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フェルマーの最終決着・休憩編”その2”〜大定理の起源となったディオファントスの考察

2022年10月28日 13時24分06秒 | 数学のお話

 ”休憩編その1”に寄せられたコメントに、ディオファントス理論について詳しく書かれてたので、私も少し調べました。
 実は、法学生時代のフェルマーはギリシャ時代(紀元3世紀頃)の大数学者ディファントスの「算術」に囚われ、気づいた事をその本の余白に書き込んでいった。
 自身が予想した大定理では、”凄い証明を持ってるが、この余白には書ききれない”との捨てセリフは有名ですね。

 ディファントスという名前は数学に詳しい人なら知ってる筈だが、(簡単に説明すると)彼が著した「算術」は13巻からなり、そのうち前半の6巻だけが残っている。200題弱の問題と解答からなり、主に方程式の有理数解を求めたが故に、”ディファントス解析”とも呼ばれる。
 その内容は、現在では”不定方程式”と呼ばれるもので数論の一分野とされます。
 因みに、ルジャンドル(仏、1752-1833)が自身の著書の中で名付けたとされる「数論」は、厳密には整数論と有理数論に分かれるが、方程式の整数解や素数の研究は前者で、曲線や曲面上の有理数点(有理数解)の研究をディファントス解析と呼ぶ。


ディファントスの驚異の考察

 有名な問題は、”与えられた(平方)数を2つの平方数に分けよ”というものでした。
 例えば、16=4²=(16/5)²+(12/5)²が与えられ、その解は16/5と12/5となる。
 一方で、”与えられた数が2つの平方数に分けられる時、これを別の平方数に分けよ”という問題では、4n+1型の(平方数でない)素数13に対し、13=2²+3²が与えられた時、13=(18/5)²+(1/5)²なる解が与えられる。
 以上から、前者の例ではx²+y²=a²の円上の有理点は(a=4の時では)x=16/5,y=12/5となり、後者ではx²+y²=aの円上の有理点は(a=13の時では)x=18/5,y=1/5となります。因みに有理点とは、x,y共に有理数となる様な点です。
 整数論全盛の古代ギリシャの時代に、こうした有理数解を求める”不定方程式”に関する考察を色々と張り巡らしていたディファントスの解析術には脱帽ですね。

 寄せられたコメントにもある様に、ディファントスに囚われたフェルマーは、最初に自然数の研究に取り組みます。
 まず、”4n+1型の素数は2つの平方数で表せる”という有名な予想(定理)でした。数学的には、”p≡1(mod 4)なる素数pに対し、p=a²+b²が成立する自然数a,bが一組だけ存在する”と書けるが、(後にオイラーより証明されるが)フェルマーはこの証明にとても苦しみます。
 もし、任意の4n+1型の素数が2つの平方数で成り立たないと仮定すれば、それと同じ性質を持つ小さい素数が存在し、更に小さな素数が存在する。最後には4n+1型を満たす最小の素数は5となり、これは2つの平方数の和(=1²+2²)となり、矛盾する。故に”背理法により、4n+1型の素数は2つの平方数で表せると推論せざるをえない”と書いてます。
 これはフェルマーが後に”最小降下法”と呼びますが、数学的機能法の一種なんですね。故に、”数学的機能法の創始者”とされるんですが、自身の大定理も”最小降下法”を使って証明したと信じこんでいました。

 更にフェルマーは、自然数解を求める方程式を沢山書き出します。だが、3次以上の方程式となると整数解は有限個しかなく殆どが有理数解になり、ディファントス解析にのめり込むようになります。
 面白い事に、フェルマーの大定理は”a(≠0)に対して、n>2ならば方程式aⁿ=xⁿ+yⁿは有理数解(≠0)を持たない”という命題になる。
 そこで、この等式の両辺aⁿで割って曲線論で言い換えれば、”n>2ならば曲線1=xⁿ+yⁿは(±1,0)(0,±1)以外の有理点を持たない”と言い換えれますね。因みに、曲線1=xⁿ+yⁿは”フェルマー曲線”と呼ばれます。
 つまり、フェルマーの大定理は整数論の問題でもあり、曲線論というディファントス解析の問題でもあった。そして、最後には楕円曲線の問題に帰着し、最終決着を見ます。


