象が転んだ

たかがブロク、されどブロク

鏡張りの部屋、その37〜尋問を終えて〜

2020年05月08日 02時40分37秒 | 鏡張りの部屋

 前回”その36”では、マーロウがダーレムを尋問するも、決定的な証拠と情報は得られなかった。しかし、ダーレムが務める工場で製造されるゴム製キャタピラの中にコカインを埋め込めないだろうか?というダーレムの推測が、マーロウの脳裏に引っ掛かってはいた。

 因みに大きなお世話ですが、これまでの36話分の経緯は”その35”をClick参照です。


 尋問を無事に終えたダーレムだったが、少し不安だった。
 しかし、マーロウを信頼していた。いやそうするしか他に方法はなかった。そう思うと、不思議とスッキリとした気分になっていた。

 ホテルを出る途中、コーヒーを運んできたカミーユとぶつかった。
”あらもうお帰り?せっかくコーヒーとサンドイッチを運んできたのに。でどうだったの?尋問の方は?”

 マーロウはサンドイッチを頬張りながら、少しは満足そうな気分に浸ってはいた。
”思ってた通りだったかな
でも明確な物的証拠がない
何せ目撃者が、ダーレム一人なんだからな
こちらとしては動きようがないんだ
でも今の俺には、強力な助っ人がいる
何とかなるさ、そう思わんとやってらんさ
ああサンドイッチ美味しかったよ、でわ”


 マーロウは事務所に着くと、さっそく転象に電話した。しかし、留守電だったので折り返し電話するよう伝言を入れた。
 マーロウは、色々と考えてる内にウトウトして眠りについた。

 その時、電話が鳴った。
”ああテンゾウか?悪かったな
日本は明け方だったかな?”

 転象は眠たい目をこすっていた。
”いや真夜中だよ、
もう少ししたら寝ようとしてた所だ
それで急な用って何?
何か進展があったの?”

”私の顧客の一人であるダーレムの件だが
君は若い頃に、日本のゴム工場で働いてた
って言ってたね
そこで、少し教えてほしい事があるんだ”

”世界的大手のゴム工場で目一杯
こなされましたよ、死ぬ一歩手前までね
そこで何よ?教えてほしいってのは?”

マーロウは煙草を取り出した。
”実はタイヤじゃなくて
ゴム製キャタピラの事だが
いやゴムクローラの方が判り易いかな?
例えの話なんだがね
ゴムの中にコカインを詰め込んで
成形したら、普通はその高温と高圧で
コカインは使い物にならなくなるよな”

”イヤ、そうとも限らないさ”

”え?どういう事だ?テンゾー”


 転象は、電話を高度な暗号システムに切り替えた。
”実はね、熱や圧力に強いゴムってのが
この世には存在するんだな
世界的メーカーの技術は半端ないんだよ”

”そんなハイブリッドなゴムが存在するのか”

”ああ、その特殊なゴムの中なら何とか
耐えきれるかもしれないな
しかし、ゴムクローラの場合は最低でも
40分間は高温高圧の窯の中だ”

”要はそれに耐えきれるかっていう事だな”

”ピンポーン!でも普通にやれば、
熱でコカインは使い物にならなくなるよ”

”で?どうやれば上手く行くんだ?”

”ゴムクローラには靴のスパイクに相当する芯金というのがある。昔は鉄だったが、今は強化ゴムに変りつつある”

”芯金の代わりに強化ゴムを使うって訳か?”

”ピンポーン!で〜す。
その強化ゴムの中に特殊舗装で包んだコカインを詰め込み、特殊ゴムでコーティングすれば、40分程ならぎりぎりで耐えきれるかも知れない”


マーロウは煙草をゆっくりと蒸す。
”そんな事が可能なのか?170℃の高温だぜ”

”普通は無理だよね、でもコカイン専用のゴムクローラとなれば別さ”

”コカイン専用って?”

