
2025年7月、日米の交渉が難航すると見られていた相互関税の協議が最終的に15%という“落としどころ”で妥結した。多くのメディアは”予想外の譲歩”と好意的に受け止め、日本国内には安堵の空気も漂った。
事実、23日の日経平均は一気に1500円以上も値上りしたが、今回の合意で関税を巡る不確実性が後退した事が大きな要因となったとされる。
この様に、楽観的空気が支配した今回の日米関税交渉だが、早くも双方の認識のズレが表面化してきた。(信じ難い事だが)合意文書がない為に、15%の相互関税の適用日すら曖昧なままで、突然米国側が方針を転換し、不確実性が高まる懸念がないとも言えない。
一方、これまで関税交渉が妥結した国はアジアでは、ベトナム・インドネシア・フィリピンの3カ国で、それぞれの関税が引き下げられたが20%程ほどで、日本は比較的低く抑えられている。更に、自動車を巡り、米市場で日本と競合するEUや韓国はそれぞれ30%と25%を突きつけられてたが、最終的には15%で収まった形となる。
では、15%という関税率を引き出す為に、日本は何を差し出したのか。以下、複数の民放局のサイトを参考に”文書なき合意”の怪しい行方を探ってみたい。
文書なき合意の悲しい行方
トランプ政権が発表した”ファクトシート”には、”輸出拡大と投資の9つの分野で日本側に約束させた”とする内容が書かれている。事実、”米国の防衛装備品を毎年数十億ドル追加購入する”や”米国産米の輸入を直ちに75%増やす”などの項目が列挙され、トランプは、”相互関税を下げる代わりに、日本がこれら市場開放を受け入れた”とする内容を誇らしげに発表した。
だが、日本側の説明では防衛装備品の購入は今回の交渉で新たに合意したものではなく、政府の既存計画に含まれ、輸入米についても”市場開放は誤解だ”と小泉農相は反論。年約77万トンのミニマムアクセス(最低輸入量)の枠内で増やす可能性は認めるが、米国側の75%という数値についても言及を避けた。
また、米ボーイング社の航空機100機の購入は、いつ誰が買うのかなどは明記されず、これらの購入数は既に日本航空やANAなどが決定済みの機数を積み上げたものに過ぎない。
更に、大豆やトウモロコシなど農産物については、約1.2兆円分購入する事になってるが、2024年の米国からの農産物の輸入額は1.9兆円で、1.2兆円分をいつまでに買うのか?なども明記されていない。
5500億ドル(80兆円)の対米投資も、あくまで投資をする相手企業に対し、政府系金融機関が行う融資や融資保証などの枠にすぎない。
肝心の15%相互関税の適用日についても、日本側は関税が25%に上がる予定だった8/1と想定してるが、これも明文化されてはいない。
しかし、合意内容を巡り、公の場で米国側の認識を否定すれば、”下手につつくと怒りで翻意し得る”とされるトランプを刺激し、再び日本に強硬な要求を突きつけてくる可能性もある。事実、ベセント米財務長官は”合意の実施状況を4半期毎に検証する。トランプ大統領に不満があれば関税は25%に戻る”と日本側に警告した。
トランプは、80兆円融資の”利益の9割を我らが得る”とアピールしたが、”具体的な部分は棚上げし、数字の大きさでトランプ支持者にアピールしたものだ”と解説する向きもある。
また、農産物や防衛装備品、アメ車の規制緩和にても”日本側は実質的には負担を増やさないままトランプ氏が勝ち取った様にアレンジした”と、日本外交を評価する声も多い。
しかし、日米の合意文書は作られず、こうした曖昧さや不透明さが火種になるのは、明らかであろう。
弱者のジレンマに堕ちた、日米の関税交渉
今回の関税交渉をどう評価するかは、様々な視座から観察する必要はあるが、国家の経済を左右する関税に関わる重大な約束に、合意文書による締結が無いなどあり得えようか・・
多分、日本側は要求した筈だが、米国側の威圧に弾かれ、”今後の日本の実行次第だ”と脅されたのだろう。少なくとも、日米首脳級の交渉に口約束などあり得ない筈だ。
つまり、参院選の前に成果を急ぐ石破首相だったが、支持者に”アメリカ1st”をアピールしたいと焦るトランプの威圧に、まんまと押し切られた可能性も高い。
今後は更に、25%、35%だと圧力を掛け続けられ、日本が苦境に立つのも想像できなくもないが、これを”弱者(従属)のジレンマ”と言わずして、何と言おう。
そもそも、党首会談で野党から合意の文書化を求められた石破が、なぜそれを拒んだのか?
