月扇堂手帖

観能備忘録
あの頃は、番組の読み方さえ知らなかったのに…。
今じゃいっぱしのお能中毒。怖。

JAKMAK

2014年07月18日 | 歌舞伎・舞踊・文楽
BS朝日 2014/7/6放映「葉加瀬太郎×梅若玄祥 神に選ばれし表現者たち~世界遺産で奇跡の競演~」

梅若玄祥とヴァイオリニスト葉加瀬太郎のコラボ作品を、この5月に上賀茂神社で上演した記録。
かなり長いメイキング映像と、当日の公演映像(JAKMAK以外は一部)。

メイキング部分で、いかに制作に苦労したかといったことが延々語られ、かなりもったいつけてからやっと舞台の映像になった。
当日は、まず、玄祥「翁」があり、次に葉加瀬の演奏する「シャコンヌ」に玄祥師が舞をつけ、最後に「JAKMAK」が演じられた。

番組のナレーションを斉藤由貴がしているのだけれども、彼女によると「翁」はしゅくげん(字幕では「祝言」)のための特別な能で、舞台に翁が登場すると会場は〈幽玄な〉雰囲気に包まれたそうだ。なんだかそのあたりで、大丈夫かなこの番組という気になる。

「JAKMAK」というのは、「寂寞」(せきばく)の呉音読み。梅若さんから葉加瀬さんに作曲依頼をするときに指定されたテーマ。これに沿って四部構成の曲が作られた。

第一部では、エスニックな彩りの衣裳をつけたダンサーたちが踊る。
第二部では、装束をつけた玄祥師登場。ダンサーたちをバックに舞う。
第三部はまたダンサーのみが踊る。
第四部で装束を替え、蛙の面をつけた玄祥再登場。青いライトに照らされながら放った巣は、蜘蛛の巣ではなく光の表現らしい(本人は当初、ほぼ不動でこの部分を演じるつもりだったが、能楽師以外はこれを非常に不安に思い蜘蛛の巣や派手な動きを要望したようだ)。

感想を言うと、ヴァイオリン他の演奏は素敵だったし、作曲も彼らしくてなかなかよかった。
神戸女学院の学生たちによるダンスも選りすぐりのメンバーというだけあって大した物だった。
玄祥師の姿も美しかった。
でも、できることなら、別の場所で、それぞれに拝見したかった。三者とも素晴らしいけれども調和というものは少なくともテレビで見る限り感じられなかった。
なんだか新興宗教の団体が催すイベントみたい(というのは、詞章に格調がなく、どうにもこなれない上に押しつけがましくて、聞いてられないのだ)。
とりわけ、上賀茂神社の境内という〈場〉に全く調和していないような。

というわけで、作詞と演出は誉められない。

でも、まあ、これはお能ではなく〈組曲〉なのだそうだから、そういうつもりで聴いていればよいのかもしれない。
神社の境内であられもない姿の女子たちが踊るのも、天鈿女命の例もあるから神様もけっこう面白がった…かもしれない?
伝統の上にあぐらをかかず、常に実験し挑戦する姿勢は大切なのだ、きっと。

 

*****

2014/5/24上賀茂神社外幣殿にて収録

能「翁」:梅若 玄祥
    笛:森田 保美 小鼓:大倉 源次郎
    地謡:山崎正道 味方團 川口晃平 井上和幸
J.S.バッハ 無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータ第2番ニ短調 BWV1004 より
「シャコンヌ」
    Vn:葉加瀬太郎 Vc:柏木広樹 Gt:田中義人 pf:光田健一
    Bs:一本茂樹 Perc:仙道さおり
    舞:梅若玄祥
組曲「JAKMAK」
    シテ:梅若玄祥
    ダンス:山根海音 花岡麻里名 飯田利奈子 渡邉はるか 三崎彩 佐藤絢音
    Vn:葉加瀬太郎 Vc:柏木広樹 Vla:島岡智子 Gt:田中義人
    Perc:仙道さおり Bs:一本茂樹 Key:光田健一 Mp:八巻誠

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縹緲の露――能《野宮》

2014年06月22日 | 歌舞伎・舞踊・文楽
ボヴェ太郎舞踏公演(京都・京都芸術センター大広間)



