リアス式読書日記(仮)

本好きのマヨネぽん酢が、読んだ本の感想をのらりくらりと書きます。よろしく!

『クラゲの海に浮かぶ舟』北野勇作

2005年07月05日 | SF(国内)
■詳細
出版社:徳間デュアル文庫
発行年月:2001年9月
価格:620円
ジャンル:SF

■感想
北野勇作の傾向がだいたい読めてきたぞ。

その1、主人公の記憶があいまい。
その2、バイオテクノロジーの産物で、妙な生き物とか機械とかが出てくる。
その3、夢で見たような不条理な情景の連続。
その4、それでいて不思議な懐かしさと、切なさがある。

この『クラゲの海に浮かぶ舟』も、そんな北野勇作の不思議な味をそなえた長編小説。
あいまいな記憶の断片が徐々につながっていくような感覚などは、ハヤカワJコレクションで出た『どーなつ』によく似ている。どちらかといえば、『クラゲの海に浮かぶ舟』の方が分かりやすいかもしれないけど、両方とも面白い作品だと思う。

この作品の一番の読み所は、〈ぼく〉、〈君〉、〈機一郎〉という3人の登場人物の関係。
途中までつながりがよく分からなかったり、途中で誰が誰だか分からなくなったりしてとても楽しかった。

それにしても、北野勇作は何を読んでも面白い。
もはや北野勇作なしでは生きられないかも。

■満足度
(7)

『神狩り』山田正紀

2005年04月20日 | SF(国内)
■詳細
出版社:ハヤカワ文庫JA
発行年月:1976年11月
価格:504円
ジャンル:SF

■感想
タイトル通り、神を追い求める小説。

――弥生時代の石室から見つかった謎の〈古代文字〉。
情報工学の天才、島津圭介は石室の調査中に落盤事故に巻き込まれる。奇跡的に一命を取り留めた彼は、手元に残った写真から〈古代文字〉の解読にとりかかった。
やがて〈古代文字〉は人間には理解不可能な構造をもった、〈神〉の言語であることが明らかになる――。

言語の構造を解き明かしていく部分は、純粋に面白く読んだ。十三重の関係代名詞、2つしか存在しない論理記号……。このへんは、とてもわくわくする設定だと思う。
ただ、せっかく〈神〉と〈言語〉がテーマになっているのに、どうも硝煙の香りがするんだよなあ(笑)。話の展開がやたらと物騒なのだ。謎の組織とか、諜報機関とかよく出てくるし。主人公も絶えず拳銃を携帯しているし。
お話としてはもちろんそこが面白いのだけど、それじゃあ、けっきょく人間同士の争いじゃないかと思えてしまうんだよね。

とりあえず、『神狩り2 リッパー』に期待しとこ。

■満足度
(3)

『北野勇作どうぶつ図鑑』北野勇作

2005年04月08日 | SF(国内)
■詳細
出版社:ハヤカワ文庫JA
発行年月:2003年4月~6月
分冊:全6巻
価格:各441円
ジャンル:SF

■感想
「おりがみ付コンパクト文庫」という画期的なスタイルでびっくりぎょうてんの、北野勇作の短編集。
ぜんぶで6冊の文庫本からなりたっていて、そのなかには短編20本、ショートショート12本、どうぶつおりがみ6枚が収録されている。
おりがみはキリトリ線にそって切りとって、巻末の折りかたにしたがって折っていくとできあがる……はず(図書館で借りた本だから、折らなかったんだよね、ざんねん)。

北野勇作の小説がどんなかというと、なかなか妙な小説なんだな、これが。
なにか得体のしれないものがでてきたり、どこかで得体のしれないことが起こってるんだけど、それがなんなのかよく分からないんだから。
そんななんだかよく分からないものが、なんだかよく分からないまま話が進んでいくんだけど、いつのまにか、なんかよく分からんけどきっとこんな感じだろ、と、なぜかやたらと納得できるんだよね。いや、なかなか妙な話だよこれは。

さらに、得体のしれないお話なのに、やたらとほのぼのとしてるんだよね。
これも、考えてみたら妙な話だよなあ。言ってみれば、あきらかに非日常的な世界なのに、妙に日常感があるんだもんなあ。不思議なもんだ。

とにかく、北野勇作の小説は文章も読みやすいし、動物もたくさん出てきてなかなかお手軽なんじゃないかな。
しかもこの本にはおりがみもついてるし。
短編もSFっぽいもの、ホラーっぽいもの、幻想小説っぽいものとバラエティにとんでいるし。
北野勇作ファンのヒトにもそうでないヒトにもぜひ読んでみてほしい本だなあと、思ったりするんだよね。

■満足度
(8)

