新潮社 |
お能を見始めるまで、自分では多少ひとより想像力のあるほうだと思っていた。
それが、見始めてまもなく、自分の脳がいかに固く乾ききり、草さえ生えない荒れ地であるかを思い知らされた。できることなら頭蓋骨をぱかっと開けて、鍬で掘り起こし水をやって揉みほぐしたいと思う。
だから、この本のタイトルほど、わたしの能楽観にぴたりとあてはまるものはない。〈能を観る〉〈能を味わう〉ということは、ほんとにまったく自分の脳内開拓に他ならない。
地味豊かな畑とまでは言わない、せめて風が吹いたら風紋を刻む砂漠くらいにはなりたいものだ。
科学者であり、また自ら数十年鼓を打ち、能作まで手がけている著者ならではの能楽観が綴られていて全体に共感できるけれど、特に「DEN」に連載されていたらしいⅣ章で「自然居士」「邯鄲」「弱法師」「斑女」の古体の意味について考察しているあたりが、新鮮で面白かった。
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