
前回”その30”では、LA一の名医であるドレフュス医師に、マーロウがある種の”黒い疑惑”を抱くんですが。その推測が見事に的中します。ドレフュス医師が処方した薬は、脳を腐らす劇物である事が判明したのだ。
マーロウはレオニーの顧客名簿を手にし、迷宮のホテルカルフォルニアへ向かった。
裏口から管理室に入る。部屋には老支配人とカミーユがいた。2人とも深刻そうな表情を浮かべている。
カミーユが口を開いた。
”ドレフェス医師って、ペテンだったの?
今まで与えてた薬は毒物だったというの?”
マーロウは遮った。
”毒物ではなく、毒性の高い薬だ
最近は、ごく普通に市場にも出回リ始めてる
刺激の強い、高価な鎮痛剤の事さ
鎮痛剤と言っても、所詮は大麻の事だがね
これらオビオイド系薬物は医療用として
合法化され、処方があれば簡単に手に出来る
更に毒性の強い高価なものは、地下に潜り
一部の人間にしか手に入らない代物さ”
老支配人が口を挟む。
”その毒性の高い高価な薬物を
ドレフェス医師が扱ってたというのじゃな”
マーロウは煙草を取り出した。
”その可能性は高いが、明白な証拠はない
ただ、毒性の高いオビオイド系薬物と
コカインなどの覚醒剤を乱用すると
健康な者でも死に至る
レオニーさんに処方された薬は
そういう意味では、非常に危険なものだ
直接死には至らないが、意識が段々と薄れ
最悪、昏睡状態になり、植物人間になる”
老支配人が顔を近づける。
”それでマーロウさんが
今持ってきてる薬というのが
中和剤(利尿剤)というのかの?
早速、レオニーに飲ませようかの”
マーロウは遮った。
”ま、そこまで慌てなくもいいです
重病の患者は毒性の高い薬を
上手く消化できないから、
通常は、そのまま尿に出るはずです
この中和剤で、体内に蓄積された劇物を
尿と共に上手く排出できればいいんですが”
カミーユは少し興奮していた。
”まさか?レオニーの顧客の中に
ドレフェス医師がいるって事はないの?
何でも疑えって言ったでしょ?”
マーロウは頷いた。
”Drドレフェスだって、一人の男だからな
ローマ法王と同じで、
たまには女くらい買うさ
名簿に彼の名があってもおかしくはないし
それで彼が犯人だと
決めつける訳にもいかんさ
勿論、あったとしても偽名だろうがね”
カミーユが口を挟む。
”ダーレムには、絶対に内緒なのよね”
マーロウが頷いた。
”ああ、もちろんだ
レオニーとダーレムには共通項がある
偶然に出会って、愛人になったとは
とても考えにくいからな
2人の間の秘密が明らかになるまでは
ドレフェス医師の件は絶対に漏らすな!
それに、ここで大騒ぎされたら
全てが水の泡になってしまう”
老支配人が口を挟む。
”少し言いにくい事じゃがの
もしドレフュス医師が故意に
劇薬を処方したとすればの事だが
明らかに、これは犯罪じゃの?”
マーロウは首を横に振った。
”緊急時には、副作用の強い薬を
投与する事は、医療現場ではよくあるんです
だから、単純に犯罪とは言い切れない
そういう私も死にかけた時は
毒性の強い薬のお陰で命拾いをした
その後は、ひどい副作用に苦しみましたが”
老支配人は少し理解に苦しむ。
”でも何故?マーロウさんは
ドレフェス医師が怪しいと睨んだんじゃ?
緊急時に、毒性の強い薬物を投与するのが
医療の現場では、よくある事だとしたら
それだけで、ドレフェス医師を疑う
というのは、危険過ぎるんじゃないかの?”
マーロウは煙草を蒸した。
”ただ、その投与した薬物が
瀕死の女性に投与するには、
少し危険過ぎる代物なんです
副作用とかそういうのではなく
脳死を一気に加速させる
非常に危険な類のものです
医療業界でも暗黙のルールでは
禁止されてる類のものです”
カミーユが小声で叫ぶ。
”それって、もしかしたら
テトラヒドロカンナビノール(THC)を
高濃度に含む合成麻薬のこと?
別名「ハニーオイル」って呼ばれてるけど
ハリウッド俳優やセレブ連中が
大枚を叩いて買うパーティードラッグ
のようなもんでしょ?”
マーロウは少し微笑んだ。
”さすがは元運び屋だな、感心感心!
大麻合法化のお陰で
そのTHCの効果を増やす大麻の製造が
一気に盛んになり、トラブルや事故が多発し
悲しいかな、結局は地下に潜ったのさ
そして、ごく一部に者にしか手に入らない
貴重な合成麻薬になったという訳だ”
老支配人は少し機嫌を悪くする。
”でも、そんな得体の知れない劇薬を
健全な者が吸ったら、ハイになるどころか
廃人になっちまうだろうにの”
マーロウは少し微笑んだ。
”金持ち連中はそこまで馬鹿じゃない
防御策をちゃんと用意してるんです
シャブ漬けになる程、落ちぶれてはいない
シャブ中にも格差が存在するんですね
今流行の「気候アパルトヘイト」になぞって
「薬物アパルトヘイト」って奴ですかね(笑)”
カミーユも少し微笑む。
”医者と馬鹿と薬物は使いようってこと?
