象が転んだ

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高木貞治とその時代”その4”(更新)〜類体論とイデアル類群と、そのノルム

2024年08月14日 08時22分53秒 | 数学のお話

 偶然にも、この記事のタイトルと同じ著書「高木貞治とその時代:西欧近代の数学と日本」(高瀬正仁著、2014)があった。同じ様なタイトルに、「アーベルとその時代」(Aストーブハウグ著、2003)があるが、前者は”時代”をEraと書き、後者はTimesとしている。
 例えば、Eraは元号などで区切られる時代を指し、江戸時代以前はPeriodを使ったという。一方、Timesは一般的に、時期・時代・当時などの広い意味で使う。
 これも何かの縁だと思う事にしよう。故に、そのままのタイトルで続ける事にする。

 数学は観念的な学問であると同時に、抽象的な学問であると言われる。
 とは言っても、抽象的であろうが観念的であろうが、少なくともわかった様な気分でいたいもんだ。事実、高木氏も”雰囲気とは恐ろしいもので・・・50年の乗り遅れが解消した気分になった”と語っている。一方で、”数学では<大体良さそうだ>では通用しない。ほんの少しでも間違いがあると、理論全体がそのアリの穴から溢れてしまう”とも語る。


ヒルベルト類体と不分岐

 そこで、前回「その3」では、ヒルベルトが予想した”絶対類体”を扱いましたが、不分岐の定義の点で、少し曖昧な所もあったので、改めて再確認する事にします。
 H・ヴェーバーは虚数乗法により生ずる虚2次体のアーベル拡大体の性質をモデルにし、一般の代数体Kに対し、特別の性質を持つ拡大体を導入し、”類体”というものを定義します。
 彼は類体の存在を証明出来なかったが、ヒルベルトは”絶対類体”という更に性質の良い拡大体を導入しました。
 この性質こそが、拡大体L上の整数環Oₗにおける(K上の整数環)Oₖの素イデアルの分解が”重複因子を持たない”との事でした。
 この時、”LはKの不分岐な拡大体”となりますが、”類体は不分岐だ”とヒルベルトが言ったので、高木氏は”不分岐”という事に拘りました。こうして高木氏は絶対類体の存在を証明し、不分岐を捨て去ると”アーベル体が類体”と言う「存在定理」に到達します。

 代数関数論で言えば、”分岐とは多価関数としての平方根が零点からの符号の異なる2つの枝に分かれる”との意味です。つまり、ヒルベルトが予想した類体とは、枝分かれせずに振る舞いのいい性格を持つという意味なのだろうか。
 定義に従えば、POₖは素かどうか分からないが、L/Kを有限拡大体とすると、素イデアルの積はP₁ᵉ⁽¹⁾⋯Pₖᵉ⁽ᵏ⁾となる。但し、PiはOₖのそれぞれ異なる素イデアルとする。
 ここで、”PがLで分岐する”とは、あるiに対しe(i)>1の時を言う。つまり、分岐指数e(i)>1なるPiが存在する事を言う。従って、全てのiに対し、e(i)=1の場合を不分岐と呼ぶ。
 因みに、不分岐と同値な条件として、”Oₖ/POₖが零でないべき零元を持つ”事がある。但し、べき零元は有限体の積ではない。

 一方、ヒルベルトは高木氏を自宅に呼び寄せ”類体は不分岐だが、それは代数関数がリーマン面で決まるからだ”と語ったが、類体に関するリーマン面との類似は、デデキントとヴェーバーにより既に指摘されてはいた。
 また、相対判別式で言えば、Pで割りきれる事と、Pを割るOₖのイデアルPiが存在し分岐する事は同値であり、Piが分岐する時はOₖの素イデアルPiで割り切れる。
 つまり、不分岐とは、POₖがOₖの相異なる素イデアルPiの積P₁⋯Pₖとなる事で、これはOₖの素イデアルの2乗では割り切れない事を意味する。
 こうして、定義を忠実に辿ると類体と不分岐の関係が判った様な気になるのも不思議である。


類体論とイデアル群類

 ヒルベルトは、”LはKのガロワ拡大であり、そのガロワ群はKのイデアル類群に同型である”と今では「絶対類体」と呼ぶ類体の存在を予想した。他方、高木氏の「存在定理」では、”一般化されたイデアル類群とアーベル拡大は1対1に対応する”と要約できる。

