リアス式読書日記(仮)

本好きのマヨネぽん酢が、読んだ本の感想をのらりくらりと書きます。よろしく!

勝手に決定! 2004年度ベスト本

2004年12月30日 | Weblog
2004年に出版された本の中から、個人的にベスト1を決めたいと思います。
本当はベスト10とか5とかにしたかったのですが、あまり本読んでないので何冊も挙げられないのです。『犬は勘定に入れません』も『万物理論』も読んでないですし。だから一冊にします。一冊くらいなら、無責任なことを書いても許されるかもしれないしね。
さて、『奇術師』にするか『黄金旅風』にするか……。迷うな。

よし、じゃあ『ソラリス』にしよう。

何を迷う必要があるんだ、クラクフの賢人スタニスワフ・レムの本があるじゃないか。
やっぱり一度翻訳されたものの改訳版とはいえ、これをベスト1にするのが一番落ち着きますね。
未知のものとの出会い、いや、未知かどうかすら分からないものとの出会いを描いた傑作です。まあ、宇宙には人間の価値観は当てはまらないってことですね。

■2004年度ベスト本
『ソラリス』スタニスワフ・レム

■限りなくベストに近い本
『奇術師』クリストファー・プリースト
『黄金旅風』飯嶋和一
『象られた力』飛浩隆

さて、来年も面白い本がたくさん出ることを願って。
よいお年を。

『黄金旅風』飯嶋和一

2004年12月30日 | エンターテイメント小説全般
■詳細
出版社:小学館
発行年月:2004年4月
価格:1995円
ジャンル:歴史小説/江戸時代

■感想
「本の雑誌」の2005年1月号で、〈本の雑誌が選ぶ2004年度ベスト10〉という特集をやっていた。
『黄金旅風』は総合部門の4位、エンターテイメント部門の1位に選ばれた作品。
鎖国直前の長崎を舞台に、町民の暮らし向きを守るために尽くした男たちを描いた歴史小説だ。

とりあえず、ストーリーを少しを説明しておこう。
――長崎の末次家は、代々朱印船貿易で栄えていた。ところが二代目の末次平蔵の時代にオランダ東インド会社と悶着を起こしてしまい、オランダ貿易が断絶してしまう。さらに、同じく長崎の高木作右衛門の朱印船がイスパニア(スペイン)の船に焼き討ちされたこともあって、イスパニア、ポルトガル貿易も停滞していた。
一方、長崎奉行の竹中重義は野心家で、長崎町内で不正の限りを尽くす悪政を繰り広げていた。
この難局を打開しようとするのが、末次平蔵の息子の平左衛門。彼は父とは正反対のダメ息子であると町民に噂され、当主を継いだ際には「末次家もおしまいだ」とすら囁かれた。ところが実は平左衛門はダメ息子などではなく、父以上に貿易家としての資質を備えた傑物であった――。

この小説はとにかく、登場人物がかっこいいね。実にかっこいい。
主人公は末次平蔵なんだけど、物語は平蔵だけでなく多くの登場人物の視点で語られていく。その人物たち一人ひとりが実にかっこいいのだ。

まずは末次家の船大将、濱田彌兵衛。この人は海外渡航の経験に富んだ船乗りで、彌兵衛が船を出すと聞けば各地から腕のいい水夫たちがこぞって集まってくるほどだった。航海に出れば当主から貿易の全権を委ねられる人物で、アジア近海の情勢にも精通した視野の広さも持っている。
それから、火消組惣頭の平尾才助。この男は末次平左衛門と幼少のころからつるんでいて、手のつけられない悪童として長崎で恐れられていた。けれども、火消しの親分になってからは町民たちから慕われている。彼は剣術の腕前にも優れ、なおかつ漢籍も好む文武両道の人物だ。
鋳物師の平田真三郎も捨てがたい。彼は鋳物作りの達人で、昔ながらの蝋型鋳物という手法に熟達していた。この手法だと繊細な線を表現できる反面、量産がきかないために商業的には非効率なのだが、彼はあえて蝋型にこだわっているのだ。この人は口が利けないのだが、困っている人のためなら喜んで自分の鋳物作りの技を役立てようとする心意気がある。
そして、末次平左衛門。一番かっこいいね、この人は。それはきっと読めば分かるはず。

