月扇堂手帖

観能備忘録
あの頃は、番組の読み方さえ知らなかったのに…。
今じゃいっぱしのお能中毒。怖。

大和秦曲抄Ⅱ ~五体風姿~

2010年11月19日 | 囃子の会
DVD 檜書店

5月に国立能楽堂で公演があり、9月にDVDにまとめられて発売されたもの。
今になってようやく拝見(聴)。

たいへんな玄人好みの内容で、あちこちで絶賛好評だったのが納得される。
わたしなどはぼんやり見ているだけだけれど、いろいろお稽古されている方にはさらに見どころ聴きどころがありそうだ。

あちこちにカメラが置かれていて、地謡の背後から、囃子方の背中から……など、見慣れぬ角度からの映像が編集され、その立体感に日頃の観賞が平面的なものだったように思われてくる。

わかりやすいのでたいてい正面席から舞台を見ているけれども、背中に宿っているもの、背後からしか見えないものも存在しているのだと知る。

囃子方はいつもシテを背中から見ており、お囃子の後見たちも師匠なり弟子なりの演奏を後ろで聴いている。それは見られる者にとってもかなりな緊迫感にちがいない。

五流の名人たちの舞や謡も素晴らしかったけれども、一噌仙幸の一管「恋之音取」がなんともよくて、最後にくり返してもういちど聴いた(今度は、モニタの前に正座して)。

インタビューで近藤乾之介が、猩々や石橋について、背後を気にするのが獣の特性だと話していたのが印象的だった。

*****

2010/5/25 収録 国立能楽堂 総合制作:大倉源次郎

舞囃子「高砂」観世流 
   シテ:観世銕之丞 
   笛:藤田六郎兵衛 小鼓:大倉源次郎 大鼓:安福光雄 太鼓:観世元伯  
   地謡:観世清和、関根祥人、上田公威、長山桂三、安藤貴康
小鼓一調「八島」金春流 
   謡:櫻間右陣 小鼓:荒木賀光
舞囃子「羽衣」喜多流
   シテ:粟谷明生
   笛:松田弘之 小鼓:大倉源次郎 大鼓:山本孝 太鼓:金春國和
   地謡:長島茂、狩野了一、内田成信、大島輝久
大鼓一調「天鼓」金剛流
   謡:金剛永謹 大鼓:山本孝
舞囃子「乱」宝生流
   シテ:近藤乾之助
   笛:一噌仙幸 小鼓:大倉源次郎 大鼓:亀井忠雄 太鼓:金春國和
   地謡:朝倉俊樹、金井雄資、辰巳満次郎、金井賢郎、朝倉大輔
笛一管「恋之音取」一噌流
   笛:一噌仙幸
小鼓一調「夜討曽我」金剛流
   謡:金剛永謹 小鼓:大倉源次郎
大鼓一調「女郎花」観世流
   謡:観世清和 大鼓:亀井忠雄
太鼓一調「葛城」金春流
   謡:櫻間右陣 太鼓:金春國和

開館30周年記念を能楽で寿ぐ

2009年11月17日 | 囃子の会
開館30周年記念 茶道資料館コンサート(京都・茶道資料館)

いつもお呈茶をしているスペースを使ってのミニコンサート。小鼓と笛。

開始時刻10分前くらいにどこかの舞台を終えたおふたりが駆け込んできて、慌ただしくお着替え、お調べなどして始まる。

曽和さんは雨男を自称しているだけあって、今日は一日時雨模様。小鼓には最高のお湿りらしくよい音をきかせてもらう。お話も滑らかで感じがよく、気の張らない会だった。

終了後、筒井館長の御挨拶があり、かつて、おじいさんに連れられて裏千家の初釜に来ていた子供時代の曽和さんは、ふるいつきたくなるほど綺麗なお稚児さんだったと語る。
ご本人、応じて「今もです」(^_^)