「原論」か「算術」か

 そこで、ディファントスの「算術」よく比較されるのが、最古の整数論とされるユーグリットの「原論」ですが、これは完全数や素数の無限性や素因数分解という自然数に関する考察でした。一方で、ディファントスの「算術」の様に不定方程式の有理数解を扱う新たな流れ(系統)を作った事から、ディファントスは今で言う”数論的代数幾何学の元祖”だと足立氏は称賛されてます。
 古代ギリシャでも、紀元前5世紀頃までは数論(算術)は幾何学よりも上位とされてましたが、幾何学から無理数(という有理数を超える数)が発見され、幾何学は算術をも含有し、数学の中心的存在となります。因みに、算術と(下等な)計算術を明確に区別したプラトンですが、彼の弟子たちが幾何学に傾斜していくのもこの時期でした。
 それまで、直感や計算を重視する算術から公理や命題を重視する幾何学に数学全体が傾斜していく過程は、とても興味深いですね。

 確かに、「算術」が著された3世紀頃は自然数を扱う数論はあまりに難しすぎて発展性がなく、数学者の研究対象からは外れていく。
 これもコメントにある様に、(フェルマーが証明したと主張する)”自然数aに対し、x²+y²=aなる自然数x,yは何組あるか?”って問題だと、現代の数学者でも頭を悩ますだろう。だが、”x²+y²=aなる有理数解を求めよ”ってなると高校生でも簡単?に解ける。
 一方で、x²+y²=a²はx,y,aが自然数の組だと”ピタゴラス数”として知られ、古くは(紀元前16~19世紀頃の)バビロニア人が既に発見してたとされます。
 かつては算術とは、アリスメティケーとして尊敬された整数の抽象的な性質を研究する学問だったが、ディファントスは有理数解を求める考察を「算術」と題して世に送った。
 故に、彼の偉大さは、この有理点を求める幾何学的研究を算術に取り込んだ事にある。それは後に、(ディファントスと同世代の)デカルトが代数学と幾何学を結びつけ、”数論的代数幾何学”という現代数学において大きな華を咲かせる事になったからだ。
 確かに、ディファントスの「算術」をユークリッドの数論的に読むのならだが、不定方程式というよりは(以下で述べる様に)”2次曲線の有理点”の考察として眺めれば、ディファントスの歴史的偉業が理解できようというものだ。

 足立氏は「フェルマーの大定理が解けた」の中で、”整数論はピタゴラス派により、有理数論はディファントスにより創始された”とされるが、この2つは互いに関連があるとても本質的には異なる基盤を持つ理論であり、異なった経路を辿って発展した。
 かつて、ピタゴラス教団は信仰上の理由から自然数(整数)を重要な研究の対象とし、プラトン学派は算術と幾何学を数学の2本の柱とみなした。しかし以降、ディファントスの算術はアラビアに受け継がれるも、ヨーロッパでは千年近くも忘れ去られ、数学には暗黒時代に突入する。
 だが、十字軍をきっかけに高度なギリシャ数学が欧州に流れ込み、ヨーロッパ人の知的好奇心は大きく刺激されますが、フェルマーもその一人でした。彼が(ユーグリットやアルキメデスではなく)ディファントスに興味を持った事に大きな意義がありました。


フェルマーの驚異の洞察力

 確かに、(ディファントスの)x²+y²=a²の問題は、”平方数は2つの平方数に分解できるが立方数は2つの立方数に分解できないし、4乗数も2つの4乗数に分解できない”という主張(フェルマー予想)に繋がった所も面白いですね。
 特に、当時のイギリスでは算術(数論)に代わり微積分学が確立されようとしてた時期でしたから、自然数(整数)を対象にしたフェルマー予想は、素人の数トレのレベルに映ったんでしょうか。
 フェルマーの大定理(当時はフェルマー予想)は”立方数は2つの立方数に分解できない”という(素人目から見ればだが)とても単純で淡白な予想に思えた。つまり、分解できる立方数さえ見つければフェルマー予想は簡単に否定されると・・・
 しかし、x²+y²=aのというディファントスの考察を2次曲線として考えると少しややこしくなります。
 まず、x²+y²=a²の円周上の有理点は、明確な有理点(0,a)を通る傾きtの直線との交点となる。一方で、x²+y²=aの場合は明確な有理点が存在するとは限らないから、有理点が存在する事を条件として、他の有理点を求める必要がある。
 つまり、有理点は全く存在しないか、又は存在すれば(傾きtの数だけ)無数に存在する。これは一般の2次曲線にも言える事です。

