リアス式読書日記(仮)

本好きのマヨネぽん酢が、読んだ本の感想をのらりくらりと書きます。よろしく!

『恐竜物語』レイ・ブラッドベリ

2005年06月26日 | 幻想文学・ファンタジイ
■詳細
出版社:新潮文庫
原題:Dinosaur Tales
訳者:伊藤典夫
イラスト:ケネス・スミス/デイヴィッド・ウィースナー/
 ウィリアム・スタウト/オーヴァトン・ロイド/ステランコ/
 ゲイアン・ウィルスン/メビウス
発行年月:1984年12月
価格:462円
ジャンル:SF/幻想文学

■収録作品
「恐竜のほかに、大きくなったら何になりたい?」
「いかづちの音」
「見よ、気のいい、気まぐれな恐竜たちを」
「霧笛」
「もしもわたしが、恐竜は死んではいない、と言ったとしたら」
「ティラノサウルス・レックス」

■感想
ブラッドベリの作品に、一流アーティストの挿し絵を織り交ぜたお得な文庫本。
作品はどれも恐竜をテーマにしたもので、短編が四編、詩が二編収録されている。
裏表紙のあらすじには「愛蔵版恐竜SFコレクション」とか書いてあるけれど、SFというよりも幻想文学といったほうがしっくりくる内容なんじゃないかと思う。
いずれにしろ、ジャンルにとらわれないブラッドベリの短編集なのだ。
ノスタルジーがあり、優しさがあり、詩的なリズムがある。ブラッドベリの小説はそれだけで素晴らしい。

「恐竜のほかに、大きくなったら何になりたい?」
恐竜にあこがれる少年の話。こういう少年時代のノスタルジーを書かせたら、ブラッドベリは超一流。

「いかづちの音」
これはタイムトラベルもののSF。タイムマシンで恐竜を撃ちに行く。でも、過去への干渉を避けるためにいろいろと小細工を……、という話。「これがほんとの〈バタフライ効果〉か!」と思わず叫んでしまうラストだった。

「霧笛」
恐竜が灯台に恋をした!……という話。
この作品はなんといっても〈音〉の描写が素晴らしい。こういうのは、小説というジャンルでしかできない表現だろう。

■満足度
(5)

『クラウド・コレクター[手帖版]』クラフト・エヴィング商會

2005年04月18日 | 幻想文学・ファンタジイ
■詳細
出版社:ちくま文庫
副題:雲をつかむような話
発行年月:2004年4月
価格:998円
ジャンル:幻想文学/ファンタジイ

■感想
著者のクラフト・エヴィング商會とは、吉田浩美・吉田篤弘のユニットで、作家・デザイナーとして活動しているらしい。
本を書くだけでなく、ブックデザインや装丁も手がけちゃうなんて、世の中には多才なひとたちがいるもんだね。

それで、どんな本かというと。
――クラフト・エヴィング商會(作中にもこの商会が登場するのだ)の三代目が倉庫を整理していると、先代である祖父の残した珍奇な品々がたくさん出てきた。
「雲、売ります」と書かれた広告、不思議なラベルを貼られた21本の壜、ほかにも〈なんだかよく分からないものたち〉がたくさん……。
そして極め付きは、祖父愛用のトランクの隠しポケットから出てきた手帖。そこには、不思議な国〈アゾット〉に関する旅行記が、日記形式で記されていた――。

というわけで、先代の〈アゾット〉旅行記を三代目が読み解いていくわけ。
この本はお話としても面白いのだけど、なんといってもイラスト満載なのがうれしいところ。
たとえば、〈アゾット〉は21のエリアに分かれていて、そのエリアごとに〈ムーン・シャイナー〉とよばれる独自の蒸留酒をつくっている……、という設定なのだけど、その蒸留酒にそれぞれ貼られた素敵なラベルがすべて本の挿絵になっているわけ。
ほかにも、作中に出てくるパンフレットやらカードやらの図案がたくさん描かれていて、実に5ページに1ページくらいの割合で挿し絵なんじゃないかと思うほど(数えたわけじゃないので正確には分からないけど)。
また、ストーリーも仕掛けに満ちており、なかなかに深みがある。じつに贅沢な文庫本といえるんじゃないかな。

■満足度
(6)

『魔法の王国売ります!』テリー・ブルックス

2005年03月27日 | 幻想文学・ファンタジイ
■詳細
出版社:ハヤカワ文庫FT
シリーズ:ランドオーヴァー①
原題:Magic kingdom for sale-sold!
訳者:井辻朱美
発行年月:1989年5月
価格:693円
ジャンル:ファンタジイ