開催中の秋季特別展〈わび茶の誕生-珠光から利休まで〉も見学。なにげに一休さんの墨蹟とか紹鴎茄子などが置かれている中で、何といっても今日来てよかったーと思ったのは、『禅鳳雑談』。

「月も雲間のなきはいやにて候」というのは、わびの心を示した茶人珠光の言葉だとされているけれども、本人がそう書き残したわけではなく、金春禅鳳がそう言っていたということになっている。能楽師の金春禅鳳だ。これがその典拠なのだろう。禅鳳のお弟子(たぶん)が記している。

まさに「月も雲間の~」の箇所を広げて展示してあった。気になっていたことだったので、かなり嬉しい。

同行した友は、「枝豆をありがとう」という利休の礼状にウケていた。

追)徐熙の絵があって「ひぇ~っ」とおののいた記憶があるのだけれども、帰宅後出品目録をいくら見ても書いてないので錯覚だったのだろうか…。

五流競演舞囃子

2009年02月28日 | 囃子の会
同明会(京都・京都観世会館)

今年の同明会は、お能はナシ。舞囃子オンリーで揃えた番組。

シテ方は五流の競演。ありそうでなかなかない素敵な企画だと思う。

いずれ劣らぬ気合いの入った舞台だった。

各流から名だたる舞手を招いているのだから上手なのは当たり前だけれども、上手下手とは別に、気合いや気迫で見所を唸らせるというのもアリで、次から次へと舞台にあがるシテたちが「わたしを見よ!」とばかりに迫ってくるのがやたら感動的だった。

たとえば、先鋒を務めた京都観世流浦田保親「養老」は、舞い手が舞台中央に立つと、まるで能楽堂に心柱が通ったかのような力強さを感じたし、今日のシテ陣の中では最年少と思われる京都金剛流豊嶋晃嗣「箙」も、若さのたけをぶつけた華やかな舞で〈舞金剛〉の面目躍如。

普段あまり拝見する機会のない金春流本田光洋「阿漕」は、地中の気脈をじっと辿るような静かな緊張に見所を引きずり込むし、喜多流塩津哲生「西行桜」は舞囃子なのにほとんど動かず、そのささやかな動きに鉛の重みがあるようなダイヤの燦めきがあるような不思議さだった。

書き出すとキリがないので省略するけれど、とにかく全番気合いたっぷりでこちらも気を抜けるときがなく、おかげさまで見終わったときにはぐったり疲れていた。

囃子方では、太鼓の前川雪おじいちゃんが一番ノリノリで楽しそうだった。
バチが糸を引くように動くのが特徴的。光長/光範とはバチの軌跡が逆方向だ。



流儀の違いを学ぶにはよい機会だと思ったけれども、まだ謡の特徴を聞き分けるまではいたらない。
宝生の謡は華やか、喜多流は質実剛健と聞くけれど、う、うーん、そうかなぁ……まだまだ今後の課題。



きっとお弟子さんたちが多かったのだろう、若いお着物の女性客がひときわ多い今日の見所でした。

★今日の発見:演者のお昼は、仁和佐の仕出しと見た!

*****

舞囃子
(観)「養老 水波之伝」 浦田保親
   笛:杉信太朗 小鼓:古田知英 大鼓:石井保彦 太鼓:井上敬介
(喜)「自然居士」高林白牛口二
   笛:相原一彦 小鼓:竹村英敏 大鼓:谷口正喜 
(宝)「松風」大坪喜美雄
   笛:帆足正規 小鼓:伊吹吉博 大鼓:石井喜彦
(春)「阿漕」本田光洋
   笛:杉市和 小鼓:林 光寿 大鼓:武重方軌 太鼓:前川光範
(宝)「邯鄲 盤渉」武田孝史
   笛:森田保美 小鼓:曽和尚靖 大鼓:井林久登 太鼓:前川光範
(剛)「箙」豊嶋晃嗣
   笛:森田光廣 小鼓:林大輝 大鼓:谷口有辞
(喜)「西行桜」塩津哲生
   笛:光田洋一 小鼓:竹村英雄 大鼓:河村大 太鼓:井上敬介
(春)「融 五段」櫻間金記
   笛:左鴻泰弘 小鼓:林大和 大鼓:井林清一 太鼓:前川雪
(観)「通小町 雨夜之伝」片山清司
   笛:光田洋一 小鼓:曽和博朗 大鼓:石井喜彦
(剛)「巻絹 真之五段神楽」金剛永謹
   笛:杉市和 小鼓:吉阪一郎 大鼓:河村大 太鼓:前川光長