もちろん、登場人物の魅力を前面に押し出しただけの小説ではない。
徳川家がキリスト教の禁教と貿易統制の強化を図り、後に三代将軍家光が鎖国令をしくにいたる過程が分かりやすく詳細に描かれていると思う。
歴史小説や時代小説が好きな方にはおすすめの本。歴史小説が好きでなおかつ長崎に住んでいる、という人には特におすすめ。

■満足度
(6)

2004年度ベスト本を決めてみようかな

2004年12月19日 | Weblog
今年ももう残すところあとわずか、なので、2004年に出版された本の中から個人的にベスト1を決めようと思います。
ベスト10とかベスト3とかじゃなくって、ベスト1なのです。たった一冊なのです。だって、順位とかつけるのも偉そうですし、悩みますし。というか、ベスト10とか挙げられるほど今年に出版された本読んでいないのでした。

まずは候補作。

『川の名前』川端裕人
『膚の下』神林長平
『ソラリス』スタニスワフ・レム
『奇術師』クリストファー・プリースト
『象られた力』飛浩隆
『スペシャリストの帽子』ケリー・リンク

『川の名前』は小学生の男の子三人組が、夏休みの課題で川の自然を観察する小説です。これはいい本ですよ。でも、HPとブログをつくる前に読んだので、思い切って候補から外そう。
同じ理由で、『膚の下』も外そう。これも、創造主をテーマにしたいい本なんですけどね。

それから、飛浩隆は私の一番好きな作家なので、あえて『象られた力』は外そう。やっぱり少しは客観的に決めなきゃね。好みは排除しなければなりません。

『ソラリス』は文句なしの名作なのですが……、一度違う翻訳で出版されているんですよね。だから、外します。それから『スペシャリストの帽子』はとても味のある短篇集なんですが、なんとなく外そう。適当? でも、この小説は私が誉めなくても、他の人がたくさん誉めてくれると思います。いい本ですよ。

さて、最後に残った『奇術師』が2004年度マイ・ベスト本……かと思いきや。いま読んでいる飯嶋和一『黄金旅風』という歴史小説が今年の本なのです。しかも、これもいい本なのでした。
なので、これを読んでから決めよう。『奇術師』と『黄金旅風』の一騎打ち!
大晦日までには決めようかな。それまでには、まだ何冊か今年出た本を読むかも知れませんし。

『銀河ネットワークで歌を歌ったクジラ』大原まり子

2004年12月18日 | SF(国内)
■詳細
出版社:ハヤカワ文庫JA
発行年月:1984年4月
価格:489円
ジャンル:SF

■収録作品
「銀河ネットワークで歌を歌ったクジラ」
「地球の森の精」
「愛しのレジナ」
「高橋家、翔ぶ」
「有楽町のカフェーで」
「薄幸の町で」

■感想 
大原まり子の多才な側面を見せてくれる、バラエティにとんだ短篇集。
「銀河ネットワークで~」や「愛しのレジナ」など未来を舞台にしたSFあり、「有楽町のカフェーで」や「薄幸の町で」のような現代を舞台にしたロマンスもある。
大原まり子の作風は、美しくロマンティックな小説を書く一方で、ときおりグロテスクで残酷な描写をさらっと書いてしまうのが特徴のように思う。この短篇集もとても読みやすくて分かりやすいものが多いのだが、「愛しのレジナ」だけは別物だ。この短篇だけは猟奇的で危険な香りがするので注意。

「銀河ネットワークで歌を歌ったクジラ」
――辺境の農園惑星フルフトバールに、サーカス団がやってきた。サーカスの呼び物は、クジラ。何世紀も生きており、莫大な知識を溜め込んだ、宇宙を飛行する能力さえ持つクジラだった。少年ジョシュアと、アイドル歌手の少女リガルデ・モアのふたりは、クジラと出会ってある計画を立てるのだが――。
読んだことがないのに、なぜか懐かしくなるノスタルジックな小説。そういえば、『ピノキオ』を思わせるシーンもあった。やっぱ、クジラといえば、ね。

「愛しのレジナ」
この短篇は仕掛けがばれると困るので、ストーリーを説明できないのが残念。
序盤に狩猟監督官の主人公が、エイの形をした空飛ぶマシンに乗って密猟者と戦うシーンがあって、てっきりアクションものかと思いきや事態は異常な様相を呈していく。本格的なミステリといってもいいかもしれない。
〈砂羊〉とか〈ドリーマー〉とか、ネーミングのセンスだけで読者にそれとなく分からせる切り詰めた描写は、SFの王道を行っている感じがした。コードウェイナー・スミスの大ファンの私としては、こういう書き方は嬉しい限り。