■感想
ファンタジイ小説の主人公って、だいたい十代の少年少女とか、せいぜい二十代の若者とかが多いよね。
ところが、この『魔法の王国売ります!』の主人公は三十九歳のオッサン。
ハードボイルドの主人公とかだったら適齢だと思うけど、ファンタジイだと正直年齢オーバーだろ。なんて思ったけど、その点は大丈夫。
このオッサン、魔法の国でも結構がんばるから。

それで、どんな話かというと。
――主人公のベンはシカゴに住む弁護士で、二年前に奥さんを亡くしてすっかり参っちゃっていた。そんなとき、デパートのチラシで「魔法の王国売ります!」という広告を発見。
普通だったらそんなの一笑に付すところだけど、ベンはかなり参っていたので、百万ドルをはたいて魔法の国の王権を買ってしまう。
そんなわけで彼は、魔法の国〈ランドオーヴァー〉の王さまになった。けれども売りに出されるくらいだからわけありで、王国は存亡の窮地に立たされていた。
はたしてベンは王国を立てなおして、〈ランドオーヴァー〉を救うことができるのか――。

ストーリーはわりとオーソドックスなのだけど、キャラクターは個性的。
魔法のコントロールがきかない、お茶目な宮廷魔術師クエスター。
誰かさんの魔法でイヌにされちゃった、皮肉屋の宮廷書記アバーナシイ。
この頼りなさそうなふたりが王の側近で、とてもいい味を出している。ほかの仲間たちも楽しいやつらばかりだし、敵のドラゴンや魔女なんかもキャラが立ちまくり。

ただ、お話の序盤と終盤の面白さにくらべて、中盤が少し失速した感じがするんだよね。でも、シリーズものの第一巻だし、続きが気になる世界観なので、もうちょっと読んでみないとトータルな面白さが分からないのかも。

■満足度
(4)

『ムントゥリャサ通りで』ミルチャ・エリアーデ

2005年01月23日 | 幻想文学・ファンタジイ
■詳細
出版社:法政大学出版局
訳者:直野敦
発行年月:1977年2月
価格:1029円
ジャンル:幻想文学

■感想
エリアーデは、ストーリーテラーだ。
とにかく話が上手いのだ。ストーリーを語るテクニックで、小説をぐいぐいと読ませてしまう。

例えば、時間軸をずらす手法。話が時間どおりに順を追って進んでいくのではなく、現在の話と過去の話を織り交ぜて物語を進めていく。
『ムントゥリャサ通りで』の場合は、秘密警察から尋問を受けるひとりの老人が、過去に起きたある少年の失踪事件の顛末について供述する、というスタイルでストーリーが進んでいく。
そうして、まるで過去の小さな断片をつなぎ合わせるようにして、見事にひとつの物語を構築してしまう。

また、多くの登場人物を描き分ける手際の鮮やかさ。
老人の話にはたくさんの人物たちが出てくる。しかも、老人の話が脇道にそれるたび、一見して不必要に思えるような人物が話に加わってくる。そして、それらの人物も話が進むうちに重要性を帯びてくるのだ。
このあたりはまるで現代の小説の手法を先取りしているようで、読んでいてまるで古さを感じさせなかった。

もちろん有名な幻想小説だけあって、作品の随所に幻想的なイメージが散りばめられている。特に前半で出てくる少年の失踪にまつわる秘儀的な示唆には、思わず引き込まれてしまう魅力があった。

ストーリー展開に息を呑みながら、幻想的な雰囲気に浸る――というのが正しいこの小説の楽しみ方なのではと思う。

■満足度
(7)

『見えない都市』イタロ・カルヴィーノ

2004年12月15日 | 幻想文学・ファンタジイ
■詳細
出版社:河出文庫
原題:Le Citta Invisibili
訳者:米川良夫
発行年月:2003年10月
価格:893円
ジャンル:イタリア文学/幻想文学

■感想
ヴェネツィア生まれの商人マルコ・ポーロが、訪れた空想都市の情景をフビライに報告するという形式の小説。
私は高校時代の世界史の授業は全部寝ていたため、ぜんぜん歴史に詳しくないのだけれども、それでもこの本を読むのに不都合はなかった。マルコ・ポーロは『東方見聞録』を書いた人で、フビライは「元」の皇帝だということだけ知っていれば大丈夫。

マルコがフビライに全部で55の都市の様子を語って聞かせるのだけれど、どれも実在の都市の話ではない。美しく幻想的で、不条理な、存在しない都市の話なのだ。
ひとつひとつの都市の章がたった2、3ページでとても短く、けれどもそれぞれが独立していてちゃんと完結している。そしてそれぞれの話に何か象徴するようなところがあって、なんだろうと深く考えているうちにはすでに次の都市に移っているという感じだった。