チラシの写真に惹かれて行ってみた。

会場は78畳敷きの和室。二方の隅に三列の客席を作り、残った空間が舞台。
笛と小鼓、地謡2名。

ボヴェ氏は舞踊家ではあるけれども、能楽を現代的に舞うといった趣旨ではまったくなかった。

能楽はただでさえ装置も簡素で構造もシンプルだけれど、そこからもっともっとそぎ落とした末に残るものを探している試みなのかなと思う。

お囃子もふたり、地謡もふたり。作り物はもちろんなく、装束すらつけない。面もつけない。

だから、見るほうはそうとう《野宮》について知っている必要がある。そうして、お能を見るときよりもさらに想像力がいる。それがあれば、縹渺たる草原にひとりさまよう女性が見える。彼女の充たされない思い、心残り、羞恥、そんなものが風に吹かれて草と一緒に鳴っているのが聞こえる。そのような意味では面白かった。

黒い長袖シャツの下には袴様のものを穿き(つけ?)、白足袋で終始摺り足。腰を落として超スローモーション。中入りもなく70分間、ずっと動き続けていた。ものすごい体力と集中力だ。

構成人数が少ない分、ひとりひとりの働きが迫力をもって伝わってくる。吉浪師の謡に凄みを感じた。田茂井師と綺麗にハモるのも感動。

*****

構成・振付・出演:ボヴェ太郎
笛:杉信太朗 小鼓:曽和尚靖
地謡:吉浪壽晃、田茂井廣道

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顔見世 夜の部

2013年12月26日 | 歌舞伎・舞踊・文楽
當る午歳吉例顔見世興行東西合同大歌舞伎(京都・南座)



歌舞伎はだいたい仁左衛門と玉三郎が揃うときだけ出かけていくというパターンなのだけれども、一度襲名披露の口上というものを生で聞いてみたくて、今年は仁左衛門(休演)も玉三郎も不在と知りながらチケットをとった。今日は、千穐楽だ。

「元禄忠臣蔵 御浜御殿綱豊卿」
//次期将軍候補として綱吉とともに取りざたされている頃の綱豊の館。綱豊は周囲からの願いもあり、取りつぶされた赤穂藩の再興を将軍に進言しようかどうしようか悩んでいる。進言すれば再興は成りそうだが、そうなったら仇討ちは許されない。それが赤穂浪士たちにとってよいことなのかどうか。
そこへ、浪士のひとり富森が綱豊側室喜世を頼ってやってくる。その日、吉良上野介が館に現れることを知って、容貌を確認するためだ。思いあまって吉良に斬りかかろうとする富森を喜世は必死で止め、綱豊は藩の行く末まで考慮している大石の心中を察せよと諭す。
泣く泣く富森はその場を去った。綱豊は進言するのをもう少し伸ばそうと決め、余興の能舞台へ上がっていく。//

見どころ満載な演目だった。

まず、喜世と江島の話す座敷に茶道具一式が飾られているのが不思議な配置で、どうやって点前をするのかなぁと考えているだけでずいぶん楽しめた(^_^;)

そしてなんといっても、迫力の舞台装置。大名屋敷の贅沢な壁襖が空間一杯広がっており、床がぐるりと回転すると、それらがぱたぱたと裏返って別の座敷の壁になる。目の前で見せられているのに、構造が理解できない複雑さだ。能舞台にはない面白さですね。

今日しか見ていないのでなんとも言えないけれど、中車は多分初日あたりにはもっと声も出ていたのではないだろうか、最終日でさすがにもう限界のように感じられた。1ヶ月間にわたっての昼夜公演。喉を守るのも歌舞伎役者の芸のうちか。

最後に綱豊が演じるお能というのが、仇討ち話の「望月」で、扇を二枚頭につけた例の装いで出てくるのだが、扇と扇の間に鈴がきらきら光ったりするところが、さすがに派手だった。

「二代目猿翁、四代目猿之助、九代目中車襲名披露 口上」
祝い幕に福山雅治の名前のあるのが不思議。なんでも新猿之助とは仲の良い友達なのだそうだ。

始まる前に猿翁休演のアナウンスが入る。タイミングから見て、ぎりぎりまで判断を待ったということなのかもしれない。

他の日の写真を見ると、まったく面変わりしてしまっている。そして椅子に腰掛けて出てきていた?