能楽囃子と西洋管弦楽との饗宴

2009年02月25日 | 囃子の会
伝統文化プロジェクト公演会(京都・国際日本文化研究センター)

出演者が、杉信太朗/曽和尚靖/谷口有辞/前川光範という元気なメンバーで、参加費無料、予約も不要というので、内容もよくわからないまま、いそいそと出かける。

平日で雨模様なのに、ホールは満席。先着五百名様と書かれていたけれども、補助椅子まで出ていたところをみると、もっといたのかも。

内容は、

第一部『能楽囃子の伝統的演奏』
   曲目:礼脇/序の舞/獅子「鞨鼓」付

第二部『能楽囃子と西洋管弦楽との協奏』
   曲目:紗(うすぎぬ)/焔(ほむら)/雫(しずく)/遙(はるか)

…というわけで、第一部はとってもよかった。

姿美しい京都の若手楽師たちが、誰かの後ろではなく舞台中央で思うさま楽器を奏でる。

姿勢もさりながら、掛け声のために開けた口の形まで美しくて、もうそのまま小さなお人形にして雛壇に飾りたいくらい!

自慢の五人囃子になるだろう。(プラス1は、シテ方よりチョイス♪)。

第二部も、作曲家竹内基朗氏の解説はとてもわかりやすく、興味深く、面白かった。

能管がいかに特殊な楽器かということや、アイコンタクトもなしにリズムを合わせる囃子方の不思議などなど。

で、西洋音楽とのコラボ実演ですが、正直、「わたしの大事な五人囃子に妙なことさすなー!」と思いました。
子供の頃、チャーハンを食べながらタマネギのみじん切りだけを避けていたときのように、頭の中でこっちの音とあっちの音を仕分けしている自分がいて、脳がとても疲れました。

せめて、ご本人たちが面白かったならよいけれど。。。



久しぶりに電車に乗ったのだった(いつもバスばかりなので)。
キオスクで「サライ」の能・狂言特集号を買う。

三響會

2008年05月28日 | 囃子の会
三響會 5/28昼の部(京都・南座)

ちょうど一年前に同じ南座でこの会を観て、けっこうインパクトを受けて楽しんだのに、何故だろう、今年はそこまでの感動を覚えなかった。

去年は素囃子や一調があって、主役は間違いなく三兄弟だった。今年、彼らはプロデューサーに退いてしまって舞台のほうはさぼった(?)ような気もする。主役になることをあえて避けたのでしょうか。鼓の家の〈音〉ではなく〈人脈〉を披露されたような気分。たしかにこれだけ豪華なゲスト陣を呼んでこれるのは凄いけれども。もうちょっとお囃子、頑張ってほしかったかも。

ゲストでは、「竹生島」の亀治郎、孝太郎、「船弁慶」の染五郎がよかった。「月見座頭」の勘十郎も含めて、歌舞伎チームの勝ちという印象。

太鼓は傳次郎君より光範君のほうが断然よかった。そんなことを思わせてはいけないのではないか。

一噌氏の笛、なんだか平板に感じられたのは南座という場所のせいだろうか。どうもいまいちだった。

ヴィジュアル面ではどれも素敵だった。「竹生島」に出て来たときの三兄弟の杜若を思わせる紫色の袴が綺麗だったし、「安達原」の背景の薄は凄みがあった。染五郎の隈取りが綺麗だった。