どおりで、お医者さんが儲かる訳だわ
高価な薬物に中和剤に
丸ごと二重に儲かる仕組みね”
薬の売人じゃなく、処方人って所ね(笑)”
マーロウも笑った。
”冴えてますね?お嬢さん!
全く言われる通りだ
今や医者ってのは、毒物を処方するだけの
たちの悪いマフィアみたいなもんさ”
その時、ダーレムが部屋に駆け込んでくる。何か慌ててるような雰囲気だ。
”レオニーがやっと目を覚ました
意識もかなりハッキリとしている
言葉も聞き分けられる程です
勿論、私の事も覚えててくれました
マーロウさん!
彼女に聞きたい事があるんでしょ!”
マーロウは、早速レオニーが寝てる部屋に向かった。
”レオニーさん!俺だ!探偵のマーロウです
二度目ですよね!覚えてますか?私の事
無理して答える必要はないのですが
ここに貴女の顧客名簿を持ってきました
分かる範囲でいいから、
答えてもらうと助かります”
レオニーは微笑み、少し涙ぐみ、必死に何か言おうとする。
”マーロウさん?でしたね
一度目はボォーっとして
記憶がとても曖昧でしたが
今はハッキリと貴方の顔が見えます
ダーレムから聞きましたわ
色々と面倒を尽くしてもらって
何とお礼を言っていいのやら
本当に有難う、ここまで回復したのも
みんなのお陰だわ、本当に有難う”
ダーレムは言葉を詰まらせた。
”みんな心配してたんだよ、レオニー!
でももう大丈夫!君は昔の君だ!
何も心配することはない!
ここは秘密の隠れ家なんだ
みんなが君を守ってくれる
今からマーロウさんが幾つか質問するから
君はYESかNOかで答えるだけでいい
わかったね!”
老支配人はほっと胸を撫で下ろす。
”マーロウさんが持ってきた薬が
やっと効き始めたようじゃの
本当によかった!よかった!
レオニーさん、
実はお医者さんが処方した最初の薬が
少し強かったみたいで
意識が回復するのに
少し時間が掛かっただけじゃ
なんにも心配はいらんよの”
マーロウは早速、顧客名簿をレオニーに見せ、自らタブレットPCを広げ、名簿にある顧客の名前と写真を照合していく。
”レオニーさん、この中に
名前と顔写真が一致するものはありますか?
顧客の大半は偽名を使ってる筈ですから
名前と顔が一致する客は
全てシロだと思っても構わないでしょう”
レオニーは、顧客名簿とタブレットを目で往復させながら、指を刺し、記憶を辿っていく。
”メキシコ系は言葉の訛りで分かるから
名前と顔写真が違うのはひと目で分かるけど
一般客を見分けるのは、少し難しいわ
私を殺そうとした男も
小柄でごく普通のアジア系だったから
それに、ドレフュス医師は
私の顧客じゃないわ!
それだけはハッキリと言える
でも他はよくわかんないいわ
まだ、意識が回復したばかりだし
ダーレムの顔がやっと見分けれる程だから”
マーロウが微笑んだ。
”レオニーさん、最初にしては上出来だ
今日は本当に助かったよ
これを飲んで、ゆっくりと休みなさい
明日になれば
もっと意識はハッキリする筈です
今日は本当に有難う
何よりも元気そうでよかった”
レオニーも微笑んだ。
”私こそ、せっかく心配してもらったのに
お役に立てなくて、本当にゴメンナサイ”
カミーユが声を詰まらせる。
”何言ってるのよ!全然大丈夫じゃない!
ここまで元気に回復するとは
誰も思ってもみなかったわ
ここに担ぎ込まれてた時は、
95%は死んでたのよ
言葉が喋れる様になっただけでも奇跡だわ
でしょ?マーロウさん?”
マーロウは煙草を大きく吸った。
”本当に奇跡だよ、全くの奇跡だ
でも思った以上に元気でよかった
それだけでもとても嬉しいよ”
老支配人は大声で笑う。
”ああ、これで心配事が
一気に吹っ飛んだ気がするのぉ”
ようこそ、
我がホテルカリフォルニアへ
🎵ここは素敵な場所でしょ🎵
🎵ここは素敵な人達でしょ🎵
おもしろく読ませていただきました。
薬が医者の領域を超えちゃったから
もう医者はいらないかもです。
私達以下の世代は、ヘボな受験戦争と共通一次テスト急速に学力が落ちてしまいました。
ブログをしてる人でも騙されてると判ってるのに、長々と精神病薬に依存してるのが結構いますが、記事を見れば大体判ります。こういう人たちはオツムが弱い傾向にあるんですかね。イヤそうでもないか。
少し訂正しました。
感想を書かないのに生意気な事を言って、ごめんなさい。
”鏡張り部屋”は
ポエムっぽい描写にして読みやすくしてるつもりですが、Goo編集部の度重なる改悪?によってとてもやり辛いですね。
これからも宜しくです。