音次郎の夏炉冬扇

思ふこと考えること感じることを、徒然なるままに綴ります。

露鵬事件について

2006-07-20 01:37:31 | スポーツ
先の三連休は久しぶりにじっくり相撲を観ました。問題の7日目(土曜日)は結構盛りだくさんの内容でしたが、やはり露鵬の事件について触れないわけにはいきません。4日経って処分が明けた今も、何となく釈然としないものが残ります。既に多くの報道や論考がなされているものの、外野からは事実関係がわからないことが多く、処分の妥当性を判断する材料が乏しいのです。

問題の一番をTV観戦した限りでは、千代大海が押し出した後に、わざわざ土俵下ににじり寄って「何だこら!」と露鵬を威嚇したように見えます。これは相撲のコモンセンスからすると立派にイエローカードなのですね。勝負が決した後に、ことさらにガッツポーズしたり、相手を貶めるような行為は相撲道に反するのです。では、千代大海がその行為に及んだ原因とされているのは何かといえば、立ち合いが合わなかったのと、張り手をかまされたことだと見られています。しかし、立ち合いは両者の呼吸の問題であり、むしろ突っかけたのは千代大海の方。番付上位に張り手を見舞うのは非礼という意見もありますが、それをやってはいけないという決まりなど何処にもない。つまり、最初に事を起こしたのは明らかに千代大海なんです。にもかかわらず、大関にはオフィシャルなお咎めはなしで、九重親方から口頭で短い注意があったのみのようです。この辺が腑に落ちないんですね。

単純に喧嘩両成敗ともいえないのは、ジダンVSマテラッツィもそうですが、当事者にしかわからない部分もあるかも知れないということです。そもそも含むところがあったのか、土俵外での伏線が存在したか、張り手にしてもプロにしかわからない「えげつない張り手」だったのか・・・。この辺りの事情は両者が語らない以上、藪の中なんです。

16日の産経新聞の記事によれば、露鵬は取組後に風呂場で千代大海と顔を合わせた際、「これからも頑張りましょう」と声をかけたところ、千代大海が無言で黙殺したといいます。たしかにこの和解の申し入れ方は間の抜けた感じがして微妙なところです。日本人力士なら、相手は番付上位ですから、とりあえず「すみません」とでも言ったのでしょうが、この辺の日本語の機微や処世術というのは、非常に難易度が高いので、外国人にそれを求めるのは酷なのかなあと思ったりもします。誰かが教えてあげないと。露鵬からすると、自分は特に悪いことはしていないので、ストレートにアイム・ソーリーというのも抵抗があるが、物議を醸したのは事実なので、「今後ともご鞭撻よろしくお願いします」というニュアンスで歩み寄ったのだと思います。近くにいた人のアドバイスもあったかもしれません。カメラマンとの接触が風呂場に行く前だったのか、後だったのかがわかりませんが、ここでこのような対応を受けたことが、のちの「暴行」につながったような気がしてなりません。

若手の所作で至らない点があれば、言葉で諭すことはできなかったのでしょうか。もし身体でわからせようというのであれば、場所後の夏巡業の稽古で、存分に「可愛がって」やればいい。30過ぎて8年も大関を張っている協会の看板力士が、取組直後の衆人環視の土俵下で口に出して相手を威嚇したり、あからさまに無視するというようなチャイルディッシュな振る舞いにより、入門前のツッパリ時代をファンに想起させてしまうのは、何とも情けない。自らの地位に加えて、九重部屋は大部屋で、親方は審判部長という要職と現役時代の実績ゆえに政治力も小さくない。圧倒的に強い立場にあるわけです。対する露鵬の師匠である大嶽親方(元貴闘力)は大鵬から部屋を継いで日が浅いぺーぺーです。しつけの問題は半分以上親方の責任とすれば、九重親方が不問に付されるのも釈然としません。優勝争いをしている大海を守ろうという政治的な力学が働いたかも知れませんが・・・。

そして問題のカメラマンへの「暴行」ですが、これもまたブラックボックスなんですね。事件後、北の湖理事長が「取材方法にも問題があった」とコメントしたことにより、毎日新聞が反発しました。これだけ読むと、巨人軍の広報のスタンスではありませんが、日頃メディアから厚遇された親方日の丸の相撲協会の驕りと受け取る向きもありましょうが、北の湖理事長は非常に思慮深い性格なので、先のコメントも何らかの目撃情報を得た上での発言である可能性が高い。一方のマスコミ業界はギルド社会ですから、身内の粗相については極めて甘い体質があります。かなり強引にカメラを向けたものを払いのけた末の事故だった可能性も否定できませんが、当然ながらそういうことは一切報道されないのですね。まあ、もちろん力士は怪力ですから、振る舞いに細心の注意を払わなければならないのですが。

