2024年6月22日(土)
#443 リンダ・ロンシュタット「You’re No Good」(Capitol)
#443 リンダ・ロンシュタット「You’re No Good」(Capitol)
リンダ・ロンシュタット、1974年11月リリースのシングル・ヒット曲。クリント・バラード・ジュニアの作品。ピーター・アッシャーによるプロデュース。
米国の女性シンガー、リンダ・ロンシュタットは1946年7月、アリゾナ州ツーソン生まれ。ロンシュタットという姓はドイツ系だが、他にメキシコ、英国、オランダの血を引いている。父親が元シンガーだったこともあり、歌好きな音楽一家だった。
10代半ば、60年代のフォーク・ブームに影響を受け、ジョーン・バエズに憧れて、兄姉とのトリオでコーヒーハウスなどで歌い始める。ツーソンのフォークシンガー、ボビー・キンメル(40年生まれ)に才能を認められ、65年、彼に誘われてカリフォルニア州ロサンゼルスへ移住する。
ロンシュタットはLAでキンメル、ケニー・エドワーズと共にフォーク・グループ、ザ・ストーン・ポニーズを結成する。このグループでキャピトルレーベルと契約して、67年1月にレコードデビュー。
同年6月リリースしたセカンド・アルバムからのシングル「Different Drum」(邦題・悲しきロックビート)が全米13位のヒットとなる。
この曲はモンキーズのマイク・ネスミスの作品で、彼らのテレビショーで放映されたもののカバー・バージョンだ。ロンシュタットのボーカルに、スタジオ・ミュージシャンのみでレコーディングされており、実質的には彼女のソロ作品だった。
まったく無名のグループの楽曲がヒットしたのは、まずは元の楽曲の良さと知名度、そしてロンシュタットの新人らしからぬ高い歌唱力によったものと言える。
この後彼女は、多くのカバー・ヒットを持つことになるが、それはこの曲が初ヒットとなった時点で、既に運命づけられていたということになるだろう。
このヒットにより、音楽業界からの注目も集まるが、グループとしてというよりは、その中心にいて華のあったロンシュタットにもっぱら関心が集中したのは言うまでもない。
伸びやかな歌声、美形ではないが野性味を感じさせるチャーミングなルックス。時代がまさに彼女を必要としていたのだ。
翌68年リリースされたサード・アルバムは実質的に彼女のソロ作になった。その制作中にグループは消滅してしまったのだ。
その流れでソロとしてのデビューもすんなりと決まった。69年3月にアルバム「Hand Sown…Home Grown」をチップ・ダグラスのプロデュースによりリリース。
このアルバムではロンシュタット自身は曲を作らず、ボブ・ディラン、ランディ・ニューマンら他のアーティストのカバー曲を歌っている。この時、彼女は22歳であった。
初アルバムはチャートインさえしなかったものの、セカンド(70年4月)、サード(72年1月)、4th(73年10月)とリリースを重ねていくうちに、チャートランクが上がっていく。
長い雌伏の期間を経て、ついに大ブレイクしたのは、ソロ・デビューして約5年半が経った74年11月であった。
ロンシュタットは前作にして4rhアルバム「Don’t Cry Now」の途中から、担当プロデューサーが変わっている。
レコードプロデューサーのジョン・ボイラン、そしてその後、プライベートでは交際もしていたシンガー・ソングライターのJ・D・サウザーが制作担当をしていたのだが、これが昨日も取り上げたピーター・アンド・ゴードンの片割れ、ピーター・アッシャーに変わったのである。
アッシャーの元で次作の「Heart Like a Wheel」も作られたわけだが、これがロンシュタットに大きな成功をもたらした。
アルバムリリースと同時にシングルカットされた一曲が、それまでの全てのソロ・シングルを抜いて(最高位は1970年リリースの「Long, Long Time」で全米25位だった)、全米1位に輝いた。
それが本日取り上げた「You’re No Good」(邦題・悪いあなた)である。
本曲はもともと1963年に作られて、黒人女性ソウルシンガー、ディー・ディー・ワーウィックによりリリースされたソウル・ナンバーである。全米117位にチャートインしている。
作者のクリント・バラード・ジュニアはシンガーソングライターで、ウェイン・フォンタナの大ヒット曲「Game of Love」(65年)も彼が書いている。
またワーウィック(1942年生まれ)は、その名で分かるようにディオンヌ・ワーウィック(1940年生まれ)の実妹であり、姉を追うかたちでデビュー、「I Want to Be With You」(66年)のヒットがある。
ワーウィックのバージョンをさっそくカバーして同年11月にシングル・リリースしたのが、同じく女性ソウルシンガーのベティ・エベレット(1939年生まれ)だ。これが見事ヒットして、全米51位となった。
両者を聴き比べてみると、ワーウィックの方はいささか野太く、大味な感じであるのに対して、エベレットの方は繊細でよりチャーミングである。後者がより多くのリスナーにウケたのも、納得である。
そして、ロンシュタットによる74年の再度のカバーも、どちらかといえばエベレット・バージョンの方を意識しているように感じられる。
レコーディングはLAのサウンド・ファクトリーにて行われた。メンバーは以下の通り。ギター、エレクトリック・ピアノ、ドラムス、パーカッションのアンドリュー・ゴールド、ギターのエディ・ブラック、ベースのケニー・エドワーズ、コーラスのクライディ・キング、シャーリー・マシューズ、そしてストリングス(アレンジはグレゴリー・ローズ)。
実力派揃いのバッキング・ミュージシャンを従えて、ロンシュタットはスローなテンポで貫禄たっぷりに、この曲を歌い切った。
このヘビーなアレンジは、実は当初のアイデアではなかったと言う。本採用されたテイクの数日前に、別のメンバーで録音された本曲は、ずっとテンポの速いものだった。と言うのは、録音より前からライブでこの曲をレパートリーとしており、そのスタイルで録ろうとしたのだ。
しかしあえてそれを没にして、新たなテイクを録って、世に出した。それが結果的に功を奏したのである。
もし、この曲がその従来のライブ・スタイルのままリリースされていたら、これほどのヒットになったとは思えない。やはり、この「重たさ」こそが、曲の歌詞内容とうまくシンクロして、リスナーの心にグッと来るのである。
不実なダメ男と関わってしまい、疲弊してしまった女の感情をこれほどシンプルかつストレートに描いた曲はそうない。
ストリングスやギターソロ、アカペラ部分も含めて、完璧なアレンジが素晴らしいが、何よりもロンシュタットの表現力がピカイチだ。
彼女くらい切ない気持ちを歌えるシンガーは、アメリカン・ミュージック・シーン広しといえど、滅多に見掛けない。
ひとの曲、自分の曲とか関係なく、すべての楽曲に最もふさわしい表現を与えることの出来るシンガー、リング・ロンシュタットこそは至高のディーバである。彼女の魅力のすべてが詰まった佳曲、聴くべし。