 類体論とは、代数体K上のアーベル拡大の性質をKの内在的な数学的対象で記述する理論と言えるが、古典的なイデアル論を用いた定式化では、内在的に一般化された”イデアル類群”を用いる。
 まず、有限次アーベル拡大L/Kがあると、これに対応するイデアル類群が定まり、”アルティン写像”により、このイデアル類群とガロア群 Gal(L/K)は同型になる。これを「アルティン相互法則」と呼ぶ。逆に、一般化されたイデアル類群があると、それに対応する有限次アーベル拡大が定まり、同様の事が成り立つが、これを「高木の存在定理」という。
 この様に、”有限次アーベル拡大”と”一般化されたイデアル類群”が1対1に対応するのが類体論の主な結果となる。
 但し、通常の意味でのイデアル類群も一般化されたイデアル類群の1つなので、これに対応するアーベル拡大が存在する。このアーベル拡大は”最大不分岐アーベル拡大”という性質を持つが、これを”絶対類体”と呼ぶ。

 (ウィキによれば)だが厳密には、上述したK上のアーベル拡大と一般化されたイデアル類群との間の対応は1対1対応ではない。実際、異なるモジュライ(空間)から定義された一般化されたイデアル類群が同じアーベル拡大を作る事がありうるからだ。
 例えば、有理数体K上のアーベル拡大体Lがある円分体に、その円分体を含む無限に多くの円分体にも同時に含まれる。その円分体の各々に対し、適切に一般化されたイデアル類群をとる事で、元のLに対応するガロア群の部分群を得る事が出来ると言う訳である。

 以上を踏まえ、適切に一般化されたイデアル類群たちの間に同値関係を定める必要がある。
 結果から言えば、類体論のイデール的な定式化の中で、アーベル拡大と適切なイデール群の間の1対1対応が得られる。つまり、そこでは(イデール論的な言葉で)一般化された同値イデアル類群とイデールの同一の群が対応する。但し、こうした1対1対応が成立する事を「存在定理」と呼ぶ事に注意する。
 因みに、”イデール”とはイデアルとは区別し、無限次拡大に対して位相群の言葉で類体論を定式化する為の言葉であり、アデール環の可逆元の群をイデール群と言う。また、イデールの概念はイデアルの修正であり、"ideal element"略して"ide-el"と名付けられた。
 ここら辺は参考程度の理解で十分かと思いますが、類体論を理解するには、まず2次体における”イデアル類群”を理解する事が大前提となります。
 以下、「2次体Q(√(−5))について」を参考に、イデアル類群の基本を大まかに纏めます。


イデアル類群とは?

 例えば、全てのイデアルが単項イデアル(単一の元より生成されたイデアル)である様な整数環は”単項イデアル整域”と呼び、普通の整数において素因数分解の一意性が保たれる様に、扱いやすい整数環である。前回でも述べたが、”整域”とは零因子が0のみで、ab=0⇒a=0orb=0が成立する可換環の事だ。例えば、可換環Z,Q,R,Cは全て整域で、単なる数も整域となる。
 一方で、単項イデアル整域でない整数環は、単項イデアルとそうでないイデアルが可算無限個ずつ混じり合い、イデアル全体がどうなってるのかサッパリである。故に、普通の整数の様には扱えない。
 そこで、単項イデアルとそうでないイデアルを区別し、それらの関係を具体的に記述するのが”イデアル類群”(IdealClassGroup)である。
 つまり、単項イデアルとそうでないイデアルとの距離(Classの差)を記述するが故に、イデアル類群の大きさが単項イデアル整域からどれだけ離れてるかを測る”指標”とも言える。

 例えば、−5の平方根を添加した虚2次体Q(√(−5))={a+b√(−5)、a,b∈Q}の世界では、6=2⋅3=(1+√(−5))(1−√(−5))となり、一意的な素因数分解が成立せず、(2つの元からなる)単項ではないイデアル(2,1+√(−5))が存在する。
 ここで、Kの整数環Oₖのイデアル全体の集合をJₖ、その部分集合で単項イデアルのみを並べた集合をPₖ(⊂Jₖ)とする。
正確に言えば、PₖもJₖも”分数イデアル”の集合となる。
 これは、Kの分数イデアルとは、有限生成な0(:={0})でない部分Oₖ加群である。即ち、0でない生成元k₁,…,kₙ∈Kに対し、(k₁,…,kₙ):={k₁a₁,…,kₙaₙ|a₁,…,aₙ∈Oₖ}で与えられる様なOₖ加群が分数イデアルであるからで、分数イデアルの全体Jₖはイデアルの積により可換群をなす。