藤十郎おじさんが新猿之助、中車を紹介し、二人が挨拶の口上を述べる。一年半に及ぶ襲名披露の、今日が最後の最後だ(都市圏では)。

中車は感極まって言葉が詰まったり噛んだりと、流暢とはほど遠い出来なのだけれども、見所は皆、父親との葛藤を知っているので、思わず涙をそそられて、心から「よかったね」と祝福する気持ちになる。

テレビでは見たことがあったけれども、生で襲名の口上を聞いたのは初めて。これ、とてもよいものですね。なんだか、この先ずっと応援したくなる。贔屓の役者ならなおさら、絶対、口上は舞台で聞いてあげるべきだと思った。

「黒塚」
これも面白かった。猿之助の家では大切にされている演目なのだそうだ。その思い入れをどこかで語っていたのを聞いた記憶がある。

松葉目物だから、最初はお能とほとんど同じ。僧侶のツレが弁慶みたいにいかつい二人なのが少し(いや、大いに)違和感を感じさせるくらい。

場面が変わると荒涼としたススキの原。老女は客たちのために薪を集めようとひとり夜中に出てきたのだ。怖いけれど、綺麗だ。

この場面はお能にはない。お能の「黒塚(安達ヶ原)」では想像するだけの場面を歌舞伎では見せてくれる。背景に大きな三日月。舞台一面にススキ。オペラグラスで見た限りでは全て本物に見える。だとしたら、その間を歩いてくる猿之助は、葉で手を切ったりしないかしら(^_^;)

ここで老女は、こんな罪深い自分でも僧をもてなすことで救われるのだと喜び、踊り出す。お能では、ほんとうはどういうつもりなのだろうかと最後まで謎として残る部分(老女は僧侶たちを真にもてなすつもりだったのか、彼らをも取って食おうというつもりだったのか)に明解な解答がある。

けれども、僧たちのほうはこの老女を救おうなどとは思いつきもしないようで、ひたすら責めて祈り伏せようとする。発願破れた老女の絶望。ススキの原に宙返り! して消える。

だいたいこのあたりまででお腹いっぱいな感じで、あとの二演目はおまけとして見ていた。

「道行」で一面真っ白な雪景色が現れたときの感動。

「児雷也」の蛙がかわいらしかったこと。若手三者が並んだ絵のたいそう美しかったこと。

予定通り仁左衛門が出ていたらもっともっとよかったけれども、贔屓の役者がいなかったことでかえっていろいろ目がゆき楽しめたところもある。大満足だ。

   

*****
「元禄忠臣蔵 御浜御殿綱豊卿」
         徳川綱豊:中村梅玉 
         新井勘解由:片岡我富 
         喜世:片岡孝太郎 
         小谷甚内:尾上松之助 
         江島:中村時蔵  
         富森助右衛門:市川中車
「口上」     二代目猿翁、四代目猿之助、九代目中車
「黒塚」
         老女岩手:市川猿之助
         山伏:市川門之助、市川右近
         強力:市川猿弥
         阿闍梨祐慶:中村梅玉
「道行雪故郷 新国村」
         坂田藤十郎、中村翫雀
「児雷也」    
         児雷也:中村梅玉
         高砂:片岡愛之助
         仙素道人:市川猿弥
         妖婦越路:市川笑也
         山賊夜叉五郎:尾上松緑

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陰陽師

2013年09月16日 | 歌舞伎・舞踊・文楽
九月花形歌舞伎(東京・歌舞伎座)



東京へ出かけようという朝、5時からiphoneがビービー鳴って叩き起こされ、「ただちに命を守る行動をとれ」と言われても(「特別警報」が設置されて第一号だったとか)、いやー、わたし、今日は「陰陽師」見るので東京行きます、体力勝負になりそうだからもうちょっと寝ます、と布団をかぶってようよう眠りに戻ったところへ、今度は朝のニュースを見た親から「京都、大変ねー、大丈夫ー」とありがたい(T-T)お見舞電話が来て、これはもうダメだ、寝るのは諦めて出かけようと、準備をした。

京都ー静岡(新幹線) 静岡ー三島(在来線) 三島ー東京(新幹線) で、都合6時間半くらいかかってようやく目的地に到着。

新しい歌舞伎座自体を見学したいので、少し早めの時間どりをしていたのだけれども、結局、席に着けたのは開演1時間後。

この公演、染五郎が安倍晴明、他に愛之助、海老蔵、勘九郎、七之助、菊之助、松緑と若手ばかりで演じる新作で、もう、ワクワクするような企画だった。
先に来て見ていた友人に、見逃した部分をレクチャーしてもらおうと思ったら、「特に説明するようなことはない」とのこと。彼女自身、「ときどき寝ちゃって(^_^;)」って。