「有楽町のカフェーで」&「薄幸の町で」
このふたつは同じ人物が出てくる短篇。続き物というか、「有楽町の~」が「薄幸の町で」への布石になっている。
新人作家の内山敦彦と、恋人の小夜子。悲しくて、切ない恋人たちのお話。
とても読みやすくて、とっつきやすい話なのでおすすめ。

敦彦が小夜子に新宿駅のコインロッカーの鍵を渡される時に、「まさか、ベイビーズが出てきたりしないだろうね」と言ったのには笑った。私は、結構あの小説好きなんだけど。

■満足度
(5)

『見えない都市』イタロ・カルヴィーノ

2004年12月15日 | 幻想文学・ファンタジイ
■詳細
出版社:河出文庫
原題:Le Citta Invisibili
訳者:米川良夫
発行年月:2003年10月
価格:893円
ジャンル:イタリア文学/幻想文学

■感想
ヴェネツィア生まれの商人マルコ・ポーロが、訪れた空想都市の情景をフビライに報告するという形式の小説。
私は高校時代の世界史の授業は全部寝ていたため、ぜんぜん歴史に詳しくないのだけれども、それでもこの本を読むのに不都合はなかった。マルコ・ポーロは『東方見聞録』を書いた人で、フビライは「元」の皇帝だということだけ知っていれば大丈夫。

マルコがフビライに全部で55の都市の様子を語って聞かせるのだけれど、どれも実在の都市の話ではない。美しく幻想的で、不条理な、存在しない都市の話なのだ。
ひとつひとつの都市の章がたった2、3ページでとても短く、けれどもそれぞれが独立していてちゃんと完結している。そしてそれぞれの話に何か象徴するようなところがあって、なんだろうと深く考えているうちにはすでに次の都市に移っているという感じだった。

とらえどころがなくて、不思議な雰囲気を味わえる、まさに幻想小説というような作品。雰囲気だけでも十分に楽しめるし、巧妙な仕掛けを細かく読み解いていくのも面白いだろうと思う。
ただ、難しい漢字が多くて読むのが大変だった。
作品の時代設定や、マルコが皇帝に報告するという状況を考えて最適な文章になっているのだとは思う。じっさい古めかしい言葉遣いで厳かな雰囲気を上手く出している。気品のある詩的な文章はもちろん嫌いじゃないので、そこら辺に文句はないのだけれど。
せめて、ルビをふってくれれば……。

■満足度
(5)

『不思議の国のアリス』ルイス・キャロル

2004年12月10日 | 幻想文学・ファンタジイ
■詳細
出版社:角川文庫
原題:Alice's Adventures in Wonderland [Alice in Wonderland]
訳者:福島正実
イラスト:和田誠
発行年月:1975年8月
価格:357円
ジャンル:児童文学

■感想
いまさら『不思議の国のアリス』かよ~、とか言わないでね。
福島正実の名前に惹かれて、ついつい買ってしまったわけ。

この本は他にもいろいろな出版社から出ていて、それぞれ翻訳も違う。読み比べたわけではないのでなんともいえないけれど、この角川文庫版はどちらかというと大人向けだ。
『アリス』のような洒落がたくさん出てくる作品は、語呂合わせの表現が大切。
つまり、「私のもの(mine)」と「鉱山(mine)」をかけたような洒落を、どう日本語で表現するかということ。
これには別の日本語に置き換えて意味が通るようにする方法もあるけれど、福島訳では単純明快に英語のルビを振る方式を採用している。この点については批判的な意見もあるかもしれないが、原典をゆがめてしまうよりはずっとエレガントだと私は思う。

アリスのすごいところは、教訓めいたところがないということ。童話ではよく、やたらと子供に道徳観念をうえつけようとするような、説教じみたところがあるものだけど、この作品には特にそういうものはないのだ。そのかわりに、いい意味で理屈っぽいところがあるような気がした。
だからこの物語を通して作者が伝えたかったのは、道徳ではなくて論理的な考え方なのかもしれない。

それからこの本、挿し絵が素晴らしかった。そっけない絵に見えるけれど不思議な味わいがある。
一番のお気に入りは、アリスが紅鶴(フラミンゴ)を抱いている絵。
なんか、力が抜けるな~。

■満足度
(4)