さて、本日の復帰戦は快勝した露鵬ですが、今回の処分は妥当だったのでしょうか? 露鵬は実弟の白露山が北の湖部屋に入門したために、大嶽部屋所属になったのですが、当初は北の湖部屋に一時預かりのような形になっていた時期もあると聞きます。理事長にとって他人の気がしなかったでしょうから、裁定には相当苦慮したと思われます。ただ、一方の大嶽親方が「これくらいの軽い処分で済ませていただき、ありがたく思っています」と語っており、他の親方衆からも、処分が甘いという批判が出ているようです。

しかし、個人的な意見ですが、私は幕内力士にとって3日間の出場停止というペナルティーが、決して軽いとは思いません。7日目まで4勝3敗だった露鵬は、停止明けを3勝2敗で乗り切ったとしても負け越してしまいます。特に幕内上位の位置にいて、ほぼ横綱・大関との対戦を終えている状況ですから、終盤は星の稼ぎ時なわけです。相撲は個人競技であり、星勘定は収入に直結しますから、プロ野球選手の出場停止処分とは意味合いが違うんです。

翌日の中継は、向こう正面の解説が竹縄親方(元関脇・琴錦)でした。メイン解説の毒舌でなる北の富士氏が「いやー、とてもわかりやすくて、つい聞き惚れてしまいました」と誉め殺すのを聞いて、ちょっとびっくりしましたが、よく考えるとこれも合点がいきます。滑稽本さんのエントリーでは、「怪しい教材を売り歩くセールスマンみたい」「怪しいカリスマ予備校講師みたいなしゃべりっぷり」「怪しげな自己啓発セミナーのスピーカーのような」(言い得て妙、座布団3枚!)とおちょくられてはいますが、そのトークはなかなか軽妙なものがあります。好事家にしてみれば軽すぎると思われるかもしれませんが、ファンのすそ野を広げるためにも、スポーツにはフレッシュな語り部は必要です。竹縄親方自身は関脇止まりなのに幕内最高優勝2回と稀有な戦歴の持ち主で、現役時代から顔が広く、現在は人気上位力士を擁する佐渡ヶ嶽部屋の部屋付き親方という絶好のポジションにいますから、インサイダー情報もふんだんに持っているはずです。年齢的にも現場に近いですし。そこで、角界挙げて、このしゃべり手を売り出そうとしていると見た方がよさそうです。

ほら、隠居した親方だって、こうやって同業の次世代を担う若手の後押しをしているのです。千代大海にもその辺、もっと自覚してもらいたいものです。


コメント (5)    この記事についてブログを書く
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 方言あれこれ | トップ | 大相撲名古屋場所雑感 »
最新の画像もっと見る

5 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
お詳しいですね (すみれ)
2006-07-20 09:26:05
こんにちは。

私も相撲を見るのは好きなので、興味深く読ませていただきました。

もっともこの出来事については、ちらっと聞いただけで知ろうともしていなかったので、こんなに深く考察される音次郎さんに敬服いたします。

どこの世界でも人とのかかわりは難しいものですね。
Unknown (ソクラテス)
2006-07-20 22:54:07
 かつて10年前兄弟対決や曙に対する八百長疑惑など、そういう相撲界を盛り上げるために協会上層部による無言の圧力(暗黙の了解)などありましたが、最近相撲界はガチンコ勝負が多いうような。



 熱くなりすぎることもあると思いますが、土俵外に出ても、ああいう態度をとるのはNGですね。
コメントありがとうございます。 (音次郎)
2006-07-22 01:06:58
>すみれさん、いつもありがとうございます。

最近の大相撲はなかなか面白くなってきましたよ。来場所もウオッチしていきます。



>ソクラテスさん、いらっしゃいませ。

たしかに、格闘技特に肌を合わせる相撲は、勝負の時は獣になるからこそ、前後は礼節を重んじようといわれますものね。
Unknown (オムリン)
2008-09-05 11:14:50
今回の大麻疑惑の際に,案の定,露鵬の過去の件が報道されていましたので,検索した結果このすばらしいブログの洞察にたどりつきました.

私も千代大海が処分されなかったことを不可解に思っていました.
指摘のとおりカメラマンにも非があった可能性はありますね.
少しでも疑いがある対象をこれでもかと追い回すマスコミの不快さや非礼さが問題とされないのは,マスコミの閉鎖性なのでしょう.

国際化ということも考えさせられます.
マスコミの外国人たたきの偏向した報道が多いと感じますが,そうした外国人たたきが「売れる記事」になる読者あってのことなのでしょう.

露鵬兄弟の大麻問題での潔白とマスコミや大西委員の謝罪を期待しています.後者は無理かな???

大西はひどいね.軽率なマスコミも.松本サリンを思いだした.
コメントありがとうございました。 (音次郎)
2008-09-07 19:25:02
>オムリンさん、ご訪問ありがとうございます。
だいぶ前のエントリーなので、書いたことを忘れていました。朝青龍のときの高砂親方の能天気さもそうですが、今回の北の湖理事長がこの渦中で平然とサウナに行くズレ加減もなんか微笑ましい。。

コメントを投稿

スポーツ」カテゴリの最新記事