「月見座頭」は狂言の後味悪い終わり方とはちがって、座頭が目開きたちに一杯食わせる小気味よい結末。

★今日の発見:兄弟でも亀井家と田中家では違う紋をつけるのだ。

*****

能と歌舞伎による「竹生島」
  竜神:市川亀治郎 弁財天:片岡孝太郎 都人:中村梅枝
  笛:福原寛 小鼓:田中傳左衛門 大鼓:亀井広忠 太鼓:田中傳次郎
  長唄:杵屋利光 三味線:今藤長龍郎
舞踊・狂言・歌舞伎「月見座頭」
  座頭:藤間勘十郎 男:茂山逸平、中村壱太郎
  囃子:田中傳左衛門、田中傳次郎
  長唄:杵屋利光  三味線:今藤長龍郎
能楽と歌舞伎による「船弁慶」
  静:片山清司 知盛:市川染五郎
  笛:一噌幸弘 小鼓:田中傳左衛門 大鼓:亀井広忠 
  太鼓:田中傳次郎
  地謡:観世喜正 長唄:杵屋利光 三味線:今藤長龍郎
能楽「安達原」
  シテ:観世清和 ワキ:福王和幸 ワキツレ:福王知登
  アイ:茂山千之丞
  笛:一噌幸弘 小鼓:吉阪一郎 大鼓:亀井広忠 太鼓:前川光範
  地謡:片山清司、観世喜正 他

囃子堂

2007年08月05日 | 囃子の会
囃子堂「能囃子を音楽として聴く~輪の室内楽空間・音白粉~」
(京都コンサートホール 小ホール)

お能を観るとき、お囃子がよかったなぁとかイマイチだったなぁとか感じることはもちろんあるけれども、たいていはシテのヴィジュアルな動きと、物語の進行に意識がが向いているので、お囃子だけに集中してずっと聴いているということはあまりない。今日、それができたことはよかったと思う。

それぞれに気合いが入っていて聴き応えのある演奏だったし、ひとつひとつに簡単な解説を入れてもらえたので、漫然とでなく意識して聴くこともできた。何度も通えば、わたしにも〈聴く耳〉ができてくるかも。

帆足正規氏による進行は、しっとりと落ち着いていて過不足なく気持ちがよかった。真面目な方と安心させておいて突然ギャグをおっしゃるので、しばらく気づかず馬鹿正直にメモしてしまった。やられた(>_<)

能囃子を純粋な音楽として聴くということがテーマらしいけれども、それができたかと問われれば、わたしに限っては「No」だった。演奏がよければよいほど、実際にはいないシテがそこで舞っているのが見えてきてしまう。少なくとも、知盛と鶴と鷺と獅子は「脳」舞台で舞っていました。

キャンペーンの中では「日本のクラシック」という言葉が使われていてなるほどと思う。でもクラシックコンサートにしては構成がアンソロジー的で、メリハリに欠けるような気もする。とても禁欲的なプログラムなので、お囃子を勉強している方にはこの上もなく有益な反面、コンサートを聴きに来ましたというひとには疲れる内容だったかも。

一曲通しての演奏というのは無理だろうか。(お客のほうがもたないかなぁ。)
今回、早笛と大べしについて実演を交えて解説してくださったのはたいへん面白かったから、ああいった要素を増やしてはどうだろうか。(でもそれではコンサートじゃなくなっちゃうかも)。
凝った背景をつくるのにお金を使うのは無駄だけれども、何かしらもう少しヴィジュアル的な要素を盛り込むわけにはいかないだろうか。せっかくだから、皆さんもっと派手な衣裳で出てきてくれてもいいかも?

