象が転んだ

たかがブロク、されどブロク

鏡張りの部屋、その36〜ダーレムへの尋問〜

2020年04月20日 04時52分26秒 | 鏡張りの部屋

 前回”その35”では、ホテルに監禁されてるダーレムをできるだけ早く尋問する様に、マーロウの友人でもある元CIA職員で、今はロス市警の殺人課警部補のフレデリックから催促を受けていた。つまり、ダーレムの口から発せられる具体的な情報がないと、警察も身動きできないのだ。
 マーロウは、ダーレムがホントの事を漏らすとも思えなかったし、たとえ白状したとしても理解に苦しむと考えていた。それ以上に、追い詰めすぎて、サビオレみたいに失踪されると困るのだ。
 因みに、ここまでの話の流れは”前回”をClick参照です。
 

 マーロウはカミーユに連れられ、ダーレムの部屋を軽くノックした。
 カミーユは悪戯っぽく右目でウインクすると、そのまま立ち去った。

 ダーレムは元気そうだった。
”マーロウさん、今日は尋問という事で
どうかお手柔らかにです”

 マーロウも深々と挨拶をする。
”こちらこそ、お手柔らかにです
勿論、強制じゃないので
答えたくない事は、答えなくてもいい
答えれる範囲内でいいです
ただあまりにも情報が少ないと
我々もそうですが、貴方とそのご家族にも
危険が及ぶ場合があります
そこら辺はご理解をお願いします”

 ダーレムも深々とお辞儀をする。
”勿論、出来る範囲でのご協力はします
これもマーロウさんを信用しての事です”

 マーロウは早速、ダーレムの住所と生年月日と簡単な履歴を確認する。
”職業は、パームデール〇〇工場勤務。B工場内のゴムクローラ第2課職長で、勤務年数は15年でいいんですね”
  
 ダーレムは肯いた。

 マーロウはポケットから鉛筆とメモを取り出した。
”親しい上司とか同僚とかいますか?
勿論、答えれる範囲でいいです”

 ダーレムは真剣な表情になる。
”親しいといっても、職長となると
周りは上を狙うライバルばかりですから
正直、これという人はいませんが
何時も良くしてくれる上司はいます
でもプライバシーもあるんで
名前は伏せたいんですが”

”別に構いません、言える範囲で十分です
貴方が事件に巻き込まれた時
何か不審に思う事はありませんでした?
何でもいいです、細かい事でもいいです
不審に思った事を教えてください”

”不審というか?・・・
自白するには、とても勇気のいる事ですが”

”自分に都合の悪い事でしたら
無理しなくてもいいですよ”

”いや、こういう事は
はっきりとしておきたいんです
勿論、社内で知ってる人は
そうはいないでしょうから”

”差し支えなければ、仰って下さい
プライバシーは必ず守ります”


 ダーレムは、思い詰めたように呟いた。
”実は、ごく一部の上層部の間ですが
薬物の取引きをしてる
という噂がありまして、
実際に私は、その現場を見たんです”

 マーロウの眼光が鋭くなる。
”その現場を見たのは貴方一人でしたか?
そしてその事を、他の誰かに言いました?”

”はい、一人だけには言いました
何時も良くしてもらってる先述の上司です”

”その上司は何て言ってました?”

”知らなかった事にしろ!
関わり合うと大変な事になると”

”見て見ぬふりをしろって事ですね?”

”そうです、でもその後が問題なんです
その上司が行方不明になったんです
それで私は、上司の幹部に問い合わせました
でも、病気による休養とだけでした”

 
 マーロウは煙草を取り出した。
”上司の病気に関しては、
何の説明もなかったんですね”

 ダーレムは記憶の紐を辿ろうと必死だった。
”はい、それ以上問い詰めようとすると
とても怪訝な顔をされました。
それ以降、
私に対する上層部の態度が急変しました”

”その事で、他の誰かに相談しましたか?
職場の同僚とか?家族や友人とか?”

”職場の連中には何も言いませんでした
とても怖かったからです
まるで見てはいけないものを見てしまった
という気がずっとしていたのです”

”では誰にも喋ってはいないんですね?”

”いいえ、ああでも
幼馴染の友人には少し漏らしました”

”で?その友人は何と言ってました?”

”気にするな、知らんふりをしてろと”

”その友人の詳細を教えてくれませんか”

”彼は小さなレストランを経営してます
女房とも古い付き合いで、安全の為に
今は家族と共に彼の家に住んでます”


 マーロウはメモをちらりと見た。 
”その友人とはラウンダーズさんですよね”

 ダーレムは少し慌てた。
”えっ!彼を知ってるんですか?”

”実は、ダーレムさんのご家族を
彼に世話してもらう様に
お願いしたのは、この私なんです
身の安全を考えた場合、
ラウンダースさんが適任だと思ったんです
それに彼からも色々と聞かされましたから”

”で?何と言ってました?”

