當る午歳吉例顔見世興行東西合同大歌舞伎(京都・南座)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/61/45/0755698aaa5e10b7c80f21bfd6c704dd.jpg)
歌舞伎はだいたい仁左衛門と玉三郎が揃うときだけ出かけていくというパターンなのだけれども、一度襲名披露の口上というものを生で聞いてみたくて、今年は仁左衛門(休演)も玉三郎も不在と知りながらチケットをとった。今日は、千穐楽だ。
「元禄忠臣蔵 御浜御殿綱豊卿」
//次期将軍候補として綱吉とともに取りざたされている頃の綱豊の館。綱豊は周囲からの願いもあり、取りつぶされた赤穂藩の再興を将軍に進言しようかどうしようか悩んでいる。進言すれば再興は成りそうだが、そうなったら仇討ちは許されない。それが赤穂浪士たちにとってよいことなのかどうか。
そこへ、浪士のひとり富森が綱豊側室喜世を頼ってやってくる。その日、吉良上野介が館に現れることを知って、容貌を確認するためだ。思いあまって吉良に斬りかかろうとする富森を喜世は必死で止め、綱豊は藩の行く末まで考慮している大石の心中を察せよと諭す。
泣く泣く富森はその場を去った。綱豊は進言するのをもう少し伸ばそうと決め、余興の能舞台へ上がっていく。//
見どころ満載な演目だった。
まず、喜世と江島の話す座敷に茶道具一式が飾られているのが不思議な配置で、どうやって点前をするのかなぁと考えているだけでずいぶん楽しめた(^_^;)
そしてなんといっても、迫力の舞台装置。大名屋敷の贅沢な壁襖が空間一杯広がっており、床がぐるりと回転すると、それらがぱたぱたと裏返って別の座敷の壁になる。目の前で見せられているのに、構造が理解できない複雑さだ。能舞台にはない面白さですね。
今日しか見ていないのでなんとも言えないけれど、中車は多分初日あたりにはもっと声も出ていたのではないだろうか、最終日でさすがにもう限界のように感じられた。1ヶ月間にわたっての昼夜公演。喉を守るのも歌舞伎役者の芸のうちか。
最後に綱豊が演じるお能というのが、仇討ち話の「望月」で、扇を二枚頭につけた例の装いで出てくるのだが、扇と扇の間に鈴がきらきら光ったりするところが、さすがに派手だった。
「二代目猿翁、四代目猿之助、九代目中車襲名披露 口上」
祝い幕に福山雅治の名前のあるのが不思議。なんでも新猿之助とは仲の良い友達なのだそうだ。
始まる前に猿翁休演のアナウンスが入る。タイミングから見て、ぎりぎりまで判断を待ったということなのかもしれない。
他の日の写真を見ると、まったく面変わりしてしまっている。そして椅子に腰掛けて出てきていた?
藤十郎おじさんが新猿之助、中車を紹介し、二人が挨拶の口上を述べる。一年半に及ぶ襲名披露の、今日が最後の最後だ(都市圏では)。
中車は感極まって言葉が詰まったり噛んだりと、流暢とはほど遠い出来なのだけれども、見所は皆、父親との葛藤を知っているので、思わず涙をそそられて、心から「よかったね」と祝福する気持ちになる。
テレビでは見たことがあったけれども、生で襲名の口上を聞いたのは初めて。これ、とてもよいものですね。なんだか、この先ずっと応援したくなる。贔屓の役者ならなおさら、絶対、口上は舞台で聞いてあげるべきだと思った。
「黒塚」
これも面白かった。猿之助の家では大切にされている演目なのだそうだ。その思い入れをどこかで語っていたのを聞いた記憶がある。
松葉目物だから、最初はお能とほとんど同じ。僧侶のツレが弁慶みたいにいかつい二人なのが少し(いや、大いに)違和感を感じさせるくらい。
場面が変わると荒涼としたススキの原。老女は客たちのために薪を集めようとひとり夜中に出てきたのだ。怖いけれど、綺麗だ。
この場面はお能にはない。お能の「黒塚(安達ヶ原)」では想像するだけの場面を歌舞伎では見せてくれる。背景に大きな三日月。舞台一面にススキ。オペラグラスで見た限りでは全て本物に見える。だとしたら、その間を歩いてくる猿之助は、葉で手を切ったりしないかしら(^_^;)