で、最後まで見て思ったことは、6時間半かけてやってきたけど、仮に間に合わなくて全部観られなかったとしても「特に残念なことはない」なと。

結局、わたしが期待していたのは、耽美路線の「陰陽師」だったのに対して、脚本家が目指したのは夢枕獏の原作にあるおどろおどろしさだったらしい。彼はむしろコミックや映画版「陰陽師」に違和感を持っていたそうだ。

グロテスクな表現が多くてなんだか不快だった。
染五郎みたいな綺麗な役者をつかっているのに、綺麗な晴明になっていなかった。メイクがよくない。昼の部の園部兵衛役のほうが綺麗なくらいだ。
炎が上がるような仕掛けがあってハッとさせられるけれども、何度も同じことをするので効果がなくなる。
狐あそびも悪くないのにくどすぎて飽きる。
オールスターのせいか、誰が主役なのかよくわからない。
全体にメリハリに欠ける。派手な展開のようなのにやたら眠かった。
最後の終わり方も、「ひとはなぜ生きるのか」という問答が唐突、フィナーレのビジュアルが寂しい。

ひとことでいうと、豪華なのに安っぽい。

よかったのは、桔梗役の七之助の最期。道満の存在感。笛の音。

 

*****

「陰陽師 滝夜叉姫」夢枕獏原作 今井豊茂脚本 齋藤雅文補綴・演出
  安倍晴明:染五郎 平将門:海老蔵 興世王(おきよおう):愛之助 
  桔梗の前」七之助 源博雅:勘九郎 俵藤太藤原秀郷:松緑 
  滝夜叉姫:菊之助 賀茂保憲:亀三郎 平維時:亀寿 大蛇の精:新悟 
  芦屋道満:亀蔵 平貞盛:市蔵 雲居寺淨蔵:権十郎 小野好古:團蔵

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京おどり

2013年04月11日 | 歌舞伎・舞踊・文楽
京都宮川町歌舞練場



折しも祇園では「都をどり」(4/1-30)の真っ最中ですが、宮川町でも「京おどり」が始まっている。こちらは会期が少し短くて4/6-21。

数日前の京都新聞によると、「京おどり」の演出は今年から変わって北林佐和子氏になった。OSKの方なのだそうだ。

そうえいば、フィナーレのフォーメンションはレビューっぽかった(^_^)

都をどりを見たとき、可愛い舞妓さんがにこりともせずに舞うのを見て、ああ、日舞というのは顔で表情は作らないものなのだなと思ったのだったけれども、京おどりの舞妓さん芸妓さんたちは舞いながら表情を作る。流派でちがうものらしい。

都をどりの祇園甲部はお能とのつながりの深い井上流なので、能面風なのかも…。

そんなことで、ちょっと京都の五花街で舞の流派を調べてみた。踊りの会情報もついでに。

上七軒  花柳流 北野をどり 4月15日-25日
祇園甲部 井上流 都をどり 4月1日-30日
祇園東  藤間流 祇園をどり 11月1日-10日
先斗町  尾上流 鴨川をどり 5月1日-24日
宮川町  若柳流 京おどり 4月初旬ー下旬

宮川音頭の歌詞は最後がおみやげ尽くしになっていて面白かった(^_^)

♪国へみやげは都紅
 納豆 八ツ橋 みすや針
 すぐき しばづけ 五色豆
 みやげばなしは
 みやげばなしは
 ヨーイ ヨーイ ヨイ京おどり

芸妓さんのお点前を拝見しながらお茶をいただき、お皿もいただいてきました。お菓子は鶴屋さん(だったと思う)の薯蕷。

付)帰りに、zenというカフェでお茶。鍵善さんのお店らしい。

 季節のお菓子セット

お店の雰囲気が素敵だったので、ベンソンさんという画家にちょっと描いてもらった。



こちらの彼女はセザンヌさんをご指名。



「一力」の前に人だかりがしていて誰かの出待ちをしているふうだったが、結局、何だったのか誰だったのかわからずじまい。あぶらとり紙が切れていたので、ようじやさんに寄って帰る。なぜかあぶらとり紙は桜色だった。(季節限定らしい)