 実は、ここに面白い事が起きる。
 それは、K=Q(1+√(−5))の時、Pₖに属さない全てのJₖの元は、Pₖの元にイデアル(2,1+√(−5))を掛けた形で記述できるというのだ。
 つまり、P₀=(2,1+√(−5))とおけば、Jₖの全ての元は、Pₖの類かP₀Pₖの類かのどちらか一方に類別されるのである。
 従って、これを剰余記号/を使い、Jₖ/Pₖ={Pₖ,P₀Pₖ}と記す。ここで、類Pₖの元に類P₀Pₖの元を掛けると、類P₀Pₖの元になる。他の組合せに対する演算も自然に定まり、この演算は群をなす。故に、剰余群Jₖ/PₖをCₖと記し、イデアル類群と呼ぶ。
 以上をまとめると、単項イデアル(a),(b)に対し、その積は再び単項イデアル(ab)であり、従って単項イデアルの全体PₖはJₖの部分群となる。更に、イデアル類群Cₖ=Jₖ/Pₖを構成する各々の同値類を”イデアルの類”と呼ぶ。

 一方で、イデアル類群が常に、この様な簡単な群で表せるとは限らない。群の構造が複雑になる程、”単項イデアルへの戻し方”が複雑になり、”単項イデアル整域から離れている”とみる事が出来る。
 だが、こうした問題は、単項イデアルとの関係で考えた方がずっと扱い易い。つまり、単項イデアルは1つの代数的整数nと全単射の1対1対応をなすからだ。例えば、f:Oₖ→Pₖ、n→(n)の様な2つの写像を考えれば、単項イデアルは単なる数として扱う事が出来るのだ。
 つまり、2次体Kのイデアル類群の構造はKの扱い易さを表してるとも言える。
 そこで、前述のK=Q(√(−5))だが、この時の整数環Oₖは𝑍[√(−5)]となるが、6=2⋅3=(1+√(−5))(1−√(−5))となり一意分解整域ではない。故に、2,3,1+√(−5),1-√(−5)整数環Oₖ上の素数になるが、何れも𝑍[√(−5)]の素元(素イデアル)にはなり得ない。
 (次回でも述べるが)従って、イデアル類群Cₖにおける同値類は、単位類PとP=(2,1+√(−5))の同値類の2つで、イデアル類群の位数|Cₖ|=2となり、K=Q(√(−5))の類数は2となる。


イデアル類群の計算とノルムの概念

 ところでイデアル類群の計算だが、まず2次体K=Q(√m)の判別式dは、d=m(m≡1(mod4))、d=4m(m≡2,3(mod4))で定義される。
 次に、集合Sₖ={p|p≤MₖかつΧd(p)≠1となる有理素数p}を考える。
 因みに、Mₖは「Minkowskiの境界」と呼び、d>0の時はMₖ=√(d/2)、d<0の時はMₖ=√(|d|/3)と定義される。また、Χd(p)はp∤2dの時はΧd(p)=d/p、p=2かつ2∤dの時はΧd(p)=2/|d|、p|dの時はΧd(p)=0で定義される指標となる。但し、p|dは”pはdを割り切る”(pはdの約数)の意味。
 更に、以上の有理素数pの集合Sₖは”イデアル類群CₖはSₖに属する有理素数pを割る素イデアルの類により生成される。特に、Sₖ=∅⇒Cₖ={Pₖ}である”との定理を満たす。
 故に、2次体Q(√m)の判別式dからイデアル類群Cₖを作る事が可能になるのだ。

 そこで実際に、K=Q(√(−5))を例にして考える。まず、−5=4×(−2)+3と変形すれば、m=−5を4で割った余りは3となり、−5≡3(mod4)となる。故に判別式d=4(−5)=−20を得る。
 次に、Mₖはd=−20<0より、Mₖ=√(|−20|/3)=√(6.66...)≈2.58となり、集合Sₖの定義より、p<2.58でp=2となる。この時、2=p|d=−20より、Χ₋₂₀(2)=0≠1となり、従って、2はSₖの要素となる。
 以上から、Sₖ={2}が分かり、単項イデアル(2)を割る素イデアルは、(2,1+√(−5))(2,1−√(−5))=(2)より、P₀=(2,1+√(−5))は(2)を割り切る。従って、P₀=(2,1+√(−5))はイデアル類群Cₖの類の代表元となる。だが、P₀は単項イデアルではないのでP₀∉Pₖとなり、(上で述べた)K=Q(√(−5))のイデアル類群Cₖ={P,P₀Pₖ}を得る。