多分、文書化する程に合意が詰められなかった事が考えられる。こうした日米間の認識の相違はそのまま対立点として棚上げされ、石破が内閣維持の為に、15%関税の合意成立を文書化する事なく発表する事を提案。トランプがこれを受け入れたのだろう。
つまり、最初から日米間の認識の相違、特に投資額についての相違は、日米の対立に過ぎなかったのである。事実、これでは合意とは言えず、単なる脅迫であり、外交にすらなり得ない。一方でトランプは”最高の取引だった”と自慢げに吠えまくるが、これじゃ、腹黒い愚劣な囚人の外交である。
最悪のケースを想定すれば、米国は自国の半導体産業の育成の為に、日本の半導体関連企業の投資を求めるだろうが、それは、日本の半導体産業の空洞化を意味する。仮に日本が拒否すれば、”25%の関税を適用する”と脅すだろうから、日本政府は”どうかお許しを・・”と、物乞いせざる負えない。
事実、今回の交渉では80兆円という日本の国家予算に相当する大金を上納するとの条件で15%の関税に抑え込んだ結果となったが、”弱者(従属)の物乞い”である事には変わりはない。
極論だが、こうして競争力のある産業の空洞化が進み、石破政権は今回の”文書なき合意”により、致命的なリスクが日本にもたらされる事を等身大に理解してるのだろうか。実質上の親米政権である自民党の主にそこまでの危機意識はないのかもだが、あまりにも楽観的過ぎる。
一方で、関税合意までに時間が足りなかった事は同情に値するが、特に対米投資という、トランプが最も欲するものに日本が応じた事は深刻で、時間を掛けてでも、対米投資だけは明文化させる必要があった。
少し大袈裟だが、”日本からの自動車輸出がゼロになるまで米国に投資しろ”と言われてる様なもんであり、これを弱者(従属)のジレンマと呼ばずして何と呼ぼう。
最後に〜囚人のジレンマと米中対立
今回の日米関税交渉を”囚人のジレンマ”に例える声は多い。
因みに、囚人のジレンマとは天才数学者ナッシュJrが提唱した非協力型のゲーム理論で、別々の部屋に監禁された2人の囚人が互いを疑い、共に自白すれば自身に不利益が被ると判っていながら、2人共に自白してしまう。
つまり、2人共に黙秘するよりも刑が重くなる事を承知の上で、あえて最悪の選択を選んでしまった愚かな選択とその均衡状態を指す。
事実、各国と個別に関税交渉するトランプ大統領はこの理論を実践したとする専門家の声も肯ける。一方で、税率15%の関税交渉の決着に、高評価と安堵感が漂う日本だが、他国より低いから成功だと胸を誇るべきではない。最悪は、”囚人のジレンマ”の危機状態に陥りそうな気配だが、最初から各国と協調してトランプの非合理な保護主義を回避する事はできなかったのだろうか。
厳密に言えば、今回の日米の関税交渉は”囚人のジレンマ”というより、それよりも更に悪い”従属のジレンマ”の様な気がする。つまり、日本だけが悪い条件を一方的に飲まされた”文書なき合意”に陥った様に思えなくもない。
従って、”囚人のジレンマ”で言うのなら、米中対立の方がそれに近い。
事実、経済的な打撃を考えれば、米中双方の前代未聞の関税引き上げは両者とも望まぬ展開で、ここまでエスカレートした事は米中間での交渉が殆どなされなかった事を示唆する。つまり、経済的な不利益を知りながら、あえてお互いに報復する”囚人のジレンマ”に陥ったと言える。
日本からすれば、非合法な禁じ手を使ったアメリカになびくのか?経済的にまだまだ余力を残す中国に縋るのか?で意見が分かれそうだが、後者の方が損失は少なく期待値が多い様な気もするのだが・・・それとも、トランプの大ホラ吹きを期待するしかないのだろうか。
補足〜最悪の事態は免れたのか?