 そこで、この問題を3次式に拡張し、”3次曲線:x³+y³=a(≠0)上の有理点を求めよ”とすれば、これは今で言う楕円曲線上の有理点の問題になる。勿論、楕円曲線は同じ3次曲線でもy²=x³+ax+bという特異な形ではあるが・・・
 因みに、x³+y³=a(≠0)が楕円曲線である事の証明ですが、楕円曲線は一般にはay²+by=cx³+dx²+ex+f(ac≠0)で表せる。そこで、x+y=uとおきx³+y³=aに代入すると、u³−3u²y+3uy²=a。両辺をuで割り、Y=y/u,X=1/uと整理すれば、3y²−3y=ax³−1と楕円曲線の形になります。

 この様に、ディファントスの「算術」から既に3次曲線(楕円曲線)の本質をも見抜きつつあったフェルマーの洞察は、驚異の中の驚異と言えますね。


おまけ〜フェルマーからの宿題

① Aを1以外の平方数で割り切れない自然数として、x²−61y²=1なる最小の自然数解(x,y)を求めよ。ヒント:ペル方程式と連分数展開。

② y²=x³+x²+x+1を満たす自然数解(x,y)をすべて求めよ。ヒント:2つの組しか存在しない。

③ y²=x³−2の自然数解(x,y)を全て求めよ。ヒント:1つの組しか存在しない。

④ xを自然数とする時、x+1,3x+1,8x+1が平方数になる様な自然数解xを求めよ。ヒント:xは100以上の数。

⑤ y²=(x+1)(3x+1)(8x+1)を満たす自然数解(x,y)を求めよ。ヒント:④の解です。

 以上、寄せられたコメントの受け売りみたいになりましたが、冬休みの宿題としては申し分ない問題だと思います。



12 コメント

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連分数展開計算アプリ (UNICORN)
2022-10-28 17:56:42
x²−Dy²=1はペル方程式とされますが
そこで、D=61とすると
√61の連分数展開の周期は、1,4,3,1,2,2,1,3,4,,1,14と11の奇数になり、√61の近似分数をP/Qとすると、ペル方程式によりP²−61Q²=−1が成り立つ。
事実、n=10(11−1)次までの近似分数をアプリで計算するとP=29718,Q=3105となり、上の式が成り立つ。
勿論、P²−61Q²=(P−√61Q)(P+√61Q)=−1とし、後者の両辺を二乗して、x²−61y²=1を満たす(x,y)を求める事もできるけど計算が面倒。

そこで、√61の連分数展開の周期11を1,4,3,1,2,2,1,3,4,1,14,1,4,3,1,2,2,1,3,4,1,14と2つ分にして、周期を22の偶数にする。
ペル方程式により、22−1=21次の近似分数P/Qをアプリで直接求めれば、P=1766319049とQ=226153980となり、その値がそのままx²−61y²=1の解(x,y)になる。

という事で、問題①の最小の自然数解は(1766319049,226153980)となります。
ところで、(x,yを)整数解にしてくれれば(1,0)が正解で苦労しなくても済んだのに・・・
転んださんもフェルマーと同じく意地が悪い。 
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2番目と3番目 (HooRoo)
2022-10-28 22:15:05
の問題はデキましたぁー
y²=x³+x²+x+1の解は最初は(1,2)で
xを2,3,4,5 6,7と順に代入していくと
xが7の時に343+49+7+1=400=20の2乗になりまーす

y²=x³−2の解はxが3の時にyは5になりまーす

他はクソくらえでーす
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UNICORNさん (象が転んだ)
2022-10-29 04:25:39
いきなりの先制攻撃ですね。

Dが小さな数だと手計算で何とかやれるレベルですが、大きくなると全く手に負えません。
しかし、ペル方程式:x²−Dy²=1の解が連分数展開を使うと(連分数展開アプリを使って)簡単に求まるんですよね。

連分数とは有名な展開式ですが、数学に疎い人が見たら何ジャラホイです。
わかりやすく言えば、(例えばΠや√3などの)実数の整数部を取り去り、残った小数部の逆数を取れば、それは1以上の実数になる。再びその実数の整数部を取り去り、残った小数部の逆数を取る。これを整数部または小数部がなくなるまで繰り返すんですね。
そこで、取り出した整数の列を連分数展開と呼びます。√3を例に取れば、1,1,2,1,2,1,2,,,と1と2が延々と繰り返されるから、√3の連分数展開の周期は2となります。