 では話を先に進め、(p)を割る素イデアルを見つけるには、どうすればいいのか?
 実は便利な事に、”素数pに対し、Oₖ=𝑍[√(−5)]の素イデアルP=(p,x+y√(−5))を考えると、Pは(p)を割り切る。つまり、(p,x+y√(−5))|(p)。但し、x,yはp|x²+5y²を満たす整数”との法則がある。
 証明は簡単で、(p,x+y√(−5))(p,x−y√(−5))=(p²,p(x+y√(−5)),p(p,x−y√(−5)),x²+5y²)。p|x²+5y²より、kp=x²+5y²とおくと、=(p²,p(x+y√(−5)),p(p,x−y√(−5)),kp)=(p)(p,x+y√(−5),x−y√(−5),k)となる。
 ここで、x−y√(−5)=2x−(x+y√(−5))より、=(p)(p,x+y√(−5),2x,k)となる。
 更に、(p,2x)=(1)より(p,x+y√(−5),2x,k)=(1)となり、=(p)(1)=(p)となる。
 よって、(p,x+y√(−5))は(p)を割り切る(証明終)。また、Pのノルムが有理素数である事から、(素イデアル)判定法により、Pは素イデアルとなる。
 
 一方で、素イデアルを考える時に、”ノルムが有理素数であるイデアルは素イデアルである”という便利な判定法がある。
 因みに、”ノルム”の定義として、α=a+b√(−5)とした時、αの”共役”な元をα′と書き、a−b√(−5)とする。そこで、イデアルAに対する共役なイデアルをA′とした時、その積AA′はある有理整数n≥0を用いて、AA′=(n)と表せて、このnをAのノルムと呼び、N(A)=nと表す。
 実際に、P=(2,1+√(−5))とすると、共役なイデアルはP′=(2,1−√(−5))であり、PP’=(2,1+√(−5))(2,1−√(−5))=(4,2(1+√(−5)),2(1−√(−5)),(1+√(−5))(1−√(−5)))=(4,2(1+√(−5)),2(1−√(−5)),6)=(2)(2,1+√(−5),1−√(−5),3)=(2)(1)=(2)を得る。
 但し、2,1+√(−5),1−√(−5),3は共通の約数1を持つ(互いに素)ので、(2,1+√(−5),1−√(−5),3)=(1)となる。
 従って、イデアルPのノルムはN(P)=2となり、2は有理素数(通常の素数)より、判定法からPは素イデアルとなる。

 同様に、Q=(3,1+√(−5))とすると、QQ′=(3,1+√(−5))(3,1−√(−5))=(9,3(1+√(−5)),3(1−√(−5)),6)=(3)(2,1+√(−5),1−√(−5),2)=(3)(1)=(3)を得る。N(Q)=3となり、3は有理素数より、Qは素イデアルとなる。
 一方で、(2,1+√(−5))(3,1+√(−5))=(6,3(1+√(−5)),2(1+√(−5)),(1+√(−5))²)となり、ここで6=(1+√(−5))(1−√(−5))より、=(1+√(−5))(1−√(−5),3,2,1+√(−5))=(1+√(−5))(1)=1+√(−5)となる。
 以上より、PもQも素イデアルなので、1+√(−5)=(2,1+√(−5))(3,1+√(−5))=PQは素イデアル分解である事が、ノルムの計算により判別できる。
但し、イデアルの計算は少し癖があるが、こればかりは慣れるまでの辛抱である。

 以上より、イデアル類群とそのノルムの概念や具体的な計算方法を虚2次体K=Q(√(−5))の例を上げて説明しましたが、イデアルの定義からバカ正直に取り組むよりも理解がスムーズである事が判りますね。

 tsujimottorさんの数学コラムは、非常に細かい所まで丁寧に書かれてるので、(抽象的になりがちな)イデアル論を理解するには大変助かります。
  そのtsujiさんが参考にされた著書「素数と2次体の整数論」(著)も一応貼っておきます。
 今日も長くなりすぎたのでココ迄とします。次回はクンマーのイデアル(理想数)とノルムの発見について書きたいと思います。



6 コメント

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クンマーのアイデアとイデアルのノルム (UNICORN)
2024-08-14 17:31:17
クンマーは、理想数(イデアル)という架空の数を用いて、”ノルム”という概念を使い、素イデアルの一意的分解を可能にした。
例えば、通常の整数の世界では、6は2×3と一意的に分解できるが、複素数の世界にまで拡張すれば、素数分解の一意性を崩せる。
つまり、2=(1+i)(1-i)や3=(1+√-2)(1-√-2)と、素数は更に分解できる。
だったら、複素数と同様に、架空の理想数を使い、整数環上の素数は更に素イデアルに一意的に分解できると考えた。