29日、日米に続き、EUも米国との関税交渉で合意。内容は自動車関税と相互関税が共に15%で、対米投資は6000億ドル(87兆円)で日本とほぼ同じだが、日本が航空機、米、トラックなどの市場を開放したのに対し、EU(主にドイツ)には7500億ドル(3年間)のエネルギー購入を約束させた。が、いずれも合意文書は未発表のままで、詳細について双方の発表内容が相違し、今後に揉める可能性も残った。
結果、日本にとって最悪のシナリオは回避され、世界景気においてはソフトランディングの可能性が高まったとの声もある。
因みに、日本の対米80兆円投資の詳細だが、元大和住銀投資顧問の窪田真之氏によると、米国側はトランプ大統領の指示で”日本がどんな案件にも投資する”と勝ち誇ったが、実際には”日本による投資で米国が利益の90%を取る”という米国側の説明は誇張だったと考えられ、一方で日本政府の説明では”日本の政府系金融機関が出資する場合は最大10%まで、その場合は政府系金融機関の取り分は10%で、残り90%は日米の民間出資者の取り分になる”との認識が正解に近いという。
事実、窪田氏は”年初、トランプ関税ショックで3万7000円まで下がるが、年末には世界景気ソフトランディングを受けて4万4000円へ上昇する”と予想してたが、ここまではだが想定通りに進んでいる。故に、最悪の事態の回避予想は、満更ウソでもないのだろう。
だが、全ては始まったばかりである。
トランプの取引が大ボラである事を望むばかりだが、仮にEU相手にも合意文書がないとすると、一連の関税交渉は(良い意味においても悪い意味においても)流動的になる可能性もなくはない。
因みに、ドイツの童話「ほらふき男爵」のパロディに”トランプ男爵”という言葉が使われるが、トランプが”核ミサイルに乗って空を飛んだ”とホラを吹く様子を揶揄した風刺的な表現として使われる。
確かに、再選後のトランプの主張と取引の殆どは、囚人が喚き散らすホラの様でもあり、自ら”囚人の選択”に迷い込み、ヤケを起こしたハゲ爺にも思えるのだが・・
これが一般社会だったら
まず許されることはない。
大国の論理によれば、こうしたパワハラも立派な大義なんでしょう。
特に、アメリカのそれは恐ろしく強力で権威的で、力による外交や交渉を今までも可能にしてきました。
重力があらゆるものに働く様に
パワハラを含めたハラスメントがなくなる事はないでしょうね。
ブラジルやインドなどの新興国にも
高い関税をかけちゃって
このハゲ爺は弱いものイジメして
バカみたいに勝ち誇ってるの
こうなったら
トランプのバカとハゲに
ダブルの関税をかけるべき
相互関税とはそういう意味ですわよね
今回のトランプによる一方的な関税の押しつけは、米国内のインフレを加速させ、国内でも大きな反発と混乱をもたらすでしょうね。
文書なき合意とは、そうした不安を見越した結果だと思います。
ウクライナ停戦交渉も失敗に終り、関税交渉も失速しそうな予感もしますが
ホラ吹きトランプのまま失脚する可能性が高くなってきた様にも思えます。
ハルノートの様に、一方的に反故にされて
日本が真珠湾攻撃に踏み切った様に
文書化しても、アメリカに不都合になれば、破棄するだろうから
石破もそんな風なこと言ってたけど
EUも同じような状況だったんだろうね。
確かに・・・です。
ただ、対米投資に関しては、文書化しときたかったです。
関税に関しては
流動的な要素が強いですから
結局は、ウクライナ停戦交渉と同じで
全てが曖昧に終わるんでしょうか。
日経株価もここに来て不安定ですし
毎日、目が離せないですよね。
文書なき合意の隅をつついてきましたね。
これに対し
赤沢経済財政大臣は米政府に抗議し
相互関税の大統領令を修正を約束させたらしいです。
しかしその修正時期は米政府が判断するらしい。
フザケンな💢って感じです。
文書なき合意の背景には、”共同文書作成を目指してたら、8月1日の期限に間に合わず相互関税は25%の上乗せになっていた”と釈明し、今回の米国側のミスは”共同文書がなかった事が原因ではない”との認識を示しました。
結局は、米国側の引き伸ばし戦術にまんまと引っ掛かった形となった訳ですが、後に米国側が修正したとしても大きなマイナスである事には変わらない。
一方で、EUも合意文書は未発表でしたが、肝心な部分は文書化してたんです。
今後、追加関税でインドやブラジルなどの新興国が米国と対立し、中国寄りになれば、衰弱化しつつあるEUを味方につけても、米国は圧倒的に不利になりますよね。
トランプがどう出るか?これからも目が離せません。