*****

京浪漫花吹雪(みやころまんはなふぶき)

第一景 夜の藤
第二景 風と水と
第三景 都大路(上)
第四景 都大路(中)
第五景 都大路(下)
第六景 雪女
第七景 宮川音頭(フィナーレ)

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出雲神楽 四方剣/荒神

2012年09月03日 | 歌舞伎・舞踊・文楽
島根郷土芸能舞台(島根・神話博しまね しまね魅力発信ステージ)

古代出雲歴史博物館のサイトによれば、島根県には神楽を伝える団体が250もあるのだとか。

となると、神話博期間中、連日神楽のステージがあっても出演者は日替わりで、同じ団体が何日もつとめるということはなさそうだ。

今日は「万九千社立虫神社」の担当だった。
(司会者はたしか「まんくせんしゃたちむしじんじゃ」と呼んでいた。)

〈大出雲展〉で売店の脇でひっそり上映されていたヴィデオによれば、神在月に全国の神様が集合し、ここから旅立たれるという小さいけれども、古く重要な神社だ。

島根の神楽にはいろいろ系統があり、〈出雲神楽〉は神話をモチーフに、能狂言の手法を採り入れた荘厳な舞が特徴だとか。万九千社はこの系統だ。

「四方剣」とは、神事色のつよい七座の舞のうちの一つで、4人の舞い手が前段では御幣と鈴を、後段では剣を持って舞い、その場のすべてを祓い浄め邪悪なものを断ち切る意味をもつそうだ。舞い手は皆、直面。

まずは、小さなシンバルのような鉦2,横笛4、大小太鼓1名の楽人が登場して後ろに並び、その前で4名が舞う。







午後の回は「荒神(国譲り)」だった。

お話は、出雲に〈経津主神(ふつぬしのかみ)〉と〈武甕槌神(たけみかずちのかみ)〉が現れるところから。



ワキ方の名乗りや着きゼリフのようなものがあって、ふたりがひとしきり舞ったあとに〈大国主命(おおくにぬしのみこと)〉と息子の〈事代主神(ことしろぬしのかみ)〉がやってくる。

このふたりの姿形は、大黒様と恵比寿さまそのもの。



国を天つ神に譲れと迫られ、大国主は自分はよいが念のため息子たちの意見も聞いてくれと答える。

その場にいた事代主神はあっさり承諾するも、あとからやってきた次男〈建御名方神(たけみなかたのかみ)〉は承知せず、使いの神々と力比べをすることになる。これに負けて国を譲ることに。



というお話。このあと天から下ってくるのが邇邇芸命(ににぎのみこと)だから、要するに、天皇家の正統性を言いたいがために作られた神話なのだなと納得。

たしかにお能にも似ているけれども、もっと素朴で、どちらかというと狂言、歌舞伎テイストが感じられる。

こちらから見る限り、謡はほとんど太鼓方が謡っているようだった。
とても通る張りのある声だ。

パンフレットによれば、〈出雲神楽〉に比べて、〈石見(いわみ)神楽〉はもっと派手な演出が多いらしい。
代表的なのが「八岐大蛇」で大蛇の作り物が大活躍する。このステージでも連日さまざまな団体が「八岐大蛇」を上演する。

また、〈隠岐神楽〉は大漁祈願など祈祷色が強く、より素朴で古風なのだそうだ。

ここに会期中ずーっと座っていたら、ずいぶんしまねの神楽に詳しくなるだろうなぁ。

知らなかったのだが、この前日に京都春秋座で石見神楽、隠岐神楽の公演があり、無料で観劇できたらしい。

ともあれ、今日一日で、出雲神話の大筋がだいぶイメージできるようになった。
もう少し古代の神々の名が覚えやすいものだとよいのだけれども(_ _;)



ところで11/8に〈出雲篝能〉というものが催され、新作能「出雲」を桜間右陣が、狂言「樋の酒」を野村萬斎が演じるそうだ。
しかもオープニングには、三斎流家元による神前点前というものがあるのだとか。

会場は出雲大社。

魅力的だなぁ。。。


坂東玉三郎特別公演

2012年06月22日 | 歌舞伎・舞踊・文楽
(京都・南座)



