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音曲日誌「一日一曲」#428 アレサ・フランクリン「Today I Sing The Blues」(Columbia)

2024-06-07 07:48:00 | Weblog
2024年6月7日(金)

#428 アレサ・フランクリン「Today I Sing The Blues」(Columbia)





アレサ・フランクリン、1960年10月リリースのシングル・ヒット曲。カーティス・ルイスの作品。ジョン・ハモンドによるプロデュース。

米国の女性シンガー、アレサ・フランクリンについては過去に2回取り上げたが、まだまだ書き足りないので、三たびピックアップしてみたい。

アレサ・ルイーズ・フランクリンは1942年テネシー州メンフィス生まれ。10代より、父親が牧師をつとめていたミシガン湖デトロイトの教会でゴスペルを歌うようになったのが、彼女の音楽の原点だった。

父は著名なゴスペル・シンガーでもあり、フランクリン家にはサム・クック、マーヴィン・ゲイら多くのミュージシャンが出入りしていた。アレサも彼らに刺激を受け、父のマネジメントのもと、若くしてレコードデビューする。56年には初のシングル「Never Grow Old」をリリース。

18歳となった60年、ニューヨークに移住、ポップ・ミュージックの世界に飛び込む。同年コロムビアレーベルと契約。

同年8月、黒人ソングライター、カーティス・ルイス(1918年生まれ)が48年に書き、女性ブルースシンガー、ヘレン・ヒュームズによってヒットした曲をレコーディングする。

そうして9月にシングルリリースされたのが、本日取り上げた一曲「Today I Sing The Blues」である。つまり、アレサのメジャー・デビュー曲だ。

本曲はR&Bチャートで10位のスマッシュ・ヒットとなっただけでなく、全米チャートでも101位となり、アレサは新人黒人女性シンガーとして、白人リスナーにもその名を知られるようになったのだ。

その後、彼女は本欄で以前取り上げた「Won’t Be Long」を12月にリリース、R&Bチャート7位、全米76位とさらにランクアップ、人気シンガーとしての道を歩み出す。

翌61年2月には、ジャズ・ピアニスト、レイ・ブライアントのコンボと共演したデビュー・アルバム「Aretha」をリリースした。このアルバムには、前述のシングル2曲がもちろん収録されており、他にはジャズ・スタンダードが多く含まれていた。

つまり、後に「ソウルの女王」と称されたアレサも、メジャー・デビュー当時には、ちょっと意外だが、ジャズ・シンガー的な売り方をされていたのである。

デビューアルバム、そして62年3月リリースのセカンド・アルバム「The Elecrifying Aretha Franklin」までは、その路線が続いて、セールスは極めて地味であった。アルバムが全米チャートインするのは、サード・アルバム以降である。

さて、このデビュー曲「Today I Sing The Blues」に関しては、アレサは格別の思い入れがあったのだろう、のちに68年、再びレコーディングしている。

今回は白人アレンジャー、アリフ・マーディンの編曲により、オリジナルよりだいぶん長めのバージョンとなり、翌69年1月リリースの14thアルバム「Soul ‘69」に収められた。同アルバムはR&Bチャート1位、全米15位に輝いている。

このふたつのバージョンを聴き比べてみると、8年余りの歳月が、もともと達者であったアレサの歌を、さらに進化させていることがわかると思う。

デビュー時のアレサも、新人としては抜群にうまかったのは間違いないが、まだ少し硬さを感じさせるところがあった。

が、その後「ソウルの女王」としての地位を不動にした後のアレサの歌には、自信、余裕、そして貫禄が滲み出ており、もはや誰も彼女に追いつけない、そんな印象すら感じるね。

その自由闊達、抑揚自在で伸びやかな歌声は、ローリング・ストーン誌上で2度も「史上最高のシンガー」に選ばれただけのことはある。

アレサは私生活ではデビュー後すぐ、61年に最初の結婚をしている。相手は7年前に知り合ったテッド・ホワイト(1931年生まれ)である。彼は結婚後、アレサのマネージャーとなるも、次第に家庭内暴力をふるうようになり、すさんだ結婚生活の末、69年に離婚が成立している。

そのようなプライベートな事情を知ると、実生活の辛い体験により、アレサの歌が説得力を伴い、より深いものになっていったのだなと感じる。

ブルースを歌うこと、それは日常のつらい日々を生きることにほかならない。人生の重みを感じさせる68年のバージョンは、最初の結婚生活の、総決算のようにも聴こえる。

アレサの、その栄光と常に背中合わせにあった憂鬱を、このふたつの「Today I Sing The Blues」に感じとって欲しい。

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