”つまり、焼き上がったクローラから特殊包装に包まれたコカインを取り出す為に、比較的低温低圧の短い時間で焼き上げ、柔らかい状態で取り出し、カットしてコカインを取り出し易い様にしておくんだよ”

”つまり、コカイン専用に作るんだな”

 転象はカーテンを開け、外を眺めた。いつも思う事だが、田舎は何事もなかったかの様に毎日が過ぎていく。ロスとは大きな違いだ。テンゾーは再びカーテンを閉める。
”ピンポーン!
しかし、運送には一般の業者を使うから、見た目や質感でバレちゃうとやはりマズイ。
国内ならともなく国外は税関が厳しいから、通常の製品に近いものが要求される。
勿論、相手に渡りさえすれば、そこで解体する訳だから、見た目や質感なんてどうでもいいんだけどね”

”で?どうやって作り分けるんだ?”

”比較的簡単な事さ。見た目や質感に殆ど変りがなければ、一般業者は見分けがつかない。
そこで製品にマーキングするのさ。
一般の製品には白のマーカーを、そしてコカイン用には青のマーカーをって感じでね”

”マーカーの色だけが頼りって事だな”

”ピンポーン!
ゴムクローラはどうか知らないけど、タイヤでは製品の出来の微妙な良し悪しをマーカーをつけて区別するんだ。
勿論、不良品はスクラップにするがね”


 マーロウは、まるで転象が目の前にいるみたいに身を乗り出す。
”で?具体的にどうやるんだ?”

”クローラを受け取る業者は、まずマーカーの色を見て選別する。そこで、青のマーカー(コカイン用)は品質が少し劣ると、前もって伝えておくんだ。
一般業者は、質のいい製品しか受け取りたくないから、しっかりと選別してくれる”

”つまり、コカイン用はほぼ不良品と見なされる訳だ”

”その通り、世界大手が作った製品はほんの少しの不良でもハネられる。業者はそういうのにはやたらと神経質なんだよ”

 マーロウはブラインドを下ろす。
”で?ハネられたコカイン用ゴムクローラはどういうルートで闇組織に運ばれるんだ?”

”普通、ハネられた製品は工場にそのまま送り返されるんだが、コカインが仕込まれてるから、別の廃品回収業者が引き取る事になるね。
つまり、この回収業者が闇組織と繋がってるんだ”

”廃品回収業者が、闇組織にコカイン用ゴムクローラをそのまま送り込むって事か?”

”イヤ、闇組織はそこまではしない。
コカインの品質チェックだけだ”

”では誰が解体するんだ?回収業者か?”

”いや、回収業者だと足がつくから、闇組織の下請けが解体を引き受けるのさ”

”そこで解体してコカインだけを取り出し、闇組織に渡すんだな”

”まあそういう所だね、でも今は組織がしっかりとしてて、一連して一括でやる所もあるよ”

”でもそんなに簡単にゴムキャタピラが解体できるもんかね?”


 転象も身を乗り出した。
”そこが一番の問題
硬すぎたゴムはまずカットする事も解体する事もできない、ある程度柔なくないと完璧に解体できないのさ。
特殊ゴムのスパイク(芯金)をキレイに取り外す必要があるからね”

”で?どうやって取り外すんだ?”

”そこが肝なんだよ、ゴムクローラの解体で一番苦労するのが、芯金とワイヤの取り外しだね。これがホント一番辛い作業だよ。
だから製品を作る時に、ワイヤを入れないで作るんだ”

”そんな事が出来るのか?”

”通常は出来ないね。
だから部材を組み立て、モールド(窯)に入れる時にワイヤだけを取り外すんだ”

”そんなんで、まともな製品は作れんのか?”

”まともでなくても、質感と見た目が製品版と同じであればいいんだよ。
もちろん、運ぶ時は多少ブヨブヨかもしれないが。パレットに積んでしまえば、業者はリフトで運ぶだけだから、最悪崩れない限りバレる事はない”

危険な綱渡りだな、テンゾー”

”でも、潜水艦でコカインを運ぶよりも全然楽勝だよ。ただ、ワイヤを取り去る時は注意が必要だけど。モールドに入れる前に壊れちまったら元も子もないからね”

”でもダーレムが現場を見たっていうのは、ゴムクローラの中に詰め込まれたコカインの現物を見たって事かな?”

