新・からっぽ禅蔵

上座部仏教僧としてタイで修行の後、日本の禅僧となった、水辺を愛するサーファー僧侶のブログ。

禅ネタ本35ー不言の教えー

2020-09-13 07:51:35 | 日記
まず余談だが、
昨日、先輩のお誘いで、大学時代の友人(先輩)数人とZOOMで楽しくお話しさせて頂いた。
ほとんどが卒業以来お会いしていない方々なので、とても懐かしく、ついつい話し込んで、予定時間を過ぎてお喋りしてしまった。
そこで一番感じた事は、みなさんが元気そうで良かった、という事。それが何よりである。
ありがとうございました。

以下は本題。


『老子』『荘子』に代表される老荘思想といえば、
「無為自然(むいじねん)=為(な)すこと無(な)く自(おの)ずから然(しか)る」
を理想として掲げていることは周知の通りである。

先に見た『論語』「衛霊公篇」と同様に、無為(むい)を理想とする箇所を、ここでは今本『老子』から、訓読で2つ示そう。

①無為を為さば、則(すなわ)ち治(おさ)まらざること無し。
(『老子』3章より)

②道は常に無為にして、而(しか)も為さざること無し。
候王(こうおう1)もし能(よ)くこれを守らば、万物まさに自ずから化(か2)せんとす。
(『老子』37章より)
〔1候王=諸候(しょこう=大名)や王の事。 2化せんとす=候王が道を守れば万物もそれに教化され、或は感化されて従う。〕
(①②は便宜的に筆者が付した)

これらは、先の『論語』「衛霊公篇」の、為すことの無い無為を以て天下を治めることを理想とする態度と矛盾しない。
まさに、儒家と道家との交渉を思わせる。

次に、再び『論語』「憲問篇」から引く。

(訓読)
「子曰く、賢者は世を避ける。其の次は地を避ける。其の次は色を避ける。其の次は言を避ける。」

つまり、「賢者は、世・土地・視覚対象・言葉を避ける」と言っている。

これを換言すれば、世事に干渉するのは賢い人のすることではないとも解釈でき、やはり道家的な匂いを感じる。

ここでは、上の「言葉を避ける」に通じるような例を、道家文献から引いてみたい。

例えば、『老子』2章に、
「聖人は無為の事に処(お)り、不言の教えを行なう」
と見え、

同・43章には、
「不言の教え、無為の益、天下にこれに及ぶもの希なり」
と見える。

更に同・81章には、
「善なる者は弁ぜず、弁ずる者は善ならず」
と有る。

『荘子』にも同様の例が確認出来る。
「知北遊篇」に、
「夫(そ)れ知者は言わず、言う者は知らず、故に聖人は不言の教えを行う」
と見え、

同篇に、
「之を弁ずるも必ずしも慧ならず、聖人以(すで)に之を断てり」
と有る。

そればかりか、同・「徐無希鬼篇」には、
「曰く、丘(きゅう=孔子)や不言の言を聞く」。

つまり「私 孔子は、不言の言ということを聞いている」と孔子に言わせている。

これらは、先の『論語』の「賢者は(中略)言を避ける」と同義にみえる。

ところで、「不言の教え」、つまり「言語には表さない教え」といえば、仏教禅宗に於いて尊(たっと)ばれる
「世尊拈華微笑(せそんねんげみみしょう)」
のエピソードも思い起こさずにはいられない。

それは次のようなものである。

釈尊が霊山会上(りょうぜんえじょう)に在(あ)って、弟子たちの前で花を拈(ひね)って見せた。
弟子たちは皆その意味がわからず黙っていた。
しかし、ただひとり摩訶迦葉(まかかしょう)のみが、師・釈尊の不言の教えを汲み取って微笑(ほほえ)んだ。
これにより釈尊は、
「われに正法眼蔵(しょうぼうげんぞう)、涅槃妙心(ねはんみょうしん)、実相無相(じつそうむそう)、微妙(みみょう)の法門有り。不立文字(ふりゅうもんじ)、教外別伝(きょうげべつでん)、摩訶迦葉に付嘱す」
と述べる。
こうして釈尊から摩訶迦葉へ仏法が授受される。

この話しは、中国で作成された偽経『大梵天王問仏決疑経(だいぼんてんのうもんぶつけつぎきょう)』「拈華品 第2」に見え、『無門関(むもんかん)』の第6話にも収録されている。
中国撰述の偽経に基づくことに鑑みて、先の『論語』の「賢者は(中略)言を避ける」や、或いは『老子』・『荘子』の「不言の教え」等を参考にした説話である可能性が否定できない!と筆者は考える。

まあ、仏教、仏教と言ってはみても、多くの日本人が「これぞ仏教」と思い込んでいるものは、実は、インド発祥の純粋なる仏教ではなく、中国古典思想のバイアスがかかった中国的仏教だったりするのだ。

(以下は次回に続く)



【写真:本文とは無関係。
先日サーフィンをした某海。
サーフィンを通じて、海を含む自然はいろんな事を教えてくれる。
それはまさに、〝不言の教え〟そのものだろう。】
◆新・からっぽ禅蔵◆

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