とらえどころがなくて、不思議な雰囲気を味わえる、まさに幻想小説というような作品。雰囲気だけでも十分に楽しめるし、巧妙な仕掛けを細かく読み解いていくのも面白いだろうと思う。
ただ、難しい漢字が多くて読むのが大変だった。
作品の時代設定や、マルコが皇帝に報告するという状況を考えて最適な文章になっているのだとは思う。じっさい古めかしい言葉遣いで厳かな雰囲気を上手く出している。気品のある詩的な文章はもちろん嫌いじゃないので、そこら辺に文句はないのだけれど。
せめて、ルビをふってくれれば……。

■満足度
(5)

『不思議の国のアリス』ルイス・キャロル

2004年12月10日 | 幻想文学・ファンタジイ
■詳細
出版社:角川文庫
原題:Alice's Adventures in Wonderland [Alice in Wonderland]
訳者:福島正実
イラスト:和田誠
発行年月:1975年8月
価格:357円
ジャンル:児童文学

■感想
いまさら『不思議の国のアリス』かよ~、とか言わないでね。
福島正実の名前に惹かれて、ついつい買ってしまったわけ。

この本は他にもいろいろな出版社から出ていて、それぞれ翻訳も違う。読み比べたわけではないのでなんともいえないけれど、この角川文庫版はどちらかというと大人向けだ。
『アリス』のような洒落がたくさん出てくる作品は、語呂合わせの表現が大切。
つまり、「私のもの(mine)」と「鉱山(mine)」をかけたような洒落を、どう日本語で表現するかということ。
これには別の日本語に置き換えて意味が通るようにする方法もあるけれど、福島訳では単純明快に英語のルビを振る方式を採用している。この点については批判的な意見もあるかもしれないが、原典をゆがめてしまうよりはずっとエレガントだと私は思う。

アリスのすごいところは、教訓めいたところがないということ。童話ではよく、やたらと子供に道徳観念をうえつけようとするような、説教じみたところがあるものだけど、この作品には特にそういうものはないのだ。そのかわりに、いい意味で理屈っぽいところがあるような気がした。
だからこの物語を通して作者が伝えたかったのは、道徳ではなくて論理的な考え方なのかもしれない。

それからこの本、挿し絵が素晴らしかった。そっけない絵に見えるけれど不思議な味わいがある。
一番のお気に入りは、アリスが紅鶴(フラミンゴ)を抱いている絵。
なんか、力が抜けるな~。

■満足度
(4)

『令嬢クリスティナ』ミルチャ・エリアーデ

2004年12月09日 | 幻想文学・ファンタジイ
■詳細
出版社:作品社
訳者:住谷春也
発行年月:1995年3月
価格:2247円
ジャンル:幻想文学

■感想
現代最高の宗教史学者であり、幻想小説を多く残した作家でもあるミルチャ・エリアーデ。
訳者あとがきによると、『令嬢クリスティナ』はエリアーデ文学において始めての幻想小説だそうだ。

貴族の館に滞在していた画家のエゴール。彼は屋敷の主人の娘サンダとちょっとした知り合いで、彼女の住む由緒あるお屋敷に泊まっていた。
ところが、どうも館の住人の様子がおかしいのだ。
まず、ふだんは病気で体調のすぐれないはずのモスク夫人。彼女は食事時には偏執的な食欲を見せ、また、とつぜん体調を取り戻したかと思うと憑かれたように古い詩を朗誦する。
そして、サンダの幼い妹シミナ。九つの少女らしからぬ大人びた言動を見せる彼女は、ときおり人形のように可愛らしい容貌の奥に冷酷な表情を覗かせるのだった……。
屋敷の住人たちは、1907年の大農民一揆で殺されたクリスティナ――モスク夫人の姉である――の絵を部屋に飾り、令嬢に対してなにか特別な感情を抱いている。クリスティナは近隣の農民の間では評判が悪く、彼女に関するおぞましい噂話さえささやかれていた。
そして、クリスティナの絵姿を見せられたその夜、エゴールの夢の中に、死んだはずのクリスティナが現れるのだった――。

中世ヨーロッパ的な、ゴシック式の雰囲気を味わえる小説だった。
いわくつきの貴族の屋敷に、うら若い令嬢の幽霊が……。なんて、いかにもそれらしい話で、物語に入っていきやすいと思う。
幽霊が出てくるのだけれど恐怖小説という感じではなく、むしろ決してかなわぬ恋を描いた美しい小説という感じ。初期の作品とはいえ幻想小説の大家エリアーデはさすがで、物語に散りばめられた伏線も巧み。イメージの美しさ、文体の美しさでも楽しませてくれる。
ルーマニアといえば吸血鬼の母国だが、この小説は特に吸血鬼が重要なテーマというわけではなさそうだ。

それから私は、登場人物のなかでシミナが一番怖かったな。そう思いながら読んでいたら、訳者あとがきにも同じことが書いてあった。やっぱり、これを読んだらみんなそう思うよね。

■満足度
(4)