ここで老女は、こんな罪深い自分でも僧をもてなすことで救われるのだと喜び、踊り出す。お能では、ほんとうはどういうつもりなのだろうかと最後まで謎として残る部分(老女は僧侶たちを真にもてなすつもりだったのか、彼らをも取って食おうというつもりだったのか)に明解な解答がある。
けれども、僧たちのほうはこの老女を救おうなどとは思いつきもしないようで、ひたすら責めて祈り伏せようとする。発願破れた老女の絶望。ススキの原に宙返り! して消える。
だいたいこのあたりまででお腹いっぱいな感じで、あとの二演目はおまけとして見ていた。
「道行」で一面真っ白な雪景色が現れたときの感動。
「児雷也」の蛙がかわいらしかったこと。若手三者が並んだ絵のたいそう美しかったこと。
予定通り仁左衛門が出ていたらもっともっとよかったけれども、贔屓の役者がいなかったことでかえっていろいろ目がゆき楽しめたところもある。大満足だ。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/thumbnail/5d/35/9d30d302ff6fe9aac687af1023f8b276_s.jpg)
*****
「元禄忠臣蔵 御浜御殿綱豊卿」
徳川綱豊:中村梅玉
新井勘解由:片岡我富
喜世:片岡孝太郎
小谷甚内:尾上松之助
江島:中村時蔵
富森助右衛門:市川中車
「口上」 二代目猿翁、四代目猿之助、九代目中車
「黒塚」
老女岩手:市川猿之助
山伏:市川門之助、市川右近
強力:市川猿弥
阿闍梨祐慶:中村梅玉
「道行雪故郷 新国村」
坂田藤十郎、中村翫雀
「児雷也」
児雷也:中村梅玉
高砂:片岡愛之助
仙素道人:市川猿弥
妖婦越路:市川笑也
山賊夜叉五郎:尾上松緑
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歌舞伎はだいたい仁左衛門と玉三郎が揃うときだけ出かけていくというパターンなのだけれども、一度襲名披露の口上というものを生で聞いてみたくて、今年は仁左衛門(休演)も玉三郎も不在と知りながらチケットをとった。今日は、千穐楽だ。
「元禄忠臣蔵 御浜御殿綱豊卿」
//次期将軍候補として綱吉とともに取りざたされている頃の綱豊の館。綱豊は周囲からの願いもあり、取りつぶされた赤穂藩の再興を将軍に進言しようかどうしようか悩んでいる。進言すれば再興は成りそうだが、そうなったら仇討ちは許されない。それが赤穂浪士たちにとってよいことなのかどうか。
そこへ、浪士のひとり富森が綱豊側室喜世を頼ってやってくる。その日、吉良上野介が館に現れることを知って、容貌を確認するためだ。思いあまって吉良に斬りかかろうとする富森を喜世は必死で止め、綱豊は藩の行く末まで考慮している大石の心中を察せよと諭す。
泣く泣く富森はその場を去った。綱豊は進言するのをもう少し伸ばそうと決め、余興の能舞台へ上がっていく。//
見どころ満載な演目だった。
まず、喜世と江島の話す座敷に茶道具一式が飾られているのが不思議な配置で、どうやって点前をするのかなぁと考えているだけでずいぶん楽しめた(^_^;)
そしてなんといっても、迫力の舞台装置。大名屋敷の贅沢な壁襖が空間一杯広がっており、床がぐるりと回転すると、それらがぱたぱたと裏返って別の座敷の壁になる。目の前で見せられているのに、構造が理解できない複雑さだ。能舞台にはない面白さですね。
今日しか見ていないのでなんとも言えないけれど、中車は多分初日あたりにはもっと声も出ていたのではないだろうか、最終日でさすがにもう限界のように感じられた。1ヶ月間にわたっての昼夜公演。喉を守るのも歌舞伎役者の芸のうちか。
最後に綱豊が演じるお能というのが、仇討ち話の「望月」で、扇を二枚頭につけた例の装いで出てくるのだが、扇と扇の間に鈴がきらきら光ったりするところが、さすがに派手だった。
「二代目猿翁、四代目猿之助、九代目中車襲名披露 口上」
祝い幕に福山雅治の名前のあるのが不思議。なんでも新猿之助とは仲の良い友達なのだそうだ。
始まる前に猿翁休演のアナウンスが入る。タイミングから見て、ぎりぎりまで判断を待ったということなのかもしれない。
他の日の写真を見ると、まったく面変わりしてしまっている。そして椅子に腰掛けて出てきていた?