一方で、ペル方程式のトリックとは、√Dの連分数展開の周期がnの時、n-1項目までの近似分数P/Qは√D=P/Qとおける。更に、P²−DQ²=(−1)²=1が成立するから、nが偶数の時は(x,y)=(P,Q)がそのままペル方程式の解になる。
また、nが奇数の時はP²−DQ²=−1となるから、(P+Q√D)²と(P−Q√D)²をそれぞれ計算し、X=P²+DQ²,Y=2PQとおけばX²−DY²=1となり、ペル方程式の解(x,y)=(P²+DQ²,2PQ)が得られますね。

そこで、D=3をペル方程式:x²−Dy²=1に当てはめれば、√3の周期は2だから、2−1=1項目までの近似分数は√3=1+1/1=2/1でP=2,Q=1とすれば、x²−3y²=(−1)²が成立し、解(2,1)が得られます。
D=61の時は周期を11(奇数)として、計算アプリにD=61,n=10として解を求めてもいいんですが、計算が二度手間になる為に、周期を倍の22(偶数)にすれば一発で答えが出るんですよね。
 
という事で、長々と説明しましたが、お陰様で連分数の魅力にハマってしまいました。ありがとうです。
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Hooさん (象が転んだ)
2022-10-29 09:11:22
見事、大正解です(^^♪

でも、3番目の問題はともかく、2番目の問題はよく解けましたね。
若いって、ヤッパリ凄い。いや、凄すぎる。
今更ですが、思い知らされました。

x=1は簡単に求まるんですが、x=7は当時の英国きっての超天才数学者ヴェイユですら見つける事が出来なく、フェルマーが与えた答えででした。
でも、オジさんはとても感心しましたよ。若い女性が数学に興味を持ってくれて👅
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UNICORNさん (象が転んだ)
2022-10-29 10:23:06
少し訂正です。
”整数部または小数部がなくなるまで”と書きましたが、”操作ができなくなるまで”とした方が正解でしょうか。
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UNICORNさん (象が転んだ)
2022-10-29 10:44:09
もう一つ訂正です。

”n-1項目までの近似分数P/Qは√D=P/Qとおける”と書きましたが、”、n-1項目までの√Dの近似分数はP/Qとおける”が正解です。

これら連分数の記事も整理して記事にしようと思います。
何度も失礼しました。
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√3の連分数展開だが (腹打て)
2022-10-30 06:09:26
小数部を2乗して逆数を取ると
√(1/(1+√(1/(1+√(1/9)))))という美しい形になるそうだ。

つまり、1,1,1,9との連分数展開を式にしたんだろうが、√3以外の無理数では同じ様に出来るんだろうか?
冬休みの暇潰しには、ちょうどいい?

因みに、④の問題の解はx=120で、⑤の問題はy=(x+1)(3x+1)(8x+1)ではなく、y²=(x+1)(3x+1)(8x+1)とすれば、解は(x,y)=(120,6479)となるのかな。
実はこの方程式は楕円曲線になってるが、ディファントスはこの事を知ってたんだろうか?
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腹打てサン (象が転んだ)
2022-10-30 11:26:40
すいません。
早速、修正しときました。

こうした入れ子型の展開式ですが
逆数ではなく、10倍すれば、元の数と同じになるという珍現象起きますね。
例えば、√3=1.7320508075…ですが、整数1を取り去って小数を10倍し、更に整数7を取り出し、それを繰り返すとすと、1,7,3,2,0,5,0,8,0,7,5,・・・と√3と全く同じ数列になります。
ま、当り前といえばそれまでですが・・・

これを捩って出来た分数式でしょうか、連分数展開のルート・バージョンみたいで、見事という他ないですね。
√3以外に、こうした有限のスッキリした形で展開を終える数は、3√5=6+√(1/(1+√(1/(1+√(1/6400)))))くらいしかないだろうと、あるサイトに書かれてました。
日本にもこうした数学マニアで盛り上がってるがいる事を、とても誇りに思います。

最後に、④⑤の問題ですが、特に⑤式は1969年にベイカー(英)により(x,y)=(120,11・19・31)のみ整数解を持つ事が証明されてます。
これを解いた腹打てサンも凄いですが、ディファントスの算術は数論を超越してますよね。

お陰様で、総ての問題が解き明かされ、冬休みになる前に終わってしまいました(悲)。
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こちらも訂正 (腹打て)
2022-10-30 16:40:07
√(1/(1+√(1/(1+√(1/9)))))に、+1が抜けてたね。
悪い〜悪い〜 
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腹打てサン (象が転んだ)
2022-10-31 03:41:00
いえいえ
お互い様です(笑)。
色々とお世話おかけします。
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