…というようなことを無責任にあれこれ考えました。

★今日の発見:小ホールは初めてだった。とっても素敵なところだった。

*****

居囃子「屋島」笛:帆足正規 小鼓:林大和 大鼓:石井保彦
       地謡:浦田保親、深野貴彦
素囃子「安宅 延年之舞」笛:森田保美 小鼓:吉阪一郎 大鼓:谷口有辞
居囃子「船弁慶 白波之伝」
       笛:左鴻泰弘 小鼓:曽和尚靖 大鼓:井林久登 
       太鼓:前川光範
       地謡:宇高通成、宇高徳成
素囃子「雪」 笛:森田光廣 小鼓:竹村英雄 大鼓:河村大
一管「鶴」  笛:杉市和
居囃子「葛城 大和舞」
       笛:森田保美 小鼓:竹村英敏竹村英雄 
       大鼓:井林清一 太鼓:井上敬介 
地謡:浦田保親、深野貴彦
一調「高野物狂」大鼓:河村大 謡:宇高通成
一調「山姥」太鼓:前川光長 謡:浦田保親
居囃子「葵上」笛:杉信太朗 小鼓:古田和英 大鼓:武重方軌 太鼓:井上敬介
       地謡:浦田保親、深野貴彦
独調「鷺」  小鼓:曽和博朗 謡:宇高通成
素囃子「鷺 乱」笛:光田洋一 小鼓:林光寿 大鼓:石井喜彦 
       太鼓:前川光長
素囃子「内外詣」笛:相原一彦 小鼓:伊吹吉博 大鼓:石井保彦 
       太鼓:前川光範
案内人 帆足正規 

三響會

2007年05月28日 | 囃子の会
三響會 5/28夜の部(京都・南座)     

2年前、NHKで放映された「鼓の家」を観て以来、能楽囃子方葛野流と歌舞伎囃子方田中流の家元カップルから生まれ、スパルタ教育によって育ったわりにはあっけらかんとした三兄弟を、日本が守らねばならない天然記念物のように思いなしてきた。多分、昨日今日南座にいらしたお客さんたちはみんな同じ思いのはず…。

東京に行かねば観られない(聴けない?)と思っていたこの会が京都で開かれるというので多少無理をしてでかけてしまった。

先だって玉三郎を観た帰りに搬入されるところに出くわした大鐘が中央に吊され、歌舞伎と能楽の囃子をミックスした――というよりもノンジャンルな? 道成寺の乱拍子。まだ様子がわかっていないので、ふ、ふーんという感じで聴いている。鐘はディスプレイだったらしい。誰も飛び込まなかった(^_^;)

広忠君だけがその場に残り、そこへ萬斎さんがやってくる。「八島」のアイ語り。予算の都合上三階席にいたので何を語っているものかよく聞こえなかった。が、このおふたりのツーショットは、それだけで値千金なのである。もちろん舞台で一緒になることもあるけれど、悲しいかな、お能の舞台では囃子方も狂言方も決して主役にはならない。場合によっては作り物や柱の陰で見えなかったりもする。しかし、今日は余計なものが(失礼)何もない。二人が主役。なんと贅沢なのだろう。永遠に見ていてもよかった。

舞踊。おふたりとも袴に素顔。素顔で女形を舞われると、慣れないせいもあって、とても奇妙な世界を見せられている気がする。最初は落ち着かなくて気持ちがもぞもぞするのに、そのうちわけの分からない魅力にひきつけられていく。

踊りと言えばバカのひとつ覚えで玉三郎しか観たことがなかったけれど、孝太郎ってもしかしたらすごいのかも。役者としての気概というか根性というか、何かひとつ突き抜けた精神性を感じてしまった。機会があったら孝太郎さんを観にゆこう。

船弁慶。能の謡と長唄三味線が違和感なく続いていて、いったいどうなってるんだろうと頭の中はぐるぐる。でも、能楽や歌舞伎の成り立ちから考えたら、そこで何がどうしてと分析するのもあまり意味のないことなのか。不思議なのは誰がどうやって作曲や演出をしたのかということで、どうやら曲は傳左衛門さんの担当だったらしいのだが、それぞれの共通部分をうまく使って、どちらも壊さずコラボを実現させたということらしい。

