象が転んだ

たかがブロク、されどブロク

経済効果のウソとムダ〜お金の向こうに何がある?

2024年02月22日 03時23分37秒 | 読書

 新しい紙幣が2024年7月に発行される。新しいデザインは、1万円札は実業家の渋沢栄一で、5千円札は女性の地位向上に貢献した津田梅子、千円札は生物学者の北里柴三郎になる。
 この新紙幣発行による経済効果は1.6兆円と試算されている。
 実は、この”経済効果”という言葉だが、その数字は勿論、その意味も含め、私はずっと怪しいと思っていた。

 関西大学の宮本勝浩氏が、東京オリンピックの経済効果と赤字額について計算した結果、経済効果は約6兆1,442億円で、東京五輪組織委及び東京都と国の赤字の総額は約2兆3,713億円となった。
 数字は嘘をつかないと仮定し、6兆1,442億円ー2兆3,713億円=4兆3,600億円の利益と単純計算してもいいのだろうか?

 因みに、コロナ以前なら、三菱総合研究所が11兆円(2014年)、みずほは30兆円(17年)、更に東京都は32兆円(17年)と、威勢のいい数字だけが並んでいた。それ以外にも、箱根駅伝は数十億円の宣伝効果とか、田中将大投手の復帰(年俸9億)で宮城県に57億円の経済効果とか、松山英樹のマスターズ優勝で1200億円!?とか・・・まるで、架空の大風呂敷を広げたかの様なドンブリ勘定的な数字が並ぶ。
 だが私には、どうも腑に落ちない。

 そこで今日は、”経済効果”という聞こえのいい?言葉に潜むワナについて書きたいと思う。


経済効果の向こうに、何が見える?

 ”経済効果が1.6兆円”という事は、我ら日本人にとって凄く良い事がありそうな気がする。が、ここに大きな罠が潜んでいる。つまり”経済効果”という言葉を鵜呑みにすると、我ら庶民はバカを見る。
 この記事の意味を改めて考える。万札の肖像画は福澤諭吉から渋沢栄一に変わるが、紙幣のデザインを新しくするには様々な新しい機械を揃える必要がある。日銀が買うのは紙幣を発行する印刷機で、金融機関は新紙幣を読み取るATM、自販機を保有してる業者らも新たな機械を購入する。
 つまり、これら機械の購入に使われる費用の合計が1.6兆円で、これを経済効果と呼ぶらしい。この数字は、前述した東京五輪や松山英樹の数字よりもずっと確かであろう。
 しかし、こういう時は何かが誤魔化されている。
 以下、「”経済効果”に隠された”ムダ”の正体」から大まかにまとめます。

 こういう時は、2つの変化が同時に起きる。①お金が移動する②労働がモノに変換されるの2つである。
 ①についてだが、”機械を新しくする事が1.6兆円の需要と新たな雇用を生む”と言う人がいる。つまり、1.6兆円の仕事が発生した事で、社会全体の収入は1.6兆円増える。
 だが、1.6兆円を得るのは生産者側の視点にすぎない。確かに、新たな機械を作る企業や関連会社の売上が増える事で、そこで働く従業員の給料は増え、新たな雇用も生む。
 その一方で、社会全体の支出も1.6兆円増える。ATMを買い換える銀行のお金は減るし、それにより銀行員の給料も減るかもしれないし、僕たちが保有する銀行口座の維持手数料が増えるかもしれない。

 つまり、”1.6兆円の経済効果”の意味は”1.6兆円を移動させた”に過ぎない。社会全体で見ればお金は増えてはいない。寧ろ大事なのは、お金の移動よりも②の”労働がモノに変換される”事にある。
 つまり、”割に合わない労働”が隠されてるのだ。故に、労働がモノに変換される事に注目すると、違ったものが見えてくる。
 1.6兆円のお金が流れる事で、数多くの労働が繋がり、印刷機やATMや自動販売機などが新たに製造される。この新しい紙幣がもたらす効用は主に紙幣の偽造防止に役立つ事だ。
 1.6兆円に匹敵する労働が注ぎ込まれる訳だが、この膨大な労働の負担に比べ、紙幣を利用する我ら国民が感じる効用が大きければ、この生産活動は社会にとって十分意味がある。が、効用が小さければ社会の負担が大きすぎる事になる。
 

無駄と疲弊を生むだけの経済効果

 一方で、これが自然に発生した生産活動であれば、一々負担と効用を比較する必要もない。それは、労働の負担よりも効用の方が必然的に大きくなるからだ。
 つまり、働く人は1.6兆円稼げるなら労働を負担してもいいと考え(1.6兆円>労働の負担)、利用者はその効用が得られるなら1.6兆円払ってもいいと考える(効用>1.6兆円)からだ。ここに、”効用>1.6兆円>労働の負担”という不等式が成り立つ。
 だが、新紙幣の発行の様に、政府の政策などにより半ば強制された生産活動ならば、”労働の負担>効用”になる事も十分あり得る。
 つまり、人々の生活を豊かにする何らかの効用が生まれるのではなく、”ムダな仕事だけが増える”可能性がある。