『銀河ネットワークで歌を歌ったクジラ』大原まり子

2004年12月18日 | SF(国内)
■詳細
出版社:ハヤカワ文庫JA
発行年月:1984年4月
価格:489円
ジャンル:SF

■収録作品
「銀河ネットワークで歌を歌ったクジラ」
「地球の森の精」
「愛しのレジナ」
「高橋家、翔ぶ」
「有楽町のカフェーで」
「薄幸の町で」

■感想 
大原まり子の多才な側面を見せてくれる、バラエティにとんだ短篇集。
「銀河ネットワークで~」や「愛しのレジナ」など未来を舞台にしたSFあり、「有楽町のカフェーで」や「薄幸の町で」のような現代を舞台にしたロマンスもある。
大原まり子の作風は、美しくロマンティックな小説を書く一方で、ときおりグロテスクで残酷な描写をさらっと書いてしまうのが特徴のように思う。この短篇集もとても読みやすくて分かりやすいものが多いのだが、「愛しのレジナ」だけは別物だ。この短篇だけは猟奇的で危険な香りがするので注意。

「銀河ネットワークで歌を歌ったクジラ」
――辺境の農園惑星フルフトバールに、サーカス団がやってきた。サーカスの呼び物は、クジラ。何世紀も生きており、莫大な知識を溜め込んだ、宇宙を飛行する能力さえ持つクジラだった。少年ジョシュアと、アイドル歌手の少女リガルデ・モアのふたりは、クジラと出会ってある計画を立てるのだが――。
読んだことがないのに、なぜか懐かしくなるノスタルジックな小説。そういえば、『ピノキオ』を思わせるシーンもあった。やっぱ、クジラといえば、ね。

「愛しのレジナ」
この短篇は仕掛けがばれると困るので、ストーリーを説明できないのが残念。
序盤に狩猟監督官の主人公が、エイの形をした空飛ぶマシンに乗って密猟者と戦うシーンがあって、てっきりアクションものかと思いきや事態は異常な様相を呈していく。本格的なミステリといってもいいかもしれない。
〈砂羊〉とか〈ドリーマー〉とか、ネーミングのセンスだけで読者にそれとなく分からせる切り詰めた描写は、SFの王道を行っている感じがした。コードウェイナー・スミスの大ファンの私としては、こういう書き方は嬉しい限り。

「有楽町のカフェーで」&「薄幸の町で」
このふたつは同じ人物が出てくる短篇。続き物というか、「有楽町の~」が「薄幸の町で」への布石になっている。
新人作家の内山敦彦と、恋人の小夜子。悲しくて、切ない恋人たちのお話。
とても読みやすくて、とっつきやすい話なのでおすすめ。

敦彦が小夜子に新宿駅のコインロッカーの鍵を渡される時に、「まさか、ベイビーズが出てきたりしないだろうね」と言ったのには笑った。私は、結構あの小説好きなんだけど。

■満足度
(5)

『針』浅暮三文

2004年12月09日 | SF(国内)
■詳細
出版社:早川書房/ハヤカワSFシリーズ Jコレクション
発行年月:2004年1月
価格:1890円
ジャンル:SF/ミステリ

■感想
原因不明の皮膚感覚の異常で、触覚が鋭敏になったプログラマーの話。
彼は触れることによって物の意思を感じ取れるようになる。物に触れることの快感に目覚めた彼は、まだ自分の知らない物に触れようと街をさまようのだが――。

アイデアは面白いと思うのだが、ちょっと長かった。
二段組みの400ページなので実際に長めなのだが、異常触角の描写がやたらと長いのでさらに長く感じた。正直、タウンページでも読み終えたような疲労感。もうちょっとあっさり書いてくれれば、よりスリリングで面白い小説になったのではと思う。

それから、アフリカのコーヒープラントの話がちょっと物足りない気がする。
これもアイデアは素晴らしいと思うのだが、いまひとつプログラマーの話との関連性が薄い気がする(リンクしてはいるのだが、そりゃあ物語なんてものは強引にリンクさせようと思えばいくらでもリンクするよね)。プログラマーの話が本編とするとこっちは挿話だが、もう少し本編に有機的に取り込んでほしかったな。

五感シリーズというのがこの作者のライフワークで、この触覚編のほかにも嗅覚・聴覚・視覚がそれぞれ出ているらしい。異常感覚を描くのが上手い作家だと思うので(この点に関しては文句なしだ)、そちらの本に期待か。

■満足度
(2)

『妻の帝国』佐藤哲也

2004年12月09日 | SF(国内)
■詳細
出版社:早川書房/ハヤカワSFシリーズ Jコレクション
発行年月:2002年6月
価格:1785円
ジャンル:SF