こんなことは、昨日や今日思いついてできるものではない。幼い頃からお能と歌舞伎と両方の世界にとっぷり浸かってきた彼らだからこその芸当だ。やっぱり天然記念物。

石橋。白は能装束、赤は歌舞伎の隈取り。白のほうはどっしりしている。それにしたって他の演目に比べたらかなり激しく動いているはずなのだが、何しろこっち側で赤獅子がちょこまかちょこまか動き回るので(^_^;) これがまた本物の子獅子かと思うくらい可愛らしい。三半規管がおかしくなるくらい頭を振るわ回すわ(〈髪洗い〉と呼ぶそうだ)、もう終わりだろうと満場の拍手があってもまだ振ってるし、今度こそ終わりだろうと思って拍手、いやまだ回す…、三回ほどこれをやっていた。これまた、その根性に脱帽。今日はもちろん亀井、田中兄弟が主役だけれど、片岡家の若さまたちも充分に勝負してました。

とにかく、囃子方がいつも舞台の中心にいて、謡に回ったシテ方はお能の品格と重厚さを強調するし、向かいに並んだ長唄連中は三味線という武器を手にノリノリで攻めてくるし、舞手は舞手で自分が主役と信じて疑わないし、一歩引いて相手を立てようなどと殊勝なことは誰ひとり思わない、オール主役のカーニバルみたいで、ああ、若いって素敵、ボクらはみんな生きている♪ という感じで、大変楽しゅうございました。

★今日のおまけ:東側桟敷にずらりと舞妓さんたちが並んでいた。花かんざしは藤の花~。

*****

素囃子「道成寺組曲」
    笛:一噌幸弘 小鼓:田中傳左衛門 
    大鼓:亀井広忠 太鼓:田中傳次郎
狂言一調「八島」
    謡:野村萬斎 大鼓:亀井広忠
舞踊「喜撰」
    立方:藤間勘十郎、片岡孝太郎
    笛:福原寛 小鼓:田中傳九郎 立鼓:田中傳左衛門
    大鼓:田中傳八郎 太鼓:田中傳次郎
能と長唄による「船弁慶」
    シテ:片山清司  アイ:野村萬斎
    笛:福原寛 小鼓:田中傳左衛門 
    大鼓:亀井広忠 太鼓:田中傳次郎
能と歌舞伎による「石橋」
    シテ:獅子(白)観世喜正 獅子(赤)片岡愛之助
    笛:福原寛、一噌幸弘 
    小鼓:田中傳左衛門 大鼓:亀井広忠 太鼓:田中傳次郎

*「船弁慶」「石橋」の地謡は、味方玄、浦田保親、橋本忠樹、河村和晃。(だったと思う)。

能囃子コンサート 寿ぎの音色

2005年06月05日 | 囃子の会
能囃子コンサート 寿ぎの音色(滋賀・大津市伝統芸能会館)

お正月にNHKで「鼓の家」を観て以来、亀井父子の鼓を聴いてみたいと思っていた。なかなか関西では機会がなかったのだが、今回、広忠さんが出演するというのででかけていった。

てっきり会場はホールだと思っていたので、扉の向こうに能舞台が現れた時点でかなり驚く。熱心な広忠ファンが早くから並んでいたのにも驚いた。満員にはなりそうもない地味な企画なのに。

いつも楽器の音しか聞けない囃子方の生の声も聞けて(小鼓の成田氏によるインタビュー)、豆知識も仕入れられて、お得で愉快な体験だった。「楽しかったね~!」と言いながら帰ってきた。

南座では、玉三郎の後ろで広忠さんの弟さんたちが演奏するそうで、これまた楽しみ。
近所の円満院で開運蕎麦なるものを食べた。

★今日の発見:鼓方にとっては、自分の喉も楽器である。掛け声が大事。

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素囃子『揉之段』 
居囃子『高砂』 
舞囃子『猩々乱』
大鼓一調『放下僧』 
素囃子『獅子』
出演:杉浦豊彦・竹市学・成田達志・亀井広忠・中田弘美