 新紙幣の発行を批判する気はないが、大事なのは”どれだけの労働がどれだけの幸せをもたらすか”である。”GDPを増やす”とか”雇用を生み出す”とかの目的の為に経済効果に目が眩むと、”割りの合わない労働”を生み出す事がある。
 経済効果は、お金の移動量を表す数字でしかない。故に”経済効果”という言葉を聞いた時は、まず”効用に見合う生産活動なのか?”を疑うべきだ。つまり、目先の数字に誤魔化されて、効用に見合わない労働や資源が投入されるのを放っておくと、社会はどんどん疲弊していく。
 最悪は、経済効果の先には労働の無駄と庶民の疲弊しか存在しない。

 経済について考える時、”社会とお金の関係”にスポットライトが当たる。しかし、経済成長を求めてGDPを増やす事だけを考えても、労働環境や生活環境は改善されない。
 つまり、お金を中心に社会を考える事には限界がある。故に、自分自身の、社会全体の幸せを考える上でも、お金の事を真剣に考える必要がある。経済を”社会と人との関係”として捉え直す事が必要である。
 「お金のむこうに人がいる」の著者の田内学氏は、お金の歴史にも触れ、お金にまつわる11個の”謎”を解いていく。初めは自分の財布の中のお金について考え、徐々に財布を大きくしていく。財布を社会全体まで広げた時に、新たな”謎”に気づく。この謎こそが、今の私たちが解くべき謎であるとしたら・・・
 以上、DIAMONDonlineからでした。
  

最後に〜まるで、経済学のガロア理論

 殆ど丸写しだが(悲)、書いてて、実に納得の行く模範解答であった。それに、ある程度予想はしてたが、ここまで完璧だと、何の不足もない。
 若き天才数学者エヴァレスト・ガロアは、”数学は計算の上を飛ぶべき”だと考えた。そこで生み出されたのが”方程式のガロア理論”である。解の仕組みを面倒な計算を取り払い、ガロア群に変換すれば、その構造は至ってシンプルになる事に気付いた。 
 同じ様に、田中学氏も”お金の向こうに人がいるべき”だと考えた。つまり、お金を取り払って人を見れば、経済は至ってシンプルになる。
 まるで、”経済学のガロア群”の生き写しのようだが、数学の行き着く先には(数学者とその生き様という)人がいる様に、経済の行き着く先には(我ら庶民という)人がいる。

 勿論現実には、お金の向こうには、悲しいかな(人ではなく)腐った政治や傲慢な権力や独裁国家による理不尽な支配が存在する。
 経済は人を幸せにする為に存在すべきなのに、お金に眩んだばかりに、人を不幸にするし、更に人殺しや戦争をも生みだす。
 経済学者やエコノミストらは、デフレとかインフレとか円安とか、ありきたりな経済用語のみに執着する。つまり、彼らも悲しいかな、”お金”の事しか頭にない。

 一度に数千億円を動かしてきた元ゴールドマンサックスの金利トレーダーが考えた”予備知識のいらない経済新入門”との触れ込みだが、新しい資本主義を考えるヒントがこの本には明確に存在する。
 そう思わせてくれる程の良書である。
 

補足

 トレーディングの仕事では、経済を見誤る事はは命取りになる。16年間そういう仕事をしながら、お金の事をとことん考えてきた。
 自分の頭で考えるに、経済の専門用語は必要なかった。専門家が専門用語を使うのは、相手を誤魔化そうする時だ。
 経済の話が難しく感じるのは、決してあなたのせいではない。専門用語を使わなければ、誰もが同じスタートラインに立って考える事ができる。
 この本では専門用語や難しい数式を一切使っていない。出てくるのは足し算と引き算くらいだ。
 経済の問題は専門家だけに任せるものではない。みんなで考えよう。その方が未来の社会はずっと良くなる。

 以上は、著者の言葉だが、ゴールドマンサックスで日本政府の借金である日本国債などを扱う金利トレーディングという仕事をしてきただけあって、専門用語のない”筋金入りの経済学”である。
 昨今の目立ちたがり屋の経済学者やエコノミストに聞かせたい程の言葉だが、みんなが知恵を出しあえば、必ず未来はより良いものになる。
 そういう事を田中氏は言いたかったのだろうか。

 数学もそうだが、数学の先には数字も公式も定理も定義も公理も存在しない。数学者という人が存在するだけである。
 つまり、数学を専門用語で理解しようとすると100%数学が嫌になる。私も同じで、逆に数学を数学者という生身の人間の視点で捉えれば、数学が(異常なまでに難解だが)如何にユニークな学問かを理解できる。
 同じ様に、経済を経済学の視点で見れば、その先に存在するのはお金だけである。故に、お金の先にある我ら庶民である人という視点で見れば、色んなアイデアが生まれる筈である。
 つまり、数学の視点で見ても納得の行く経済学である。

 因みに、イラストの答えだが、お金の事だけを考えてる人は全てAを、現実主義的な人は3問ともBを選択したであろう。多分専門家も含め、3問とも正解した人はいないのではないだろうか。
 そういう私は、A→B→Cであった。
 つまり、お金の事だけを考え生活をする貧しい人間だったのである(反省)。



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