象が転んだ

たかがブロク、されどブロク

神様は悪ガキがお好きなようだ〜カネロvsジェイコブス戦に見た、ボクシングの限界と崩落

2019年05月06日 03時24分39秒 | ボクシング

 この試合の為だけにDAZNと契約したのに、カネロvsジェイコブスは"世紀の凡戦"で幕を閉じた。”奇跡の男”ジェイコブスは全く攻めきれなかったが、一方の”悪童”カネロは上手く試合を作っていた。
 全くの貧打戦だったが、カネロのテクニックと試合巧者ぶりはやはり”ベガスの新帝王”に相応しい。彼は単なるメキシコの悪ガキじゃなかった事だけは認めよう。 

 ジェイコブスがブルックリンの無垢で平凡なガキに見えた。ジェイコブスは当日計量で10ポンドオーバーの違反という(IBFルール)を犯し、罰金1億1千万を支払っていた。
 つまり敢えて違反を犯し、重さとパワーでカネロを圧倒しようというジェイコブス陣営の”危険なプラン”は、全くの肩透かしに終わる。
 ブログと同様で、毒を吐く程の気概がないと神様は気まぐれだから相手にはしない。 


リング上に神様はいなかった?

 カネロがジェイコブスの攻撃を上手く阻んだと言えばそれまでだが、ジェイコブスにカネロを潰そうという気概と勇気と知恵がなかったのは明らかだ。”攻撃は最大の防御”って事を今更ながら思い知らされた。

 私はこの試合をずっと前から注目していた。癌を克服したジェイコブスなら、腐敗した街ラスベガスと腐食したボクシングを浄化できるのではと期待した。
 私は神は信じないが、難病を克服したジェイコブスは信じたかった。彼の背中に神が乗り移ってる様に思えたからだ。
 元々霊感の強い私は、ジェイコブスに神様が微笑んでるように見えたんだが、どうやら単なる私の錯覚であり、幻想だったようだ。

 いざ試合が始まると、リング上に神様はいなかった。これといった山場も盛り上がりもなく、あっさりと試合は終わる。観客を熱く興奮させる場面は何一つなかった。
 こんな世界タイトルマッチも珍しいが、後半はブーイングが目立つ程に成り下がる。 


癌は克服できても・・・

 冒頭でも書いた様に、序盤からカネロをフルボコにするくらいの気概で攻め込まないとジェイコブスに勝ち目はないと見てたが、全くその通りになった。試合前のカネロ有利のオッズ通りのファイトである。
 ”奇跡の男”は癌を克服できてもカネロは攻略できなかった。つまり、自分自身の中に新しい何かを発見しない限り、乗り越える事が出来ないものがあるって事だ。

 そういう意味では、悪童”カネロ”アルバレスは一階級上の重いクラスのボクサーと拳を相まみえる度に、新しい何かを発見し、自分のものにしてきた。このメキシコの悪ガキは我々が思う以上に知能が高いし、試合から何かを学べる数少ない王者かもしれない。
 しかしどんな理由があろうと、ミドル(ジェイコブス)はウエルター(カネロ)に負けてはならんのだ。

 ただこういうのを見る度に、神様って何をしてんのって言いたくもなる。でも神様は毒を吐く悪ガキが好きなんだろうか。


左は世界を制す

 しかし、ジェイコブスが勝てるチャンスもなくはなかった。序盤の消極的な展開には百歩譲るとして、サウスポースタイルを序盤から貫くべきだし、それに序盤の3Rでカネロの出方と技量を瞬時に把握すべきだった。
 オーソドックスではカネロ優位なのは明らかだったが、中盤からカネロは身体を柔らかく使い、攻撃と防御を一体化させ、小気味いい有効打を的確に浴びせ続ける。

 一方で、ジェイコブスの小刻みなジャブはその殆どがブロックされた。パワーレンジは封じられ、得意の左右のフックは全く影を潜めた。サウスポーにスイッチし、右のリードで距離を取り、カネロの突進を阻むも、有効打には繋がらない。
 ジェイコブスとセコンドがアホなのは、サウスポーを活かしきれなかった事にある。明らかにカネロは長身のサウスポーを嫌っていた。中盤で流れは変わるかに思えたが、終盤には元に戻してしまい、カネロの小刻みなパンチの標的となってしまう。

 サウスポーのままカネロを追い詰めてたら、右のリードをボディと顔面に打ち分け、左のロングフックと右のオーバーハンドでカネロを追い詰めてたら、メキシコの悪童はベガスの新帝王はカンバスに膝をついたかもしれない。 


ジェイコブスの誤算

 ファイトにタラレバは禁句だが、ジェイコブス陣営のこの愚策はそのまま惨めな敗北に帰着する。
 でも何故サウスポーを貫けなかったのか?
 私がジェイコブス有利と予想したのは、彼のこのスイッチのスタイルだった。しかし彼のスイッチは一時的で付加的なもので、”マーベラス”の異名をとり、ミドル級を震撼させたバグラーのサウスポースタイルとは大きく異なっていた。
 ハグラーの場合、オーソドックスが不利と見るやすぐに左に切り替え、利き腕を前に持ってくる事で今度は逆方向に周り、反対側から圧力を掛ける事で相手のリズムを完全に狂わした。ペースを完璧に掌握するまでハグラーはそのスタイルを貫き続ける。そこで相手がグラついたと見るや元に戻し、コンビネーションを纏め、相手を次々とカンバスに沈めた。

 多分ジェイコブス陣営は、オーソドックスのままでカネロを追い詰めれると考えたろう。実質一階級の体重差だけで、カネロに圧力を掛けれると踏んだのだろうか。
 しかし蓋を開けてみると、ウエイト差の優位は全く見られず、ジェイコブスのオーソドックスは軽く見切られてたのだ。 


やっぱり神様は存在する

 結局ジェイコブスは、負けるべくして負けたのだ。つまり、4/29のブログでも書いた様に、ジェイコブスにはサウスポースタイルを貫く知恵と勇気が足りなかった。
 ひょっとしたら神様は、ジェイコブスに宿ってたかもしれない。しかし、ジェイコブスのあまりの無策に愛想を尽かしたんだろうか。かと言って、悪童カネロに乗り移った筈もない。神様も大衆も”世紀の凡戦”には興味ないのだろう。

 私はこの試合にボクシングの腐敗ではなく、限界と崩落を見た感じがした。この崩落からボクシングを救い出せるのは、知恵と勇気しかないと思う。
 何時の世も、知恵と勇気は神様を惹き寄せるカンフル剤なのだ。

 神様はやはり存在する。
 しかし神様を味方に出来るかは、本人次第なのだ。



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