好きのマヨネぽん酢が、読んだ本の感想をのらりくらりと書きます。よろしく!

『人面町四丁目』北野勇作

2005年05月24日 | エンターテイメント小説全般
■詳細
出版社:角川ホラー文庫
発行年月:2004年7月
価格:580円
ジャンル:SF/ホラー

■感想
角川ホラー文庫から出ているけど、たぶんホラーじゃないんじゃないかなあ、なんて思いつつ読み始めたのだけど……。

この小説はタイトルにあるとおり、〈人面町〉という町を舞台にした連作短編集。
主人公の売れない作家が、奥さんの実家がある〈人面町〉という町で暮らしているのだ。
この〈人面町〉というのがヘンテコな町で、なんでもむかしは人面工場がたくさんあって、〈人面〉が大量生産されていたらしい。〈人面〉っていうのはなんだかよく分からないけど、いまでも工場はたくさん残っている。
そんなヘンテコな町だから、作家の日常も不可解なことだらけなのだった。

けっこうシュールな描写もでてくるけど、やっぱりホラーではないなあ。少なくとも、怖くてトイレにいけなくなるような本ではない。まあ、ホラーじゃないなら何なのかときかれても、困るけれど。
いずれにしろ、読んでいて不思議と懐かしさを覚える心地よい作品だった。

■満足度
(7)

『黄金旅風』飯嶋和一

2004年12月30日 | エンターテイメント小説全般
■詳細
出版社:小学館
発行年月:2004年4月
価格:1995円
ジャンル:歴史小説/江戸時代

■感想
「本の雑誌」の2005年1月号で、〈本の雑誌が選ぶ2004年度ベスト10〉という特集をやっていた。
『黄金旅風』は総合部門の4位、エンターテイメント部門の1位に選ばれた作品。
鎖国直前の長崎を舞台に、町民の暮らし向きを守るために尽くした男たちを描いた歴史小説だ。

とりあえず、ストーリーを少しを説明しておこう。
――長崎の末次家は、代々朱印船貿易で栄えていた。ところが二代目の末次平蔵の時代にオランダ東インド会社と悶着を起こしてしまい、オランダ貿易が断絶してしまう。さらに、同じく長崎の高木作右衛門の朱印船がイスパニア(スペイン)の船に焼き討ちされたこともあって、イスパニア、ポルトガル貿易も停滞していた。
一方、長崎奉行の竹中重義は野心家で、長崎町内で不正の限りを尽くす悪政を繰り広げていた。
この難局を打開しようとするのが、末次平蔵の息子の平左衛門。彼は父とは正反対のダメ息子であると町民に噂され、当主を継いだ際には「末次家もおしまいだ」とすら囁かれた。ところが実は平左衛門はダメ息子などではなく、父以上に貿易家としての資質を備えた傑物であった――。

この小説はとにかく、登場人物がかっこいいね。実にかっこいい。
主人公は末次平蔵なんだけど、物語は平蔵だけでなく多くの登場人物の視点で語られていく。その人物たち一人ひとりが実にかっこいいのだ。

まずは末次家の船大将、濱田彌兵衛。この人は海外渡航の経験に富んだ船乗りで、彌兵衛が船を出すと聞けば各地から腕のいい水夫たちがこぞって集まってくるほどだった。航海に出れば当主から貿易の全権を委ねられる人物で、アジア近海の情勢にも精通した視野の広さも持っている。
それから、火消組惣頭の平尾才助。この男は末次平左衛門と幼少のころからつるんでいて、手のつけられない悪童として長崎で恐れられていた。けれども、火消しの親分になってからは町民たちから慕われている。彼は剣術の腕前にも優れ、なおかつ漢籍も好む文武両道の人物だ。
鋳物師の平田真三郎も捨てがたい。彼は鋳物作りの達人で、昔ながらの蝋型鋳物という手法に熟達していた。この手法だと繊細な線を表現できる反面、量産がきかないために商業的には非効率なのだが、彼はあえて蝋型にこだわっているのだ。この人は口が利けないのだが、困っている人のためなら喜んで自分の鋳物作りの技を役立てようとする心意気がある。
そして、末次平左衛門。一番かっこいいね、この人は。それはきっと読めば分かるはず。

もちろん、登場人物の魅力を前面に押し出しただけの小説ではない。
徳川家がキリスト教の禁教と貿易統制の強化を図り、後に三代将軍家光が鎖国令をしくにいたる過程が分かりやすく詳細に描かれていると思う。
歴史小説や時代小説が好きな方にはおすすめの本。歴史小説が好きでなおかつ長崎に住んでいる、という人には特におすすめ。

■満足度
(6)