「壇浦兜軍記-阿古屋」

//悪七兵衛景清の行方を追う源氏方は、景清の愛人阿古屋からそれを聞き出そうと詮議の場に引き立ててくる。何も知らないという阿古屋を岩永は拷問しようとするが、重忠は音曲を奏でさせて真偽を見極めようと言う。阿古屋は命ぜられるまま、琴、三味線、胡弓を弾き、美しい音色ゆえに無実と信じられて解放される。//

玉三郎による楽器演奏が生で聴けるという、ちょっと変わった演目。

お琴も三味線も胡弓もまったく危なげがないけれども、お囃子連中のサポートはついていて、こちらはこちらで「いつ何が起こっても対応しまっせ」みたいな緊張感も感じられた。

この役は音色で語らなければならないのだそうで、すると、胡弓の震えるようなあの音は、阿古屋の張り詰めた心情表現なのだろう。

愛之助演じる重忠はほとんど座っているだけなのだけれども、その居姿、長袴の片足を階に流した姿も、凛としてほんとうに美しい。

赤ら顔の岩永左衛門の役は、黒子二人を従えて、まるで浄瑠璃の人形のように演じられる。
その人形ぶりの細やかさに、最初、あれ、人間なのかな人形なのかなとしばらく判断がつきかねた。
コミカルな三枚目だけれど、終始一貫見事な芸だ。

「傾城」

花魁道中を終えた美貌の傾城をしっとりと舞いあげていた。花魁の下駄は三ツ歯なのだなといまさら気づく。



再び「玉三郎”美”の世界展」で、喜の字6歳の舞台ビデオに見入ってくる。ほんとに可愛い。そして、尊い。

*****
「壇浦兜軍記-阿古屋」
遊君阿古屋:坂東玉三郎 岩永左衛門:坂東薪車 榛沢六郎:坂東功一 
秩父庄司重忠:片岡愛之助
「傾城」
坂東玉三郎

玉三郎”美”の世界展/ふるあめりかに袖はぬらさじ

2012年05月21日 | 歌舞伎・舞踊・文楽
(京都・南座)


*iphoneのコラージュアプリで作ってみた。

「ふるあめりかに~」を観にいったところ、玉三郎展も拝見できるとのこと。

ロビーや廊下を利用して、玉三郎の歴史が展示されている。

舞台写真を年代順に見ていくと、このひとの最盛期は昭和60年代~平成10年代のようだ。

それ以前は、とても線が細い。舞台を見れば美しかったのだろうけれども、たとえば貫禄のついたイチローのデビュー当時を見たらやはり「少年」ぽく見えて物足りないように。そして今、そんな感じに見えている若手はたくさんいる。いずれ化ける人々か。

写真も衣裳も美しかったけれども、展示会に脚を運ぶ価値を最も感じたのは、奥の小さなTVに映し出されていた6歳当時の舞台ビデオ。
実のお父上が録画したものらしい。
まだふっくらした顔の玉三郎(当時は喜の字と言った)が、一人前に舞っている。
後ろには後見の女性がついている。ときどきこてっと尻餅をついたりもしながら、動じることなく舞い続けている。
ワケもなく涙が出て来てしまうような映像だった。南座に行かれた方は必見。

守田勘弥に引き取られてからの家族写真も、いちいち物語が浮かびそうな時の厚みを感じさせる。

3階には天守物語や海神別荘など泉鏡花の幻想的世界がセッティングされている。
天野喜孝が衣裳をデザインしていたとは知らなかった(/ロ゜)/
ここは、素敵なエリアだ。

一方、舞台の「ふるあめりかに~」のほうは、わたしにはちょっと冗長で退屈に感じられた。残念。

都をどり

2011年04月17日 | 歌舞伎・舞踊・文楽
(京都・祇園甲部歌舞練場)

お友達のご招待で出かける。感謝。

いつになく舞台に近い席で、ひとりひとりのお顔がよく見える。

笑顔を作っている舞妓さんがひとりもいないことに気づく。
無表情か、怒っているのかというような顔のひともいる。

たくさん並んで華やかに舞っても、あちらのラインダンスやバレエとは違うのだと発見。

日本舞踊に笑顔はいらないのだ。お能に通じるところなのかも。

〈春花京都名所尽(はるのはなみやこめいしょづくし)〉
1 置歌
2 梅舟入飛雲閣
3 伏見稲荷大社田植祭
4 大田澤杜若
5 松風村雨須磨浦
6 渉成園紅葉狩
7 圓通寺比叡遠望
8 東山知恩院山桜