■感想
まず裏表紙の説明文に物騒なことが書いてあるけど、別に怪しい本ではないぞ。

この小説のキーとなるのは「民衆感覚」というもの。
真の民衆として覚醒した人間は「民衆感覚」を備える。「民衆感覚」とは、自然な状態で共有される民衆の意思である「一般意思」を、直感によって自覚する能力だ。
「民衆感覚」を持つということは、自ずと分かるということだ。
たとえば、民衆細胞としての自分の使命が直感によって自ずと分かる。あるいは、自分の前にいる誰かが仲間の民衆細胞なのか敵である個別分子なのか、直感によって自ずと分かるのだ……。
要するに、感覚を共有しているのだと考えていいかもしれない。なんだか分かりづらいが、それもこの小説を読めば自ずと分かるはずだ。

それでどんな話なのかというと。
主人公である「わたし」の妻の不由子は、「民衆感覚」という直感にもとづいた民衆国家を建設しようとしている。で、実際につくってしまう。とはいえもちろん一筋縄ではいかない。新体制に反発するもの、新体制を利用して権力を得ようとするものが出てくる。民衆国家の基盤は必ずしも磐石ではないのだ。
そして、最終的に不由子の民衆国家はどこへ向かうのか――。

読み所はめまぐるしく変化する体制だと思う。
物語は「わたし」と無道大義のふたりの視点で語られていくのだが、体制が変化することで彼らの状況や考え方も変わっていく。
民衆国家の行く末に目が話せないのと同時に、社会とは何かということを考えずにはいられなかった。
社会とは、人間関係とは難しいものだ。われわれは他人を理解しようとする努力を怠っていないだろうか。ひょっとしてわれわれは自分の内面を見て、他人を理解したつもりになっているのかもしれない。

■満足度
(4)

『象られた力』飛浩隆

2004年12月09日 | SF(国内)
■詳細
出版社:ハヤカワ文庫JA
発行年月:2004年9月
価格:777円
ジャンル:SF

■収録作品
「デュオ」
「呪界のほとり」
「夜と泥の」
「象られた力」

■感想
伝説の作家、飛浩隆の中短篇集。
お気に入りなので、収録作品の全部に感想を書こう。

「デュオ」
双子の天才ピアニスト、グラフェナウアー兄弟はなぜ殺されたのか?
デネス・グラフェナウアーと、クラウス・グラフェナウアーの兄弟はシャム双生児だった。腕を一本ずつしか持たない兄弟は、右手のパートをデネスが、左手のパートをクラウスが担当する。幼いころに聴力を失った彼らは、音を聞くことができない。
調律師のオガタ・イクオは、彼らの類まれな演奏に隠された秘密に迫ろうとするのだが――。
グラフェナウアー兄弟の演奏の秘密を主人公が解き明かしていくのだが、それが一筋縄ではいかない。ピアニスト兄弟の真相をめぐる推測が、めまぐるしく入れ替わる。
物語の結末が多段構造になっている、とでもいったらいいかな。
つまり、落ちが二段構えなのだ。二倍お得?

「呪界のほとり」
宇宙の基本的性質が異なる領域、呪界。人工生物の竜をつれて、呪界を自在に旅する主人公は、思いがけないミステイクで呪界の外の惑星に飛び出してしまうのだが――。
飛作品にはめずらしく、軽いのりのユーモラスな短編。ただ、軽めとはいえ物語の中で使われるSF的なアイデアはやはりすごい。
あいかわらず、落ちは二段構え。

「夜と泥の」
地球環境化した惑星を移民にリースする、〈リットン&ステインズビー協会〉。主人公が訪れた惑星は、人工知能を備えた四つの人工衛星によって地球化が行われた。だが、その星の〈ナクーン・デルタ〉と呼ばれる湿地帯に、必要以上の資源が投入されていることが分かった。
そして、夏至の夜に〈ナクーン〉起こる謎の現象との関連は――?
テラフォーミング(異星の地球環境化)をテーマにした作品。イメージの濃密さ、文章の美しさ。どれをとっても傑作だと思う。
いったい〈ナクーン〉で何が起こっているのか。それに対する推測が、やはり読むうちに二転三転させられてしまう。まるで騙し絵でも見ていたみたいに、ある瞬間に視点がぐるんと反転するのだ。
人類の宇宙進出の意義を考えさせられるテーマもよかった。

「象られた力」
惑星〈百合洋〉で使われていた図形言語における、〈見えない図形〉の解明を依頼されたクドウ。〈百合洋〉の図形は、見たものにある感情を引き起こす。どのような感情かは、図形によってそれぞれ異なっている。
〈百合洋〉はなぜ消失したのか。それは〈百合洋〉の図形と関係があるのか――。
表題作の中編。
図形言語というアイデアのみならず、ストーリーもよかった。
特に結末の語りは、最高にかっこいい。思わずしびれる。

■満足度
(9)