NEST OF BLUESMANIA

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音曲日誌「一日一曲」#429 ザ・ゾンビーズ「Time Of The Season」(CBS)

2024-06-08 07:40:00 | Weblog
2024年6月8日(土)

#429 ザ・ゾンビーズ「Time Of The Season」(CBS)




ザ・ゾンビーズ、1968年4月リリースのシングル・ヒット曲。メンバーのロッド・アージェントの作品。彼ら自身によるプロデュース。セカンド・アルバム「Odessey And Oracle」に収録。

英国のロック・バンド、ザ・ゾンビーズは1961年、ハートフォード州セント・アルバーンズにて結成。当初はザ・マスタングスとする予定だったが、既に同名のバンドがいたため、このユニークな名になったという。

メンバーはキーボード、ボーカルのロッド・アージェントを中心に、ボーカルのコリン・ブランストーン、ギターのポール・アトキンスン、ベースのクリス・ホワイト、ドラムスのヒュー・グランディの5人。

ローカルバンドのひとつに過ぎなかった彼らの、メジャーデビューのきっかけとなったのは、64年イブニング・ニュース紙のバンド・コンテストでの優勝である。デッカレーベルと契約、同年7月、シングル「She’s Not There」でデビュー。

これが本国で12位のヒットとなっただけでなく、ブリティッシュ・インベイジョンの全盛期ということもあって米国でも火がつき、全米2位の大ヒットとなったのだ。日本でもオリコン1位。ゾンビーズは一躍、世界的な人気バンドとしてクローズアップされたのである。

64年末にリリースしたサード・シングル「Tell Her No」も全米6位のヒット。本国では42位と、明らかに米国人気の方が先行していた。65年1月に米国で、4月に英語で、それぞれ別内容のファースト・アルバムをリリース。

66年から67年にかけてはヒットに恵まれず、その間はアルバムをリリースすることもなかった。

そのため、ゾンビーズはすっかりピークを過ぎた過去のバンドだと思われていたのだが、68年3月にシングル曲をリリースして、のちに久しぶりの大ヒットとなる。それが、本日取り上げた「Time Of The Season(邦題・ふたりのシーズン)」である。

この曲はすぐには火がつかず、続いて4月にセカンド・アルバム「Odessey And Oracle」をリリースしたのだが、これも不発に終わってしまう。

このアルバムは、デッカから契約を切られてしまったため、彼ら自身が制作費用を調達した。メロトロンを導入してサウンドをアップデートするなど意欲作であったが、制作中にバンド内の人間関係が悪化して、なんとアルバムリリース後にバンドは解散してしまう。

この最悪の状況を救ったのは、CBSのスタッフ・プロデューサー、アル・クーパーであった。彼の進言により、米国限定で「Time Of The Season」と別曲をカップリングしたシングルを、65年3月に再度リリースしたのである。

これが見事に成功、全米3位の大ヒットとなった。まさに起死回生の一打であった。

これを見てレコード会社はバンドに再結成を強く要請したのはもちろんだが、リーダー格のアージェントの意志は固く、その要請を拒否して、ゾンビーズは再び蘇ることはなかった。

ゾンビだから復活するかと思いきや、実に皮肉な話である。

ビッグチャンスを掴んでデビュー、即ヒット・メーカーとなったものの、すぐにブームが去ってしまい、ジリ貧に陥ったゾンビーズ。それでも実力を蓄えて、いま一度のヒットを狙うも、叶わず。すっかり夢を諦めて、ミュージック・シーンを去った後に、ひょんなことで逆転ホームラン。なんとも波乱万丈なバンド・ヒストリーであった。

ゾンビーズのサウンドは、いわゆるソフト・ロックにカテゴライズされているが、その一番の魅力は、転調をうまく配した、少し捻りのあるメロディ・ラインだと思う。

デビュー曲の「She’s Not There」、「Tell Her No」、「Time Of The Season」、どれもギター・ロック系のバンドにはない、キーボーディスト、ロッド・アージェントならではの洒落たメロディ・センスが感じられる。

日本でもグループ・サウンズが彼らの甘くメロディアスなサウンドを強く支持しており、中でもザ・カーナビーツが「I Love You」を「好きさ好きさ好きさ」のタイトルでカバーして大ヒットさせたことで、ご存じの方も多いことだろう。

「Time Of The Season」は過去のゾンビーズのビート・グループ的なサウンドと、60年代後半のサイケデリックでアヴァンギャルドなサウンドがうまく融合した名曲だと思う。

少し大袈裟にいうならば、この一曲を生み出したことにより、ゾンビーズは単なるポップ・バンドを脱して、アーティストへと脱皮したのだ。

その後、ロッド・アージェントは69年に自分の名を冠したバンド「アージェント」を作り、76年まで活動している。ボーカルのコリン・ブランストーンはソロ・シンガーとなっている。そして、2004年にふたりは再びザ・ゾンビーズの名で合流して、活動を続けている。2019年にはロックの殿堂入りも果たした。

独特のメロディ・センスとキーボード・サウンド。あまたのブリット・ポップとはひと味違う、ザ・ゾンビーズの最高傑作を楽しんでくれ。

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