例えば、転んださんが最後に示した1+√(−5)=(2,1+√(−5))(3,1+√(−5))ですが、1+√(−5)は整数環Oₖ上の素数であり、(2,1+√(−5))と(3,1+√(−5))は素イデアルとなります。
つまり、クンマーの理想数というアイデアは、ノルムという概念を使って初めて花開くのだろう。
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UNICORNさん (象が転んだ)
2024-08-15 07:04:36
おはようございます。
クンマーが理想数へ踏み出した第一歩は、素数pがZ[α]で素因数分解する為の条件を明らかにした事でした。
例えば、素数pを区分けするには、lで割った余りを調べる他に、Z[α]でpがどの様に因数分解出来るかを調べる方法がありました。
そこでクンマーが目につけたのが、f(α)∈Z[α]に対し、(L-1)個の数の積:f(α)f(α²)…f(αˡ⁻¹))で定義されるノルム(非負整数)でした。

一方でクンマーは、p≡1(modL)を満たす素数pはK=Q(α)の整数環Oₖ(=Z[α])の中で、素元の積として一意的に表せると主張してましたが、ヤコビに(L=23の時の)反例を示され、ラメ同様の早とちりを指摘された結果となります。
そこでクンマーはノルムの形になる(991までの)素数の分解を何通りも計算し、L=23の時は47の他に4つの素数(139,277,461,967)がノルムにならない事を示し、ノルムの限界に行き詰まります。
そこで思い付いたのが理想数(イデアル)でした。つまり、仮想の数を導入し、代数体の素元分解を完全なものにします。

イデアル論はとても複雑ですが、このクンマーの発見により、新たな数の体型が作られ、古典的とされた代数学の発展に大きな未来を築きます。まさにアッパレです。
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架空の素数 (腹打て)
2024-08-16 11:02:11
クンマーが思い付いた架空の素数だが
素元分解できないなら、素元を拡張した見えない筈の素イデアルを使い、更に分解する。
例えば、1+√(−5)=(2,1+√(−5))(3,1+√(−5))と、素イデアルに分解できるが、この目に見えない分解はノルムのお陰で判別できる。

つまり、一意的素数分解が壊れる事を分解が完全ではないと考える事で、その分解を完全にする為の架空の素数(素イデアル)を導入した。
こうしたクンマーの工夫とアイデアが、デデキントによるイデアル論の導入に繋がった事で、代数学は古典的数学から近代数学へと大きく羽ばたいたと言えるのだろう。 
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腹打てサン (象が転んだ)
2024-08-16 16:54:51
よく素元と素数を混同しますが
性質としては素数や既約元とよく似てますが、注意も必要です。
素元であるか否かは、元が属する環によって異なります。通常の整数Zでは2は素元(素数)ですが、ガウス整数環Z[i]では、2=(1+i)(1−i)となり、2は素元とならない。
そこでクンマーは素元分解において、素元の不足を理想数で補う事で、更なる分解を考え、理想数による完全な分解に至ります。

クンマーのアイデアは、理想数同士を掛け合わせ、実在する複素数を作り出す事にあり、こうした新たな数の体系は、デデキントにより定式化され,イデアル論へと大きく羽ばたく事になります。
まさに、フォルム(定式化)ではなくノルム(距離)という形に拘ったクンマーの偉業とも言えますね。
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ノルムからフォルムへ (paulkuroneko)
2024-08-17 16:42:22
非常に面白い視点だと思います。
クンマーは単項イデアルとそうでないイデアルとの差をノルム(距離)として捉え、そのノルムの限界を理想数を使って克服しました。
その理想数をフォルムを使い、イデアルとして定式化したのがデデキントでした。
まさにノルムからフォルムへ
デデキントがクンマーから受け継いだアイデアは、代数学において大きな華を咲かせます。

他方、ノルムの矛盾を指摘したヤコビも凄いですが、クンマーの後ろにデデキントが控えてたことも偶然にしては出来すぎですね。 
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paulさん (象が転んだ)
2024-08-17 20:59:09
見事な表現です。
座布団4枚でしょうか。
数学とはとてつもなく難しい学問ですが、こうした突拍子もないアイデアが支配する世界でもあります。
天才たちが生み出すアイデアはその天才たちにより限界や矛盾を指摘され、更に天才らにより定式化され、1つの数学史を色鮮やかに彩ります。
数学が美しいのもこうした天才たちの連携に負う所が大きいんでしょうね。
コメント有り難うです。
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