”ラウンダーズさんは
警察に全ての事を話してくれました
お陰で貴方の保護が上手く行ったんです
警察は確かな情報でしか動けませんから”

”という事は私が知ってる事は
既に警察も知ってるんですね?”

”詳しい事は知りませんが
大体の推測はついてはいます
ただ、情報に関しては、
はっきりとした裏が取れないので
警察も具体的な行動は取れないのです”

 ダーレムは懇願するようにマーロウを見た。
”でも、工場の幹部と闇業者の黒い繋がり
確かなんでしょう?マーロウさん!”

 マーロウは少し表情を曇らせる。
”ええ、しかし今の所
状況証拠がやっとの状態なんです
物的証拠がないので、現行犯で逮捕できない
潜入捜査官を潜らせてはいますが
闇業者と繋りのある幹部はすでに
全てが左遷させられてますから”

”では、逃げられたんですか?”

”つまり、そういう事です
貴方が生きてるかもしれないという事が
相手に勘付かれたんでしょうね
貴方は現場を目撃した唯一の証人ですから”

”幹部連中がコカインを所持してた
というだけでは逮捕できないんですか?”

”その量にも依ります
僅かに数gなら逮捕には当たりません
kg単位ほどじゃないと、検察も動かない
多ければ多いほど動きやすいんです”


 ダーレムは再び記憶を辿った。
”でも私が見たのは500g程の袋でしたが
それでも少なすぎるんでしょうか?”

 マーロウは煙草を蒸す。
”それがコカインだという保証は
何処にもありません
何かのほかの薬剤かも知れませんし”

”でも幹部連中は慌ててましたよ
あの状況からして、絶対に薬物です”

”だから状況証拠なんです
他に何か気付いた事はありませんか?
何でもどんな些細な事でもいいです”

 
”これは私の個人的で身勝手な推測ですが
工場で生産するゴムクローラ、つまり
ゴム製のキャタピラの中にコカインを
仕込む
という事が出来るのか?考えました
ゴムクローラを焼き固める時は
170℃の高温で1時間ほど
高圧のモールド内で成形します。
常識的に考えてそれは出来ないです
それかといって、
成形後のゴムにメスを入れてコカインを
仕込む事なんて、これも不可能です”

 マーロウは静かに呟く。
”つまり、自社の製品(ゴムクローラ)に
コカインを仕込むというやり方ですね
あり得ない話ではないかもしれませんが
可能性としては、
少し無理があるかも知れませんね
ですが、とても参考にはなります”

 ダーレムは一息つくと、インターホンでカミーユにコーヒーを注文した。
”大体私が言いたい事はこれで全てです
少ししたらコーヒーをもってきますから”

 マーロウはタバコを取り出し、一服する。
”色々と予定外の事まで喋らせて恐縮です
要はどれ位の量のコカインを
扱ってるか?
ですね
ダーレムさんが命を狙われる程ですから
それなりの量の薬物は取引された筈です
それ程の量が工場内で仮に取引されたなら
多分、多くの人が気付く筈ですが
不思議と殆ど目撃者がいない
ダーレムさん!
実は貴方だけなんですよ目撃者は
だから裏が取りにくいんです”

”みんな知ってて黙ってるのかも?
そうは考えられませんか?”

”黙ってるのにも限界はあります
それに火のある所に必ず煙は立ちますから
でもお陰で大体の見当はつきました
こちらこそ感謝します
私は今からまだ仕事が残ってますので
もう失礼します
貴方への尋問はこれで全てです
もう安心して頂いても大丈夫ですよ”

 マーロウはそう言うと呆気なく部屋を出ていった。


ようこそ、
我がホテルカリフォルニアへ
🎵ここは素敵な場所でしょ🎵
🎵ここは素敵な人達でしょ🎵



4 コメント

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そう来ますか (tomas)
2020-04-20 11:41:25
ゴム製キャタピラーの中にコカインをね
でも高温高圧の中でブツは駄目になるんじゃないの?
転んだサンの事だから色々考えてるとは思うけ
どマーロウとテンゾーの推理はどう動く。
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tomasさんへ (象が転んだ)
2020-04-20 12:51:23
あくまでもフィクションですから、色んな事が想定できるわけで。
ある仮定を生み出しては排除し、その繰り返しの中で真相を探る。数学と全く同じですね。
これからどうなることやら私にもサッパリです(@_@)
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逃げる者と追いかける者 (hitman)
2020-04-21 06:55:10
犯罪って結局は逃げたが勝ちで色んなアイデアを駆使して逃げまくるけど、追う者も色んな推測を駆使して追いかける

コカインを色んな物に潜りこませ逃がすかが互いの駆け引きなんだよ。意外な方向に進みそうな予感がするけどどうまとめていくんだろ(・・;)
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hitmanさんへ2 (象が転んだ)
2020-04-21 11:17:27
どう考えても逃げるほうが楽ですよね。
追いかける方は相手が動いてからじゃないと追いかけれないし、対処が遅れますもの。
そこで相手の策略を先読みする洞察が必要なんですが。そういう所は数学とよく似てますね。
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