『海を失った男』シオドア・スタージョン

2004年12月09日 | ジャンル分類不能な小説
■詳細
出版社:晶文社/晶文社ミステリ
編者:若島正
発行年月:2003年7月
価格:2625円
ジャンル:SF/ミステリ

■収録作品
「ミュージック」
「ビアンカの手」
「成熟」
「シジジイじゃない」
「三の法則」
「そして私のおそれはつのる」
「墓読み」
「海を失った男」

■感想
「晶文社ミステリ」というシリーズから出ている、シオドア・スタージョンの中短篇集。早川書房の「SFが読みたい! 2004年版」の海外篇で第三位に輝いた作品だ。
収録作品はどれも1940年代から50年代に発表されたもの。にもかかわらず、少しも古びていないところに驚かされる。
個人的には「三の法則」や「そして私のおそれはつのる」あたりも好きだが、なんといっても最後の「墓読み」と「海を失った男」が文句なしにすごい。想像力あふれる独自の作品群だけれど、その根底には力強い人間愛を感じた。
いくつか感想を。

「成熟」
工学・芸術など多分野に才能を発揮する天才だが、ホルモン障害のために精神が幼児期の状態にとどまっていたロビン。治療によって大人の精神を取り戻した彼は、人間にとって成熟とは何かということを探求していく――。
スタージョン版の「アルジャーノンに花束を」といった感じだろうか。
作中の人物たちが〈成熟〉について議論する場面が印象的だった。人間は成熟しきらないうちに死を迎える唯一の動物なのだという。そこで、真に成熟した人間とはどんなものだろうという話になる。
実際、私も成熟とはなんだろうと思わず考えてしまった。

「そして私のおそれはつのる」
ある老婦人の家に食料品を配達した18才の不良少年。彼の腕時計が盗品であることを老婦人に見抜かれ、盗んだ店に返してくるよう諭される。そこから、少年と婦人の奇妙な交流が始まるのだが――。
懐の深い作品。どうもただものでないらしい婦人が、主人公の少年に何かを教示しようとするのだが、それが何なのかは読めば分かるかもしれないし分からないかもしれない。
自分の気持ちを上手く言葉で表現できなかった少年が、婦人と関わりあうことで成長していく。そういう意味では成長物語かもしれない。あるいは愛を、善悪を、人間の歴史をめぐる物語なのだろうか。
ラストシーンも素敵でかっこよかった。

「墓読み」
短い作品なので内容は説明できないけれど、素晴らしいアイデアに思わず脱帽。
論理の展開がSF的で、極上のセンス・オブ・ワンダーを味わえる。
傑作。

「海を失った男」
これも短い作品なので内容は説明できない。というか、仮に短くなかったとしても私には説明不可能だ。
この「海を失った男」は人間ついて書かれた短編だ。いや、どうせなら人間たちについて書かれた短編といいたいな。

■満足度
(7)

『ソラリス』スタニスワフ・レム

2004年12月09日 | SF(海外)
■詳細
出版社:国書刊行会/スタニスワフ・レム・コレクション
原題:Solaris
訳者:沼野充義
発行年月:2004年9月
価格:2520円
ジャンル:SF

■感想
スタニスワフ・レムの古典的名作『Solaris』は、『ソラリスの陽のもとに』という邦題で長年親しまれてきた。
本書『ソラリス』はその新訳版で、旧『ソラリスの陽のもとに』での脱落箇所も補完されている。解説によると旧『ソラリスの陽のもとに』はロシア語版からの重訳だったため、検閲によって削除されていた点があったようだ。
本書はポーランド語版から直接に訳されており、それに伴ってタイトルもシンプルになったようだ。

――赤色と青色のふたつの太陽の周りを回っている、海におおわれた惑星ソラリス。
一見なんの変哲もないこの海が、実は高度な知性体だった。内部では複雑な数学的計算の会話が交わされ、自ら重力をコントロールして複雑な周回軌道を調整している。
ソラリスは長いあいだ学者たちによって研究対象とされてきたため、〈ソラリス学〉と呼ぶべき学問も出来上がっていた。けれども、肝心の本質的な部分が学者たちにも理解できずにいた。
結局のところ、ソラリスとは何者なのか? 宇宙の賢者なのか、それともかつて栄華を誇った知的生命の成れの果てなのか。
長年のあいだ意思疎通を図ろうとしてきた人類に対して、ソラリスの海はただ、かたくなに沈黙を守り続けている……。

