阪急電鉄では京都線用特急車として転換クロスシート設備を備えた9300系を2003年より運用開始しますが、2006年より同系列をベースに「すべてのお客様に快適な移動空間」をコンセプトとして、「快適な車内空間の提供、優れたサービス機器の導入、交通弱者に対するバリアフリー」を目的に車内設備をロングシート仕様とし、神戸線・宝塚線向け新形式の9000系が導入されることになりました。8両編成の完全な新形式が導入されるのは神戸線では1992年以来14年振り、宝塚線では15年振りの出来事です。2006年〜2013年までの期間に8両編成15本が導入され、後継形式の1000系登場後も主力車両として運用されています。
車体外観は日立製作所製A-trainベースで9300系に酷似していますが神宝線の車体規格に合わせて車体全長が100ミリ長く幅は50ミリ短くなっているのが特徴です。ロングシート通勤車であるため普通から特急まで区別なく運用される汎用車ですが列車無線アンテナや屋根上の冷房装置周りがカバーを設けており、天地寸法が拡大された大型の側面窓と相まって特急車のような優雅な外観を持っています。
電装品はこれまでの神宝線の慣例により、東芝製を採用しており東洋電機製の電装品を搭載する9300系とはVVVFインバーター制御装置の磁歪音が異なっています。その一方で運転台のマスコンハンドルは長らく採用していた東芝に代わり東洋電機の製品を搭載することになりました。
車内設備は中仕切りを備えたゴールデンオリーブの座席に濃い目の木目調化粧板で、間接照明を採用しています。バリアフリー強化対策ということで各車に車椅子スペースが設けられていますが、この形式に限らず阪急車は手すりや吊り手が他社に比べると少なく、室内の開放感に優れる一方で現代基準の安全性の面では今一歩な感があり、対策を望みたいところです。
車内案内表示装置は長らくLEDによる表示でしたが、本形式では15インチLCD画面に改められ千鳥配置(1両当たり3箇所設置)となっており従来の車両に比べて大幅に旅客に提供できる情報量が増えました。
ベースとなった9300系は新形式2300系の登場により、特急車からの格下げ改造(機器更新・ロングシート化)という大きな動きを見せていますが、こちらは登場19年目ながら更新計画もなく安定した活躍が続きそうです。