藤十郎おじさんが新猿之助、中車を紹介し、二人が挨拶の口上を述べる。一年半に及ぶ襲名披露の、今日が最後の最後だ(都市圏では)。
中車は感極まって言葉が詰まったり噛んだりと、流暢とはほど遠い出来なのだけれども、見所は皆、父親との葛藤を知っているので、思わず涙をそそられて、心から「よかったね」と祝福する気持ちになる。
テレビでは見たことがあったけれども、生で襲名の口上を聞いたのは初めて。これ、とてもよいものですね。なんだか、この先ずっと応援したくなる。贔屓の役者ならなおさら、絶対、口上は舞台で聞いてあげるべきだと思った。
「黒塚」
これも面白かった。猿之助の家では大切にされている演目なのだそうだ。その思い入れをどこかで語っていたのを聞いた記憶がある。
松葉目物だから、最初はお能とほとんど同じ。僧侶のツレが弁慶みたいにいかつい二人なのが少し(いや、大いに)違和感を感じさせるくらい。
場面が変わると荒涼としたススキの原。老女は客たちのために薪を集めようとひとり夜中に出てきたのだ。怖いけれど、綺麗だ。
この場面はお能にはない。お能の「黒塚(安達ヶ原)」では想像するだけの場面を歌舞伎では見せてくれる。背景に大きな三日月。舞台一面にススキ。オペラグラスで見た限りでは全て本物に見える。だとしたら、その間を歩いてくる猿之助は、葉で手を切ったりしないかしら(^_^;)
ここで老女は、こんな罪深い自分でも僧をもてなすことで救われるのだと喜び、踊り出す。お能では、ほんとうはどういうつもりなのだろうかと最後まで謎として残る部分(老女は僧侶たちを真にもてなすつもりだったのか、彼らをも取って食おうというつもりだったのか)に明解な解答がある。
けれども、僧たちのほうはこの老女を救おうなどとは思いつきもしないようで、ひたすら責めて祈り伏せようとする。発願破れた老女の絶望。ススキの原に宙返り! して消える。
だいたいこのあたりまででお腹いっぱいな感じで、あとの二演目はおまけとして見ていた。
「道行」で一面真っ白な雪景色が現れたときの感動。
「児雷也」の蛙がかわいらしかったこと。若手三者が並んだ絵のたいそう美しかったこと。
予定通り仁左衛門が出ていたらもっともっとよかったけれども、贔屓の役者がいなかったことでかえっていろいろ目がゆき楽しめたところもある。大満足だ。
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「元禄忠臣蔵 御浜御殿綱豊卿」
徳川綱豊:中村梅玉
新井勘解由:片岡我富
喜世:片岡孝太郎
小谷甚内:尾上松之助
江島:中村時蔵
富森助右衛門:市川中車
「口上」 二代目猿翁、四代目猿之助、九代目中車
「黒塚」
老女岩手:市川猿之助
山伏:市川門之助、市川右近
強力:市川猿弥
阿闍梨祐慶:中村梅玉
「道行雪故郷 新国村」
坂田藤十郎、中村翫雀
「児雷也」
児雷也:中村梅玉
高砂:片岡愛之助
仙素道人:市川猿弥
妖婦越路:市川笑也
山賊夜叉五郎:尾上松緑
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