舞台の前に舞妓さんのお茶をいただいた。
長襦袢の紅絹(もみ)をちらりと襟から見せるのは、このときだけの特殊な着付けなのだそうだ。

顔見世 昼の部

2010年12月13日 | 歌舞伎・舞踊・文楽
當る卯歳吉例顔見世興行東西合同大歌舞伎(京都・南座)

今年は昼の部のほうが好みだなと思い、こちらへ。

海老蔵休演の代役が仁左衛門になったのも、わたくし的には密かに喜ばしい。

「羽衣」

前場と後場がありストーリーもお能と同じ。ただ、羽衣を着ていない前半の天女は人間に化けているのかとても俗っぽい。

後場になってようやく天女らしい装束に。お能と同様、天冠と長絹。

天に帰るところは、松林の絵の裏にある階段を昇っていき、頂上に達すると松の絵がパタンとめくれて雲になり、より高みへ昇ったことになる。知恵に感心してしまう。

孝太郎は、お化粧でちょっと損をしてないだろうか。
顔のたるみをとって、お化粧を工夫をしたらもっと美女になれそうな気がする。

「菅原伝授手習鑑-寺子屋」

子役がたくさん出てくる。寺子屋に来ているのだが、リアルな学校はどうしてるのだろうとちょっと心配。

道真の実子、菅秀才(かんしゅうさい)は陶器のお人形のよう。
小太郎他の子供たちも皆、愛くるしい。ひとりひとりの名前はわからず残念。

幕開きに涎くり与太郎だけがムキになって墨を摺っていたり、松王丸が客席から拍手が起こるまでしつこく咳き込んだりして笑いをとる。

それにしても、親の都合で命を差し出されても逆らわない小太郎はけなげである(涙)。

「阿国歌舞伎夢華(おくにかぶきゆめのはなやぎ)」

花道から出てきた伊達男に「いやー、仁左衛門、若いなぁ!」と驚いたものの、よく見たら愛之助だった。秀太郎の養子とは思えないほど仁左衛門に似ている(と思うのはわたしだけだろうか)。

本物の仁左衛門は、もちろんもう少し老けているわけだけれど、玉三郎との連れ舞になんだかしみじみしてしまった。

そういえば、歌舞伎を観るようになったのは、20年ほど前、孝玉のコンビに出会ったからだ。ずいぶん時が経った。

「伊賀越道中双六-沼津」

十三世仁左衛門の追善ということで、片岡三兄弟の共演。

こちらも舞台装置があれこれ面白かった。富士山の背景が大胆にパタンとめくれたり、その他もろもろ、妙にアナログでしかもダイナミック。

我當扮する平作と仁左衛門の十兵衛が舞台から降りて客席を歩き、また花道から戻ってくる(なので、昼の部は1階がベストか)。

仁左衛門はもちろん美しく凛々しく素晴らしかったけれども、それでも今日の一番は、何と言っても我當だ。

役柄を越えて、素の人格まで尊敬できる芝居(芝居ではないのかもしれない)。

おかげで、お話の中へぐぐーっと引き込まれる。我當、最高! 

「兄弟ってええなぁ!」と客席から声もかかっていて、それを他人が言ってよいのかどうかはわからないけれど、みな心にそう感じていたと思う。追善には何よりの舞台だった。



お昼ごはんに花萬で買った「歌舞伎巻」。
鰻と卵の太巻きでけっこう美味しかったけれども、なにしろ海苔が噛み切れなくて困った(_ _;)
この箱、何かに使えないかしら。





*****

「羽衣」天女:孝太郎  伯竜:愛之助
「菅原伝授手習鑑-寺子屋」
    松王丸:吉右衛門  
    千代 :魁 春
    戸浪 :芝 雀
    涎くり与太郎:種太郎
    園生の前:扇 雀
    春藤玄蕃:段四郎
    武部源蔵:梅 玉
「阿国歌舞伎夢華」
    出雲の阿国:玉三郎  
    女歌舞伎 :笑也、笑三郎、春猿、吉弥
    男伊達 :愛之助、翫 雀
    名古屋山三:海老蔵仁左衛門

十三世片岡仁左衛門を偲んで「伊賀越道中双六-沼津」
    呉服屋十兵衛:仁左衛門
    平作娘お米:秀太郎
    池添孫八:進之介
    荷持安兵衛:歌 昇
    雲助平作:我 當