”多分、格落(不良)が発生した時に、コカインがクローラからはみ出してたのを偶々目撃したんだろうね”  


 マーロウは2本目の煙草を取り出す。 
”でもダーレムにはそんな仕組みは判っちゃいない”

”ピンポーン!
結局、成形(モールド)が不十分で取り出す時にゴムが千切れたんだろうね
俺も経験あるんだけど、部材入れ忘れで成形をした時は、取り出す時に必ず不具合が出るもんさ”

”流石!我らがテンゾーだ
これで全ての流れが判明したわけだな”

”でも安心するのはまだ早いね
だって、コカイン用クローラを整形するのも一般の作業員だろう。すぐにバレちゃうよ”

”アララ、またまた振り出しに戻ったか
で?どうしたらいいんだ?”

”多分やり方としては、試作品という手法を使うだろうね。
ごく一部の人間だけで秘密裏に行うのさ。何か不具合があっても試作品という事で現場には言い訳がつく”

試作品として作り、出荷する時は製品と同じルートに乗せるって事か”

”ま、そういう事だね”

”ビビらかすなよ、テンゾー”

”でもこういう人海戦術的やり方も、直にバレちゃうだろうけど。
ただゴムの匂いが強烈だから、麻薬犬が役に立たないかもね”


 マーロウは窓を開けて外を見た。スッカリ日が暮れていた。
”テンゾー、今日は色々と有難う。
君がいなかったら、迷宮入りしてたかもだ。
でも、これで何とか目処がついた。
後はロス市警のフレデリックに報告し、闇組織を摘発するだけだな。これで一気に踏み込めるって訳さ”

 転象も外を見た。スッカリ夜が明けていた。
”フレデリックさんか?今もお世話になってるの?何だか懐かしいな、あの時はCIAだったよね”

”田舎の方はどうよ?ロスが懐かしいだろ?”

”いや、俺にはこっちの方がお似合いさ”


ようこそ、
我がホテルカリフォルニアへ
🎵ここは素敵な場所でしょ🎵
🎵ここは素敵な人達でしょ🎵



4 コメント

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キャタピラと薬物 (hitman)
2020-05-08 16:33:23
見事な組み合わせですねえ〜
転ゾーさんの推理も実に大げさですが(^^♪
考えに考えた挙げ句の推理なんでしょうか?それとも実際の仕事現場での経験なんでしょうか?

お陰でマーロウは闇社会に一気に踏み込むんですよね。あとはドレフェス医師の確保とCIAとの複雑な癒着が大きな壁として立ちはだかるんでしょうか。

37話といえばシーズン3終了といった所でしょうが、まだこれといった殺人も起きてません。殺人なき推理ドラマのこれからに期待(^^)v
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hitmanさんへ (象が転んだ)
2020-05-08 17:29:23
殺人なき推理ドラマもとうとう37話にまで来ました。正直ここまで続くとは思っても見ませんでしたが、これも心房強くコメントを送ってくれるhitmanさんのお陰です。感謝!感謝!

まずはドレフェス医師とCIAとの関係を分断し、闇組織からも守り、命を救うべきですが。どう展開しましょうか?先は全くの未定です。
少し時間は掛かるかもですが、何とか続けていきたいと思います。応援有難うです。
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Unknown (kaminaribiko2)
2020-05-08 23:13:29
ずいぶん込み入ってきましたね。老化激しき私は、また前の記事も読み直さなくちゃです。頑張って続きを書いてください。応援しています。
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ビコさんへ (象が転んだ)
2020-05-09 02:35:28
気がついたら、37話まで来てました。
ホントは5話ほどで完結する筈だったんですが、エロ爺の風俗通いみたいなもんでハマると抜け出せない(笑)。
書く方も混乱するので、シンプルな展開にしようと思いますが、どうなる事やらです。
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