ソラリスの海上を周回するステーションにやってきた心理学者のケルヴィンは、そこで異常な事態が起こっていることを知る。サイバネティクス学者スナウトの不可解な言動、自殺したらしい恩師のギバリャン、研究室に閉じこもってしまった物理学者のサルトリウス。いったいステーションで何が起こっているのか?
そして、船室で眠りから覚めたケルヴィンのもとへやってきたのは、十年前に地球で自殺したはずの恋人ハリーだった――。

『ソラリス』はいろいろな読み解き方のある、たいへん深みのある小説だ。
地球外生命との接触を描いたSFであり、取り返しのつかない過去の傷と向き合うロマンスであり、ステーションという閉鎖空間を舞台にしたスリラーですらある。
私は旧版を読んで以来、この作品は〈コンタクト〉をテーマにしたSFだと信じていた。新版を読み終えてもその認識はかわらなかったけれど、新たに『ソラリス』の奥深さに驚かされた気持ちでいっぱいだ。
ケルヴィンとハリーのロマンスは胸にぐっとくるものがあったし、ステーション内で起こる事件の謎解きも十分に面白かった。そういったメインテーマ以外の要素も、作品の魅力を形成するのに欠かせない部分だったのだと改めて思う。

『ソラリス』の描いたコンタクトの未来像は、他の作品にはない興味深いものがある。
――宇宙のどこかに知的な生命体が存在すると仮定して、人類が彼らと出会ったとしよう。
さて。そう簡単に意思の疎通ができるのだろうか? 仮にお互いが知性を持っていたとしても、お互いの間で交換可能な概念がなければコミュニケーションは成り立たないのではないか。
相手に人間と似たところがあれば問題なさそうだが、そう都合よくいくとも限らない。
何千年か何万年後かに、宇宙進出した人類が地球外生命に出会ったとしたら、それはどんなやつだろう?
案外、ソラリスの海みたいなわけのわからないやつのほうが、ありそうな気がするな。

■満足度
(10)

『令嬢クリスティナ』ミルチャ・エリアーデ

2004年12月09日 | 幻想文学・ファンタジイ
■詳細
出版社:作品社
訳者:住谷春也
発行年月:1995年3月
価格:2247円
ジャンル:幻想文学

■感想
現代最高の宗教史学者であり、幻想小説を多く残した作家でもあるミルチャ・エリアーデ。
訳者あとがきによると、『令嬢クリスティナ』はエリアーデ文学において始めての幻想小説だそうだ。

貴族の館に滞在していた画家のエゴール。彼は屋敷の主人の娘サンダとちょっとした知り合いで、彼女の住む由緒あるお屋敷に泊まっていた。
ところが、どうも館の住人の様子がおかしいのだ。
まず、ふだんは病気で体調のすぐれないはずのモスク夫人。彼女は食事時には偏執的な食欲を見せ、また、とつぜん体調を取り戻したかと思うと憑かれたように古い詩を朗誦する。
そして、サンダの幼い妹シミナ。九つの少女らしからぬ大人びた言動を見せる彼女は、ときおり人形のように可愛らしい容貌の奥に冷酷な表情を覗かせるのだった……。
屋敷の住人たちは、1907年の大農民一揆で殺されたクリスティナ――モスク夫人の姉である――の絵を部屋に飾り、令嬢に対してなにか特別な感情を抱いている。クリスティナは近隣の農民の間では評判が悪く、彼女に関するおぞましい噂話さえささやかれていた。
そして、クリスティナの絵姿を見せられたその夜、エゴールの夢の中に、死んだはずのクリスティナが現れるのだった――。

中世ヨーロッパ的な、ゴシック式の雰囲気を味わえる小説だった。
いわくつきの貴族の屋敷に、うら若い令嬢の幽霊が……。なんて、いかにもそれらしい話で、物語に入っていきやすいと思う。
幽霊が出てくるのだけれど恐怖小説という感じではなく、むしろ決してかなわぬ恋を描いた美しい小説という感じ。初期の作品とはいえ幻想小説の大家エリアーデはさすがで、物語に散りばめられた伏線も巧み。イメージの美しさ、文体の美しさでも楽しませてくれる。
ルーマニアといえば吸血鬼の母国だが、この小説は特に吸血鬼が重要なテーマというわけではなさそうだ。

それから私は、登場人物のなかでシミナが一番怖かったな。そう思いながら読んでいたら、訳者あとがきにも同じことが書いてあった。やっぱり、これを読んだらみんなそう思うよね。

■満足度
(4)